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危機を乗り越え、再び確かな成長軌道へ

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2020年から始まった新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、21 年に入っても収束することなく、8月には過去最大の感染者数を記録。10 月頃から減少傾向にあるものの、21 年はコロナに始まりコロナに終わる1年となりそうだ。長期化するコロナ禍は、我々の生活にさまざまな変化をもたらした。そうした変化に立ち向かうためのヒントについて、中小企業庁で白書を企画制作している中小企業庁事業環境部企画課調査室の室長である芳田直樹氏に話を聞いた。

景気動向指数はリーマンショック時より悪化
コロナ禍によって急激に変化した事業環境の中、中小企業はどう対応してきたのでしょうか。
20年から始まった感染症による急激な変化をふまえ、変革する中小企業の経営戦略や、事業継続力と競争力を高めるために行ったデジタル化、地域に密着した企業の持つ底力などを中心に、中小企業の動向について見てみたいと思います。
まず、四半期ごとに中小企業基盤整備機構が出している、DI(景気動向指数)を見てみましょう(図表1)。一番の谷となっている部分、これは20年の第1四半期、つまり、コロナ禍が言われ始め、最初の緊急事態宣言が出された時期と一致します。建設業を除くすべての業種が、09年のリーマンショック時と比べても、急速に悪化しているのがわかります。
20年の後半には、持ち直してはいるものの、DIは依然マイナス。特に小売り、サービス業は大きくマイナスとなっており、業種によって差が生じている状態が見られています。
20年から、中小企業の業績や業況に大きな影響を与えてきた新型コロナウイルス感染症(以下、感染症)ですが、足下でも約7割の中小企業で影響が続いています(図表2)。
資金繰りに関しては、今回の感染症の影響を受けた事業者の事業継続を下支えするために、持続化給付金や家賃支援給付金などの支援が実施されました。
こうした各種支援策は中小企業の資金繰り維持に寄与し、倒産件数の増加は抑えられました。
反面、中小企業向けの貸し出し残高は拡大。実質無利子無担保制度を活用し、積極的な融資が行われてきています。


中小企業の財務基盤と収益構造の変遷
中小企業の財務基盤と収益構造について、損益分岐点比率を見ると、大企業の60%に比べ、中規模企業は85・1%、小規模企業は92・7%と格差は大きく、今回のコロナ禍のように、感染症流行等、売上高の急激な減少時に対し、中小企業は耐性が低いことがわかります(図表3)。
また、財務状況については、財務指標を計算し、財務状況をきちんと把握している企業の方が、各指標が良い傾向にあります(図表4)。財務指標に基づいた経営分析は、経営戦略策定の基礎。感染症の影響をふまえ、まずは自らの財務状況を把握することが大切です。
事例1は、過去に業績が悪化した際の反省から、経営者が財務を学び、経常利益率や自己資本比率などの数値を基に収益性の改善を行うようになっていたことで、コロナ禍でも安定的に事業を継続している企業の例です。売り上げが3割落ちても赤字に転落しない収益構造や、従業員に対して、財務指標などを用いて論理的に回復への道筋を解説することで理解を促し、経費削減を実現しています。


経営計画の見直しにより危機を乗り越える
今回のように、環境の急激な変化による危機を乗り越えるためには、経営計画の見直しが必須です。実は、感染症流行前から経営計画の見直しを行ってきた企業の方が、感染症の影響は小さくなっています(図表5)。
重要なのは、財務状況もふまえ、どのような経営戦略を立てていくかです。日頃から事業環境の変化に合わせ、こまめに見直しを行っていく必要があります。
また、売上高の回復に関しては、事業環境の変化に対して柔軟な対応ができている企業ほど、回復している企業の割合が高いことがわかります(図表6)。経営理念やビジョンを明確に保ちながら、事業領域や取り組みについては柔軟に見直しを進めていくことが、危機を乗り越える鍵となるようです。
感染症流行以降、新製品の開発や新事業分野への進出などに積極的な企業ほど、事業環境の変化に柔軟に対応できている割合が高くなっています。コロナ禍の変化を“転機”と捉え、顧客ニーズや自社の強みに着目し事業を見直すことが重要です。


感染症の流行でデジタル化の重要性を再認識
感染症流行で中小企業におけるデジタル化に対する意識は高まっています。デジタル化に関する優先度を見てみると、事業方針上の優先順位が「高い」「やや高い」と回答している企業の割合が、流行前は45.6%だったものが、61.6%と、16%増えています(図表7)。感染症の流行が、デジタル化の重要性を再認識させる一つの契機となったと考えられます。
デジタル化に取り組む企業のうち、約6割の企業が事業継続力の強化を意識して取り組んでいます。事例2は、そうした中で、ITツールを活用した販売促進活動により、顧客獲得に取り組む企業の事例です。
また、事業所が点在する企業においては、クラウドサービスを活用し、より働きやすい職場環境と情報共有の円滑化を実現した企業も出てきています。事例3は、商圏が拡大し、遠隔地にいるスタッフとのコミュニケーションや品質維持のためにクラウドサービスを活用したことで、コミュニケーションの円滑化や情報の共有、スタッフのモチベーションアップまでもを実現した事例です。
感染症流行を契機に、ウェブ会議やテレワーク、リモート勤務といった、働き方改革に関する環境整備は急速に進みました(図表8)。一方で文書の電子化や社内の電子決裁などは進んでおらず、デジタル化の推進に向けて、課題も見られています。
事例4は、紙文化や対面コミュニケーションを重んじる組織文化によって、デジタル化がなかなか進まなかった企業が、地道な意識改革によって組織内のITリテラシーを向上させ、デジタル化に成功した例です。
デジタル化に向けた組織改革については、デジタル化に積極的に取り組む組織文化の醸成や業務プロセスの見直しなど、企業の組織改革が必要です。


地域とのつながりが中小企業を下支えする
経営環境の変化に強い企業の特徴を見てみると、日頃から地域とのつながりを大事にしている企業は、感染症流行下でもそのつながりに支えられ、売り上げが維持されていることがわかります(図表9)。事例5は、日頃から地域との関わりを大切にしてきたことで、感染症流行下でも、地域の個人消費に支えられた事例です。特にコロナ禍では、飲食店等の業務用需要が減少した上に、外出の自粛等により、観光をはじめとする人の往来も少なくなりました。感染症流行以前から、地道に近隣の会社や人たちと積極的に関わり、地域との密接な関係をつくり続けてきたことが、地域の個人消費を中心に、前年を上回る売上高を達成するという成果につながったのです。


変化に強い企業へと変革する新たな方策を
コロナ禍のような急激な環境変化に対応できる、底力のある企業の特徴として、以下の3点が挙げられると思います。
1点目は「財務状況の把握と定期的な経営計画の見直し」を図ること。コロナ禍のような危機に立ち向かうには、まず自分たちの足下をきちんと見なければなりません。今回のコロナ禍でどれだけの打撃があったのか、借り入れはどの程度増えたのかなどの現状把握と、今後それをどう回復させていくのかといった、経営計画の見直しが必要です。見直しのポイントとしては、時代に沿った新たな取り組みを考えることだと思います。
劇的に変わってしまった社会環境の中で新しい生活をイメージし、自社が活躍できるフィールドを探す必要があります。
2点目のポイントは「デジタル化」です。コロナ禍で大きく変わったことの最たるものが、「ソーシャルディスタンス」に伴って、直接対面せずに業務を行う場面が増加したことでしょう。感染防止の観点から、できるだけオフィスに行かずに仕事を行う努力がなされるようになりました。直接顔を合わせずとも会議ができるウェブ会議、データを共有するクラウドサービスなどは、業務を円滑に進めるための便利ツールとして浸透していきました。また、インターネットを活用した販売窓口を設置することで、実際の距離に関係なく広範囲からの受注を可能にし、デジタル化は人と人、会社の距離などを考慮しない新たな商圏を生み出しています。
さらに、3点目として挙げられるのが「地域とのつながり」です。デジタル化は遠方の人と瞬時につながることができる可能性を示しましたが、実際に県をまたいだ行き来ができなくなると、特に飲食・小売業などでは、地元の顧客の存在が重要性を増します。
21年10月以降、足下の新型コロナウイルス感染者数は減少傾向がみられます。とはいえ、今後、第6波が起こり得ることも念頭に、そのための準備や対応を行うことが必要です。先を見通すことが難しい状況の中、自社をどう牽引していくのか、変化に対応できる柔軟な組織の醸成は、より一層重要となるでしょう。


中小企業庁 事業環境部企画課調査室 調査室長 芳田直樹氏

Organization Profile
中小企業庁事業環境部企画課調査室
所在地 東京都千代田区霞が関1-3-1 経済産業省別館
TEL 03-3501-1511(代表)
https://www.chusho.meti.go.jp/

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