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サービス・IT × 強い組織づくり “広島づくし”の街なか映画館
固定ファンの獲得で成長を続ける

序破急

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1960年ごろには全国に7500余りあった映画館数は、今や約3400スクリーン数に減少(※)。そのうち9割近くはシネマコンプレックスによるもので、従来街なかにあった、小規模な映画館の多くは姿を消しつつある。そんな中、広島市中心部で従来型映画館3館5スクリーンを経営するのが序破急だ。※日本映画製作者連盟による調査。2000年から調査対象が映画館数からスクリーン数に変更

〝奇跡〞の映画館

広島市内でも下町風情の残る鷹野橋町。ここで1972年から42年間、地元の映画ファンに愛されたミニシアター「サロンシネマ」が同社の原点となる劇場だ。ゆったりとしたソファー席で、独立系の映画を鑑賞できるため、近くにあった広島大学から(現在、大学は東広島市に移転)通ったファンも多い。

「大学卒業後、広島を離れ、数十年後に地元に戻ってきた方から『まだ、あったんね。奇跡じゃ!』と言われました」と蔵本順子社長は笑う。

とっくに姿を消していてもおかしくない小さな映画館が、市内中心部でもひときわにぎやかな八丁堀に移転し、営業を続けていることに驚く人は少なくない。

東京で土地・建物を所有する映画館でさえ営業不振で、閉館を余儀なくされる昨今、広島市内にある3館とも賃貸で営業し、観客を動員し続ける同社は業界内でも「奇跡」と言われる。

客足は郊外のシネコンへ流れ、広島市内のメインストリートにあったメジャーな劇場が相次いで閉館する中、蔵本社長が広島の老舗百貨店、福屋八丁堀本店8階に「八丁座」をオープンしたのは2010年11月のこと。

街なかから映画館が姿を消すことを憂い、「映画の灯を絶やしたくない!」という思いに駆られての挑戦だった。

逆風は強かった。映画会社や業界関係者からは、「シネコンでさえ淘汰される時代に、街なかに映画館をつくっても生き残れるわけがない。時代に逆行している」と言われた。常連客からは、会社がつぶれてサロンシネマまでなくなるのは困る、と心配の声があがった。

蔵本社長とて無謀なことは百も承知。しかし、リーマンショック以降、停滞ムードが漂う街の雰囲気をなんとか変えたかった。

他人の失敗は面白い。どんなにダメか、ダメならとことん派手に失敗してやろう。そう腹をくくり、映画制作発表会さながらの記者会見を開き、八丁座の開館を宣言した。
 
〝くつろぎ〞と〝もてなし〞の提供で差別化図る









〝広島ナイズ〞された映画館

八丁座で蔵本社長が目指したのは、アメリカナイズされたシネコンの逆を行く「広島ナイズされた映画館」。サロンシネマの伝統を受け継ぎ、くつろいで座れる椅子は地元の家具メーカー、マルニ木工に特注した。トイレの手水鉢は宮島のお砂焼きであつらえ、館内は広島出身の美術監督・部谷京子氏によって、芝居小屋のような内装にデザインされている。

〝広島尽くし〞の「どこにもない、ここにしかない映画館」にしたのは、反対意見の嵐の中で、見守り応援してくれたファンの期待に応えたかったからだ。金融機関から融資を受けることができたのも、映画で地元を活性化し、還元したいという蔵本社長の情熱に他ならない。

「不安は一切ありませんでした。ポジティブなイメージしかないから、もう楽しくて。経営者が動じず自信を持っていれば、スタッフも安心して仕事に専念できます」と蔵本社長。

オープンから6年を迎えようとする今、客足は遠のくどころか、映画ファンや常連客以外に新たな客層も八丁座を訪れるようになった。

百貨店の客層とも重なり、昔ながらの映画館の雰囲気を好む70代以上の女性客や、リタイアした熟年世代が劇場への興味がきっかけとなり足を運ぶ。関係者の視察も後を絶たない。
 
「八丁座」のほか、鷹野橋から2014年に移転した「サロンシネマ」、日本初の床暖房装備の「シネツイン」の3館を広島市内中心部で運営







手間を惜しまず客をもてなす

同社が大切にしているのがもてなしの心だ。3館に共通するのは、映画を観るお客さまにとって最良の環境を提供すること。

発券機は使わず、チケットは対面で販売。上映前にはアナウンスをし、席にはブランケットや座布団を用意。遅れて館内に入る客にはスタッフが懐中電灯で誘導する。客が入れ替わるたび、スタッフは大急ぎで館内を清掃。心地の良いシートだけでなく音響、映像などの設備にも妥協はしない。

作品も吟味して上映する。同社ではほぼ毎日、社員全員で試写をして、上映作品を決める。試写で意見交換し、社内のコミュニケーションがとれているので、仕事帰りの〝飲みにケーション〞もしたことがない。

人をもてなすための手間は惜しまない姿勢は一貫している。「刺激になる存在でいたい」と蔵本社長は言う。シネコンで観る映画、ミニシアターで観る映画、それぞれの楽しみ方がある。シネコンと観客を奪い合うのではなく、劇場の個性を打ち出すことで新たな客層を開拓していけば、パイは増える。

「現実の苦しさ、厳しさをひととき忘れる場所が映画館。非日常を味わえる場所だからこそ、面白くしていきたいです」と蔵本社長。今後も攻めの姿勢で映画館を進化させていく。

序破急 蔵本順子 社長
「八丁座は意地で残した映画館。反対意見の中で、常連のお客さまからの『素晴らしい暴挙ですね』のひと言に勇気づけられました」






Company Profile
株式会社序破急
広島市中区胡町6-26 福屋八丁堀本店8階
082-546-1158
資本金 500万円
従業員 19人
http://johakyu.co.jp/
月刊ビジネスサミット2016年7月号特集より

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