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個性豊かなものづくり集団を組織する

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ネジの製造から始まり、かつてはカード式公衆電話の部品をつくっていたという由紀精密。三代目の大坪正人氏は、時代の趨勢による受注減で倒れかけていた会社に、どこにも負けない切削加工の高い技術力があると気付き、下請け製造業から、自社で製品開発を行う開発型へと業態を転換。その強みを最大限に活かせる航空宇宙や医療業界へ進出し、見事復活を果たした。さらに、後継者難や、同じように高い技術力がありながらも埋もれ、消えかけている町工場の秘められた力を見出だし、グループ化。現在はホールディングスの社長としてグループ13社をまとめている。由紀精密を後進に譲り、ホールディングスの代表として新たな目標に向かい邁進する大坪氏に、中小製造業のグループ化による成長戦略についてうかがった。

中小企業1社では持てない機能を拡充
――ものづくりの技術を守ろうと後継者難の中小企業をグループ化し、事業を拡大されていますが、グループ化のきっかけは何だったのでしょうか。
大坪 父の経営する由紀精密に入社したのは、2006年、経営危機に陥っていた会社の立て直しのためでした。入社して驚いたのが、営業部や広報がないことです。当時は従業員数が10数名ほどでしたから、間接費用が増えてしまうことを考えると、専任は置けない。結局、私が一人で営業や広報を兼任しました。専任を置くには、会社の規模を大きくする必要がありますが、マーケットが小さいのに規模だけを大きくしても、うまくはいきません。間接の専門部門に人材が欲しいなら、そうした機能を複数社でまとめて持てばいいんじゃないかと考えるようになりました。
――そんな時、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループを率いるベルナール・アルノー氏の本を読まれたと。
大坪 ラグジュアリーブランドを多数グループ化したLVMHは、技術力の高い工房の連合体です。本には、ホールディングスとして個性豊かなブランドをいかにまとめるか、グループになることでどんなメリットがあるのかが書かれていました。それを読み、製造業のホールディングス化に興味を持ちました。そんな中、VTCマニュファクチャリンググループ(以後、VTCグループ)のオーナーである是松孝典氏と出会いました。
――VTCグループは、当時、是松氏が中心となって製造業の中小企業を集めてつくった連合体ですよね。
大坪 そうです。当時VTCグループに野村VTCという、金属加工の機械をつくっている老舗メーカーがありました。是松氏と知り合ったことで、由紀精密で野村VTCの新しい機器のモニターをすることになり、やりとりをしているうちに、VTCグループのアドバイザーをやることになった。そうした縁から、事業承継の打診を受けたんです。当時は、由紀精密を軌道に乗せることで手一杯でしたが、18年頃、是松氏が引退に向けて動くことになって、「本気で継ぐことを考えて欲しい」と言われました。それでVTCグループを引き継ぐことになった。ただ、事業会社である由紀精密で引き継ぐと、VTCグループのほうが会社規模が大きく、親子逆転現象が起きてしまいます。ほかにもいろいろとバランスを取るために由紀ホールディングスをつくり、そこですでにある製造業グループを引き受けました。ホールディングスでは、グループ内の広報や採用、経営企画、製品開発、海外営業など、中小企業が1社では持てない機能を担うことにしました。



優位性のある技術力がポイント
――VTCグループのほかにも、後継者のいない企業をグループ化されています。可否の判断ポイントはどこにありますか。
大坪 一番は、他社と比べて優位性がある技術を持っていることです。業界で目立っている会社というのは、その業界にいればわりとわかります。また、その会社の設備一覧など、どういう機械を使っているかを見れば、顧客や、何を得意としているかもおおよそ把握できます。
例えば、19年にグループ化した仙北谷(せんぼくや)という会社は宇宙分野に強く、大手メーカーとの仕事が多い。由紀精密とも長年お付き合いがあり、旋盤加工の由紀精密とマシニングが得意な仙北谷と技術の親和性もある。財務諸表だけでなく、さまざまな面から総合的に見て判断するんです。
――グループ化後、各社の機能をどうやって統合していくのでしょうか。
大坪 各社必要なことがそれぞれ違いますから、絶対にやるときまっているものはありません。ただ、管理機能は、連携や集約できる可能性が大きいですね。例えば、国産合金という会社は、事業規模が非常に大きかった時代の名残りで横浜の工場以外に新橋に本社がありましたが、実際は事務機能のみだったので、グループ会社の明興双葉の本社管理機能と合わせました。


社風はそのままに同じ方向を向くように理念を浸透
――理念やビジョン、価値観などの統一はどうされていますか。
大坪 すぐに合わせることは難しいですが、基本的にグループの理念に共感してもらっている会社と一緒になることを考えています。由紀ホールディングスには、「ものづくりで世界を幸せに」というミッションがあり、グループとしてそう動きたいという想いがあります。でも、グループになったばかりの企業に「世界を幸せにしよう!」と言っても、逆の立場だったら戸惑ってしまうかもしれません。グループのビジョンやミッションに関しては、それがどういうことなのかをことあるごとに話し、考え方のすり合わせを行います。
同じ製造業といっても、つくるモノが違うと、ものづくりに対する取り組み方もぜんぜん違うんです。80年の歴史があるのに、展示会には1回も出たことがないというメーカーもありました。そういうところが展示会に出展すると、これまで出会っていなかっただけで、いい仕事がいただけることも多いんです。そうして利益が出て初めて、「ああ、展示会は出た方がいいんだ」とわかる。そうして少しずつ共通の価値観に揃っていくんです。
また、ちょうど先日社長会があり、グループ各社の社長と幹部が集まって何年後かのビジネスについてディスカッションを行いました。そんなふうにディスカッションを重ねていくことで、少しずつ同じ方向が向けるようになると思います。
――価値観が揃わない段階で、どのようなことで苦労されていますか。
大坪 そうですね。当然だと思っていたことが、企業文化の違いによって、当然ではなかったということもあります。
例えば、由紀精密は、過去の実績ベースよりは、今年の伸びを踏まえた来年度の計画値を決め、その数字を達成するために何をするか計画を立てていくやり方でした。一方、量産型でほとんど固定の取引先のリクエストに答える会社の場合、計画は取引先のフォーキャスト情報を元にすることが多い。そのため、安定した業績の一方で「売り上げをどう増やしていくか」を自社で計画することが難しく、「不確定事項よりも取引先の既存の仕事をきちんとやりたい」という話もある。
こうしたことは、会社のビジネスモデルの違いなので、どちらがいいという話ではありません。グループ全部を同じやり方で経営企画できるかといったら違うんです。難しいところではありますね。
――会社を伸ばすために、どんなことをしていますか。
大坪 パターンはいろいろあると思いますが、根本的に製造業としてきちんと利益が出る構造に変えていくこと――。つまり生産性を上げることです。中小企業の場合、どこかしらに「無駄」があることが多い。まずはそこを削ります。そして、重要なのが営業です。これまでの取引先を改めて回るだけでは、新たな仕事は来ませんから、作戦を立てます。
例えば、グループ内の1社が取り引きをしていた大手取引先では、グループのほかの会社も役に立てる技術はないか、社屋内で展示会をやらせてもらったこともあります。全国に拠点がある大きな会社でしたので、その会社の全国のエンジニアに50人ほど集まっていただき、そこに私たちグループの製品を全部並べました。そんなふうにさまざまな手段を講じて、工夫して仕事の業種を拡げていくんです。


ニッチトップ企業が集まった誰からも知られている存在へ
――今後はどのような企業をグループ化したいとお考えですか。
大坪 製造業といってもさまざまです。中でも、素材に近い要素技術を扱う会社にグループに入っていただきたいですね。さまざまな分野に展開しやすいと思うからです。由紀精密の切削加工技術のように、飛行機にも宇宙にも使えるし自動車でも医療でも使えるなど、活用できる範囲が広いこと、そして特殊なものを取り扱っている企業が理想です。
例えばグループ会社の一つ、明興双葉は電線などをつくっている企業です。単なる電線ではなく、極細の線を編むことができる技術を有していて、その技術は今、ハイブリッドカーなどに使われています。昔はさまざまな会社でつくっていたのですが、古い機械を使って金属の線を編むというやり方は時代とともに廃れ、今、ごく細い金属の線を緩く編むことができる企業は限られています。ところがそうした技術を応用して、新たなビジネスの種が芽吹いているんです。
専門技術の場合、その技術を使ってつくるものが廃れてしまえば、その技術もなくなってしまいます。でも実は、新たな業界で最先端のものとして活躍できる可能性がある。ですから、単に同じものをひたすらつくっているところよりは、ニッチトップで特殊な技術を持っているところと一緒にやっていきたいと考えています。

――グループ全体での今後の目標・ビジョンを教えてください。
大坪 規模の追求よりも、「ものづくりで行き詰まったらここに聞けば解決してくれる」と世界中の企業に認知されるような立ち位置になっていきたいですね。
また、今、世の中で生じている社会問題を、ものづくりの力で解決していきたいと考えています。具体的に動き始めているのが、宇宙の環境問題や、高齢者医療に関東することです。スペースデブリといって、役目を終えた人工衛星やロケットからでた破片などが地球の周りを取り囲んでいます。そうしたものを除去するプロジェクトがあって、それに参加しています。医療に関しては、手術時に身体への負担の少ない「脊椎インプラント」を提供しています。
これからは、単に消費するためのものをつくるのではなく、社会問題を解決するために我々のものづくりの力を使いたい。グループが持つ要素技術を活用し、社会の困りごとを解決する、そんな集団にしていきたいと考えています。
(文中敬称略)


由紀ホールディングス株式会社 代表取締役社長 大坪正人氏

Company Profile
由紀ホールディングス株式会社
所在地 東京都中央区京橋2-6-14 日立第六ビル6F
設立 2017 年
資本金 1 億7889 万円
売上高 69 億円(国内:2018 年度グループ売上高)
従業員数 約300 名(グループ従業員数)
https://yuki-holdings.jp

Profile
1975年神奈川県生まれ。東京大学大学院を卒業後、株式会社インクス(現ソライズ株式会社)に入社。2006年祖父が創業した由紀精密に入社。より高付加価値なものづくりに特化した経営戦略に力を入れる。開発部を立ち上げ、人工衛星の設計・製造、フランスへの進出、世界最高級腕時計の製造、さらには宇宙のゴミ問題解決まで果敢に挑戦する。17年10月、由紀ホールディングス株式会社を創業。21年4月、由紀精密を後進に譲り、由紀ホールディングスの社長としてグループ各社を束ねる。

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