3分で読める「現場を変えた社長の一工夫」

ビジネスサミットOnline » 現場を変えた社長のひと工夫 » 進化した「しない経営」で100年の競争優位を築く

その他 ×
進化した「しない経営」で100年の競争優位を築く

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

長引く新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、アパレル各社が低迷する中、10期連続で最高益を達成した企業がある。プロ用作業服店のワークマンだ。創業40年の同社は日本全国の郊外ロードサイド立地を中心に47都道府県で913店舗(21年5月末現在)を展開し、元より卓越したオペレーションとローコスト経営で定評があった。2018年9月に1号店を出店した新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」では、一般客向けのスポーツウェアやアウトドア向けウェアに特化。「高機能低価格」をコンセプトに、これまでになかった市場を開拓し急成長を遂げた。新市場進出の背景には、確実に企業体質を高める思い切った経営改革があった。「100年の競争優位を築く経営」実現のポイントを、同社専務取締役・土屋哲雄氏にうかがった。

「何もしなくていい」と託されたワークマンの経営
──土屋専務は、長く商社でご活躍されてきました。ワークマンに入社された経緯を教えてください。
土屋 ワークマンを創業した土屋嘉雄(当時会長)は私の叔父に当たるのですが、「うちはいい会社だから、何もしなくていいよ」と誘ってくれたのが、入社のきっかけです。2012年のことです。
それまで私は長年、商社に勤めていて、面白そうと思える事業に次々と手をつけてきました。ただ、振り返ってみれば、一つ立ち上げたら次の事業、また次の商材という調子で、どの事業も大きなビジネスに育てたことはなかった。その反省点もあって、今度は何かじっくりと大きいことをしたいと考え、引き受けました。
──「何もしなくていい」とは、本当に何もしなくていいのか?どう捉えればよいか迷う言葉ですね。
土屋 言葉の真意は、おそらく「私が商社でやってきた100億円くらいの規模の小さな仕事はするな」ということではなかったかと思います。
それと、実際に入ってみてすぐ、「なるほど、これは何もしなくていい会社だ」と納得しました。ワークマンは、プロの作業着を個人向けに販売する店で、創業から約40年、競争のない海を泳いできました。この市場では2位以下に圧倒的な差をつけたシェアを持っています。
さらに、店舗オペレーションには絶対的な強さがあります。品出しのような作業一つとっても「こうすれば何秒でできる」とストップウォッチで計り、常にブラッシュアップしています。標準化するのも早い。社員は入社2〜3年でしっかりしたマニュアルを作れるようになります。私のような現場を知らない外様役員が口を出す余地はなかったのです。
──それでも改革に踏み切ったのはなぜでしょう。
土屋 たしかに現状は何もしなくてもいい。しかし、持続的ではないと予測できたからです。プロ用作業服の市場は2000億円程度。それに対しワークマンは既に売り上げ約650億円に達していました。それまでのペースで店舗数を増やしていけば、10年ほどで頭打ちになります。伸びしろが残っていません。
入社して2年間、私は営業社員に同行し、現場を見てまわりました。一人ひとりからじっくり話を聞いてみると、彼らも、漠然とした危機感や閉塞感を持っていることがわかりました。それじゃあ、みんなで新しいことに挑戦してみようか、と思い立ちました。
 
 
5000億円規模のブルーオーシャン市場を攻略
──そこで生まれたのが、新業態の「ワークマンプラス」ですね。2018年9月に1号店を出店されて以来、たいへんな評判となっています。
土屋 ワークマンプラスは一般客向けのアウトドア製品やスポーツウェアを販売する店です。従来のワークマンではプロ用作業着が約7割、その他に一般向けのアウトドア製品が約3割を扱っていました。その3割を中心にワークマンプラス用に選び出しました。つまり製品は変えていません。ただ、見せ方を変えました。一般客の場合、きちんと見て、買ってもらう必要があります。ワークマンには必要のなかった、マネキンや全身の姿見、広めの試着室などを設置しています。
事前に調査会社に依頼したところ、「ワークマンはこの分野でブランド力がないから無理だ」と言われました。「いや、無理なはずはない」と自信はありましたが、ブランド力がないというのは事実。軌道に乗せるには時間がかかるだろうと予想していました。が、結果は1号店オープンからわずか1カ月で、半年分の売り上げ予想を達成しました。そこから約2年半、現在は270店舗を超えています(21年3月時点)。
──成功要因は何だと思われますか。
土屋 プロ用作業服で培った「高機能低価格」という強みを活かしたということです。アウトドアやスポーツウェアの分野における「高品質低価格」の市場は、実は今のところ競合が存在しません(図参照)。有名アウトドアブランドやスポーツブランドはワークマンプラスの3〜4倍の価格帯。一方、ファストファッションブランドは低価格ですが、アウトドアやスポーツウェアとしての機能性はない。この手つかずの市場は、衣料だけで4000億円、靴なども含めれば5000億円規模の市場が見込まれます。
──ブルーオーシャン市場を発見されたわけですね。最初から狙いをつけていたのでしょうか。
土屋 競争しないですむ市場、というのは構想段階の初期から決めていました。長年、圧倒的シェアを維持してきた会社なので、社員たちは競争という競争を経験していません。激しい競争を勝ち抜くにはある種の反射神経が必要ですが、それがない。競争になれば負ける。だから確実に勝てるところ、できれば競争のない市場に出て行く必要がありました。
ひと度、このポジションが取れると後は強い。当社はアイテム数もサイズ展開も豊富な商品を扱うオペレーションに長けています。多店舗展開のノウハウもあります。何度も試行錯誤を繰り返し、データをとり、最適なオペレーションを確立していく社員たちには、いつも感心しています。
 


「しない経営」「エクセル経営」で現場をエンパワーメント
――新業態開発に先立って、「しない経営」「エクセル経営」を社内で打ち出されたそうですが、どのようなものですか。
土屋 ワークマンはもともと「しない経営」の会社で、「余計なことはせず、今の仕事だけを愚直なまでに深掘りしていこう」という社風がありました。それを「もっとしない経営」に進化させました。基本的な考えは、「社員のストレスになることはしない」「ワークマンらしくないことはしない」「価値を生まない無駄なことはしない」の徹底です。
一般に、優秀な経営者は欲求水準が高いので、「あれもしなさい」「これもしなさい」「もっと早く」……と言いがちです。しかし、目標が多いほど社員は余計な仕事が増え、ストレスに感じ、結果として仕事の質も落ちます。当社では目標は一つか二つ。ノルマも期限も設定しません。その代わり、やると決めたら時間がかかっても必ず実現させる、という方針です。
厳しいノルマや納期などのストレスがないと、人は自発的に工夫しながら仕事に取り組むようになります。しかも、仮に納期を設定していたとしたら、その納期よりも早く仕事を仕上げるようになります。経験上、そう断言できます。
ただし、「頑張る」のは禁止。個人の頑張りに頼らなければならないビジネスはそもそも長続きしません。
――もう一つのエクセル経営とは、計算ソフトのエクセルのことですか?
土屋 そうです。データ分析というものを当社はまったくやってきませんでした。そこでまずは全社員にエクセルの使い方を学んでもらいました。すると、数カ月後には、店舗ごとにお客様に最適な品揃えを実現するにはどうすればいいか、どこの店でどのような機会損失が起こっているか、ひと目で判断できる自作ツールを開発する社員も出てきました。
エクセル経営の狙いは、現場から様々な提案や意見が上がってくるようにすることです。データに基づいていると誰もが自信をもって発言できます。常々、私は「自分は50%間違える」と公言していますが、社員たちは私や上司の間違いを堂々と指摘してくれます。みんなが自分の仕事に関わる現象を、それぞれにデータで検証できるようになってきました。
例えば先日も、2つのテレビCM案があって、担当役員と管理職がA案を推していたところ、現場の社員2名が「B案にすべきです、なぜならこういうデータが……」と、理路整然と意見を述べたためにあっさり覆りました。こういうことが、うちではよく起こります。
――大きな社内改革だったと思われますが、抵抗はなかったのでしょうか。
土屋 時間をかけ、少しずつ変えていくことです。そうすると周囲にも気づかれにくいですからね(笑)。気づいた時には変わっていて、ちゃんと実績も上がっている、これが重要です。
それと、本気さを示すこと。ワークマンプラスの構想もまだない段階で、私が最初に打ち出したのは、社員の平均年収100万円アップでした。財務状況がよかったからできたことですが、それによって、社員たちに私の本気度が伝わったのだと思います。
――一連の社内改革は、新しいことに挑戦するにあたって不可欠だったのですね。
土屋 戦略がどんなによくても、現場の社員が気持ちよく働く環境がなければ、うまく進められなかったでしょう。実際、ワークマンプラスの立ち上げも、要所要所で、現場からのすばらしい提案やアイデアを取り入れています。ただ、これは今回に限った話ではありません。私が目指しているのは、100年の競争優位を築くこと。社員が無理をしなくても、卓越したリーダーがいなくても、長く勝ち続けられる経営――。その基盤づくりに着手できたのではないかと思います。
(文中敬称略)
  
株式会社ワークマン専務取締役土屋哲雄氏
 

Company Profile 
株式会社ワークマン
所在地 東京本部東京都台東区東上野4-8-1 TIXTOWERUENO11F
設立 1979年
資本金 16億2271万円(2021年3月末現在)
売上高(チェーン全店) 1466億5300万円(2021年3月期)
従業員数 332名(2021年3月末現在)
https://www.workman.co.jp
  
Profile  
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、30年以上の商社勤務を経て2012年、プロ用作業服専門店、ワークマンに入社。商社時代の社内ベンチャー経験を活かし、一般客を対象とするアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」をヒットさせた。2019年6月より専務取締役。

記事の絞込

■業種
■カテゴリー

業種

カテゴリー