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囚われの自分を解放し変化を恐れない組織へ

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クラウド会計・人事労務ソフトなどのサービスを中小企業に向けて提供するfreee。同社は、創業以来、組織が持つ文化を大切にし、常に本質を追求する文化を築き上げてきた。だが、遊び心を持ちながら課題を積極的に解決できる文化はあったものの、自分自身の至らない部分に目を向けて変えていく〝厳しさ〞が不足していたという。既存の組織文化を活かしつつ、新たな要素をプラスしていく試みは、どのように行われたのか。プロジェクトの指揮を執った西村尚久氏に、その過程と組織文化のあり方についてうかがった。

上場を目前に行われた組織文化の見直し
会計や人事労務のソフト開発・提供などをはじめ、さまざまな中小企業支援事業を展開しているfreee。「スモールビジネスを、世界の主役に。」を合言葉にした活動は高い評価を集め、2019年12月、東証マザーズに上場。従来の会計ソフトと違い、さまざまな銀行やクレジットカード会社と連携し、明細データを取り込んで自動で仕訳する同社のソフトは、投資家にも高い評価を得ている。
同社は12年、CEO佐々木大輔氏と現CTO共同創業者横路隆氏により創立。当初から、組織文化への関心は強く、18年にはカルチャー推進部という専門部署が立ち上げられた。西村尚久氏は、その一員である。
freeeでは、創立当初から同社が目標とする価値基準、「マジ価値」という考え方がある。「マジ価値」は、「本質的(マジ)で価値ある」の略で、この「マジ価値」を届けきることが、freeeのコミットメントだ。従業員の行動もまた、この基準に照らし合わされる。
「本質を追求し続けていながらも遊び心が常にあるという、創業来の組織文化の中で、自分の至らない部分に目を向け、変えるべきところは変えていくといった自己認識を高める視点や、他者に厳しいことを伝え、変えてもらう点について不足を感じていました。次世代のリーダーを育てるためにも、企業が成長していく過程で、『マジ価値』にこうした不足部分を加えたいと考えたんです」。
本質的な価値を社会に届け、社会の進化を担おうとする組織であり続けるためにも、従業員には、楽しいだけでなく、厳しいことも受け入れ、そこからさらなる変革を遂げることができるようにしたい。freeeは、この課題に対して〝ジブンゴーストバスター〟という行動指針を掲げた。
ジブンゴーストとは、いわば、勝手に自分が思い込んでしまっている「自分の幻影」のことだ。自己認識がきちんとできていない人は、過去の成功体験などを基にした、誤った行動パターンに陥りやすい。そうならないためにも、自分から積極的に自分自身の行動についてフィードバックを得ることで、自己の行動や考えを振り返り、自己認識を高めていこうと考えたのだ。


ジブンゴーストバスターで自己認識を高める
同社は、「ゴーストバスター・ジャーニー(GBJ)」と呼ばれるプログラムを作成。まずはリーダー陣にこのプログラムへの参加を促した。プログラムでは、バディと呼ばれる伴走役をつくり、そのサポートを受けながら、約4カ月間、内省を続ける。バディは、参加者の周りで働く人にヒアリングを行い、その人に関するいい面、よくない面、あらゆる方向からの意見を集め、そのまま本人にフィードバックするようにした。
初回のスタートは、19年8月。部署を問わず、48名の部門長やチーム長が参加した。その結果、90 %のリーダーがジャーニーを完走。周囲から「変わった。雰囲気がよくなった」と声が上がるなど、ポジティブな変化が見られた人は、70 %に及んだ。
ゴーストバスター・ジャーニーは、まず現状認識から始まる。対象となる人物の情報を周囲の関係者から聞き、取り出す。ヒアリングした情報は、できるかぎりそのまま本人に伝える。
そのうえで、リーダーとしての成長を阻害する要素はないか、あるならばそれは過去のどのような体験から生み出されているのかを掘り下げ、明らかにする。
自分でも気づかない欠点を他人に指摘されるというのは、気持ちの良いものではないだろう。それでもあえて言語化する。だからこそ〝バディ〟のサポートは重要だ。
「自己認識を高めることは、余計な思い込みから自由になること。『楽しみながら自分を知ることを始めてみよう』と伝えています。他者から見た自分の欠点を聞かされるわけですから、無目的にやられたら非常に不愉快に感じる人もいるでしょう。でも、『リーダーとして成長する』という目的がはっきりしていますし、本人もそのためのジブンゴーストバスターだとわかっています。だからこそ、不愉快なことも受け入れようとやってくれています」。
現状認識が終われば、次は目標を設定する。バディとの対話を通し、今後リーダーとしてどうありたいか、どう変わりたいかを言語化する。さらに、しばらく期間をおいてから、今度は言語化した目標に対して取った行動を振り返る。良かった点、改善すべき点、次はどうするかを、定期的にバディと話し合う。
自己認識や掲げた目標は、周囲の人とも共有する。社内で「さらけ出し」と呼ばれる行為だ。人と共有することで、より客観的にそれを認めることができるようになるのだ。
「これによって、次に進む覚悟ができるんです」。


自らを振り返ることで見えてきた成長の鍵
実際、部長職に初めて就いた、あるマネジャーは、ゴーストバスター・ジャーニーを経て、「自分が人に対して何かを伝えることを『面倒だ』と感じていたことに気づいた」と語った。それまでは、意識はしていなかったが、業務に必要な最低限のことだけしか話をしておらず、それ以上のコミュニケーションを周囲と取ることはしてこなかった。そのため、業務に支障がでるわけではないが、周りからは「あの人は何を考えているのかわからない」と思われていたのだ。今後大きなプロジェクトを任せるとなれば、「何を考えているかわからない」リーダーでは通用しない。プログラムによって隠れていた課題が表面化し、プログラム後は、自分の気持ちなどをきちんと伝えるよう意識するようになったという。
「ゴーストバスター・ジャーニーによって、目に見える成果がすぐに生まれるわけではありません。ただ、自分のことがわかれば、自分と上手く付き合えるようになる。自分らしく自然体で仕事に向かうリーダーが増えれば、『自分もそうなりたい』と社内の雰囲気も変わっていく。そうして文化は育っていくものだと思います」。
西村氏は、ゴーストバスター・ジャーニーがもたらす効果としてさらに「変化を恐れぬ文化の醸成」を重要な点として挙げる。
人が積み重ねる多くの成功体験は、自信を生み出す一方で、「こうすればいい」という常識や、現状維持に甘んじる姿勢をも醸成してしまう。歴史が長くなり、規模が大きくなれば、その傾向は強くなる。ゴーストバスター・ジャーニーは、組織が硬直化してしまうのを避けるためにも非常に有効だった。



自律と変化への挑戦を組織文化の中に組み込む
組織が成長を続けるには、変化を恐れない覚悟が必要だ。積み上げてきたものをあえて壊し、変えていくことが、時に組織を急成長させる。freeeがこれまで築き上げてきた実績も、変化に対する挑戦がもたらしたものに他ならない。しかし、変化し続ける覚悟は、組織のルールで培われるものではない。「そのためにこそ組織文化が必要」と西村氏は説く。
freeeは、誰もがリーダーとして動く。一人ではなく、集団としてリーダーシップを取る。ある時は誰かがリーダーとなり、別の時には、入れ替わる。非常にフラットでヒエラルキーのないシェアド・リーダーシップ型の組織だ。そういう組織では、個人の自律的な行動が求められる。自律した人間を育てるのもまた、組織文化によって培われていく。
「ルールでがちがちにするのではなく、みんなが同じ方向を見ながら一緒に走ってくれるようにしたいと考えました。この会社には、もともと本質的なものを扱いたいという文化がありました。そこを大切にしつつ、自ら変化しようとする姿勢や、変化に対する前向きさも、文化そのものにプログラムできれば、進化し続ける組織の礎をつくることができると考えたのです。ゴーストバスター・ジャーニーは、そのためのプロセスの一つ。その先には、変化を恐れずに、楽しみながら自然体で進化に挑戦できる文化を育てたい、という思いがあります」。



変わり続ける文化があれば成長は止まらない
「文化とは、どこか一つの部署によってつくられるものではなく、組織全体から浮かび上がってくるもの」という考えから、カルチャー推進部は、20年「ムーブメント研究所」へ名称を変更した。現在も、「オープンにフィードバックしあうことで社内外問わず人が一緒に成長し合える組織文化」を目指し、その土壌づくりに励んでいる。
同社は、今年6月に、誰もが自由に経営できる環境をつくるため、統合型クラウドERPやオープンプラットフォーム、ユーザーネットワークの三つを柱とする「統合型経営プラットフォーム」の開発・提供を新しいビジョンとして打ち出した。「解放」「自然体」「ちょっとした楽しさ」の三要素をブランドコアとして新たに設定。社内の人間のみならず、ユーザーや関係者全員に、同社のプロダクトや体験を通じて、この価値を感じてもらいたいという。
「これって問題じゃないか? という問題意識から、自律的に立ち上がり、自然に人が集まって理想を描き、みんなに伝える。やり方がわからなくても、アウトプット思考で挑戦していく。障害があっても、時には自分と向き合い、自分を変えることで乗り越える。結果『マジ価値』を実現し、お客様にも提供していく。そんなムーブメントのような組織にしていくための文化づくりを、現在も試行錯誤しながら模索しています」。


freee株式会社 経営基盤本部 ムーブメント研究所 西村尚久氏


Company Profile
freee株式会社
所在地 東京都品川区西五反田2-8-1五反田ファーストビル 9F(本社)
設立 2012年7月
資本金 161億603万円(資本準備金等含む)
従業員数 481人(※2020年6月末時点、正社員数)
https://corp.freee.co.jp

Profile 
早稲田大学理工学部情報学科卒業後、日本オラクルに入社。その後ベンチャーの上場準備フェーズに参加したのち、コーチング・ファームに参画。リーダーシップに関するコーチング、中国・ASEAN 地域のビジネス開発、中途採用などさまざまに経験。10年の節目にベンチャー業界に転身し、現在は組織開発を担当。マネジメントトレーニングや組織調査の立ち上げ、OKR・人事評価制度の運用、CorporateValues の浸透などに取り組んでいる

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