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小売・流通 × 後継者による事業革新 組織風土を一新
四面楚歌から這い上がれ

ノムラテーラー

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後継者として入社した経営者の息子が、組織風土の改革に乗り出したところ、社員が猛反発、というのは、よくある話だ。京都市の生地・手芸用品販売業、ノムラテーラー(京都府京都市)の取締役専務野村拓麻氏もそうした苦い経験を持つ。自身の考え方を社員に強く批判され、一時期は出社することができなくなるまでに追いつめられた野村氏。だがそこから自分を見つめ直し、自身が持つ問題に気づき姿勢を改めたところ、社員の態度も変わっていった。さらに、10年間右肩下がりが続いた売上高も回復。野村氏とともに、会社も生まれ変わった。

“愛想が悪い店”

 ノムラテーラーは、戦前、野村氏の祖父が、紳士服地卸として創業。戦後は、婦人服地の小売業に転換、やがて、婦人服地だけでなく、雑貨用の布地など、手芸用品も扱うようになった。
 高度成長に伴い、同社の業績も順調に拡大、バブル期には、ネコの手を借りたいほどの忙しさだったという。ただ、 “客をさばく”といった接客態度で店の評判は悪く、野村氏自身、子どもの頃に友人の母親から、「あんた、あんな愛想の悪い店の子なの」と言われたこともあったという。
 さらに、社長である野村氏の父が店舗運営の細々したことまで判断し、指示を出していたため、社員は、言われたことをやるだけになってしまっていた。
 景気がいい時代には、それでも何とかなった。しかし、バブルが崩壊すると、業績は毎年前年割れが続き、社員の士気も低下。顧客の前で平気でけんかを始める社員がいるなど、2005年2月、野村氏が同社に入社した頃は、「社内の雰囲気は最悪だった」(野村氏)。
“おはよう”の挨拶も交わさない。社長に言われたことをロボットのようにこなすだけ……。
「この人たちは、何が面白くて働いているのだろうと、ショックを受けた」(野村氏)。







京都市の繁華街にあるノムラテーラーの店舗。生地だけで約1︎万点もの商品を扱っている


 

社内改革に社員が猛反発

 それまで野村氏は、就職情報誌の営業職だった。大学卒業後、望んで入ったアパレル業界が肌に合わず、新卒1年目で2つの会社を辞めていた野村氏は、「今度辞めたら、自分は終わりだ」という危機感を持ってこの就職情報誌の営業職に就いた。積極性が求められる“飛び込み営業”だったが、これに「はまった」と野村氏は振り返る。
 顧客ニーズをくみ取り、それに応えたサービスを自分で工夫して提案をする――。そうした能動的な仕事で顧客の信頼を得た結果、入社1年で関西圏500人の営業マンのトップに立つMVP賞を受賞したのだ。
「アパレル会社で挫折を経験した自分でも、頑張れば道は拓け、また、主体的に働くことで、充実感も得られた」(野村氏)。
 こうした自身の経験から、ノムラテーラーを「社員が充実感を得られるような組織に変えよう!」。そう決意した野村氏は、まず、社内の風土を変えるべく、「おはよう」「お疲れさま」といった挨拶をしようと提案した。さらに、朝礼では、社員が交替で仕事以外のことについてスピーチをすることにした。
「忙しいと、社員同士がお互いを知る機会がなくなってしまう。スピーチで趣味や家族について話せば、お互いをよく知るきっかけになると思った」(野村氏)。
だが、社員はこれに反発した。将来、社長になる存在とはいえ、同社での現場経験がない26歳の若者に、入社早々 “挨拶をしろ”“自分のことを話せ”と言われることを社員たちはよく思わなかったのだ。やがて、野村氏の方針についていけない社員たちが、次々と会社を去っていった。その穴を埋めるため、新たに人材を採用した結果、2年ほどで、半数の社員が入れ替わったが、それで組織風土が変わることはなかった。退職していく社員の多さに、新たに採用した社員の間にも不安が拡がったのだ。
 この状況に危機感を持った社長が社員にアンケートを採ったところ、野村氏に対する批判ばかりが寄せられた。
 社員が主体的に働けるようにという思いが一切伝わらず、むしろ批判された。それを知り、がくぜんとした野村氏は、張った糸が切れるように、仕事をする意欲を失い、出社する事さえできなくなってしまったのだ。


結婚式のスピーチが自信に

 当時、野村氏は、結婚したばかり。「妻はものすごく不安だったと思う。うつ状態となり、落ち込んでいたと思ったら、次はいらいらして、妻に当たることもありました」(野村氏)。
 そんな苦しい状況から抜け出すきっかけとなったのが、親友の結婚式だった。友人代表のスピーチを依頼され、断ることができなかった。そこで、失敗しないようにと、原稿をつくり、何度も練習を繰り返すなど、入念に準備。それでも当日は、大勢の人に圧倒され、声が小さくならないか、ふるえないかと心配しながらスピーチを始めると、話が終わらないうちに拍手がおこり、涙を流す人もいた。さらに、スピーチを終えたとたんに野村氏に握手を求める人、酒をついで「素晴らしかった」と言ってくれる人など、大勢の人たちが、野村氏のスピーチを褒めたたえたのだ。
「予想外の結果がうれしくて、宿泊先から妻に電話で伝えたところ、妻は、電話越しで泣いていた。後に、この電話を振り返りながら、“あれは、人生で一番うれしかった電話だった”と言ってくれた」(野村氏)
 自分のスピーチが多くの人の心を動かした――。その経験が、野村氏に自信を持たせ、社会復帰を決意させた。ただし、会社に戻るつもりはなかった。
「当時は店の前を通るのも怖かったし、生地の匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなっていた」(野村氏)。とても会社に戻れる状態ではないと思った。
 だが、なかなか就職先は見つからなかった。そんな折、母親からの勧めで、カウンセリングを受けたことが、社に戻るきっかけとなった。「実は、自分のつらさに耳を傾け、共感してくれるカウンセラーの姿に感動し、自分もカウンセラーになろうと思った」と野村氏は言う。講座を受講し、資格まで取得したが、よくよく調べてみれば、カウンセリングの仕事だけでは、なかなか生活が成り立たないことを知った。そのとき、「会社に戻り、社員に対しカウンセリングをすることなら、自分にもできるのではないか」と気がついた。
 社員一人ひとりの個性や価値観をカウンセリングの手法で聞き、それを経営に活かせるのなら、社員にも会社のためにもなる。「それなら、自分にもできるかもしれないと思ったのです」(野村氏)。
 こうして、野村氏は、約3年半の休職期間を経て、ノムラテーラーに復帰した。

社員が主体的になり、業績も改善

 出社した野村氏は、まず、社員に長期間の不在と社員の声に耳を傾けなかったことをわびた。 
 一方、社員の間にも、野村氏の言葉に耳を傾ける雰囲気が生まれていた。というのも、10年連続で前年割れが続いていた売上高が、野村氏が入社した3年目の年に、上昇に転じていたのだ。
「これは、専務の改革の成果ではないか」、そう考えた社員たちは、野村氏が提案した取り組みを自主的に続けており、それが業績の回復につながったのだ。
 復帰を果たした野村氏は、短い時間の中で社員と向き合った。カウンセリングで学んだ傾聴の姿勢で、何がしたいか、何が好きなのか、社員の言葉に耳を傾けるようにした。その結果、「これまで、社員のことを何も知らなかったことに気づいた」(野村氏)という。さらに、社長との関係も改善した。
「以前は、社長とも毎日喧嘩していた」と野村氏は言う。だが、よく話を聞く事ができるようになると、社長が何を言いたかったのかががわかるようになった。野村氏の社長に対する態度が変わると、社長の社員への接し方も変わっていった。「難しい顔で社員に指示ばかりしていた社長が、社員を信用し、仕事を任せるようになった」(野村氏)。
 店舗での販売が苦手な野村氏は、復帰後、店の運営を社員に任せており、特別具体的な指示を出すことはしていない。それでも、業績は年々向上しているという。
「不思議と言えば不思議。私が何もしていないにもかかわらず、会社の業績は、着実に改善しているのですから」(野村氏)。
 店内には、情報満載の手書きのPOPが飾られ、楽しい雰囲気を醸し出している。イベントやワークショップも開かれ、平日でも多くの女性客でにぎわう。顧客の要望に社員が丁寧に対応している姿に、かつて“愛想が悪い”と言われた店の面影は、もうない。
「経営は、いわば自転車」と野村氏は言う。前輪がお客さまで、後輪が社員。乗っているのは、社長だ。ペダルを漕げば後輪が動き、後輪が動くことで初めて前輪が動く。つまり、顧客満足を実現するには、まず、従業員満足を実現しなければならない。“お客さんのために、こうしよう”と言われても、社員は、自分たちが認められなければ、お客さまへの配慮もできないのだ。
 社員を信頼し、店舗の運営を任せたことで、社員たちの意欲が高まり、自主的に工夫しながら店づくりに取り組むようになった。その結果、店に対する顧客の評価も変わったのだ。
 組織風土改革につまずき、四面楚歌の状態からとなってしまった野村氏だが、その困難を克服するなかで得たものは大きい。さまざまな気づきを経、従業員の心に寄り添う経営へと舵を切った野村氏の今後の挑戦は続く。













手作り感あふれるマガジン













工夫を凝らしたディスプレイなど店舗ではスタッフの自主的な取り組みが行われている

 


ノムラテーラー取締役専務

野村拓麻氏
1979年兵庫県西宮市生まれ。2002年甲南大学卒業後、アパレル卸の企業に営業職で入社。03年リクルーティング事業を行う会社に入社し求人誌の新規開拓営業を担当。05年、父親が経営する株式会社ノムラテーラーの専務取締役として入社。また、09年には産業カウンセラーの資格を取得し、「UMIのカウンセリング」を設立。悩める若者の相談を受ける活動も同時に行っている。



 

Company Profile
株式会社ノムラテーラー
京都市下京区麩屋町東入ル奈良物町362
075-221-4679
資本金 2500万円
従業員 40名
http://www.nomura-tailor.co.jp

月刊ビジネスサミット2015年6月号 後継者がゆく! より


 

 

 

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