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「デザイン」の常識を変えたデザイン会社

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2020年6月、創業から9年で東証マザーズ上場を果たした株式会社グッドパッチ。デザイン会社として初の上場となり話題を集めた。現在は東京とベルリン、ミュンヘンにオフィスを構え、フリーランスを含め200名のデザイナーを抱える組織へと急成長を遂げている。同社のミッションは1「デザインの力を証明する」こと。このミッション設定の背景には、代表の土屋氏が米国デザイン会社での経験を機に感じた、日本のデザイン業界が抱える課題があった。日本でのデザイナーの仕事は、事業におけるプロセスの最終段階に限定され、下請け的な「見栄えをよくする」だけの存在という業界構造が一般的で、報酬も低くなりがちであった。この業界課題を革新するところからはじまった。とはいえ、デザインという属人的なサービスで規模拡大が難しいとされるビジネスで、なぜ成長を続けられるのか。コロナ禍でも躍進を続ける同社に、強さの秘訣をうかがった。 本記事は2021年1月21日の取材をもとに作成しています。

アメリカで実感した「デザイナー」の存在感と重要性
──土屋さんの起業のきっかけは、米国での体験にあるとうかがいました。その経緯を教えてください。
土屋 大阪のウェブデザイン会社でウェブディレクターとして働いた後、米国のデザイン会社で働きました。サンフランシスコで働き始めると、日本と違ってデザイナーが手掛ける仕事の範囲が広く、給与水準もステイタスも高いことを知って驚きました。2007年のiPhoneの登場以来、スマートフォン市場ではさまざまなサービスを提供する企業が生まれましたが、海外では創業メンバーのなかにデザイナーがいるのは当然。他社と差別化するためにデザインは重要な要素なのです。
そもそも、デジタル領域においてのデザインは、一般のグラフィックデザインとは異なり、UI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス)が決め手となります。UIはユーザーが製品やサービスで見たり触れたりするもの全て、UXはユーザーがその製品やサービスを通じて得る体験全般です。
UI/UX的なデザインをするには、クライアントがどんなビジョンをもつ会社で、どんな価値をどんなユーザーに提供しようとしているのかを、デザイナー自身が理解できているということです。日本でもこうしたデザインの需要が高まるはずだと確信し、帰国後にグッドパッチを立ち上げました。
──「デザイン」の意味が日本と米国では違っていたのですね。
土屋 日本でデザインというと、「見た目を整えること」「意匠」というイメージが強くあります。デザイナーはクライアントが企画して、開発して、ある程度が出来上がった段階、つまり最下流工程で「見栄えをよくしてほしい」と依頼されるのが一般的な流れです。とくにグラフィックデザインの分野では今もそんな傾向があるのではないでしょうか。デザイン報酬も安く見積もられがちで、そうしたマーケット環境が長く続いています。
これに対し、私たちは「デザインの力を証明する」をミッションに掲げ、デザイナーの市場価値を高めていくことを目指しています。見栄えがよいだけのデザインを提供するのではなく、企画・開発段階からモノづくりに関わり、よりよいUI/UXを提案できるデザイン会社であることが当社の強みとなっています。



成長性の高い顧客に注力ともにマザーズ上場を果たす
──いわゆるクライアントワークがメインとなりますか。
土屋 そうですね、さまざまな企業からの受託開発ということになります。ただし、1案件いくらという形ではなく毎月課金制とし、ビジネスの上流から下流まで、デザイナーが一気通貫でモノづくりに関わります。ソフトウェアの開発ではユーザーに使い続けてもらうために、サービスの公開後もユーザーの声を参考によりよいものに更新し続けることが必要になるので、一度、受注すると、その先も関わり続けることが多いです。
──創業当初は認知度が低かったのではないでしょうか。どうやって新規開拓をされたのですか。
土屋 フィンテックやニュースメディアなど、これから成長するだろうと思ったスタートアップに積極的にアプローチしました。UI/UX面でのデザインで協力できます、と赤字覚悟でも仕事を取りにいきました。開発初期からサポートした企業のなかには、その後、急成長し、上場した会社が何社もあります。彼らが成長するにつれ、当社の存在も知られるようになっていきました。
──御社もまた2020年6月、東証マザーズに上場されましたね。デザイン会社というと規模拡大が難しいイメージがありますが、現在の事業規模は?
土屋 今は社員数170名、昨年8月期の売上高は前期比プラス27.3%の約21億円、営業利益は約2.9倍の2.1億円です。



規模拡大するも組織崩壊に直面チームに不可欠なものを知る
──ビジネスの上流から対応できる優秀なデザイナーはどう確保、育成されているのですか。
土屋 実は美大や芸大出身の社員は少なくて、新卒の割合では10人に1人程度です。当社には美術やデザインを大学で学んだ人だけでなく、一般の四大卒やエンジニア出身のデザイナーが多く在籍しています。一人の天才の閃きに依存するのではなく、チームとして、ロジックを使ってデザインしていくことを重視し、それができる人材を採用しています。
また、当社は五つのバリュー(行動指針)を設けていますが、その一つが「領域を越えよう」です。「デザイナーはデザインだけをやっていては意味がない。他の領域に関しても興味を持って、デザイナーの価値を上げる」という考えを徹底して浸透させています。相対するクライアントは経営者がほとんどですが、当社のデザイナーは、経営者の想いや視座をインプットできていると思います。
──事業が拡大するなかで、組織の在りかたに変化はありましたか。
土屋 大変な時期もありました。1年で50名から100名へと組織が急拡大したときに、組織崩壊の危機に直面しました。急激に成長する組織でマネジメントの成長と人材の成長が追いつかず、 経営層とメンバー層の階層間の意思疎通ができていなかったのです。それまでグッドパッチに残っていたカルチャーはほぼ全て消え、Slack(※1)のチャンネルでは必要最低限のコミュニケーションしかせずに、全社員が所属するgeneral(※2)のチャンネルには投稿できないというような、心理的安全性が全くない組織になりました。そんな状況が2年半も続きました。当時のマネジャーたちはほぼ退職、全体の離職率も40%にのぼりました。
──原因はなんでしょうか。
土屋 トップである私自身の責任です。仕事が増え続け事業が成長するなかで、組織づくりが後手に回っていました。
創業当初から私一人がマネジメントをして、あとはフラットな組織体制としていました。人数が少ないうちは回りましたが、社員が50名を超えて限界を感じました。急場凌ぎで何人かのデザイナーをマネジャーに昇進させましたが、デザイナーという職種の人々は、そもそもマネジメントをやりたい人が少数派です。適性を見極めた人選でもなく、本人たちも納得してマネジャーになったわけではありません。徐々に社員たちとのコミュニケーションがとれないようになっていきました。
──創業当初からビジョンやミッションにこだわっていたとうかがいましたが、それだけでは組織はまとまらなかったのでしょうか。
土屋 そうですね。ビジョンとミッションはある程度浸透していたものの、行動指針となるバリューが浸透していませんでした。会社の規模が拡大し仕事は増える一方、コミュニケーションは足りず、行動指針も定着していない。そんな状況で問題が生じたのは、いわば当然のことでした。
──危機をどう乗り越えたのですか。
土屋 あくまでも結果論ですが、問題のあった社員を含め多数がやめていき、新しいメンバーに入れ替わったことが、会社にとってはよかったと思います。
新たな採用では、当社のビジョン、ミッション、バリューに共感してくれる人、将来的にマネジャーにしたいと思える人材を中心に採用していきました。採用前には当時の職場の問題も包み隠さず話しました。それでも一緒に会社を変えていこうという意思のある人が、いま社員になってくれています。
しばらくして、SXSW(※3)の参加資格をかけた社内のプレゼン大会で、新卒1年目の社員がプレゼンの場で「ぼくはこのグッドパッチが大好きです。この会社を世界で一番有名なデザイン会社に成長させたいです!」と言ってくれたんですよ。それを聞いていた他の社員たちの心にも響いたと思います。このとき、組織は復活すると私自身、確信しました。
現在、役員とマネジャーは、ビジョン、ミッション、バリューを、社員総会やメンバーとの1on1ミーティングで常に口にし、浸透させることを徹底しています。社員の評価面談は週に1、2回、行っています。キャリアのことや進行中のプロジェクトのことなど、何でも話せる環境です。
──現在まだコロナ禍にありますが、今後の展望についてお聞かせください。
土屋 コロナ禍に関しては、一時期ドイツの事業所がロックダウンでビジネスが大幅にストップしましたが、国内事業は順調に成長しています。職場環境としては、「これは対面の方がいい」という場面だけ対面で行い、それ以外の打ち合わせはリモートで行っています。
また、コロナ禍でDX(デジタルトランスフォーメーション)需要が加速しており、これは当社の事業にとっては追い風になると考えています。今後もデザイン会社の領域や常識を越え、出資やM&Aなど、投資も積極的に行い、社会により役に立つ存在になっていきたいと思っています。
(文中敬称略)

※1 Slackビジネスチャットツール
※2 generalSlack内でメンバー全員が登録される主要チャンネル
※3 SXSWサウス・バイ・サウスウエストは、毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンで行われる、音楽祭・映画祭・新興企業によるインタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベント。

株式会社グッドパッチ
表取締役社長 土屋尚史氏

Company Profile
株式会社グッドパッチ
所在地 東京都渋谷区鶯谷町3-3 VORT渋谷South2階
設立 2011年
従業員数 173名
資本金 9億650万円
売上高 15億7500万円
https://goodpatch.com/

Profile
2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、様々な企業の事業戦略からUI/UXまでを支援し、企業価値の向上に貢献。ベルリン、ミュンヘンにもオフィスを構え、世界で200名以上のデザイナーを抱える。2020年6月、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。

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