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洋服作りから人創りの道を切り拓く

辻洋装店

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昭和22年創業の辻洋装店は、技術と人間性の教育に力を注ぎ、最高品質の婦人服をつくり続けている。典型的な女性職場である同社のアトリエとオフィスには、いつも明るい笑顔が溢れている。

激動の時代を生き残ってきた〝老舗〞
 
戦後日本の縫製業は、他の製造業同様、人件費の安さを活かした高度成長期からバブル経済期まで、若干の揺り戻しはありながらも成長を続けてきた。ただし、その成長は円高や人件費の高騰による国際競争力の低下と表裏一体であり、バブル崩壊以降はかつての盛況を取り戻せずにいる。そんな中、早々に高級プレタポルテに特化し、以来、その品質の高さで顧客の信頼を得てきたのが辻洋装店だ。

同社は1947年、現社長・辻庸のぶ介よし氏の母親である至子氏が、個人客相手のオーダーメイド店として創業した。それが既製服縫製へと移り変わっていったのは、専門学校卒業後、同業他社で修行していた辻氏が入社した後のことである。

70年代初頭、すでに紳士服は機械化・大量生産化が進み、生産拠点も東京から地方へと移り始めていた。一方、辻洋装店が創業時より手がける婦人服はより複雑な工程からなり、デザインも多様だ。その特性を活かし、既成品のなかでも特に高級婦人服の少量生産へと、はっきり舵をきったのだ。

以後、80年代半ばにかけて既製服業界は大きく成長し、後に辻氏が理事長を務めた東京婦人子供服縫製工業組合の加盟社は、最盛期には800社を超えた。それが現在は約60社。輸入と国内生産を単純合算した総供給量に占める国内生産の割合も、今や3〜5パーセント(数量ベース)にまで激減している。

「ミシンは同じですからね、日本で縫うのも海外で縫うのも」(辻氏)。

消費者の好みも多様化し、爆発的なヒットはもう望めない。ならば、価格訴求力があり、多少ロスがあってもなお利益が出る商品を人件費の安い海外拠点で、というアパレル各社の選択が、この空洞化現象につながっている。ごく少数、独自の技術や高い品質といった、ものづくりの視点から差別化に成功した企業・生産地だけが、辛うじて国内で踏みとどまっている。

その中で、「デザイナーさんによって求めるものが皆違うんです。私たちはその意図するところに完全に添いながら、その代わり、デザイン以外のすべての工程をやりたい」という辻氏の言葉には、易きに流されず、品質にこだわってきたことへの自信が覗く。
 

開発中のオリジナルカシミアコート











タブレット端末のお手本動画で技能教育
 
辻洋装店のメイン顧客は、日本を代表するメゾンブランドだ。自ずと工程は複雑化し、求められる縫製品質も極めて高い。毎年、若い社員の採用を続けながらその要求に応え続けている同社は、2015年11月、技能者育成と技能継承の成果を認められ、ものづくり部門で「東京都中小企業技能人材育成大賞」を受賞した。繊維業界では初めての快挙だ。

東京都中小企業技能人材育成大賞授賞式








もともと同社は人材育成に熱心な企業だった。かつて東京には前出の東京婦人子供服縫製工業組合が手がける職業訓練校が8校あった。その一つ、東京山手ファッション学院は、辻氏自身が学院長を務めた。同社の新入社員はここに通い、技術を習得した。やがて業界全体の衰退に伴い、学院が閉鎖されると、社内でマンツーマンの技術伝承を行うようになった。その後再び、より高度化した内容の専門学校に特別コースを設立。現在、辻洋装店の新入社員は、そこで一年間、パターンと縫製を学ぶ。

同時に、社内では若手社員を対象とした勉強会を開き、年に2回は新入社員、入社2年目、3年目という〝学年〞に応じた課題を与え、試験を行う。

さらに、課題が「ポケット」であれば、勉強会後の自主練習用に会社がポケット生地を用意し、提供している。終業後、夜など、練習中にわからないところがあれば、タブレット端末からベテラン社員のお手本動画を参照できる。至れり尽くせりだ。

「最初はね、人間が直接教えるのがやっぱりいいですよ。途中でわからなくなったら、その場で『ああ、ここはこうでしょ、ここが悪かったから、こうやればいいのよ』とやるのがいちばんいい。でも、(教える側の)人間は仕事してますでしょ。ちょっと聞けない時もあるし」。

そんなとき、若手社員が気軽に参照できる教科書として、ポケットや袖、襟の縫い方、裏地のつけ方、アイロンのあて方など、典型的な工程ごとにベテラン社員の手技を撮影した3〜5分程度の映像が、ライブラリーとして用意されているのだという。
 
社内勉強会







若い社員を預かる責任
 
もちろんその他、業界主催の勉強会などにも積極的に社員を参加させている。辻氏の「人づくり」は、実は技術教育だけではない。

「私たちは物をつくっているわけですけど、必ず相手があるわけです。自分の仕事でありながら取引先のためでもあり、さらにその先のお客さまのためでもある。つながってますね。だったら自分だけがいいのでなく、相手のため、社会のためにもなる働きをしましょうと」。社員の人間性を育てるため、道徳の講師を招いての勉強会も、数十年続けているという。

会社の中だけが人生ではなく、たとえ会社を辞めてしまっても、その社員の人生は続く。「一生涯ただ洋服つくって、巧くなって給料が上がって、それで本当に幸せなのか。人生の醍醐味を味わえるだろうか。そんなことはありえない。その後の人生にも資するような教育の必要性を感じました。見てますと、人間性のいい人は、いい仕事をしますね」と辻氏はいう。

この1、2年は社員の肉親を招いた会社見学会を開催したり、近況報告や感謝の言葉を家族に伝えるハガキを社員に書かせることも始めた。見学会では社長自ら案内に立ち、個々の社員の成長ぶりや会社の状況を詳細に説明することで、子を送り出した親たちの不安を取り除くことに努めている。

その甲斐あってか、約50名の女性社員たちは非常にチームワークがよく、また退職した社員の「OB会」も毎年盛況。とくに創業70周年となる今年は海外からの参加者も含め、100人余りが参加する予定だという。
 
辻 庸介社長
「人間力を高める倫理教育も1977年から続けています」










CompanProfile
株式会社辻洋装店
東京都中野区上高田2-10-14
TEL 03-3388-0019
資本金 1000万円
従業員数 49名
売上高 2億2000万円

http://tsujiyosoten.co.jp/
月刊ビジネスサミット2016年8月号特集より
 

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