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誰もが能力を発揮できる〝会社〞と〝社会〞をつくる

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誘導加熱装置や焼入装置など、熱処理設備を主力商品とする富士電子工業株式会社。2008年に代表取締役社長に就任した渡邊弘子氏は、積極的な設備投資や営業展開により、リーマンショックの難局を切り抜け、さらなる成長軌道に乗せた。働き方改革でも注目を集めている。一方で、本業以外の活動として行っているのが、製造業における女性経営者・後継者支援だ。全国の製造業の女性経営者を対象とする団体「ものづくりなでしこ」を結成し、渡邊氏は現在、代表理事を務めている。「男性だから」「女性だから」という社会を変えたいとの思いで、工場見学会や勉強会を開催し、ものづくりや企業経営の魅力を伝えている。企業経営者としての使命、女性経営者の支援活動――渡邊氏はどのような社会を構想しているのだろうか? その展望をうかがった。

あえて不景気を選び社長に就任先行投資で道を切り開く
――2008年に社長に就任されたそうですね。
渡邊 リーマンショックの少し前になります。アメリカの取引先からの受注状況をチェックしているうちに、近いうちに日本も景気悪化が避けられないと予測しました。これを機にさまざまな改革を進めておきたい、理想とする会社づくりを進めたい。そのためには、社長になるのが一番だと考え、創業者である父と、父の右腕だった前社長に、自分を社長にしてほしいと申し出て、承認されました。
――景気が悪くなるとわかって、あえて志願されたのですね。
渡邊 そうです。不景気のときには、さまざまなことが変わるので、それまでできなかったことに取り組むチャンスです。たとえば、それまで入り込めなかったお客様にアプローチできる可能性もあります。販路拡大も技術力向上も生産力向上も、ずっと取り組んできてはいましたが、それを一層、推し進めるチャンスだと思ったからこそ、社長になると決めたのです。私にとっては当たり前の発想であり、自然な流れでした。景気が悪いから社長になりたくないというような人は社長になるべきではないと思っています。
――リーマンショックではどの程度、影響がありましたか。また、そのなかでどんな改革に着手されたのでしょうか。
渡邊 景気が悪化することはわかっていたものの、リーマンショックの影響は想像以上でした。取引先からのキャンセルは相次ぎ、業績は前年の半分にまで減少しました。しかし、同時に、落ち込んだ分、回復期になれば急激に回復するだろうとも予測していました。そのときのために、どう生産力を維持・向上しておくかが勝負になると考えました。
取り組んだことは大きく二つあります。一つは新工場の建設で、新しい機械も多数導入しました。おかげで、景気が回復したときには、すぐにお客様の需要に応えられ、当社の業績も急回復しました。さらに新規のお客様からも仕事をいただくようになりました。
景気の悪いときこそ設備投資すべきだという先輩経営者は周りにも多いですし、私自身もそう考えています。ちなみにその頃は、建設工事の需要も減り、原材料費も値下がりしていたので、新工場の建設費もかなり抑えることができました。
――二つ目の取り組みは何でしょう。
渡邊 協力会社との関係性維持です。当社には配線、溶接、板金、塗装など高い技術を持った、様々な協力会社があります。こうした方々の協力があって仕事が成り立っています。この信頼関係が途切れないよう、受注が激減している間も、そう量は多くはないにしても、発注し続けました。「下請け」だから都合が良い時だけ使えばいい、悪くなれば切ればいい、という考えは私にはありません。「下請け」ではなく「協力会社」、対等な関係です。信頼がなければ、いざというときによい仕事をしてもらえなくなります。
――今回のコロナ禍も大きな環境変化ですが、どのような変革を進めていますか。
渡邊 コロナでもやはり大きな影響を受けました。2020年は売り上げが3割減。21年以降、少しずつ回復しており、明るい兆しが見えているところです。
コロナ禍での新しい取り組みで言えば、たとえば、緊急事態宣言で対面営業ができなくなったとき、広報が中心になって「高周波焼き入れ」など、当社の技術を説明する動画をつくって配信することを始めました。従来の顧客層とは違う、医療分野、食品分野の製造業の方がそれを見て、お問い合わせくださることが増えており、実際、受注にも結びついています。
またコロナ禍に限らずですが、技術開発や新しいマーケティング方法、組織としてはダイバーシティの推進など、常にアップデートを進めています。進化し続けること、そして、その取り組みをジャッジするのが経営者の重要な役割です。


働き方改革に取り組み社員が辞めずに済む会社を実現
――働き方改革についても高い評価を得ていますね。
渡邊 2018年に行動計画を策定し、働き方改革を進めてきました。制度で言えば、たとえば、30分単位で仕事を休める制度を設け、出社時間を遅くしたり、早退したり、中抜けができるようにしました。小学3年以下の子どもを育てている社員や、妊娠中、3親等以内に要介護者がいる社員を対象にしています。
――きっかけは何だったのですか。
渡邊 直接的なきっかけは、ちょうどその頃、育児や介護、病気を理由に退職する社員が続いたことです。それまでは、ちょっとした子どもの送り迎え、親の病院の付き添いなどがあれば休むか、半休をとるしかなく、使い勝手が悪いものでした。でも30分単位であれば、事情を抱えた社員もなんとか勤務時間を工夫して仕事を続けられます。今では育児や介護を理由に退職する社員はいなくなりました。
――女性社員が働きやすい職場を目指したということですか。
渡邊 そうではありません。男性とか女性とかは関係ありません。実際、この制度を多く利用した1位と2位は男性社員でした。誰であれ、結婚や出産、育児、親の介護などライフイベントが理由で退職しなくてすむ会社にしたかったのです。
――技能やスキルを持った社員が退職すると大きな損失にもなります。それを防ぐ意味合いもあったのでしょうか。
渡邊 もちろんそれもありますが、何よりも社員に安心を提供し、信頼を得る必要があると考えたからです。たとえば同僚が病気を理由に辞めたとしたら、他の社員たちは「自分も病気になれば辞めなければならないかもしれない」と不安になりますよね。そんな会社は誰も働きたくなくなる。選ばれなくなります。だからこそ、働く人たちが安心して働ける環境づくりを進めてきましたし、これからもそうです。その一環として、35~39歳の希望者と40歳以上の全社員には人間ドックを実施しています。費用は全て会社が負担。実際に、がんの早期発見に繋がり、軽症のうちに治療できた例もありました。いまは早期発見であればがんは治りますし、働き続けられます。


未来を担う女性経営者を育成するため製造業に特化した支援団体を設立
――本業とは別に、製造業の女性経営者団体「ものづくりなでしこ」の代表を務めていらっしゃいます。
渡邊 2016年、製造業に特化して女性経営者や後継者候補を支援する「ものづくりなでしこ」を組織化しました。互いに情報交換をしながら活動していましたが、徐々に評判が高まり、現在は176人が参加しています。会員は三つのカテゴリーに分かれており、既に社長として活躍する人は「なでしこ会員」、これから社長を目指す人は「ブルジェオン会員」と名付けました。ブルジェオンとはフランス語で「つぼみ」を意味します。
「サポーター会員」は活動に共鳴してくれる方々で、男女ともに入会いただいています。現在は男性の方が多い状態です。男性にも会員になってもらったのは、男女問わず幅広く意見を聞き、議論を重ねていきたいとの考えからです。20年7月には正式に「一般社団法人ものづくりなでしこ」となり、活動に一層力を注ごうと考えているところです。
――女性経営者を支援する目的は。
渡邊 支援はしていますが、「支援」というと若干、誤解を招くかもしれません。本来、社長の器や能力というのは男性も女性も関係ありません。「女性でも」とか「女性だから」とか「女性なのに」といった見方をされない社会に変えていきたいというのが、本当の目的です。
しかし製造業の女性社長は100社に5~6社と非常に少なく、まだ珍しい存在です。社会を変えていくには、製造業で女性社長がもっと増えて、珍しい存在でなくなることが必要です。そのために支援しているということです。
私自身も、入社当時はまだ男性社会の名残が強く、技術を学ぼうとしても教えてくれる社員は少なく、膨大な量の専門書を読んで知識を身につけるしかありませんでした。男性中心社会の風潮は年々、薄れてはいますが、今も女性ということで引け目を感じたり、苦労したりしている方が多いのも事実です。環境としてはマイナスからのスタートになりがちなので、それをせめてゼロからのスタートにしたいと考えています。
――具体的にはどのような活動をされていますか。
渡邊 決まった形としては、全国の先駆的な取り組みを行っている会社の工場見学会を年に3、4回。そのほか、年に1度、さまざまなテーマで勉強会を開催しています。
こうした活動を通して、すぐに相談できる先輩社長を見つけたり、すでに活躍中の女性社長を見て刺激をもらったり、「自分も社長をやれそうだ、やってみよう」という気持ちになれたりするのが、「ものづくりなでしこ」の大きなメリットです。
実際にブルジェオン会員から6人が巣立ってくれて、現在、社長業を行っています。互いに支え合い、先輩が背中を押すことで、良い成果が出ていると感じています。
また、父親世代では、会社は男子が継ぐものという意識が強く、「製造業で娘を社長にするのは無理」と考える方も少なくありません。そうした方も「ものづくりなでしこ」の活動に触れて、「うちの娘に継がせても大丈夫だな」と考えを変えてくれるケースもあります。
繰り返しますが、経営者の資質に男女の差はありません。「男性だから」「女性だから」という時代を終わりにしたい。ものづくりなでしこも、女性経営者が珍しい存在でなくなれば、解散すればいいと考えています。
(文中敬称略)

富士電子工業株式会社 代表取締役社長  渡邊弘子氏


Company Profile
富士電子工業株式会社
所在地 大阪府八尾市老原6-71
設立 1960 年
資本金 8000 万円
売上高 31 億円
従業員数 125 人
http://www.fujidenshi.co.jp/

Profile
実践女子大学を卒業後、アパレルメーカーで営業職に従事。その後、富士電子工業へ入社。98年に常務取締役、2008年、社長に就任。16年、全国の製造業の女性経営者を対象とする団体「ものづくりなでしこ」を結成し代表理事として活躍。16年には経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定される

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