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~全国展開への足がかりに~ より多くの人に歩くことの幸せを提供したい

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1980 年創業のマイスター靴工房KAJIYAは、病気などにより足が変形してしまったり、両足の長さが違っていたりなどで、一般の靴では歩くことが難しい人専用の整形外科靴や義肢装具をつくっている。そんな同社は、2019 年7 月、神戸で健康靴やインソールの販売を行っていた店舗を引き継ぎ、支店としてオープンさせた。現在、東京と神戸、二つの拠点を中心に事業を拡大。整形外科靴やインソールを必要としている人に「立てる、歩ける」喜びを提供している。

ニーズに応えたい想いで事業拡大を模索
足の親指が人差し指の方向へ曲がり、指の付け根が外側へ飛び出るように変形する外反母趾は、ひどくなれば、素足でも痛みを感じ、歩行が困難になるケースもある。また、脳性麻痺などの先天性の疾患や、リウマチや糖尿病が進行することで、足が変形し、歩くこともままならない人がいる。マイスター靴工房KAJIYAは、そうした足にまつわる疾患を抱える人に、医療用整形外科靴や義肢装具を製作・販売している。
代表の中井要介氏は、義肢装具の専門学校を卒業後、同社の前身、梶屋製作所に入社。そこで3年間修行を積み、整形外科靴マイスターを取得するためにドイツに留学。日本で、義肢装具士と整形外科靴マイスター、二つの資格を持つのは、中井氏のみだという。帰国後、師匠である当時の梶屋製作所の社長、梶屋正吉氏に、「またウチでやらないか」と声をかけられ、再度、梶屋製作所に入社。
2016年、高齢により社長退任を決めた梶屋氏から同社を引継いだという。
中井氏は、靴づくりの傍ら、自身がドイツで学んだ技術を承継しようと、少しずつ若手を採用。人を増やすと同時に仕事の量も増やすという好循環で、徐々に規模を大きくしていった。「現在の社員数は、20人ほど。整形外科靴の製作を学べる専門店としては、比較的大きい方ですが、需要を考えたらまだ足りません。もっと大きくしていく方法を模索していました」。
そんな時、学会の懇親会で以前から知り合いだった承継元のオーナー、エドワルド・ヘルプト氏と再会した。ヘルプト氏は、神戸でドイツから靴などの素材の輸入販売を行う傍ら、整形外科靴を販売する路面店を運営していた。輸入販売の仕事は順調だったが、店の方は、需要はあるものの利益につながらない事業となっていた。
「近況を聞くと、店に関しては、経費ばかりがかさむため、閉めようと思っているという話でした。それを聞いて、『もったいないな』と思ったんです。うちは、まさに路面店をやりたいと考えていたところでしたから」。
オーダーメイドの整形外科靴をつくるには、高い技術が必要とされる
 

広々とした工房で若手職人が技術を磨くべく日々研鑽を重ねている

足の疾患だと気づいていない潜在顧客にもリーチ
足にトラブルを抱えていても少し我慢すれば歩けるとなれば、「靴が合わないのだろう」「体重が増えたから」と、日々やり過ごしている人は多い。だが、そういう人でも、靴を履いて足が痛くなれば、足に合う靴を求めて靴屋に行くことはある。
「『靴が合わない』と店に来た人の中には、重度の外反母趾など、通院すべき疾患を抱えているのに気づいていない人もいます。そういう人たちに対しては、ウチから病院を紹介することもあるんです」。
病院に行くのは心理的なハードルが高いが、靴屋であれば相談に行ける。中井氏は、足が痛いと感じている人が気軽に相談できる窓口として、工房以外にも靴を販売する路面店が欲しいと考えていた。
さらに、同社の噂を聞きつけて遠方からわざわざ来る人たちが増えたこともあり、本社とは違う地域に新たな拠点を持ちたいという思いもあった。ヘルプト氏の店は神戸にある。中井氏が店舗を出したいと思っていた条件にぴったりだった。
だが、たとえ承継元の店舗が中井氏の希望に添っていたとしても、東京の工房から神戸に行き、中心になって働いてくれる人材がいなければ、話を進めることはできない。
「『神戸に行きたい』とスタッフが声を上げてくれたことで、初めて、今回の事業承継が可能になりました」。
店長として赴任する従業員が決まると、そこからはとんとん拍子に話が進んだ。店は、3、4人が作業できる広さがあり、靴の製作ができる工房がショップを兼ねた形となっている。東京の工房のように、重度の足の疾患を持つ人が病院からの紹介で来るだけでなく、足の痛みが気になっている人が、誰でも入店しやすい雰囲気を心がけた。
自覚がなく疾患が進行している人の最初の相談窓口となるようにしたのだ。こうして、神戸の路面店を引継ぐことで、通院はしていないが足のトラブルを抱えているという潜在顧客にも、これまで以上に対応できるようになった。

病院に行くまでもないと思っているけれど、足にトラブルを抱えた人が気軽に相談できる店をつくった

今回の事業承継によって店舗を引き継ぎ、2019 年10 月にオープンさせた神戸支店

自分で調べて詳しい人に訊く
ものづくり補助金や小規模事業持続化補助金など、中小企業を対象とした支援施策はさまざまだ。中井氏は、これまでも自社に合うものを自分で探し、活用してきた。人を増やし仕事を増やす好循環は、こうした支援制度があってこそ実現できた。
今回も、自ら調べたなかで、事業承継補助金に行き着いた。
「第三者承継が、今回の店舗の引継ぎに当てはまりそうだと知り、商工会に詳細を聞いてみたんです。そこで多摩地域の事業承継を支援している支援機関を紹介してもらいました」。
今はインターネットで何でも調べることができる。だがそうして得た情報は、上澄みだけのことが多い。
「ある程度自分で調べたうえで、より詳しい人を見つけ、教えてもらうことにしています。
自分の力だけでやろうとするとできないことでも、協力してくれる人を探し、頼ることでうまくいくことが多いんです」。
神戸の店は、同じような仕事をしてはいたものの、形態が違っていた。そのため、新たに導入すべき機材が多く、補助金の大半は導入費用に充てた。
「整形外科靴では、足を正確に計測することがとても重要です。そのために必要な機材は専門的なものが多く、ドイツから取り寄せた計測器は1台で200万円ほどするものもあるんです。そうした機材や靴をつくるための道具などを購入しました」。
また、病院とのつきあいも多い仕事だ。取引会社が変わることで、もともと取り引きがあった病院や顧客に不安に思われることは避けたかった。そこで、顧客からの信頼を失わないためにも、元のオーナーであるヘルプト氏には、1年間、アドバイザーとして病院への同行や顧客の引継ぎなどを行ってもらうことになった。そのアドバイザー費用の一部も補助金から出した。
コロナ禍で、一時は止まってしまっていたが、病院からの紹介で店を訪れる人や、逆に飛び込みで店に来てくれた人に病院を紹介するなど、徐々に医療機関との連携も生まれてきている。今後は、さらに神戸地域での提携病院を増やしていく予定だ。


こんな時代だからこそできることがある
「今回の事業承継の良し悪しを振り返ることで、次の出店に関しても戦略が立てやすくなりました。今後も、いいタイミングで事業承継可能な店舗などがあれば、検討していきたいと思っています」。
神戸の店が軌道に乗れば、さらに店舗を増やすことを視野に入れているという中井氏。いずれ全国の主要都市に店をつくり、もっと手軽に整形外科靴がつくれるようにしたいと考えている。
また、靴メーカーとの協業で、デザイン性と足の健康を兼ね備えた靴をつくりたいという構想もある。
「足の歩行や病気に関する知識については、大手靴メーカーよりもウチの方が持っています。
でもウチで靴を量産することはできません。不足している部分を補い合うことで、デザイン性と足の健康が両立できる靴を多くの人に届けられるような形ができないかと模索中です」。
今、コロナ禍で、多くの中小企業が苦境に陥っている。
「確かに厳しいです。でも逆に今がチャンスだという気もしているんです。コロナ禍で落ち込んだ売り上げを戻すことは大変ですが、今だからこそ、新しいことにチャレンジしやすい環境でもある。今が踏ん張り時だし、ここでなんとか踏ん張ればきっとこの苦境はチャンスに変わると思うんです」。
ピンチはチャンスでもあると中井氏は言う。
これまで、靴を履くと痛くて歩けなかった人が、同社の靴で歩けるようになった、立てなかった人が自力で立つことができるようになったなど、靴によって生活の質が向上した例を多く見てきた。「歩く」ことは「生きる」ことだ。生きることを楽しめる靴を、より多くの人に提供していきたいと強く思っているという。中井氏の更なるチャレンジは続いていく。



株式会社マイスター靴工房KAJIYA
代表取締役社長中井 要介氏
Profile
1980 年北海道生まれ。義肢装具の専門学校を卒業後、2002 年、マイスター工房KAJIYAの前身である梶屋製作所に入社。三年間修行を積み、ドイツへ留学。13年、整形外科靴マイスターを取得し、帰国。再度、梶屋谷製作所に入社。16 年6 月、代表取締役に就任、名称をマイスター靴工房KAJIYA に変更。19 年、第三者承継により、神戸に支店を開設。コロナ禍に負けず、靴を必要としている人に届けようと、邁進している。
 
Company Profile
株式会社マイスター靴工房KAJIYA
所在地  東京都東久留米市柳窪3-2-37
T E L   042-479-4141
資本金  300 万円
従業員数 20 名
https://kutsu-kajiya.com/

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