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新時代で変わる 地方創生と中小企業経営

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コロナ禍によって日本経済は猛烈かつ急速な縮小を経験した。

コロナ禍が日本経済を直撃

コロナ禍によって日本経済は猛烈かつ急速な縮小を経験した。日本経済に与えた影響を時系列で振り返ると、2020年2月に開始された入国規制でインバウンド需要が減少し、中国における工場の操業停止でサプライチェーンが混乱した。
3月以降は欧米主要国のロックダウン措置等による当該地域への輸出が大幅に減少し、緊急事態宣言を受けた国内経済活動の自粛で内需が急減した。
業種別に見ると、製造業では自動車、一般機械、鉄鋼、非製造業では小売、運輸、宿泊、飲食サービス、娯楽を中心に業況が悪化した。他方、在宅勤務用のPCや液晶パネル需要を受けた情報通信や電子部品・デバイス工業のほか、ソフトウェア、金融、通信、福祉などの業種は業況が堅調であった。このように、コロナ禍による影響は業種ごとに異なる。
企業の景況感を把握するための代表的な指標である日銀短観を見ると、6月の全規模全産業の業況判断DI※は▲31%ポイントと、コロナ禍前の19年12月から35%ポイント低下した。中小企業の業況判断DIは▲33%ポイントとなり、12月対比では34%ポイント低下した。
いずれもリーマン・ショック直後以来の水準まで悪化した。
他方、先行きの業況については、大企業と中小企業で方向感が分かれた。大企業は▲27%ポイント(今回差+7%ポイント)と回復を見込んでいるのに対し、中小企業では▲38%ポイント(今回差▲5%ポイント)とさらなる悪化が見込まれている。手元流動性が比較的少ない中小企業では、先行きに対して大企業よりも慎重な姿勢を示している。次に、企業金融関連の指標を見ると、資金繰り判断DIは6月に急落した(図表1)。全規模全産業は12月の16%ポイントから6月に3%ポイントまでプラス幅が縮小し、中小企業も11%ポイントから▲1%ポイントとマイナス圏へ転落した。業種別に見ると、製造業では国内外における需要の減少を受け、工場の操業を停止していた自動車の悪化が目立つ。非製造業では緊急事態宣言を受けた経済活動の自粛の影響を強く受け、宿泊・飲食サービスや対個人サービス、運輸・郵便の資金繰りが大幅に悪化した。
他方、金融機関の貸出態度判断DIは、経済産業省が実施した「セーフティネット保証4号・5号」をはじめ、さまざまな資金繰り支援策によって6月時点では明確な悪化は確認されない。金融資本市場は3月に一時動揺したものの、本稿執筆時点(7月末)においては落ち着きを取り戻している。政府・日本銀行による大規模な政策対応により、リーマン・ショック時のような金融危機は、今のところ回避されている。


地方創生に追い風となるか
コロナ禍は上述の通り日本経済に深刻な打撃を与えたが、長期的に見れば、東京一極集中の是正や地方創生の追い風となる可能性を秘めている。
コロナ禍によって社会生活は一変した。多くの企業では、テレワークの推奨やウエブ会議の導入など、これまでの働き方やBCP(事業継続計画)を見つめ直すきっかけとなった。また、学校においてもオンラインで授業が行われるなど、あらゆる面でデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の波が押し寄せている。
DXとは04年にスウェーデンのウメオ大学のストルターマン教授が提唱した言葉であり、「ITの浸透があらゆる面で人々の生活を良い方向へ変化させる」と定義している。ITによるデジタル化はそれ以前から取り組まれていたが、DXではデジタル化を介して社会生活を豊かにするという側面にとりわけ重きが置かれている。日本でも経済産業省が「DX推進ガイドライン」を作成するなど推進を図ってきたが、企業や社会になかなか浸透してこなかった。
しかし、新型コロナウイルスの発生によって、DXは感染拡大防止を図りながら、企業や社会の生産性やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を改善させる方法として注目されている。テレワークが普及すれば、これまでの通勤時間を有効活用できる。幅広い業務がデジタル化され、一般事務など多くの定例業務が自動化されることも想定される。また、居住地域についても都市部よりも地価が安くて広い郊外に移り、自然に囲まれながら都市部の業務をリモートで行う人も現れるだろう。
かつて日本では、大平内閣時代に田園都市構想が打ち出されていたが、残念ながら実現には至らなかった。コロナ禍を契機に、職住分離型のデジタル化田園都市構想が広まるかもしれない。
振り返ると、地震や台風などの自然災害に見舞われる度、テレワークやBCPは議論されてきた。だが都市部に人材が集積するメリットを上回ることができず、本格的導入には至らなかった。コロナ禍は、これまでの自然災害とは異なり、多くの従業員が出社することのリスクを浮き彫りにした。感染拡大が長期化する可能性が高まる中、今回こそはテレワークの定着が期待される。


四つの潮流の変化
筆者はコロナ禍収束後の構造変化として、上述の働き方の変化に加えて、人・もの・カネの流れが変わると考えている。



まず「人」については、これまで就学・就業のタイミングで東京圏へ転入する若者が多かったが、アフターコロナの日本社会ではこの流れが変わる可能性がある。図表2は、地方から東京圏への年齢階級別の転入超過数の推移を示したものだ。転入超過数が最も多いのは20〜24歳。次いで、近年は25〜29歳、15〜19歳と若年層が多い。
こうした若年層の東京圏への人口流入は短期的には社会増減によって、また長期的には自然増減によっても一極集中を招いてきた。例えば、若い時に地方圏から東京圏へ移住した人が子供を持つと、その子にとって関わりの薄い地方圏に戻る動機が次第になくなる。こうした動きが広がれば、東京一極集中の解消は一層難しくなるだろう。若年層の転入超過の是正は地方創生にとって喫緊の課題である。
しかしコロナ禍によって、大学の授業や就職活動のオンライン化、さらには企業のテレワークや拠点分散が進めば、就学・就業のタイミングで、東京圏へ転入する必要性が小さくなる可能性がある。会社も、ウエブ面接によって採用活動の場を広げれば、これまで接する機会の少なかった学生と接点を持てるようになる。
現時点では、授業を完全オンライン化する大学や、テレワークのみの働き方を導入する企業は少ないものの、情報技術の進歩により、対面でのコミュニケーションなどと遜色ない段階まで生産性が改善すれば、上述のような動きも増加するだろう。次に「もの」については、サプライチェーンの再構築が行われる可能性がある。コロナ禍は日本企業の中国依存度の高さが大きなリスクとなることを浮き彫りにした。こうした中、アフターコロナでは新興国などチャイナプラスワンへの分散や国内回帰の動きが想定される。
また、外出自粛によってEC(電子商取引)の利用は一層拡大した。JCB消費NOWによると、緊急事態宣言が発出された4月以降、ECの消費額は大幅に増加している。5月前半のEC消費額は4月からさらに加速し、前年比で20%を上回る伸びを示した。緊急事態宣言が解除された5月下旬は伸びが鈍化したものの、前年比で10%を上回っている。外出自粛によって多くの人が実店舗からネットに購入先をシフトさせたことで、その利便性に気づき、継続してECを利用している様子がうかがえる。
最後に「カネ」については、「人」の流れに繋がることでもあるが、地方から首都圏への資金流出が抑制される可能性がある。
25年には1947〜49年生まれの「団塊世代」が全員75歳以上の後期高齢者となるなど高齢化が進展し、徐々に相続の機会が増えることが予想される。家計の資産保有は高齢者に偏在しており、その資産を将来相続する人が地方から東京圏へ移動すれば、相続の際に資産が地方から東京圏へ流出しやすい。資産構成を見ると、大都市圏では実物の資産比率が高いのに対し、地方圏では現預金や株式など流動資産の比率が高い傾向にある。相続の際にこうした金融資産の地域間移転が起きると、地域金融機関から都市銀行などへ金融資産が移動することが一定程度想定される。「人」の流れが変われば、こうした資産移転の動きにも影響をもたら



経営者は今、何をすべきか
アフターコロナを見据えて中小企業の経営者が「今」すべきことは何か。まずは事業の継続、そして雇用を維持し、この危機的局面を乗り越えることが最優先の課題だろう。また危機後を見据えた戦略としてIT化の推進が重要になろう。
中小企業庁の分析によると、ITを積極活用した中小企業では、業務プロセスの合理化やコストの削減、社員のスキル向上、意思決定の迅速化を通じて、生産性が向上したという。
また総務省の通信利用動向調査(令和元年)では、企業に対してテレワーク導入の有無を尋ねている。結果を見ると、資本金1億円以上の企業の場合、35%は「導入している」、15%が「導入していないが、今後導入予定がある」と回答した。他方、資本金1000万以下の企業では「導入している」との回答が6・2%、「導入していないが、今後導入予定がある」の回答も4・4%にとどまった。建設業など業務の特性上、テレワークを導入しにくい業種の企業数が中小企業で比較的多いことも考えられるが、それでも大企業との差は大きい。調査時期はコロナ禍の発生前だったため、3月以降のテレワークの急速な拡大は反映されていないものの、中小企業での導入率の低さは早急に改善されるべきだろう。
テレワークでの働き方が進めば、通勤や移動の時間が削減される。そうした中で、削減された時間を副業などに充てる人も出てくるのではないだろうか。テレワークが定着すれば、都市部で働く高度人材の知識や経験などを地方企業で活かすことも考えられる。企業収益を拡大させる機会を増やすためにも、まずは自社のテレワークの環境整備が必要不可欠となろう。
また、消費者向けに商品を販売している企業であれば、上述の通り、拡大するEC市場への参入による販売経路の拡充も、積極的に推し進めていくべきだろう。
中小企業の生産性向上は積年の課題だ。
IT化によって経営課題の解決を図り、中小企業の生産性向上に繋げることが求められよう。
中小企業は大企業と比べ、IT化や生産性向上が進まなかった要因の一つとして、短期的な経営戦略に重点が置かれていたことが考えられる。しかしながら、こうした経営戦略は限界を迎えたのではないだろうか。コロナをきっかけに、経営のマインドをより長期的な視点にシフトすることが重要になろう。コロナ禍という未曽有の危機が中長期的には地方創生、中小企業経営にとってプラスに働くことを期待したい。



株式会社大和総研
経済調査部 エコノミスト
鈴木 雄大郎氏

Profile
2017年大和総研入社。研究・専門分
野は日本経済、地方経済・地方創生。
執筆書籍:『この1冊でわかる 世界経
済の新常識2020』(日経BP社、2019
年、共著)、『地銀の次世代ビジネスモデ
ル』(日経BP社、2020年、共著)。

Company Profile
株式会社大和総研
◆所在地
東京都江東区冬木15-6
https://www.dir.co.jp/

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