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老舗食堂を蘇らせた四代目のデジタル改革

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「伊勢へ行きたい、伊勢路が見たい、せめて一生に一度でも」と謳われた三重県伊勢神宮。江戸時代に流行したお伊勢参りは我が国における観光旅行の原型とも言える。その門前町で食堂を営む「ゑびや」も、創業百年を超える老舗だ。同社はしかし、デジタルデータを駆使する徹底的な経営改革によって、現業の生産性を飛躍的に高めた企業として知られる。手がけたのは先代の娘婿として入社した四代目、代表取締役の小田島春樹氏だ。精度の高い来店客数予測や売上予測等に基づいた無駄のない店舗運営と、魅力的なメニュー開発、商品開発で経営内容は大きく改善し急成長。従業員の待遇改善にもつながった。「家業として考えれば、特に大きな問題があったわけではない。でも将来を見据えれば、手を打たないわけにはいかなかった」という小田島氏に、コロナ禍の影響と、次なる一手についてうかがった。

デジタルの力で売り上げは7年で5倍
──ゑびやは伊勢神宮のすぐ近くにある老舗の食堂で、昔からお伊勢参りの観光客で賑わっていたとうかがいました。
小田島 ゑびやは私の妻の実家で、大正時代創業の食堂です。私が食堂の店長として入社したのは2012年。老舗とはいえ、当時のゑびやは昔ながらの、どこにでもあるような食堂でした。店頭には陽にやけた食品サンプルが並び、メニューは三重の名物とは関係のない料理。その食券を店員さんが手でちぎって持って行くんです。売り上げは算盤で集計し、帳簿は手書きでした。
好立地でもあり家業として細々とやるなら、そのままでもやっていけなくもない。しかし、きちんと将来を見据えてやっていくなら、デジタル化を進め、改革する必要がある。日本の就労人口が確実に減っていくなか、飲食業は特に有効求人倍率が高い。であれば、給料を上げ、福利厚生を充実させて魅力ある職場をつくる。と同時に、そもそも少ない人数でも回していける付加価値の高い事業へ転換を図るべきだと考えました。
──そこから改革が始まったのですね。
小田島  最初にやったのはエクセルの導入とメニューの刷新です。売り上げの集計作業から始め、その後、段階を追ってこれらデータ活用と店舗イメージやメニューの刷新、オペレーションの見直しなどを進めていき、さらに、画像解析やAIの機械学習による来客数の予想に着手しました。
──画像解析やAIによる来客数予想とはどのようなものですか。
小田島  画像解析とは、店頭につけたカメラで店舗前の通りを歩く人々の様子を撮影して、曜日や時間帯などによる人の流れの変化が把握できるものです。来店客のお顔からリピーターかどうかもわかります。このような外部要因を数値で把握し、売り上げや入店購買率などの実績と突き合わせることで、「通行客数が増えたから来店客数も増えた」のか、「通行客数が増えたのに来店客数は増えていない」のかなど、その意味するところがわかります。そうすると、これまでに打った施策の効果が検証でき、次の施策の改善につながっていきます。
AIの来客数の予想とは、気温や降水量などの気象データ、自社サイトへのアクセス数、過去の売り上げ実績などから、翌日の来客数と注文数を予測するというものです。19年の予測精度は98.6%。20年はコロナ禍で多少落ちましたが、それでも約90%の精度を保っています。
──まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)ですね。
小田島 DXは単にデジタル化してデータを集めればいいというものではなく、それらをどう分析し、どうアクションを変えるか、いかにして経営全体を環境に最適化していくかが重要です。そのためにも画像解析や通行料調査、クラウドレジ、POSデータや決済データといった各種データはすべて1つのプラットフォームで一元管理されるように設計しています。
──一連の改革による成果は?
小田島 入社当時の売り上げは約1億円、従業員はパート含め42人で、1人あたりの売上高は396万円でした。コロナの影響を受ける前の19年は、従業員44人で売り上げは4・8億円。1人あたりの売上高は1073万円です。
来店客数から、売り上げや注文メニューも予測できますから、仕入れも人員配置も無駄がありません。7年で売り上げはほぼ5倍になりましたが、利益率はそれ以上、10倍近く伸びました。
また、一連の管理システムを広く外部にもクラウドで提供しようということで、18年に子会社EエビBILラボABを設立、スタートアップながら社員12名で8000万円の売り上げが立っています。
そのほか、新たに土産物店を出店し、地元の名産品、伝統工芸品などを販売したり、自社開発した商品の卸をしたりしています。
 
デジタル改革の意義は本来やるべき業務の時間創出
──改革当初から現在のゑびやをイメージされていたのでしょうか。
小田島 いえ、最初はエクセルですべて管理できると思っていたくらいですから(笑)。そのエクセル管理に限界を感じ始めた頃、グランドデザインが浮かんできたという感じです。車に乗る際はカーナビに行き先を入力しますよね。それによって適切なルートを選び、楽しく旅することができる。同じことだと思うんです。経営でもまずゴールを設定し、そのためにどんなルートを通るか、どんなことが起こるか予測する。そのほうがより効果的に、効率的に物事を進めることができます。
――改革の基本スタンスは?
小田島 業務効率化というよりは、無駄を省いて新しいことをするための時間と、余裕と、人を捻出することを目指しました。私自身、新しいことをするのが好きなので、いつも時間が足りないんです。アウトソーシングできる業務はアウトソーシングし、機械で自動化できる工程は自動化する。長年の経験や勘で行われてきたことを、きちんとデータに基づいた形で、誰でも正しく判断・行動できるようにしたかった、ということです。
――急激に変わっていくことに、従業員の戸惑いや反発などはなかったのでしょうか。
小田島 人間誰しも、今までやってきたことを変えるのは大変だと思うんです。プライドが邪魔をするし、変えてうまく行ったら今度は「俺の今までやってきたことは何だったんだ?」となります。うちも従業員の顔ぶれは大きく入れ替わりました。外から来た者が、いろいろ変えていくわけですから。でもそれは、ある程度仕方のないことだと思っています。会社のステージが変われば、人も変わっていくものです。
その頃、長年勤めていた料理長が辞めてしまい、後任がなかなか決まらないということがありました。その時はさすがにピンチだと思いましたが、地方の水産加工業者さんと提携し、現地でお刺身を切るところまで加工してもらうことにして、経験の浅いスタッフでもできるようにしました。物流網や冷蔵方法も併せて開発し、料理長のいない時期も、料理の質を落とさず乗り切ることができました。
――やはり改革に苦労はつきものですね。
小田島 ええ、でもこの経験も、結果として、「アウトソーシングできる業務とは何か、自動化できる業務は何か」と「店舗スタッフが本当にやらなくてはならない業務とは何か」を考えるきっかけとなりました。例えば仕入れ業務。さまざまな食材を確認して、発注するという仕事はゑびやのスタッフにはありません。食材はスケールに載せて保管し、残量が少なくなれば重量で判定して自動的に発注連絡がされるよう設定しているからです。
一方、ゑびやのスタッフでなければできない業務とは、接客の質の向上やお店の魅力づくりです。そのためにはまずはお客様の声を聞くことが大事で、お客様アンケートもデジタル化しています。店内にQRコードを表示し、お客様はそれをスマホで読み取って直接回答を入力する方式です。その回答は随時、社内のコミュニケーションツールに表示され、全員がタブレット端末から見ることができます。集計作業も自動化。あとは改善策を考え、実行するだけ。アウトソーシングや自動化によって、本来の業務にしっかり時間を割くことができるのです。
――ゑびやが生まれ変わり、さらなる成長・発展が見えてきたところで新型コロナの流行が起こりました。
小田島 当地は観光地ですから、外出自粛ということで地域全体が大きな打撃を受けています。ゑびやも例外ではなく、一時は売り上げが前年対比で90%近く落ち込むことがありました。
ただ、我々にはデータの蓄積があるので、営業利益分岐点をかなり正確に算出できています。売り上げや通行客数といった客観的な目安を設定できたことでいつ休業し、いつ再開するか、迅速な決断も可能です。経営改善だけでなく、慎重な経営判断を要する危機においてもデータは有用だと、これまでやってきたことが間違ってなかったと、改めて思っています。
コロナ禍で開発した三密回避の「混雑予報AI」や、お客様が店舗でのショッピングを疑似体験できる「3DWEB来店」等の新サービスも好評を得ています。こうしたデジタル技術も駆使しながら、ポストコロナ時代の新しいビジネスのあり方を模索していきたいと考えています。
(文中敬称略)
 
有限会社ゑびや 代表取締役 小田島春樹氏
Company Profile
有限会社ゑびや
所在地 三重県伊勢市宇治今在家町13
TEL 0596-24-3494
設立 1912年
資本金 500万円
従業員数 50人
https://www.ise-ebiya.com/(有限会社ゑびや)
https://ebilab.jp/(株式会社EBILAB)
 
Profile
1985年、北海道生まれ。高校生の時にネット販売事業を起業。大卒後はソフトバンクに入社、組織人事や新規事業立ち上げに携わったが、義父の体調悪化に伴い退職し、妻の実家である老舗「ゑびや」の経営に参加、創業者から数えて4代目の経営者となる。三重大学にて地域イノベーション学研究科博士課程単位満了修了。2018年には株式会社EBILABを設立、飲食店向けのクラウドサービス開発、及び販売を手がける。

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