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未来に残したい5000社を承継する

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2021年9月、「社会貢献」と「資産運用」を両立する、日本初の個人投資家向け事業承継支援ファンドとして、「Yamato さわかみ事業承継未来ファンド」の募集開始が発表された。未上場企業の株式を取り扱うPEファンド、特に中小企業の支援を謳う事業承継ファンドが近年注目を集めているが、Yamato さわかみ事業承継機構の事業承継問題の解決策はそれらとは異なる、〝転売しない〞ファンドだ。具体的にいかなるものか。その意義とスキーム、展望をうかがった。

中小企業の廃業が地方消滅を加速させる
「地方に行くと時折、『ああ過疎とはこういうものか』と目に見える形で知らされることがあります」。株式会社Yamatoさわかみ事業承継機構、代表取締役社長の吉川明氏は語る。
地方財政が逼迫してくると、各インフラの維持費が削減されていく。道路を例に取れば、国道の95%は適切に管理され、ほぼ日本全国安全と言えるが、これが県道、市道となると維持管理が適切に行われる道路の割合は6割、4割と落ち込んでいく。道路にはひび割れ、舗装が剥がれて穴が空き、人の住まなくなった民家や商店は、空き家のまま放置され、朽ちていく。
こうした風景と、中小企業の後継者難は密接な関係があるというのだ。
「中小企業127万社の廃業リスク、とよく言われます。これはもちろん、後継者難に悩む中小企業一社一社にとっても大きな問題ですが、たとえば127万社が廃業するとすれば、多くの地方税収が消えることになります。雇用も大量に失われるでしょう。地方財政は破綻し、インフラが維持されなくなっていく。町は住みにくく危険になり、住民は外へ出ていってしまう。そうすると、もともと狭い商圏の中で地道に経営してきた中小企業は、ますます追い詰められてしまう。このようなサイクルが起こると考えられるのです」。
127万社の廃業によって失われる売り上げは年間約38兆円。これは東日本大震災の損害額17兆円の2倍以上の規模となる。震災ならば復興予算が組まれるが、中小企業の廃業は、一社一社が小さいだけにいつの間にか、目立たぬように起こり、それによって失われた巨額の経済損失はもちろん、技術も人材もネットワークも、後からでは取り戻すことができない。
これまでPEファンド事業などで中小企業支援ノウハウやプラットフォームを築き上げてきた吉川氏だが、「従来の短期利益追求型のファンドでは多くの企業は対象とならない。自分が死ぬまでに50社から多くて100社くらいしか助けられない」との焦りを抱くようになったという。それでは、日本の地方社会を維持していくことはできない。この課題解決に向けて吉川氏は模索を続け、導きだした答えが、Yamatoさわかみ事業承継機構(2018年11月設立)だった。
「通常、一つのファンドが扱う案件は10年で5〜10社。根本からイノベーションを起こし、全く違う仕組みをつくる必要があったのです」。


中小企業が主役のM&A株式を転売しない
図1は承継支援を必要とする127万社のうち、とくに付加価値が高く支援すべき企業17万社、そのうち当面、同社が注力する「5000社」を示したものだ。既に他の事業会社やPEファンドなどによる直接的な支援の手が届いているのは全体の2%のみ。残る98%の中小企業は放置されているのが現状だ。
5000社を承継し、グループ化するために、同社が用意したビジネスモデルの最大の特徴は、投資家本位ではなく、「中小企業が主役」の事業承継を行うことにある(図2参照)。支援先企業の存続が第一の目標であるため、取得した株式は転売せず永久保有。雇用は継続されリストラはしない。経営者の連帯保証は解除され、本人の意向によっては顧問等、継続的に関与することも可能だ。
通常のファンドと違い、短期間で企業価値を高め、売却益を得ることも目指さない。
「投資家中心のファンドでは高いリターンを狙わなくてはならない。そのため不採算部門の解体やリストラなど、強引な改善策を打たなくてはなりません。当機構はそうした営利優先のビジネスでは戦いません。逆に、営利優先では手が届かない企業を対象に、ソーシャルビジネスを行っています」。
支援の対象となるのは「子や孫の未来に必要な企業」。人々の生活を直接支える企業などが優先となる(例:電気・水道などのインフラメンテナンス等々)。利益が安定していることが条件だ(現時点の目安は、実質利益3000万円以上、将来はより下げる方針)。
資金は7500億円が必要で、うち4500億円は提携金融機関に融資機会として提供し、残る3000億円は志のある投資家(支援者)から募る。
9月からは個人投資家の募集を開始。年3〜4%の目標利回りで5年から10年での償還を見込んでいる。
「単にリターンを提供するだけではなく、事業承継問題を解決して雇用・経済・安全を子や孫の未来に残すという社会貢献に、投資家として参加していただく。そんな 〝ソーシャル運用〟に理解ある投資家を募っています。いかに志を同じくする支援者を増やしていくかが大事だと考えています」。
M&A後の経営者選びも柔軟だ。親族や社内に後継者候補がいるならその人に。いなければ同社が次の経営者にふさわしい人材を見つけ出す。独自の社長育成プログラムも用意し、すでに300名以上の候補者がいる。
また、資金繰りや事務、管理、ネットワーク構築、戦略立案などは同機構が一括して引き受けることで生産性向上を図る。新社長にとっては、実務の約8割が軽減されるという。
「社長には、社長でなければできないこと、技術力を高めたり、サービス品質を高めたり、それぞれの事業価値を高めることに集中してもらう。その他の役割は親会社となる当機構に集約させ、組織としてサポートしていきます」。
その他法務、会計、広報等々、特殊なスキルを要する業務についてもハイクラスな人材をアドバイザーとして抱えている。




中小5000社をグループ化する
インパクトこれまでのところ支援案件の発掘は、金融機関や仲介会社からの紹介が多いが、直接、現経営者から自分の老後や後継者について相談されることもあるという。今後は支援先獲得のペースをあげていくことが課題だ。
10年後、同機構の「5000社プロジェクト」が実現すれば、吉川氏の言うように、その社会的・経済的インパクトは計り知れない。
「われわれが10年で5000社を支援し、引継ぐことができれば、売上1兆円、経常利益1500億円、従業員5万人という企業グループを残すことができます。次の10年で17万社を承継すれば、今度はアップルやグーグルといった世界でも錚々たる企業と肩を並べます。中小企業の1社1社は小さくとも、まとまれば巨大なのです」。


株式会社Yamatoさわかみ事業承継機構 代表取締役社長 吉川明氏


Company Profile
株式会社 Yamatoさわかみ事業承継機構
所在地 東京都千代田区麹町1-6-9 DIK 麹町ビル6階
TEL 03-6403-0451
https://yamatosawakami.com

Profile
野村証券、さわかみ投信、日本政策投資銀行を経て、Yamato Capital Partners株式会社を創業、代表パートナーを務める。これまでに1000社以上の「目利き」を行い、IPO7社、起業7社、買収7社等を経て、現在10社超のグループを率いる。慶應義塾大学卒、Thunderbird MBA/USCPA。

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