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環境改善によって売り上げ増加

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神奈川県横浜市にある老舗印刷会社大川印刷。同社は、2004年から「ソーシャルプリンティングカンパニー®」として社会課題の解決につながる施策を打ち出し、18年にはジャパンSDGsアワード・SDGsパートナーシップ賞を受賞した。取り組みを進めるのは、六代目大川哲郎社長だ。同社は、石油系溶剤を含まないノンVOCインキの使用やFSC®森林認証紙の使用の促進、カーボンオフセット活動など、SDGsを軸にした施策を推進。その実績が新たな需要を呼び、業績アップへとつなげている。

なくなったら困ると言われる会社にしよう
SDGs経営を推進する大川哲郎社長が、家業である大川印刷を継ごうと決めたのは高校生の頃のこと。ところが、大学入学後すぐに父が急逝。会社は急遽母親が継ぎ、大川氏は大学卒業後3年間同業他社で修行をし、大川印刷に入社した。
大川氏が入社した時期は、バブル崩壊期と重なった。売り上げはピーク時の半減。経営は日に日に苦しくなっていた。
「このままでは会社が潰れてしまう。そんな危機的状況でした」。
転機となったのは、会社が生き残る術を探して参加した、会社の存在意義について考える勉強会だった。講師に、「明日あなたの会社がなくなったら、お客様は本当に困りますか?」という質問をされたのだ。
「ガツンときました。ウチのメインのクライアントであっても、お客様によっては10社以上の印刷会社と取り引きしている会社もある。もし大川印刷がなくなっても、どこも困らないだろうと思ったんです。同時に会社のトップに立つべき自分がそんなことを思ってしまうようでは、従業員にもその家族にも申し訳が立たないと思いました。そして、地域や取引先に必要とされる企業であるためにはどうすればいいのか考えたんです」。
そうして思い至ったのが、「自社が地域や社会に必要とされるためには、自分も含め、働く人たちが地域や社会に必要とされる人になっていなければならない」ということだった。そのために何をすればいいか̶̶。大川氏は考えた。
「地域や社会において、困っている人や企業を助けたり、課題を解決したりすること。そうしていくことで、会社の存在意義は生まれるだろうと思いました。そこから、本業を通じて社会課題解決を実践していく〝社会的印刷会社〞、ソーシャルプリンティングカンパニー®という考えに及んだんです」。
こうして大川印刷は、04年、会社の存在意義を「ソーシャルプリンティングカンパニー®」と掲げ、SDGsが国連サミットで採択されるよりも前から、事業として行っていくことになった。


共感者を増やし段階的に認知させる
だが本業を通じた課題解決の取り組みが、最初から周囲に受け入れられたわけではない。明らかに変化が出たと感じたのは、大川氏が社長に就任した05年、グリーン購入大賞を受賞した頃のことだった。
グリーン購入大賞は、環境負荷のより少ない物品やサービスの購入を推進する優れた取り組みを表彰するもので、同社は少し前から、森林認証制度(FSC)といって、適正な森林管理をしていると認証を受けた森林材を使用した紙の活用を推進していた。また、カラー印刷で使われるインキを、通常使われる石油系溶剤を全く使わずに植物油等に置き換え、溶剤の量を減らしているノンVOCインキへと変更。ほかにも、針金を使用しない製本方法の導入や間伐材やFSC®森林認証材そのものを使った製品の企画など、地球温暖化防止につながる活動を行っており、それが評価された。
グリーン購入大賞の受賞は、取り組みを推進してきた現場責任者に自信をもたらした。「インキのノンVOC化を進めると、工場内に感じられていた石油系溶剤特有のツンとした臭いがしなくなったんです。それで、ほかの材料についてもノンアルコール化を進めるなどしていきました」。
同社の従業員がほかの印刷会社に出向いた後、自社に戻ってくると、印刷工場独特のインキ溶剤の臭いがせず、空気がきれいで働きやすいことが実感できた。
「従業員は、自分たちの会社が働きやすくなったことがわかると、そのことを誇らしく思うようになりました。それが、これからも続けていこうという責任感へとつながったんです。環境に配慮した取り組みを続けたことが、従業員にとってもプラスになると気がついたのが、当社にとってのターニングポイントだったと思います。また、賞を取ったことで、講演依頼や工場見学が急速に増えていきました」。
さらに15年にSDGsが採択され、既存顧客から「SDGsに取り組みたいが何から始めればいいだろうか」といった相談を受けるようになった。また、大川印刷の取り組みを口コミ等で知った企業から、「自社の印刷物を環境印刷にすることでSDGsをスタートさせたい」など、新規の問い合わせが来るようにもなり、業績は次第に向上していったのだ。



全社で取り組む環境印刷の効果
SDGsは急速に広まり、同社にもさまざまな問い合わせが来るようになった。だが、ノンVOCインキの使用や、FSC®森林認証紙への切り替え等、SDGsの取り組みは、コストアップになるのではないかと危惧する中小企業も多い。
「当社の場合、ノンVOCインキを使うことで金額が上がるということはなかったんです」。
大川印刷では、環境負荷を減らす取り組みを会社全体で行なっている。ノンVOCインキへの切り替えはその一環だ。
「切り替えの際、年間使用するインキをすべてノンVOCインキに替えることで、価格据え置きを交渉したんです」。
また、FSC®森林認証紙の使用については、紙代だけを見ると、認証の有無によっての価格差はそれほどないのだという。
「ただ、FSC認証の審査には費用がかかるため、審査費用は全体の原価に組み込まれています。会社全体として環境印刷に取り組んだからこそ、取引先が負担なく、環境印刷に取り組むことができます」。


地域の困りごとを解決し事業へと転換
また、同社では、経営計画を策定する際に、従業員が感じている疑問や課題を掘り起こし、会社全体のSDGsへと繋げる取り組みを行っている。
「ここ数年は、経営計画を策定する際以外にも、意欲の高い若手社員が中心となって、社員全体で考える機会をつくったり、環境や経営に関する第一人者を招いての勉強会や読書会を行ったりしています」。
こうした取り組みの中で、数は少ないながら、実際に事業化へと進んだり、共感者が増え、地域に広がったりしているものもある。
例えば、自分の子どもたちが大人になった時の地球環境に危機感を感じた従業員が提案したのは、子どもたちへのSDGsやFSCに関する勉強会の企画だ。これは、大手旅行代理店や修学旅行のプログラムとしてパッケージ化し、現在実現に向けて動き始めているという。
ほかにも、インターン生が企画してつくった、多言語版のおくすり手帳がある。
「インターン生が〝おばあちゃんっこ〞で、高齢者福祉について興味を持っていたんです。それで、お年寄りが使いやすいおくすり手帳をつくることになりました。それを引き継いだ次のインターン生が、海外における社会貢献活動に対する関心から、中国語とやさしい日本語で書かれたおくすり手帳の作成へとつながったんです」。
この取り組みはさらに広がり、日本語と英語、南米スペイン語、ベトナム語を取り入れた第2弾が、そして20年には日本語と英語のほかに、中国語、フィリピン語を組み込んだ第3弾が完成している。
「もちろん、個人の疑問や願いから始まった取り組みが事業化し、成功することはそれほど多くはありません。でも、チャレンジすることで得られることは多い。真剣に考え、意見を出し合うことで、個人の〝人間力〞のようなものが増し、それが企業の力へ繋がっていくと思うんです。〝生き方〞の勉強を皆でしているという感じですね」。



上辺だけでなく本気のSDGsを
SDGsが採択されたのは15年だが、SDGsが広がりを見せているのは、ここ1、2年のことだと大川氏は言う。
「ある種のブームになっていますよね。『やったほうがいいらしいよ』という雰囲気になっています。〝社会貢献〞という位置づけで、具体的にやっているところを見せにくいCSRと比べて、SDGsは『やっている感じ』を出すのが簡単なんです。バッヂを付ければ取り組んでいるように見せることができますから。そんなふうに、本質を考えず、ブームに乗っかるようにSDGsをファッションのようにまとっているようなところも多いですよね」。
大川氏は、会社のイメージアップのためにSDGsを利用しようとする企業がいることを危惧している。上辺だけの取り組みは、一時的に注目を浴び、売り上げも上がるかもしれないが、それが見せかけだけだとわかれば、取引先やその先にいる消費者はどう感じるだろうか。
「企業が、環境への配慮や、地域社会への貢献を考えるための第一歩としてはいいと思うんです。でも、中身が伴わなければ、やがて信頼を失うことになってしまいます。きちんと理解したうえで取り組まなければいけないものなんだと思います」。
ただ会社を良く見せるためのアイテムとしてのSDGsでは、逆に会社にとってのイメージダウンになりかねない。会社として「どうしてそれをやるのか」、「それをやることでどのような影響があるのか」を真剣に考える必要があるだろう。
「私たちはこの取り組みが〝良い〞と思うからやっている。そして、会社が正しいことをやっていれば、共感者が増え、共感者が増えるほどに会社の持続可能性も高まるはずだと考えています」。
2004年にソーシャルプリンティングカンパニー®を標榜してから、17年。その中で、本業を通じた社会課題解決をどう行っていくか考え、取り組んできた同社。今後も、地域や社会にとってより良い活動とは何かを模索し、常に挑戦し続けていく。


株式会社大川印刷
代表取締役社長 大川哲郎氏

Company Profile 
株式会社大川印刷
所在地 神奈川県横浜市戸塚区上矢部町2053
TEL 045-812-1131
創業 1881年
資本金 2000万円
従業員数 41名
https://www.ohkawa-inc.co.jp/

Profile 
1967年神奈川県横浜市生まれ。6代目。高校生の時、後継者となることを決意するも、大学入学直後、父親が急逝。会社は大川氏の母が五代目として経営を引き継ぎ、大学卒業後3年間東京の印刷会社に勤務の後、大川印刷へ入社。2005 年代表取締役社長就任。本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー」として「環境印刷」に取り組んでいる

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