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大家族経営が幸せの連鎖を生み出す

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今から17年前、松川電氣株式会社二代目社長を継いだのは、小澤邦比呂氏。創業家ではないが、就任以前から社員や協力業者を幸せにすることに尽力してきたことが評価されての抜擢だったという。小澤氏が長く貫いてきた信念の中に、今だからこそ求められる会社の存在意義のヒントが隠されているのではないか──。松川電氣の志す使命とは何か。小澤氏に話をうかがった。

人を動かすために必要なのは心に響かせること
松川電氣は、1967年創業。手がけているのは電気・通信設備工事だ。大規模施設や工場などの配電設備や高速道路の電光表示板、河川沿いに備わるウエブカメラの設置など、多岐にわたって各種電気工事を請け負っている。工場での作業が多いという特性から、5月の大型連休や8月のお盆、年末といった多くの人が休暇に入る時も、社員たちが各地を忙しく飛び回ることは珍しいことではない。「営業や総務は12月28日で年内業務を終えますが、現場は大晦日まで動いていることがほとんどです。私は毎年、12月31日は一升瓶を持って社員の帰りを待っています。そして、帰ってきた一人ひとりに、『ごくろうさま』と言って一本ずつ渡しています」。同社の二代目社長を務める小澤邦比呂氏は「昔ながらのことをいまだにやっている」と笑って話すが、そこには熱い思いが隠されている。「社員に対する会社の想いというのは、理屈ではありません。『会社は、あなたを必要としています』ということをいつまでも社員に伝えていきたい。人は、心に響かないと動きませんから」。
 

理屈ではない大切なこと
小澤氏が社長に就任したのは、2003年のこと。就任してから社員目線の施策を始めたのか、と問うと、「そうではない」と即答で返ってきた。時は80年代半ば頃に遡る。それまで現場施工や営業・設計、管理業務などを担当してきた小澤氏は30代前半で専務に昇進。同時に、社内における裁量をかなり広範に持たせてもらったという。この時に、小澤氏は会社の体質をさまざまな分野で改革した。当時、社員は10名足らずだったが、給料日に集金に回らなければならないなど、同社は自転車操業に近い状態だったという。そこで、小澤氏は借金の返済に注力し、手形払いを徐々にやめていった。会社の財務体質の強化に努めたのである。そんなある日、小澤氏が帰宅すると、家にチーズケーキが置いてあった。地元浜松でも有名な洋菓子店のもので、食べてみると、これまで味わったことのないほどの美味だったという。そこで、ちょうど12月だったこともあり、社員たちへの感謝を示すために各社員の自宅にクリスマスケーキ代わりに配ることを思いついた。社員だけでなく、妻や子どもなど、家族分を送ったのだ。すると、予想外の反響があった。社員の奥さんから『おいしかったです』と電話や手紙が届いたのだ。社員や家族が喜ぶ姿を想像して、小澤氏にとって忘れられない出来事になったという。小澤氏は言う。「生きがいややりがい、働きがいと言いますが、そんなものは初めから会社にあるわけではありません。一生懸命にやったのち、人から『ありがとう』と言われて初めて、やってよかったと感じる。そして、これがやりがいなのだ、と感じるものではないでしょうか」。やりがいや働きがいがあるから会社で働くのではなく、人に感謝されて初めて感じるもののために働く。それはすなわち、小澤氏の考える自社の存在意義につながっていく。
 

絶対安心の高品質のさらに上を目指す
松川電氣の経営は、いわば大家族経営だ。これを同社では「松川一家」と称している。社員や協力業者、そしてその家族を幸福にするためにできることをするのを目標に掲げている。社員旅行には、社員の家族も協力業者の家族も招待し、海外や国内の一流ホテルで宿泊する。一流のもてなしを体感してもらうためだ。人間ドックの受診も全社員と配偶者が対象。協力業者との懇親会は、もちろん家族同伴。これらはすべて会社の負担だ。「福利厚生費扱いにできるかどうかで決めているわけではありません。みんなのためになるかどうか。それが基準です」。好待遇の数々だが、もちろん業務にはそれ相応の質と量が求められる。ノルマなどはないものの、先述したように世間が長期休暇に入っている時にも忙しく立ち回らねばならず、常にスピード重視だ。あるゼネコン会社から見積書を要求された時のこと。大型案件だったために、社員総出で見積書を作成した。電線の1メートルに至るまで微細に精査して、100枚以上におよぶ見積書ができあがった。見積もり額は約8000万円。ところが、先方から「高すぎる」との返事がきたという。「いつも丁寧な仕事をしてくれるからぜひお願いしたいけど、他社なら4500万円で受けてくれるところがある、などと言われました。冗談じゃない、と断りました」。それから、同社は下請けをやめた。顧客から直接請け負うようにシフトしたのである。価格競争を避け、利益を十分に確保できる。工事のクオリティの高さから、県や市など、優良工事の引き合いが強いのも同社の特徴だ。「うちに頼めば品質は絶対安心だという『松川ブランド』が構築されている。だから、さらにその上を目指すべく、『何かあったら松川に聞いてみようと思われるような仕事をしろ』と社員に発破をかけています。電気工事にかかわらず、困ったことに直面した時に、顔が思い浮かぶような存在になりなさいということです」。完璧な品質が求められるため、社員はいい意味での緊張感の中で、仕事と向き合っているといえるだろう。
 

企業にとって大切な使命は地域・社会に恩返しをすること
同社の存在意義とは何か。小澤氏は、この問いにこう答える。「企業の使命とは、社員とその家族、協力業者を永続的に幸せにすることだと思っています。そうして地域社会に受け入れられ、企業としての存在を認めていただく。その上で、社会に広く、恩をお返ししていくことだと私は考えています」。一生懸命やったのちに、他者から投げかけられる「ありがとう」という感謝の気持ちを受け取ること。これがすなわち「やりがい」であり、「働きがい」であると、小澤氏が考えていることはすでに述べた。それは、会社という組織になっても変わらない。取引先にとって最高の成果が得られるよう懸命に業務を全うすることで得られた利益を、社員や協力会社だけでなく、地域や社会に還元していくことで、感謝の気持ちを感謝で返していく。それこそが、会社の存在意義と小澤氏は捉えている。現在、同社は児童養護施設や障害者施設、外国人学校の子どもたちなどの支援にも乗り出している。会社の近くに農園を作り、さつまいもを育てているのも、子どもたちに芋掘りイベントに参加して楽しんでもらうためだ。こうした子どもたちが将来的に入社してくれること、あるいは、彼らに働ける場所を提供することを目指している。「利益を出していくことは企業としてもちろん大切なことですが、我々の取り巻いている情勢に合わせ、社会に恩返ししていくためには、みんなに必要とされる会社になること。そこを目指していくことが、最も大切な企業の使命だと思います」。小澤氏は、使命とは〝志命〟だ、と語った。使うのではなく、志す。創業50年を超えた同社の挑戦は、これから先も熱い〝志命〟に支えられていくだろう。



松川電氣株式会社
代表取締役 小澤邦比呂氏
 
Company Profile
松川電氣株式会社
所在地 静岡県浜松市東区有玉北町65-1
T E L 053-433-3222
資本金 2000 万円
設立 1973 年
従業員数 48 人
http://www.matsukawadenki.com/
 
Profile
1954 年、浜松市生まれ。1973 年に松川電氣株式会社に入社。現場施工や設計・管理部門に従事。1987年に専務取締役、2003 年に同社代表取締役に就任。社員ひとり一人の自分づくりと経営テーマである「身体・経済・心」の3つの健康を推し進め、定年制無し、生涯現役のいつまでも松川一家全員が働ける職場作りを目指している。創業50 周年を迎えた2018 年に第1 回「浜松市企業のCSR 活動(社会貢献活動)ソーシャル部門優秀賞」、同年第8 回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の審査委員会特別賞、2019 年「令和元年度高齢者雇用開発フォーラム」厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞。

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