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苦境のなかから生み出したオンラインバスツアー

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新型コロナウイルスにより多数の企業が打撃を受け、とりわけ観光業は苦しい経営を迫られた。しかし、アイデアをひねり出し苦境を乗り越えた企業もある。その一つが琴平バス株式会社だ。コロナ禍以前は地元の顧客から厚い信頼を受け、安定した経営基盤を築いていた同社だが、観光旅行が主力事業だったため、緊急事態宣言の発令により昨年4月には収益が99%まで減少してしまう。だが、ピンチを「新しいことを始めるチャンス」と考え、誰も思いつかなかったオンラインでのバスツアーを実施。他社に先駆けて行ったことが奏功し、メディアから大きな注目を集める。その結果、新たな需要を生み出し海外へも事業を拡大するまでになる。「やらない理由がない限りやってみる」との経営方針で事業を進める三代目社長の楠木泰二朗氏。新たな挑戦とその成果、今後の展望についてうかがった。 本記事は2020年12月18日の取材をもとに作成したものです。

親子三代で築いた四国発の観光ビジネス
──長年、地域に根ざしたバス事業を展開されているとうかがいました。
楠木 当社の歴史は、1956年、私の祖父がここ香川県で事業を興したことに始まります。タクシー事業からスタートし、高速バスや貸切バスの運行など、時代のニーズにあわせ徐々に事業を拡大していきました。その後、父が独立し、新たに旅行会社を立ち上げました。現在はこの二社が一つの会社となり、それぞれの強みを活かせる、観光バスツアーを主力事業としています。
──楠木さんは三代目ということになりますね。事業承継の経緯をお聞かせください。
楠木 子どもの頃は後を継ぐことなど、まったく考えていませんでした。大学時代も独立して自分で事業を始めたいと考えていましたが、そんな折、父から旅行会社に入社しないかと言われ、2000年、大学卒業後そのまま入社しました。
当時はバブル崩壊の余波が残り、経営状態は思わしくありませんでした。最盛期には30人近くいた社員も7人まで減っていました。なんとか会社を再生しようと、新しい企画を次々と打ち出したところ、四国八十八箇所を巡るツアーなどが当たり業績も回復。そして11年には、先ほど触れた通り、祖父のバス会社と合併し、現在に近い体制となりました。そうした経験の後に13年、社長に就任しました。その後、多くの外国人観光客が四国にも来てくれるようになり、インバウンド向けの四国周遊プランなどは好調。このまま順調に会社を成長させられるかなと思っていたところでした。



開き直って生み出した日本初のサービス
──そんな矢先に、新型コロナウイルスが広がりました。事業への影響は大きかったのではないでしょうか。
楠木 昨年2月頃にはインバウンド客の出足がパッタリと止まりました。3月には国内の需要も激減し、4月の緊急事態宣言発令後は、お客様はほぼいなくなりました。主力のバスツアーの乗客は99.9%減です。
高速バスも4月、5月は運休に追い込まれ、好評だったうどんタクシーも相次いでキャンセルになりました。5月の会社全体の売り上げは前年比10%まで落ち込みました。しかしこの環境自体は変えることはできない。売り上げもここまで減ってしまうと開き直るしかない。逆にこれは新しいものを生み出せるチャンスかもしれないと考えました。
──そこで登場したのが「オンラインバスツアー」ですね。どんな内容なのですか。
楠木 従来のバスツアーで行っていたような観光地を巡る企画を、オンラインで提供するというものです。お客様にはパソコンなどからオンラインで参加してもらいます。旅先の美しい風景の動画をガイドの案内とともにみてもらったり、現地の人々と生中継で交流したりします。道の駅に立ち寄って買い物をすることもあります。また、お客様の自宅には、事前に特産品を送っておき、現地の食を味わいながら、あたかも旅先を訪れた気分になっていただくツアーです。1回90分で定員は15人。料金は4980円です。
──お客様の反応はどうでしたか?
楠木 日本で初めての試みということもあり、数多くのメディアで紹介され、全国に知られるようになりました。昨年5月15日に最初のツアーを行いました。島根県の石見神楽を巡る旅でした。以来、現在までに140回のツアーを行い、約1400人のお客様にご利用いただいています(21年2月1日時点)。
──人気は上々のようですね。日本初のアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。
楠木 昨年4月の緊急事態宣言発令後、急遽オンラインで企画会議を行い、社員から現状を打破するアイデアを集めました。その席である女性社員から「オンラインでバスツアーを行ってはどうか」という意見があがったのです。これは面白い! と思い、すぐに準備にとりかかり、4日後には社内向けのトライアルツアーを行いました。
このときは旅先の写真や動画を紹介するだけのもので、社員や社外の関係者からは「この内容でお金を払ってもらえるとは思えない」「中高年の顧客がパソコンを使えるのか?」など否定的な意見が多くありました。ではどうすれば、より旅行気分を味わってもらえるか? 社員と議論を重ね、試行錯誤し、現在の形に修正しました。
──否定的な意見が多いなかでも、やってみようと?
楠木 たとえ失敗しても大きな損失は出ません。私自身も新しいことをやってみたい性格です。やらない理由がない限りやってみようと決断しました。結果としては、どこよりも早く実行したことがよかったと思います。当社のような小さい規模の会社だからこそ迅速に進めることができたのだと思います。
──オンラインバスツアーが支持されている理由はなんでしょうか。
楠木 ガイドとお客様の距離が近く、コミュニケーションを重視していることが大きいと思います。オンラインですから本当は大勢の方に参加してもらうこともできますが、あえて定員は15人に限定しているのも、そのほうがお客様一人ひとりと深い交流ができるからです。ツアーの冒頭にはお客様自己紹介タイムを設けて名前を覚えてもらうほか、途中で、お客様の誕生日や記念日をサプライズで祝うこともあります。終了後には30分の交流タイムを設け、お客様同士で交流していただけるようにしています。
そもそも、オンラインバスツアーの目的は、これをきっかけにコロナ収束後、リアルのバスツアーへとつなげることです。ガイドとお客様、またお客様同士が親しくなると、その人にまた会いたいという旅の目的が増えます。ですので「次回はぜひリアルツアーで参加したい」と言ってくださるお客様も多いのです。
──オンラインバスツアーで減少した売り上げを補うというよりは、コロナ後を見据えた戦略的なサービスとして位置づけているのでしょうか。
楠木 たしかに売り上げは従来のバスツアーに及びません。ただ、リアルのバスツアーはバスの移動、運転手やガイドの人件費など、さまざまなコストが発生します。オンラインはそうした費用がほとんどかかりません。しかも、通常は1日がかりのツアーが、オンラインでは90分間です。そう考えると、収益性は悪くありません。



オンラインバスツアーの可能性はまだまだ広がる
──オンラインバスツアーは今後も継続される予定ですか。
楠木 はい。コロナ禍の一時的なサービスということではなく、コロナ収束後も続けていくことを考えています。
ただ、今回、オンラインでやってみて、さまざまな発見もありました。この取り組みがメディアに取り上げられ、少し、知られるようになった頃から、「修学旅行はできますか?」「ゼミ旅行は?」「研修旅行は?」といった、想定していなかったお問い合わせを、学校関係者や企業からの数多くいただくようになりました。大人数での移動が難しい中、みなさん困っていたんですね。こうしたニーズに応えていくのもオンラインバスツアーの役割だろうと考えています。
また、もう一つ気づいたのは参加者のなかに、結構な割合でご高齢の方がいらっしゃるということです。以前は家族や友人たちとよく旅行をしていたけれど、足が悪くなったり、体力が低下したため、旅行はもうあきらめていたというのです。それがオンラインバスツアーであれば、もう一度、みんなと一緒に旅行気分を味わえるということで、ご家族の方が申し込んでいただくケースが多くあります。こうしたご要望にもお役に立てるのだな、とお客様から教わりました。予想外のうれしい成果でした。
──教育や介護といった分野にも展開の可能性がありそうですね。
楠木 もう一つは海外です。米国向けに、英語に堪能なガイドが四国を案内するツアーをスタートさせています。今後はイギリスやオーストラリア向けも実施したいと企画を練っているところです。また、日本語を勉強している外国人を対象に、簡単な日本語講座を交えながらのツアーなども模索しています。
オンラインバスツアーはまだ始まったばかりで、その可能性は徐々に広がっています。今後も誰もやったことのない、新しい旅の様式を切り開いていきたいと考えています。
(文中敬称略)


琴平バス株式会社 
代表取締役社長 楠木泰二朗氏

Company Profile
琴平バス株式会社
所在地 香川県仲多度郡琴平町川西1228-1
TEL 0877-73-3331
設立 1956年
従業員数 98人
資本金 6000万円
売上高 11億9800万円
https://www.kotobus.com/

Profile
1977年10月、香川県坂出市生まれ。四国学院大学を卒業後、父が経営する新日本ツーリスト株式会社に入社。2007年に同社の代表取締役に就任。2013年には琴平バスの社長にも就任し、新しい企画を次々と生み出していく。国土交通省の「バス事業のあり方検討会」「貸切りバス運賃・料金制度ワークグループ」の委員も務める。

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