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小規模だからこそできる迅速な決断と“幸せ”の追求

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京都市右京区西さいいん院の住宅街に、開店前から整理券を求めて人が並ぶ小さな店がある。minitts(以後、ミニッツ)が運営する国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」だ。一日100 食限定。「また食べたい」という忘れられない味と、限定食というプレミア感が相まって人気を博している。コロナ禍では4店舗のうち2店舗を閉店。迅速な対応により、残りの2店舗では翌月から黒字に転換した。最小のコストで最大の利益を出す仕組みをつくり、多くの人に求められる店として存続し続ける同社は今、大きな野望を胸に、次のフェーズへと動き出している。

幸せな時間が確保できる働き方
1日100食限定、どんなに人気が出ても食数を増やさず、売り切ったら閉店する。早く完売すれば、従業員は早く帰ることができる。原価率30%を平均とする飲食業界にあって、約50%という高い原価率で、お客様に高品質な料理を提供する̶̶。飲食業界の常識を覆す経営で知られる佰食屋は、お客様満足による口コミを広げた人気の国産牛ステーキ丼専門店だ。
「会社を拡大することや、店舗を増やすことにあまり魅力を感じていないんです」。
こう語るのは、佰食屋を運営するミニッツの中村朱美社長だ。もともと教師になりたかったという中村氏は、専門学校の事務として、広報等の仕事をしていた。独立を考えたのは、不動産営業をしていた夫の夢を叶えたいと思ったからだ。
「料理をつくることが大好きな夫は、定年後に自分の料理を提供する飲食店を出すことが夢でした。夫がつくる料理は本当においしいんです」。
中村氏は、今でも、佰食屋を運営するきっかけとなった看板商品「ステーキ丼」の原型となる料理を食べた時の感動を忘れられないという。「自分だけが食べるのはもったいない。もっと多くの人に味わってもらうべき料理だ」。そう感じたのだ。
「私は教師にはなりませんでしたが、専門学校に勤務することで、ある意味自分の夢を叶えた状態。次は夫の番です。当時は子どももおらず、身軽な今のうちに夢を叶えようという話になり、2012年にまずは私が退職し、起業。約2カ月後、仕事の区切りがついた夫がシェフとして経営に参加するかたちでスタートしたんです」。


〝早く帰る〞をインセンティブに
ステーキ丼をメインに、100食限定にする店のコンセプトは、起業前から決まっていた。
不動産の営業をやっていた夫はもちろん、中村氏も、前職では広報活動で入学者が増えればインセンティブがつく、営業の側面が強い仕事だった。「やった分だけ給与として返ってくる」仕事をしていた二人には、飲食業の働き方は「頑張りが反映されにくい」と映っていた。
「お客様が多くて忙しくても、店舗スタッフの時給は変わらない。忙しい時間帯に働くことが〝損〞のように感じてしまうし、働くモチベーションが継続しないんじゃないかと、起業前に夫とよく話をしていました。飲食業で、従業員の頑張りを目に見えるかたちで返す方法はないかと考えた時、販売数の上限を決め、『早く売れば早く帰れる』ことをインセンティブにしたらよいのではと考えました」。
中村氏は、自身が勤務していた時、どんなときにポジティブになれたかを思い出していた。
「『この仕事が終われば帰れる!』と思った時には頑張れたし、会社を出たらまだ外が明るかった時には嬉しいと感じていました」。
夕食を家族で食べる、明るいうちに帰宅する̶̶。こうしたことが、会社に勤務していると意外とできない。
「例えば、結婚する時は、長い時間一緒にいたいから結婚しようと思ったはず。それなのに、家は寝るだけの場所で、家族と過ごすよりも会社の同僚と話す時間の方が長い。そういう人の方が多いんだと思います。でも人生の終わりに振り返った時、それが本当に幸せな時間の過ごし方なのか̶̶。私はそれではイヤだと思ったんです」。
中村氏は「幸せな時間をより潤すために仕事がある」と考える。だからこそ、販売数の上限を定め、その中で、食材も人件費も無駄なく活用することに注力し、来店客には低コストで質の高い食事を、従業員には無理なく働ける働きやすい環境をつくり、永続していける会社にしていこうと決めたのだ。


素早い決断で赤字店舗を閉店 コロナ禍も業績好調
店が人気店となった後、コンセプトの違う店を数年ごとにオープン。全部で4店舗の運営を行うことになった。だがコロナ禍は、同社にも大きなダメージを与えた。
「街から忽然と人が消え、繁華街にあった2店舗の売り上げは、20年4月の第1週、対前年比20%に落ち込んだのです。同年4月11日。緊急事態宣言が始まる直前に、河原町にあった『佰食屋すき焼き専科』と錦市場の『佰食屋肉寿司専科』の2店舗を閉店しました」。
苦渋の、しかし素早い決断だった。中村氏の試算では、コロナ禍で打撃を受けた飲食業が復活するには2年ほどかかる。
助成金等を活用したとしても、同社には2年間耐えられるだけのキャッシュがなかった。
「あまりにも早い決断に『もう少し耐えられたんじゃないか』と言われることもありました。
でも、当社のような零細企業は、キャッシュフローが回らなくなった途端、破産する可能性もある。そうなれば、黒字店舗の従業員や取引先にまで影響が広がります。すべての人への被害を少しでも抑えるためには必要な決断でした」。
この決断は正しかったのか。
それを検証するため、閉店から半年後の20年10月、中村氏は店舗があった河原町と錦市場を訪れた。どちらの店の近くにも、同じように行列ができる店があり、4月にはいずれも休業となっていた。半年後に見てみると、それらの店は閉店していた。
「時期は当社より遅かったけれど、決断は同じだった。間違っていなかったと思いました」。
一方、住宅街にある残りの2店舗は、20年4月の売り上げで、対前年比100パーセントを維持していた。インバウンドや観光客に左右されにくい、地域に根付いた店だったからだ。赤字店を閉店したことで、翌月には会社全体が黒字化。その後も、2店舗は黒字を維持している。
21年に入り、京都は1月に2回目の緊急事態宣言が発令されたが、売り上げはむしろ好調。完売する時間が早まり、集客数は約110%を誇る。


身軽な規模だからこそ非常事態にも強い
「コロナ禍のような先を見通せない時代には、スモールビジネスのほうが強い」と中村氏は確信している。企業規模が大きくなるほど、ピンチの時、素早い対応ができない。今回のコロナ禍のように、急激に変わらざるを得ない環境変化に対応するには、社長の権限でフレキシブルに対応できる規模のほうが有利なことも多い。同社では、昨年5月からコロナ禍に即した経営へシフト。テイクアウト用の商品開発や、新サービスの導入などを、即決即断で行っている。
日本は災害大国だ。洪水や地震、大型化した台風が襲ってくることも珍しくない。規模が大きければ被害店舗は増え、損害も大きい。
「でも、私たちのような小さな店であれば、被害を受けたとしても、その影響は少ないんです」。
災害などで被害を受けた時、それでもすぐに立ち上がり、這い上がっていける企業規模を維持していくことは、経営を持続可能にするためにも重要だ。


佰食屋スタイルを広めて働き方改革を
現在2店舗あるうちの1店舗、「佰食屋1/2」は、限定販売数50食、従業員2人だけで運営が可能だ。佰食屋とは別のメニューで、店舗のサイズは1/2。
「佰食屋1/2は、18年に関西が相次いで地震や台風など複数の自然災害に見舞われた経験から生まれました」。
この時起きた大規模水害では、関西国際空港が3週間ほど使えなくなり、観光客は激減。
当時すでに3店舗を手がけていた同社も大ダメージを受けた。
「でも、災害で大変な時にもかかわらず、毎日50人はお客様が来てくれました。逆に言えば、どんな災害が起きても、1日50食だったら売れる。最初から目標を50にすることで、災害があっても黒字を維持できると考えたんです」。
この逆説的な考えから19年、「佰食屋1/2」は生まれた。
どうすれば確実に50食を売れるのか。営業スタイルや2人体制でのオペレーション、厨房機器などの効率的な使い方を模索しながら、最適なスタイルを確立していった。
「コロナ禍でも黒字で運営していることから、これであればどんな災害でも通用すると確信しています。そして、このやり方は、全国に広げる価値があると、そう思っています」。
同社の運営スタイルが世に知られるにつれ、多くの人から「フランチャイズを」と言われるようになった。だが、中村氏は自身の目が届かない規模にはしたくないと語る。
「私自身が心地よくないからです。でも、佰食屋の戦い方は、全国に広げる価値があると言われ、私もそう考えるようになりました。それで、私なりのやり方で全国に展開できないかと具体的に動き始めています」。
フランチャイズをするならば、店舗数の上限を決める。「心地よい」規模で実現できないか模索中だ。会社としての事業拡大は目指さない。でも、佰食屋のミニマムな運営スタイルや働き方を全国に広げていきたい。
「そして、それによって、誰もが自分らしい働き方ができる社会を生み出す̶̶。これが今の私の野望なんです」。


株式会社minitts
代表取締役
中村 朱美氏


Company Profile
株式会社minitts
所在地 京都府京都市西京区川島玉頭町24-3
設立 2012年
資本金 500万円
従業員数 12 名
https://www.100shokuya.com/

Profile
1日100食限定で、美味しいものを手軽な値段で食べられるお店「佰食屋」を2012年に開業、行列のできる人気店へ成長させる。ランチ営業のみ、完売次第営業終了という飲食店の常識を覆す経営手法で、飲食店でのワークライフバランスとフードロスゼロを実現

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