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“会社のおくりびと”が語る廃業基準で考える承継

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今、中小企業の廃業が増えている。「社長が高齢にもかかわらず、後継者が決まっていない」“廃業予備軍”は、日本の中小企業の約3分の1にあたる127万社あるという。日本は大廃業時代に突入しつつあり、コロナ禍によって、その動きは加速している。会社を誰かに引継ぐのか、それとも自分の代で終わらせるのか――。会社の行く末に悩むなら、一度「廃業したらどうなるか?」という基準で考えてみるのもいいだろう。 事業承継や廃業など、社長が辞める際に起きる様々な事柄をサポートする“会社のおくりびと”こと事業承継デザイナーの奥村聡氏に、廃業視点を持つことのメリットと、廃業の考え方について伺った。

最悪を避けるために廃業を基準に考えよう
2020年、新型コロナウイルスが猛威をふるい、その災いは大小様々な企業に大きな変化をもたらした。
「稼げないし後継者もいない。
会社をたたみたいが、何をすればいいかわからない」「会社を売りたいが、値段が折り合わず困っている」「兄弟どちらを社長にすべきか迷っている」「従業員を社長にしたいが、話の進め方がわからない」……。司法書士の資格を持ち、事業承継や廃業など、様々な会社の「終わり」に寄り添い、支援を続けている、事業承継デザイナー・奥村聡氏のもとには、中小企業の社長や後継者から、様々な相談が寄せられる。
どんなに立派な社長でも、いつか社長を辞める日がやってくる。その時、子や親戚、従業員など、後継者がいれば、後継者へ承継する。いなければM&Aで誰かに継いでもらうか、社長を辞めると同時に会社も終わりにすることになる(図表1)。
「話をしてみて『すぐに廃業したほうがいい』となることもあれば、『廃業したいので手伝って欲しい』と言われて関わった結果、最終的にM&Aで会社を存続させることになる場合もあります。ただ、全ての人にお伝えしたいのは、まず、廃業を基準として会社の終わり方を考えたほうがいいということです」。
社会の変革のスピードが増し、めまぐるしく情勢が変わっている現在、会社のライフサイクルは速くなっている。会社が消滅するケースも増えており、それは何ら特別なことではない。だからこそ、事業承継を考えた時、その基軸を「廃業」に置いたほうがいいという。
「廃業は、『自らの意志で撤退する』姿勢です。子や親族、従業員が社長を継ぐ場合も、M&Aによって第三者が承継する場合も、事業承継には相手が必要です。相手がいる限り、自分だけの考えで話を進めることはできません。対して廃業は、自分だけで確実に実現できる終わり方です。だからこそ、戦略の軸にすることができるのです」。


何もしなかったらどうなるか
飛行機で例えるならば、未来を見据えてあえて着地することが廃業だ。一方、無理に飛び続けようとして墜落してしまうのが倒産だと言える。
「会社を継続させようと無理をし、うまくいかずに倒産すれば、取引先や従業員、顧客等に多大な損害を与えます。逆に、着地の仕方を自分でコントロールできれば、与える損害を軽減、回避することができます」。
後継者がいない場合、承継先を探すか廃業かの選択について「いずれは考えるけど、今はまだ決断できない。もう少し環境がよくなれば、後継者になりたい人も出てくるかもしれない」と先送りしてしまう場合も多い。
「でも、そうした“先延ばし”は、倒産への道を自ら進んでいるようなものです」。
現在の日本において、今以上に経済が成長する時代が来ることは考え難い。問題を先延ばしにしたところで、状況を改善できる要素は少ないのだ。さらに、決断を先にすればするほど、会社の活気は失われていく。
社長が高齢になれば、廃業を見据えた着地の必要性が迫ってくることから、将来への投資もためらわれる。新工場をつくりたくても、投資資金の回収期間を考えれば、融資の判断は難しくなる。最終的な着地点が見えていない状況では、新しいことへの着手は難しく、会社の活力は低下していくばかりなのだ。従業員も次第にそうした雰囲気を感じ、「この会社に未来はない」と考えがちだ。そうなれば、若い社員ほど辞めていく。
着地問題を先延ばしにした先に待っているのは、社長の死や倒産で会社が終わってしまう結末だ。そうした「強制退場」を避けるためにも、「廃業」というリセットボタンを手元に用意したうえで、親族への承継やM&Aという道を探るほうがいい。仮にうまくいかなかった場合でも、「駄目なら廃業」という落としどころがあることで、焦って無謀な投資をして赤字を膨らませたり、M&Aに過度な期待を寄せたりせず、冷静に今後を見極めることができるからだ。


精算価値が会社の本当の価値
では、具体的に自社がどういう状態か、着地失敗危険度チェックリスト(図表2)で確認し、廃業したらどうなるかをシミュレーションしてみよう。
廃業の際は、資産を売却してお金をつくり、そのお金で負債を返済する。廃業視点では、資産から負債を引いた数値である「清算価値」を、会社の真の価値としてみなす。
「事業承継を考える時は、この清算価値を意識して臨んでほしいと思います」。
清算価値を意識しておけば、自社の実力を見誤った無謀な積極策を取ることはなくなる。流れが悪くなった時の撤退のタイミングもわかるはずだ。
清算価値を出すためには、まず、決算書を現実に基づいた数字に修正する必要がある。未回収の売掛金や何十年も前の古い在庫、取得している土地の価格の増減など、決算書と実態が乖離しているケースが多いからだ。修正は、自社の賃借対照表を「売却する際にどうなるか」という視点で修正する。
資産があっても売却できない
ならば、評価は0円だ。債権は、実際に回収できる金額に修正、不動産は世間相場で見積もりをしなおす。また、賃借対照表には載っていないが、会社で使っている社長個人名義の不動産などは、資産に追加する。
次に負債。廃業時には、賃借対照表には載っていない費用が発生する。従業員に支払う退職金や、店舗を解約する際の撤去費用などだ。これらを負債に追加し、リース解約の際に請求される金額も入れる。さらに社長からの借り入れ分については控除する。こうして出た負債を、先ほど計算し直した資産から引いた金額が“清算価値”だ。
図表3は、決算書を修正し、再評価した場合のモデルケースだ。A社の場合、決算書上の資産は6000万円、負債は4500万円あった。資産のうち、3000万円は不動産だ。この数字を再評価すると、不動産は値上がりしており3300万円で売却できることがわかった。また、負債については、従業員の退職金600万円がプラスされる。こうしてA社の資産は6300万円、負債は5100万円となり、A社の精算価値は、1200万円となった。
この、清算価値に再評価した数字が、廃業の際に手元に残るお金だ。結果がマイナスの場合、借金が残ることを意味する。
「大幅なマイナスになる場合もありますが、どのような数字であれ、これが会社の本当の姿です。この数字と向き合い、現実を見据える必要があります」。



できることとできないことを切り分ける
次に、本当の意味で利益が出ているかを確認するため、損益計算書の洗い直しを行う。赤字を回避するために、役員報酬が極端に低くないか、交際費や旅費などが適切に反映されているか、また、家賃や地代が経費に入っているかも確認する。
「自社が保有する物件で営業している場合、家賃を払わない分利益が増えます。でもそれだと、本質的に利益が出ているかどうかわからなくなるため、家賃を支払っていない場合は、仮の家賃を経費に追加します」。
損益計算書を修正すると、本当の意味で利益が出ているかどうかが確認できる。
適正な資産状況と収益状況がわかったところで、自社の立ち位置を確かめてみよう。図表4は、資産状況と収益状況の結果を4つのゾーンに分けたものだ。まず横軸は、廃業した際に残る金額の多寡。中心をゼロとし、右側は廃業の際にお金が残り、左側はマイナスになる。縦軸は利益だ。上は利益が出ている、下にいくほど利益が出ていない。この表に、先ほどの廃業を基準に修正した資産状況と収益状況を当てはめる。
「会社がどのゾーンに入っているかによって、取るべき戦略が変わってきます」。
利益が出ていて廃業したらお金が残る「横綱相撲ゾーン」であれば、選択肢は広い。後継者候補がいない場合でも、社内に社長をやりたい人がいるかもしれない。身近にいなければ、売り先を探すこともできる。もちろん、最終手段として廃業を選ぶことも可能だ。
また、利益が出ていて廃業したら借金が残る「時間が味方ゾーン」の場合、利益が出ている事業は、たとえ負債が多くても「事業を残す」という選択肢が考えられる。利益が出ているということは、その事業に価値があるといえるからだ。その場合、必要に応じて負債の支払いをコントロールしたり、借金と事業を切り分け、黒字の事業や店舗だけを第三者に買い取ってもらったりということも可能だろう。利益が出ていれば、たとえ借金が大きくても事業を残すことはできるのだ。
逆に、利益が出ていないのであれば、廃業をリアルに捉える必要がある。特に借金はないけれども利益が出ていない「逃げるが勝ちゾーン」では、廃業を主眼に、早めに着地を考えたほうがいいかもしれない。利益が出ていないとなれば、手元にあるお金は減る一方だからだ。
「たとえ借金を減らしても、今やっている事業で利益が出ていなければ、その場しのぎの延命にしかなりません。
自走することができなければ、いずれ力つき、倒れてしまうからです」。さらに利益が出ておらず、借金が残る「墜落回避ゾーン」も、待っていれば倒産しかない。自主的にピリオドを打つことで、少しでも良い状態で不時着させる必要がある。



撤退ルールは早いうちに
「たとえ資産があって利益が出ている『横綱相撲ゾーン』でも、廃業までを視野に入れた上で着地戦略を練ることを勧めています」。
なぜならば、人は順調な時ほど欲が出て、引き際を見誤りやすくなるからだ。
例えばM&Aを考えた時、最初に「高ければ3億円で売ることもできるかもしれない」と言われると、自社の価値は「3億円以上ある」と、3億円を最低基準にしてしまいがちだ。冷静に考えれば、想定される最高の金額というだけで、そこを基準とすれば金額に折り合いがつかなくなってしまう可能性が高いことはわかる。だが、いざ高い評価金額を聞いてしまうと、その価格にばかり意識が行き、自社の価値を過大評価してしまう傾向にあるのだ。
逆に危機的状況に陥った場合も、人は冷静な判断ができなくなる。大幅な赤字を回避しようとして無謀な賭けに出たり、普段なら乗らない甘い誘いに乗り、取り返しがつかない失敗をしてしまったりするのだ。だからこそ、あらかじめ撤退条件を決めておくことに意味がある。
例えば、「70歳で社長を辞めると決めて事業承継をすすめ、もし68歳になっても承継先が決まっていなければ廃業する」「3期赤字が続いたら会社を手放す」など、撤退条件を定めておくといい。これはM&Aに挑戦した場合も同様だ。M&Aにかける費用上限と期日を決めておき、いずれかが過ぎてしまった場合、潔くあきらめる。撤退ラインをきちんと引いておくことで、資金が底をつくことを防ぐのだ。


廃業のタイミングは社長の腹が決まった時
廃業は、いつどのタイミングで決めればいいのだろうか。
「まずは自社の立ち位置をしっかりと把握することです。今現在赤字で、資産よりも借金が多いとなれば、一刻の猶予もなく廃業したほうがいい場合もあります。自社の状況が即廃業なのか、事業を続けながら後継者を育てる時間があるのか、はたまたM&A先を探すのか……。4つのゾーンのどこにいるかを確認し、その上でどうするかを決めてもらいたいと思います」。
廃業には「これがベストタイミング」というものはない。ただ一つ言えるとしたら、「利益が出ていなければ廃業」が原則ということだ。そしてその場合、決断は早いほうがいい。とはいえ、取引先も従業員もいる会社をたたむ場合、様々な軋轢も生まれるだろう。なかなか思い切れない場合も多い。
「『時間が味方ゾーン』、『墜落回避ゾーン』であるならば、『利益が出ていないなら廃業』という原則を理解したうえで、どこまでチャレンジするかを社長自身が決めます。社長の覚悟が決まった時が廃業のタイミングだからです」。
仮に1年ほど様子を見ることができる資金があるならば、M&Aにチャレンジすることもできる。もちろん、期限はきちんと切っておくことが重要だ。


廃業の手順を知っておこう
廃業する場合、どのような手順を踏めばいいのだろう。
社長にとっての廃業は、業務の終了だけでなく、会社としての「関わり合いの解消」でもある。単に資産負債を清算するだけではないことから、業務終了と資産負債の精算は分けて考えたほうが整理しやすい。廃業までの大まかなロードマップを図表5に記した。
最初に「事業廃止日」、つまり、その日で仕事をしなくなる日を決める。在庫や仕事の量、決算時期、手元の現金量などを考慮して事業廃止日を決め、この日を基点に逆算し、従業員や顧客にその旨を伝える日や受注最終日等を決めていく。
「事業廃止日は仕事に合わせるのではなく、先に決めます。そこに合わせて仕事量や経費をコントロールするんです。『この仕事が終わったら』と仕事に合わせて決めようとすれば、結局ずるずると続けてしまい、赤字を拡大させてしまう可能性があるからです」。
また、自社の仕事を引き継いでもらえるよう、同業他社に打診する場合もある。近隣の同業他社に事前に引き継ぎを依頼できれば、取引先の不安を解消できる。場合によっては、そこが従業員の受け入れ先になってくれる可能性もあるのだ。
事業廃止日が決まり、事業の引継ぎ先もおよそ決まったところで、従業員への説明を行う。
説明は、取引先よりも先に行うほうがいい。もし取引先などから先に聞いてしまえば、従業員に不信感を抱かれてしまうこともある。銀行や取引先よりも先に従業員に伝え、納得して退職してもらうことを目指したい。
さらに、従業員への伝え方は重要だ。
「従業員には、これからの話をする前に『倒産した場合どうなるか』という、最も悪い事態に陥った場合について話をします。そのうえで、現在選択できる最善の手立ては何か、退職金や手当について考えていることを示すのです。会社がなくなるということは、従業員にとっても生活が激変する一大事です。
冷静に話を聞けない場合もあるでしょう。だからこそ、一番悪いところをスタート地点に置き、会社の終わりに向けて、協力してもらえるようにするのです」。
今後の方針を従業員に伝えた後、顧客や取引先へ連絡を行う。
事業廃止日直前は、駆け込み受注が増えるが、そこでは「見積もりの価格を下げない」ように注意する。これまでは、売り上げをつくるために無理な値下げに応じていたことがあったかもしれない。だが、最後の局面で、適正な利益が出ない値下げに応じる必要はない。
事業廃止日を迎えた後は、会社が持つ資産などの処分を行う。その後、税務関係の届け出を出し、すべて終了だ。
「今、中小企業の着地のスタンダードは“廃業”です。まず、『会社は誰かに継がせるべきもの』という過去の常識は捨ててください。この事実を受け入れることで、『社長の終わり』に対する準備が、まったく変わってくると思います」。
どの道を選んだほうがよかったか︱︱。それは後になってみないとわからない。だからこそ、「自分はどうしたいのか」をつきつめて考え、一番納得のいく終わり方を選択したい。そうすることで、結果的に社長の上手な終わり方をデザインできることだろう。




事業承継デザイナー/司法書士
奥村 聡氏

Profile
1975 年生まれ。自らが立ち上げた地域最大の司法書士事務所を2009 年に譲渡し「社長の終わり」に寄り添うコンサルティング業務を開始。後継者不在や社長の死亡、財務状況の悪化など、これまで存続の危機にある中小企業700 社以上を支援してきた。
著書に『今ある会社をリノベーションして起業する~小商い“ 実践” のすすめ』( ビジパブ)や『社長、会社を継がせますか? 廃業しますか?』(翔泳社)がある。
https://www.office-okumura.jp/

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