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有能な障がい者の活躍で事業が拡大!

奥進システム

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中小企業向けの業務用Webシステムやホームページなどの受託開発を手掛ける有限会社奥進システム(大阪市中央区)。同社は身体障がい者や精神障がい者を積極的に雇用している。社会的な対応力の不足が原因で埋もれてしまっている人材にこそ活躍してもらい、一緒に事業を構築していこうとの考えだ。そこには多様な働き方が生み出されている。業績は拡大基調をキープ。ダイバーシティ経営の先見性からネットワークが広がり、受注にまで結び付くケースも見られるようになった。

社会的に埋もれた人材を仲間にする

奥進システムは、社長の奥脇学氏が2000年2月、大手ソフト開発会社をスピンアウトして創業した。自らの技術力を試すという欲求もあったが、独立の動機はそれだけではなかった。奥脇氏は次のように話す。「単身赴任や残業続きに疑問を感じました。家族と過ごす時間がとれない。プライベートを大切にする働き方にしようと思ったんです」。
 
今でこそ、同社は障がい者雇用のモデル企業として有名な存在だが、創業時、社長は障がい者に重点を置いたのではなかったのだ。仕事と生活の両方を大切にする高スキルの人材。そういう仲間と力を合わせる在宅勤務中心のSOHO形式を想定していたのである。

「意欲と能力を持ちながら、毎日の出勤が難しいために就労できずにいるというのは社会的な損失です。そんな埋もれた人材を採用したかった。具体的には、ソフト技術者としての能力を持つシングルマザーや育児中の主婦、障がい者です」。
 
ところが、技術力の点で適任者は容易に見つからなかった。結婚や出産で家庭に入った元・エンジニアを一番の候補としていたためだった。期待に沿う人材との出会いは2006年。大阪市職業リハビリセンターからの紹介を受けた上下肢障がいの優秀な人材だった。
 
これを機に、同社は障がい者の採用を推し進めた。定着率は約8割と高い。現在(2016年4月末時点)の従業員9名の内訳は、重度身体障がい3名、統合失調症などの精神障がい3名、発達障がい1名、健常のシングルマザー1名。全員、正社員である。

マウスの代わりに使用するトラックボール








職場環境・機器を整備

障がい者に気持ちよく能力を発揮させるには、職場環境の整備が欠かせない。同社では、どのように行ってきたのか。「ぴったりの手本はありません。どんな障がいで、どの程度か。個々人で違う。さらに、仕事の内容がまた違う。他社のケースはあくまでも参考材料。ひとつずつ課題解決の方法を話し合っては試し、うまくいったら正式導入してきました」。
 
職場のハード面での整備だけでもさまざまなことに取り組んできた。同社には現在、車椅子の社員が2名いる。オフィスは完全バリアフリーである。机・テーブルは車椅子が中に入るように平面位置が高いものを採用。出入口のドアは吊り下げ式にして、軽い力で開閉する引き戸にしてある。電気のスイッチなども大きなサイズを用い、壁面上の位置を下寄りに配置した。男性トイレの入り口を取り外して一部をカーテン式にした。
 
コンピュータ機器に関しても、普通のマウスが使えない社員のためにトラックボールを購入した。手の平や欠損のある上肢、足指などを使って操作するボール回転型のマウスである。在宅勤務をスムーズにするためのVPNサービスも導入している。これは、自宅から会社のコンピュータへアクセスできる機能を持つ。朝礼には、クラウドのチャットサービスを使っている。インターネット電話やテレビ会議システムもすぐ使える状態にしてある。
 
これらハード面での環境整備には当然、資金がかかる。同社では、国の助成金など使えるものは使って設備・機器を購入してきた。だが、全額というわけにはいかない。出費はそれなりにかさんでゆく。その点について、奥脇社長はこう話す。
 
「会社に必要な社員がしっかり働くための整備コストは当たり前。たとえば、障がい者7名のうちの3名と、健常のシングルマザー1名の計4名が在宅勤務制度を利用していて、3名が週2日、1名が週1日の在宅勤務。4名とも週40時間労働です。こんなことができるようになったのも、職場環境や通信設備をひとつずつ整えてきたおかげ」。


照明スイッチは車椅子搭乗者が操作しやすいワイドスイッチを採用







働きやすい社内制度をさまざまに工夫

奥進システムは、ソフト面での社内整備もいくつかの視点から行ってきた。労務面ではこうである。まず、先述した在宅勤務制。毎週決まった曜日に自宅で働く。体力や私事に合わせて調整するのだ。
 勤務時間を週30時間、35時間、40時間の中から選択する短時間勤務制。1カ月単位で総労働時間を調整する変形労働時間制も導入している。柔軟性をもたせることによって、障がいのある社員が無理せず労働時間や出勤日を増やしていける。
 
また、残業は原則禁止とし、必要な場合は事前申請をする規則だ。時間単位の管理では、時間有休制も行っている。有給休暇のうち年間最大5日分にあたる40時間までは1時間単位で取得できるのである。
 
これら柔軟な労務制度は、いずれも社員の現実的な必要性がもとになっている。会社の業務や法律との整合性を図りながら作られてきた。ほかにも細かなルールが整えられている。
 
働きやすさという点では、緊密な情報共有の仕組みも工夫してきた。部署ごとやプロジェクトごとにメーリングリストを設けたり、社内掲示板や共有スケジューラを活用したり。プロジェクトの全体状況や個人の作業進捗などが即座に確認可能だ。
 
毎日、終業時に書く日報も優れた効果をあげている。自社で「SPIS」と呼ぶ就労定着支援システムを開発した。この日報には作業内容や進捗など実作業面のほかに、その日の体調や感想を書き込むようになっている。生活面や仕事面などで自己評価した指標がグラフで把握されるようになっている。心身の管理に役立つデータである。特に、精神障がいのある社員には極めて有効だ。部署内で週1回、社長とは月1回の振り返りミーティングに使われている。奥脇社長は次のように話す。
 
「お互いの障がいも特徴も理解し合うことが何より大事。職場でオープンにする。そうすると、フォローしやすいし、業務に支障をきたさない」。

事務所での勤務風景








受注業務への対応力も育った

さまざまな工夫を凝らして社内を整備し、障がい者やシングルマザーに活躍の場を広げてきた奥進システム。毎年の成長率は小幅ながら、着実に力をつけてきた。ソフト開発業界は品質と納期にシビアである。その中で着実な成長をキープするには、それなりの基盤が必要。同社は、ダイバーシティ経営によってそれを築いてきた。
 
同社の取り組み姿勢は高い評価を受けている。2007年、大阪府障がい者雇用貢献企業(ハートフル企業)に顕彰されたのを皮切りに、2011年以降は毎年、障がい者雇用に関連した表彰を受けている。並行して、女性活躍企業としても受賞が続いた。
 
こうした表彰が契機で受注に結び付くケースも見られ始めた。同社のあり方に賛同して発注する企業もあるという。また、先に触れた障がい者就労定着支援システム「SPIS」は約1年間の社内使用を経てパッケージ化され、外販へ至っている。
 
障がい者を最初に採用してから10年。最大の収穫は何か。奥脇社長はこう断言する。「誰でも働きやすい会社にするために、フレキシブルに対応してきた。それが社風になった。だから、受注案件にもフレキシブル。その対応力が当社の強みを生んだ」。
 
奥進システムは、ダイバーシティ経営によって、社長の思惑を超えた展開を見せたのである。


奥進システム 奥脇 学社長
「誰でも働ける職場環境と仕事の仕組みづく りは、ひとつひとつが苦労であり、実績となった」






Company Profile
有限会社奥進システム
大阪府大阪市中央区鎗屋町2-2-4
イチクラビル4F
TEL 06-6944-3658
設  立 2000年2月
資本金 500万円 / 従業員 9名
https://www.okushin.co.jp

月刊ビジネスサミット2016年6月号特集より

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