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大転換期に採るべき人材戦略

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急激な業況悪化も人材は不足している コロナショックが社会に様々な変化を巻き起こしている。そのひとつが、人材をめぐる変化であることは間違いない。

2019年12月にはバブル期を超える水準の1・57倍だった有効求人倍率は、20年8月には1・04 倍まで急激に低下。特にパートを除く正社員の有効求人倍率は0・99倍と1倍を割り込む水準となっている。国際的にみると、日本の失業率はいまだ3・0%と、米国8・4%、ドイツ4・4%、フランス7・5%(全て20年8月)などと比べて低い水準を維持している。ただし、休業者数は216万人と高止まりしており、これは完全失業者数206万人(20年8月)と同水準の多さだ。つまり、業況が悪化するなか、大量の〝隠れ失業者〟を企業の中に抱え込んでいる状態にある。リーマンショック期との最大の違いも休業者数の多さである。リーマンショックの影響で日本国内でも休業者が増えたが、当時は09年1月の153万人が最大値で、その後は徐々に減少。09年6月には112万人とほぼリーマンショック前の水準に戻っている。一般に休業者は急激な景気悪化があった際に増える傾向があるが、リーマンショックと比較しても、コロナショックがいかに企業に急変をもたらしたかを物語っている。以上のことから、現在の人材を取り巻く状況は「企業は解雇を積極的に行わず、内部に抱え込んでいる」と整理できる。こうしたリーマンショック期と全く異なる状況がなぜ生まれたのか。その理由のひとつには、日本経済が2010年代に長く直面してきた人手不足の問題があるだろう。近年、特に15年以降、経済状況との関係で「人手不足感と景況感が乖離している」ことが指摘されてきた。14年頃以前には人員の過不足感と業況判断はほぼ連動している。これほど長い期間、人手不足と景況感が乖離したことはなかったし、その乖離傾向はコロナショック後も続いている。中小企業では、業況はマイナス31まで急激に悪化した一方、実は人員の過不足感についてはいまだ「不足」側が6ポイント多い。つまり、長きにわたった人手不足を背景として、人材に対する〝枯渇感〟はいまだ完全には癒えていない状態にある。こうした状況がDX(デジタルトランスフォーメーション)やオンライン化など産業構造の急激な変化とも合わさり、〝ある職種では人材を採用したいが、別の職種は余剰である〟という、一つの会社の中でも全く異なる人材の過不足感を生み出しているのではないか。もちろん業種による違いはあるが、日本の半数以上の企業は「うちの会社は人手が余っている」とは思っていない、というのが正確な現状である。
 
 
人材確保の〝10年ぶり〟のチャンス
それでは中小企業の人材確保はどうなっていくのだろうか。まだその全貌は明らかになってはいない。しかしコロナショック後に行われた調査からその行方を考えることはできる。技術継承、組織活性化、次代の経営幹部獲得のための「若手の採用」は近年の中小企業にとって大きなテーマの一つであり、新卒採用はその代表的手段であった。21年卒業の新卒大学生・大学院生の採用については倍率で1・53倍(リクルートワークス研究所、20年8月公表)と、有効求人倍率が1・0倍程度となっていることと比較するとまだまだ人材需要が高い状態が続いている。このうち、中小企業の新卒求人倍率は、3・40倍となっており、前年の8・62倍と比較すると格段に採用が容易な状態となっている。さらに注目すべきは、中小企業を志望する学生が増加していることである。一般に不景気になると、学生が就職先として中小企業を希望するようになる。景気が良いときは「背伸び志向」だが、悪くなると「フィット感重視」となると言えるかもしれない。事実、リーマンショック直後の11年卒採用では中小企業志望者は前年からプラス43・7%となった。そして21年卒の結果は、この増加幅をさらに上回った。プラス115・7%と極めて大きな増加幅となり、結果として前年の中小企業志望者5・2万人から11・2万人まで倍増した。これに対して中小企業の求人は前年の46・3万人から38 ・2万人へと減少している。こうした状況はある一つの重要な事実を表している。それは、「中小企業にとって、今がこの10年で最高の若手人材獲得のチャンスである」という事実である。中小企業を志望する学生は前年の倍以上、そして採用したい企業は減っている。また、大企業も採用数は抑制傾向にある。これらの事実は、優秀な若手を確保したい中小企業にとって、今年や来年が最良の環境であることを示しているのである。ここでは例として新卒採用のデータを出したが、中途採用でも同様の傾向がある。最初に示したとおり、日本の構造的人手不足はコロナショックの後でも完全に解消されておらず、景況感が戻れば早晩、現在の状況から再び人材の不足状態へと回帰する可能性が高い。つまり、期せずして訪れている人材獲得の〝チャンス〟は、実は20年代を通じても希少な機会となる可能性がある。こうした状況を見通してか、とある中堅電機メーカーでは新卒採用を前年の3倍の定員とする方針を打ち出した。また別の飲料品メーカーでは現役世代確保のため積極的な待遇改善策を打ち出している。こうした動きは、10年ぶりに訪れた〝好機〟を最大限活かそうとする、企業の方策であろう。
 
 
優秀人材確保のために自社を〝小さく変える〟
では、人材確保のためのポイントはどう変わったのであろうか。ポイントは2つある。1つ目は急速に進んだ「テレワークを中心とした多様な働き方」の問題、もう1つは「優秀な人材はいきなり転職しない」という点である。順に説明しよう。まず1点目のテレワークがコロナショック後に急速に進んだことは周知の通りだ。緊急事態宣言下におけるテレワーク時間は平均1週間に8・0時間であった。これは19年12 月時点の0・7時間から11倍以上の水準である(リクルートワークス研究所、2020)。この動きの中、新卒・転職市場においても大きな変化があった。テレワーク、在宅勤務が可能な仕事に注目が集まったのだ。主要な求人サイトでは検索ワードランキングを発表しており、こちらを見ると、直近のランキング内には「在宅勤務」「在宅ワーク」「テレワーク」といった検索語が複数入っていることがわかる。また、派遣社員においてもテレワーク時間が19年12月時点の週0・1時間から緊急事態宣言下では7・6時間へと急激に拡大したことからもわかるように、非正規職でもこの傾向は同様である。これまでITエンジニアなど一部の専門性の高い職種に限定されていたテレワークは、今テレワークしている労働者にとっては「当たり前」に、今できていない労働者にとっては「自分もできるかもしれない働き方」になった。もちろん、緊急事態宣言解除後もテレワークが推奨されている労働者は全体の15・4%と少数派となっている(図表1)。

しかし、ウエブ会議が積極的に導入されている労働者も14・8%、時差通勤が推奨されている労働者も12・7%と、コロナ対策とDXが合わさり、多様な働き方が根づきつつあることがわかる。こうした動きが労働者の企業選びに大きな影響を与えている。ただ、いきなりのテレワーク導入はハードルが高いと考えている中小企業も少なくない。比較的大手企業が多い都市部ではテレワークが推奨されている労働者は21・5%であるが、中小企業が多い地方部では半分以下の10・1%であることからも、テレワーク導入のための準備も人員も設備も足りていない状況が浮き彫りになる。そうした中小企業に推奨したいのが、導入できるものから実施する、という方向性である。コロナ対策やDXが求められるとは言え、いきなりテレワーク導入は諸コストがかさみすぎる。そうした場合には、まず外部とのミーティングをウエブ会議にしてみたり、「会社のどこにいても仕事ができる」という〝社内テレワーク〟を導入してみたり、といったところから開始するのはいかがだろうか。大きな投資や長い準備期間を設けずにできることから始めていく手法は、環境変化の激しいこれからの時代に適合すると言われ、「リーン・スタートアップ」(最低限のコストと短いサイクルで試し・検証する過程を何回も繰り返して、大きなニーズを探り当てていく経営手法)と呼称される。働きやすい職場を作るための社内環境整備についても、この発想が重要となる。事実として、地方部ではテレワーク実施率(10・1%)よりも、導入が容易であるウエブ会議の普及率(12・9%)の方が高く、先駆的企業は「できることから始めている」ことがわかる。
 
 
加速する新しい人材移動
さて、環境の整備に動き出したら、更に検討したいのはこの機に乗じた優秀人材確保策である。そこで出てくるいまひとつのポイントは、「優秀な人材ほど現職を辞めにくい」という当たり前の事実をどう変えていくかということだ。これまで、日本の労働者はある会社から別の会社への「転職」によって所属を変えてきた。しかしコロナショックにより、大企業の優秀な人材への囲い込みが一層加速する中、優秀層に中小企業がアプローチすることは容易ではない。「転職を決めた労働者が、所属する会社に退職意向を伝えた直後、猛烈な退職引き止め(待遇改善、ポストの提示など)にあい、結果として転職をやめた」、という話を聞くことがコロナショック後に著しく増加している。こうした中、待遇面や知名度などで大手には劣る中小企業が自社への転職を促すための最大の武器は、「自社の魅力を深く知ってもらう」ことである。このために最良の方策はずばり、「一緒に働くこと」だ。一緒に働くことで、自社のホームページやパンフレット以上にたくさんの情報を伝えることができる。〝百聞は一見に如かず〟である。ただ、転職前に一緒に働くことなんてできるのか、と思われるかもしれないが、近年の労働情勢の変化はそれを可能にしている。つまり副業受け入れである。副業等を経た転職については様々な良い効果があるとされる。特に、転職後の仕事での活躍ぶりの差は顕著である(図表2)。

副業等を経て転職をした労働者の方が、転職後に活躍できる可能性が高い。例えば、「仕事をしていると、つい夢中になってしまった」は副業等を経た場合は45・5%と通常の転職(35・7%)より10%ポイントも高い。他の、仕事での成長や満足度、職場との関係性などに関するすべての項目で、副業等を経験した転職者の方が高い結果となっている。ここ数年、国(経済産業省)が主催して、地方の中小企業と大手企業に勤務する若手の副業・兼業マッチング支援が実施されている。例えば、中部地方では18年から「新しい働き方会議」と題し、毎年20社前後の中小企業に対して、100名以上の「中小企業での副業に関心がある大手企業等の若手」が集まり、どの会社で副業・兼業を実施したいかを検討し応募するイベントが実施されている。本年9月にもオンラインで実施され、各中小企業において副業・兼業者と協働した新規プロジェクトがスタートしている。こうした動きは、コロナショック後の新しい人材の動きを象徴している。つまり、テレワークが急激に広まり、オンラインで仕事が可能となったなかで、通勤・移動時間などが圧縮され、社外・業務外の活動も実施しやすくなった。こうした中、優秀な人材ほど、自身のキャリアを積極的に作るために様々な場でアクションを起こしている。「面接だけで転職」という個人にとっても企業にとってもハイリスクな選択にいきなり飛び込むのではなく、小さなステップを経てキャリアチェンジしていくのである。変化の時代に「何もしない」が最適解となることはなく、「一気に変わる」も大きなリスクを背負わざるを得ない。激動の時代だからこそ、自社が今無理なくできることを、小さく始める、小さく変える。コロナショックという環境変化に適応し、企業の人材戦略も〝進化〟していくことが求められている。

リクルートワークス研究所 
研究員古屋 星斗 氏

Profile
2011年一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻(教育社会学)修了。同年、経済産業省入省。産業人材政策、官民ファンド立ち上げ、福島復興、「成長戦略」の立案に従事。その後退職し現職。労働市場・採用に関する分析や、若手社会人の就業行動の変化を研究している。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

Company Profile
リクルートワークス研究所
https://www.works-i.com

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