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役割の明確化で自由な組織を実現する

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赤や青といった基本の色を混ぜ合わせ、色見本帳にある700色以上の塗料をつくる「調色」。この技術を活かし、お客様の要望に合わせて“欲しい色„をダイレクトに提供する塗料店が、タカラ塗料だ。同社では、若手のスタッフを中心に、20名ほどがイキイキと働き、コロナ禍にあっても増収増益を続けている。だが、3年ほど前までは、社員の顔色を窺う社長と、不満の多い社員ばかりの居心地の悪い会社だったという。そんな同社はいかにして変わり、変革の時代を生き抜いているのか。その変化の軌跡と秘訣を聞いた。

社長が会社に行きたくない“暗黒時代”
民家に混じって昔ながらの町工場や建材店が並ぶ大通りに、突如現れる洋風のおしゃれな建物。それが塗料を合わせ、さまざまな色をつくって販売する“調色屋”、タカラ塗料だ。
1948年、大野一馬社長の祖父が創業した同社は、元々は地域の工場から指示された色を調色し、納品する仕事を請け負っていた。
「私は祖父から調色を習いました。祖父が亡くなり、07年に社長を継いだ翌年、経理担当だった祖母も引退。その後しばらく私一人でやっていました」。
お客様に言われたことがきっかけで、09年、色から塗料が選べるインターネット通販サイト『調色屋』を開始。当時、欲しい色の塗料を少量から注文できるウェブサイトは珍しく、『調色屋』は、DIYを趣味とする一般客から評価され、売り上げは急速に増えていった。一人で対応しきれなくなったことで、13年からアルバイトを雇用。イベント出展などにより、売り上げは更に増加した。
「仕事はどんどん忙しくなり、場当たり的に人を採用していきました。ところが、人を増やしても仕事の量や質にバラつきがあり、“忙しい人だけが忙しい”という状態が続いたんです。誰もがなんとなく不満を抱えている、そんな雰囲気がありました」。
大野氏には、他社での就職経験がなく、祖父が亡くなってからはほぼ一人でやってきた。わからないことは自分で調べ、仕事を覚え、ここまでやってきた。
「自分の経験から『仕事が人を育てる』と考え、スタッフにも、仕事を任せていました。でも、今から考えると、それは“丸投げ”していただけだったんです」。
従業員の仕事に対して、指導もフィードバックもしていなかった。それでいて、スタッフの仕事ぶりには満足しておらず『全然ダメだ』と感じていた。本来ならダメな部分は指摘すべきだが、従業員が気分を害し、辞めてしまうかもしれないという不安から、指摘できずにいた。「イライラしながら後で自分で修正し、納品していました」。
スタッフの仕事の質は上がらず、人手を増やしても、大野氏の仕事は増え続けた。ある日、スタッフに任せた仕事があまりにもできていなかったことで、大野氏のイライラした気持ちは爆発。「ちゃんとしろ!」と大声を出したのだ。指摘されたスタッフは、それまでと同じようにやっていたにもかかわらず、突然怒鳴られたことに腹を立て、大野氏に怒鳴り返した。
「大声を上げたスタッフは、当時唯一の男性スタッフでした。私が更に怒鳴ったりすれば、ほかの女性スタッフに怖がられてしまう--。そう思って、そこで終わりにしたんです」。
ところが、大野氏の判断は、裏目に出た。社員たちに「社長は言われっぱなし」という印象を与えてしまったのだ。社長への信頼は失われ、社内の雰囲気は更に悪化。まさにタカラ塗料の“暗黒時代”だった。
「売り上げは好調でしたが、社長の私が出社するのが嫌になるほどでした」。


わずか3カ月で危機を脱出
求心力を失った大野氏から離れるように、18年の後半から19年にかけて、長く同社で働いていたスタッフを中心に、半数以上の従業員が辞めていった。
「19年4月の時点で残った社員はわずか4人。特に、中心となって活躍していた従業員たちが抜けることになった時には、会社が潰れてしまうんじゃないかと思ったほどです」。
従業員が次々と辞めていく危機の中、大野氏は、急ピッチで建て直しを図った。まず行ったのは、電話対応マニュアルの作成だ。電話での問い合わせの多くは、塗料や調色についての知識が必要だ。そのため、これまではベテランに仕事が集中してしまっていた。ただ、問い合わせ内容は重複することも多い。よく聞かれる質問を中心に、電話対応マニュアルを作成。それを共有することで、皆が質の高い電話対応ができるようになっていった。
「それまで、仕事ができる社員に業務が集中していると思っていました。でも、マニュアルをつくり共有すれば、他の人でもできることが多かったんです」。また、社内の組織を作り直し、経営計画書に沿って、段階的に従業員を採用していった。
建て直しを図り、3カ月もすると、主要な業務を任せていた従業員が辞めたにもかかわらず、業務はまわり、売り上げも好調。新たに入社した従業員の動きも良くなっていた。
「ショックでした。たった3カ月で以前と同じというよりも、それ以上にいい状態になった。私はこれまで、辞めてしまった従業員たちに、たった3カ月でできるようになることしか教えていなかったんです」。
組織を再編する際、大野氏が最初に手放したのが、同社の仕事の要である「調色」だ。色をつくるとき、配合する色の割合は、基本的に目分量。乾いた後の色を想定し、微調整しながら混ぜていく。そのため、調色は経験がものをいう。
「提供する色が色見本と合っていなければ、当社の信用に関わります。以前はここを私が手放すことはできないと思っていました。でも、従業員が調色のプロにならなければ、事業を大きくしていくことはできません。まず私が調色室から出ることから始めました」。
そして、それまでは、大野氏が全ての従業員を直接見る、文鎮型組織だったが、それを、中間管理職を置く、ピラミッド型組織へと変更。さらに、役職や職域による業務内容を明確にし、会社がそれぞれに何を求めているのかがわかるようにした。
「以前は、従業員の顔色を窺いながら仕事の話をしていました。でも、組織図をつくり、どの位置にいる人が何をすべきか明確にしたことで、誰が何をやればいいかがわかるようになりました。仕事のルールを作成し、それに沿ってやることで、誰の顔色を窺うこともなく、指示を徹底できるようになったんです」。
従業員には、最初に「会社が求めていること」をきちんと伝え、そこに到達するための細かな目標も設定される。そのため、目標が達成できているかどうか、どこができていないかが従業員自身にもわかるようになっている。できていない場合、どうすればできるのかを上司と部下が一緒に考える。目標への到達が難しいようであれば、到達するためのステップをより細かく設定し直し、できるまでやるのだ。
「どうしてできないのか、上司と一緒に考えるわけですから、できないことに対して怒ることも怒られることもありません。できるまで面倒をみるのが上司の仕事、私が社長として行うのは、結果に対し、『できている、いない』を評価することなんだと理解しました」。


新卒採用はインスタで
21年から始めた取り組みとして、配属された部署で3カ月の間にやることを、100項目を目処に記載したスキルアップ100回帳がある。100のマス目にやることを記載し、手を着けたものにチェックをつける。
「入社後3カ月間で、マップに記載していることを一通りやれればOK。何をやればいいのかが一目でわかります。最初は白かったマップに少しずつチェックがついていく様子は、教えるほうも教わる方も達成感を感じることができます」。
現在、従業員は約20名。さらにこの4月には新卒が4人入社した。新卒は、合同就職説明会や新卒専門の求人サイト経由で採用したわけではない。
「合同説明会に出る予定でしたが、コロナ禍で説明会が開催できず、お金だけが返ってきました。どうしようかと考えたとき、ふと、説明会がなくなって、就活生は何をしているだろうかと思ったんです」。
大野氏は、道行く若者に声をかけ、どのように就職活動をしているのかヒアリングして回った。想像以上に、就職活動にインスタグラムなどを活用している学生がいることを知った大野氏は、自社の採用専用サイトを充実させ、インスタグラムからそこに誘導させるように広告を出したのだ。結果、大野氏のチャレンジは驚くほどの効果を出した。なんと60人以上から応募があったのだ。
新卒は、一人採用するのに、100万円以上の費用がかかると言われている。だが、同社が21年度の新卒採用に使った費用は約3万円だという。
「いずれ、積極的に採用活動をしなくても『タカラ塗料で働きたい!』と自らウェブサイトをチェックする学生がたくさんいるようにしていきたいですね」。
そのためにも、会社の利益の大部分は労働環境の改善に充てている。作業室に冷暖房を設置し、ペンキの臭いが残らないように換気設備を整えた。従業員が真に働きやすい環境になるよう、設備を整え、人員を整備。そうした取り組みは全て採用ページに記載した。


自由な発想にこそルールは必要
今、コロナ禍で人が家にいることが増え、その影響もあり、自分で何かをつくったり自分流にアレンジしたりするDIYが流行の兆しを見せている。
「例えば売られている自動車は色が限られます。それを好きな色に塗り替えたいと思っている人は多いんです。でも自分でできると思っている人は少ないし、やり方も知らない。ですから、刷毛、ローラーをセットにした、自動車塗り替えキットといったセットの販売も始めました。やり方がわからない人も多いので、新入社員に実際にそのセットを使って塗り換えをしてもらい、その様子をネットにアップしたりもしています」。
変化の激しい昨今、臨機応変な対応や、恐れずにチャレンジする精神は不可欠だ。そして、ルールでがんじがらめにしているのでは、自由な発想は生まれないと考える人もいるだろう。
「以前は、私もそう考えていました。ですから、ルールなどなく、自由に仕事をしてもらっていたつもりです。でも、その自由は『思いつきのまま好き勝手にやる』自由でした。その結果、会社の指揮系統はぐちゃぐちゃ、どこを向いて仕事をするのかすら、人によって違うものになってしまっていたんです」。
何でも好きにやることが“自由”なのではない。会社として何を一番大切にするのか、皆が同じ方向を向き、会社が示す目標に沿ってやるために必要なのが「ルール」なのだ。
ルールを設け、ルールに沿ってアイデアをどんどん出していく。そうすると、そのアイデアを実行するか否かについての判断基準にブレが生じないため、皆が納得したうえで、新たな取り組みを行うことができる。
「自由な発想とルールづくりは相反するものではありません。ルールがあるからこそ、アイデアを出した後それについてどうすべきかがスピーディーに判断できるのです」。
きちんとしたルールをつくり、それに沿ってさまざまなアイデアを出していける組織。斬新なアイデアとそれをスピーディーに判断し実行する視点は、変革期の組織に必要不可欠なものなのかもしれない。


株式会社タカラ塗料 代表取締役社長 大野一馬氏

Company Profile
株式会社タカラ塗料
所在地 大阪府大阪市西成区南津守4-3-17
設立 1970年
TEL 06-6659-2321
資本金 1000万円
従業員数 21名(パート社員含む)
https://takaratoryo.com

Profile
2000年タカラ塗料入社。祖父に師事し塗料を合わせて色をつくる“調色”を学ぶ。07年、代表取締役に就任。08年、店舗をリニューアル。09年、色から選べる塗料の通信販売サイト『調色屋』をオープン。13年よりアルバイトなどの従業員雇用を開始。20年、新卒採用を開始。生活を彩り豊かにするため、さまざまな色をつくり、販売し続けている。

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