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「生産者ファースト」で流通を革新する

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2016年11月に創業した株式会社ビビッドガーデン。同社が運営する「食べチョク」は、生産者と消費者とが直接取引できる通販サイトだ。どんな生産者が、どんな思いを込めて育てている野菜なのか。これまで意識されることのなかった生産者と消費者とのつながりを同社はサービスを通して築き上げている。近年、脚光を浴びている同社だが、ここまでの道のりは決して順調ではなかった。代表取締役の秋元里奈氏は「生産者のこだわりが正当に評価される世界へ」を合言葉に、生産者ファーストの姿勢で現在も事業を展開し続けている。大手IT企業を退職してまで実現したかった思いとは何なのか。いかにして思いが実現するまでに至ったのか。創業までの経緯と今後の展望についてうかがった。

生産者に寄り添い見出した既存の流通ルートからの脱却
――農業という分野に挑戦しようと思ったきっかけについて教えてください。
秋元 私の実家は、私が中学生の頃まで農業を営んでいました。ですので、子どもの頃から畑には愛着がありました。しかし、私は農業には就きませんでしたし、実家も廃業しました。あらためて農業に興味を覚えたのは、社会人になって久しぶりに実家に戻った時です。畑がすごく荒れ果てているのを目の当たりにして、「もう昔みたいなきれいな畑は見られないのかな」という思いが湧いたのがきっかけです。
最初は、実家で農業を再建しようと考えました。しかし多くの生産者さんにお会いし話をうかがっているうちに、生産者のご苦労がわかってきました。すでに素晴らしい農作物を作っている生産者は大勢います。ならば、何も知らない自分が農業をやるよりも、生産者に貢献できることをしたほうが、業界にとっては意味があるのではないかと思えたのです。
農作物の一般的な流通ルートは、多くの中間業者を挟むため、生産者の手元に入るのは販売価格の約30%。しかも、生産者は価格を自分で設定することもできません。この流通ルートの課題が生産者を疲弊させています。私にはIT企業でウェブマーケティングの経験がありましたから、それを活かせば「生産者のこだわりが正当に評価される仕組み」を構築できるのでは、と感じました。この「生産者ファースト」の思いに賛同してくれる仲間と立ち上げた産直通販サイトが「食べチョク」です。
――具体的にはどのようなサービスでしょうか。
秋元 生産者には自分で設定した価格で農作物をサイト上に出品していただきます。一人の生産者に付き、一つのページが用意されており、そこでは、単に生産者の写真を載せるという以上に、ご自身のこだわりや、農業に対する思いなども語ってもらいます。消費者はそうした情報を見て、気に入った生産者から農作物を購入します。当社は、手数料として売り上げの20%をいただく仕組みです。
当初は消費者向けの「食べチョク」のみでしたが、法人からの要望も多くあり、現在は、法人向けの「食べチョクFor Business」も運営しています。
――ここ1~2年で、急激に人気が高まってきたようですね。現在の状況は?
秋元 登録してくださっている生産者は全国で5000軒ほど。消費者は50万人です。同じジャンルの通販サイトと比べると、各種調査によるランキングで、利用率や認知度、SNSフォロワー数、生産者認知度などで1位を獲得しています。
インタビュー次世代経営者生産者への貢献も、売上額の数字として出てきています。月間最高売上では、たとえば野菜は705万円、水産物は1479万円をあげた生産者もいます。人気の生産者には、「美味しかった」「ありがとう」といった投稿がサイト上に多数、並んでおり、リピート率も高い。このような生産者と消費者のつながりこそが、「食べチョク」の強みだと思います。


生産者と“つながる”ことが魅力
――起業時についてうかがいます。いちばん苦労されたのはなんでしたか。
秋元 最初、大変だったのは、生産者を集めることです。サービスのプレゼンをしようにも、私自身が生産者のことを全然知らないという面もありました。門前払いをされることも多かったので、まずは現場の声を聞こうと切り替え、「一次産業のことを教えてください」とお願いに行くようにしました。農作業を手伝い、農業の話を詳しく聞く。実家が農家だった話もする。そうやって信頼関係を築いてから、こういう思いでサービスを立ち上げようとしています、という話をしました。時間の許す限り、生産者の元へ通いました。営業に行くというよりも、農家さんとの関係をつくりに行っていた感じです。
どんなに仲良くなっても、生産者のなかには「この人は食べチョクには合わないな」という人もいます。生産者と言ってもさまざまで、販路を増やしたくない人も、個人向けの販売を嫌がる人もいます。そういう時には営業はしませんでした。それでも関係がしっかりとできてくると、「僕は合わないけど、この人はたぶん合うよ」みたいに紹介してくれたりするようになるんです。そうやって徐々に農家さんが集まってきました。
――システム開発など、資金面はどうされたのですか。
秋元 創業当初は私一人。デザインとエンジニアだけ、信頼できる個人の方にお願いして参加してもらっていました。それまでの貯金でなんとかやりくりしていましたが、リリース前に資金が尽きかけて、広告も出せないため、駅でビラを配ったりしていました。そして、ようやく正式版をリリースするのですが、最初の月のサイトの総流通額は4万円。想定していたよりもはるかに低く、目の前が真っ暗になりました。
――撤退は考えなかったのですか。
秋元 考えませんでした。というのも顧客数は少ないながらも、満足度が非常に高く、きちんと調べてみたところ、次のヒントが見えてきたからです。
構想段階では、鮮度や生産者の顔が見えるということをメリットにすれば、訴求力があると考えていました。しかし、実際のお客様の反応はまったく違っていました。野菜を購入する時に一番気にすることは、調査データ上では鮮度なのですが、「スーパーよりも新鮮です」と謳っても効果はあまりないのです。でも、満足度が高いことがわかったので、届け方を工夫すれば、きっとお客様に伝わるはずだと思いました。
どんな人がどんな思いで作った農作物なのかを購買者に知ってもらうこと。この人の農作物だから購入したいと思ってもらうこと。つまり、単に生産者と消費者という以上に、人と人のつながりこそが、食べチョクの強みだと思い直し、生産者のページやSNS上で直接交流できることや、当社が掲げる「生産者ファースト」の理念などを積極的にアピールしていきました。
――逆に言えば、消費者のほうに、「信頼できる農家とつながりたい」というニーズがあったということですね。
秋元 そうです。生産者集めにはとても苦労しましたが、いま考えると、この経験に大きな意味があったと思います。私自身が、多くの信頼している農家とつながっていて、だからこそ、消費者に対しても説得力あるものになったのではないかと思います。


コロナ禍でも貫いた「生産者ファースト」の理念
――「つながり」が魅力の食べチョクですが、このコロナ禍でこそ、真価を問われたのではないでしょうか。
秋元 そうなんです。生産者にとっては飲食店や給食向けに出していた野菜はストップ。物はあるのに売れない状況になり、いまも厳しい状況が続いています。
2020年の2月、コロナの感染拡大が始まった頃、私たちの許にも、全国の農家から多くのSOSが届きました。何とかしなければと感じ、すぐに「食べチョク」のサイト上に、生産者のSOSを特集するページを作り、「生産者を応援しよう」とメッセージしました。
さらに、全国の送料を一律で500円分、当社で負担することにしました。当社の利益はほぼなくなりますが、それでも、困っている人がいるならやらなければという思いで決断しました。近年、自然災害が増えていますが、生産者の中には大きな被害を受けても、声を上げない人が結構います。
そういうことは経験上わかっていましたので、すべての生産者をケアしたいと思い、全商品を対象にしました。
すぐに、多くの生産者から登録したいという声が上がりました。と同時に、取り組みを知ったお客さんからの応援消費も急増しました。生産者と消費者がつながりを持てる、という食べチョクならではの特徴が、コロナ禍における多くの人の気持ちにマッチしたのだと思います。その結果、20年の2月の末から5月にかけて、流通額が月次で35倍、年間では42倍に急増しました。
メディアなどでも取り上げられ、華やかに急成長を遂げたイメージを持たれることが多いのですが、私たちのしていることは以前と変わったわけではありません。生産者との信頼関係を地道に築き上げ、きちんとしたシステムを提供してきた。すべては細かい積み重ねの成果です。
――御社の躍進はまだまだ続きそうですね。
秋元 もちろん、「食べチョク」はもっと拡大させていく計画です。ただ、規模が大きくなっても、原点である「生産者ファースト」の姿勢は変えません。登録している生産者も増えてきているので、一人ひとりと話す時間を取ることが難しくなってきていますが、いまも毎日一時間は、ネットを通じて、生産者の方々と会話しています。
社員数も増えてきましたが、みんな生産者ファーストの使命感を共有できる人たちばかりです。エンジニアでも、生産者一人ひとりの顔を思い浮かべて作業ができるような環境づくりを、もっと徹底していきたいな、と思っています。
(文中敬称略)

株式会社ビビッドガーデン
代表取締役社長
秋元里奈氏


Company Profile 
株式会社ビビッドガーデン
所在地 東京都港区浜松町1-7-3 第一ビル4F
設立 2016 年11月
資本金 8億4202万4200円(資本準備金4億2001万2100円含む)
従業員数 68名(2021年7月1日時点)
https://vivid-garden.co.jp/

Profile 
神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部卒業後、DeNAにてwebサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げ、スマホアプリのマーケティングなどに携わる。2016年11月、株式会社ビビッドガーデン創業。17年より産直ネット通販サイト「食べチョク」のサービス開始

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