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“オフライン”が クリエイティビティを生み出す

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求人メディアや組織診断ツールなどで躍進するアトラエ。2003年の設立から13年目でマザーズ上場、さらにその2年後に東証一部に上場と、着実に成長を続けている。成長の源泉となっているのがエンゲージメント(愛着心や信頼等)の高さと自律分散型の組織運営スタイル。そんな同社が新型コロナウイルスによってどのような影響を受けたのか。また今後、日本企業の変革の方向性や働き方はどう変化するのか、代表取締役CEOの新居佳英氏に伺った。※本記事は7月2日の取材をもとに作成

採用ニーズが低下し主力サービスにも影響
──新型コロナウイルス感染症によって、各社、様々な影響が出ています。業績面からお聞きしますが、御社の主力サービス「Green(以下、グリーン)」はどのような状況でしょうか。
新居 もちろん影響を受けています。グリーンは求職者と求人企業を独自のアルゴリズムで解析することで、より低価格で、より高精度なマッチングを提供するサービスです。対象は主にIT人材です。これまで右肩上がりで成長してきましたが、このコロナ禍にあっては企業側の採用基準も厳格化しています。とくに4~5月はそうした影響が顕著でした。
当然ですが、企業側もあえてこのタイミングで採用するかというと、なかなかそういう気持ちにはなれません。コロナがもう少し落ち着いたら採用をしよう、と様子見をしている企業が多いのだと思います。
 
──組織診断サービスの「wevox(以下、ウィボックス)」は御社の伸び盛りのサービスです。こちらの状況はいかがですか。
新居 ウィボックスは組織に対するエンゲージメントや組織の現状を、定量的かつ多角的に把握し、診断するサービスです。緊急事態宣言以降リモートワークが急速に広がりました。その結果、社員の顔が見えず、健康面や精神面も把握しにくくなり、そのなかで社員のエンゲージメントをしっかりみていかないといけない……といった問題意識を持った企業が増えています。そういう意味でウィボックスに関しては追い
風となっていて、注目度は上がっています。
実際、この間、問い合わせ件数も増えています。しかし、だからといって受注が急増しているということではありません。多くの会社では、人事担当者も感染防止対策やリモートワーク環境の整備など、まだまだ目の前の対応に追われがちです。社員のエンゲージメント問題は、関心は高くてもどうしても優先度は低くなります。もともと、こうしたサービスを導入するのに検討時間
が長くかかる会社も多いので、売り上げに繋がるにはまだ時間がかかるとみています。
 
──今後の経済回復とそれに伴う御社の事業の展開については、どのようなシナリオを想定されていますか。
新居 経済の専門家ではないので確たることは言えませんが、各社とも少しずつ業績を戻してくるだろうと思います。ただ業種・業界によってコロナの影響度合いも違うので、回復時期も段階的になるでしょう。
たとえばグリーンの主たる顧客であるIT業界は比較的早く回復すると思われます。今回のコロナにおいて最も影響が少なく、オンラインでも十分適応できるのがIT業界だからです。
一方で、旅行業界や飲食業界など、コロナによって大きな打撃を受けた業界は復活にはかなり時間がかかります。ウィボックスのお客様にもこれらの業界の企業は多いですが、こうした業界では当然ながら、しばらく新しいツールの導入を検討する余裕はないでしょう。
 
──時期はともかく、コロナが収束したときのために、いま特に注力していることはありますか。
新居 どこにいても社員のエンゲージメントをしっかりと測定しながら、組織としての健全さを保つということが非常に重要だということを、多くの経営者の方が理解されてきました。そういう意味ではウィボックスをブラッシュアップして、リモートのときでもきちんとマネジメントできるツールにアップグレードしておく、ということは考えています。
ただ、常にブラッシュアップしていくというのは、コロナ以前から当たり前にやってきたことですので、特別なことではなく、これまで通りに開発を進めていくだけのことです。
 
──コロナによって新たに生まれた可能性やビジネスチャンスといったものは考えられますか。
新居 リモートワークが広がったことによって、上意下達の組織、特にピラミッド型で階層が深い組織はリモートだとマネジメントが難しくなるということを、おそらく多くの会社が痛感したと思います。世の中の会社全般が、従来の組織のあり方の見直しを迫られています。見直す方向性としては、階層を浅くして、責任と権限を委譲する、そんなスリムな組織を志向する会社が増えてくるでしょう。そうすると、そこからあぶれる人材が出てきて、人材の流動化が進むと考えています。当社としては、そうした人材にいかにリーチしてサポートするか……そこにチャンスと課題があると思っています。

 
 
自律分散型組織はコロナ禍でも従来通り機能
── 今度は社内体制について伺います。御社はもともと新居さんが自律分散型組織を目指して創業された会社ですが、そうした組織のあり方は新型コロナによってなにか影響はあったのでしょうか。
新居 影響という影響はないですね。緊急事態宣言の一時期は、会社として「原則、出社禁止」ということで在宅勤務・リモートワークを基本にしました。どうしても出社が必要な場合は、公共交通機関特に満員電車に乗らないことを徹底。また、自宅のwi-fi環境を整備するための通信手当を福利厚生制度として導入。その間の交通費もそれまで通り支給としました。コロナ対策としてはそのくらいですね。
緊急事態宣言開け以降は、出社歓迎、ということではないですが、基本的には各自の判断に任せています。
 
── 緊急事態宣言下での一斉リモートワークは、働きやすさや効率性などの面で変化はありましたか。
新居 なにも変わりません。当社の場合、常日頃から家で働こうが、会社で働こうが自由です。個人の裁量で決めていいし、誰かの許可をもらうということもありません。ただ、当社の社員たちはどちらかというと、会社に来てみんなで顔を合わせながら仕事をしたいという人が多いので、そういう意味では影響はゼロではなかったかもしれません。ただそのくらいでエンゲージメントが下がるということもありません。
 
──社員の皆さんのエンゲージメントが高くて、しかも自律分散型の組織です。極端に言えばトップである新居さんが何もしなくても困らない組織だと思うのですが、このコロナ危機において、新居さんの役割に変化はありましたか。
新居 当然ながらCEOというのも、自律分散した組織の中の一つの役割なので、私がその役割を果たさなければ成り立ちません。とくにいまのような状況では、トップの戦略策定や意思決定などが重要です。具体的にはリモートワークをどう徹底させるか、出勤も可能にするのか、リモートになった時の手当てをどうするのか、交通費支給は続けるのか、といった判断はトップである私の仕事です。
また5月中旬以降は、私自身できるだけ出社して、顔を合わせていなかった社員たちのフォローアップをしました。これも重要な役割の一つです。
経営戦略における意思決定では、例えば従来の計画通りに広告費やマーケティング費を投下してよいのかといった判断が必要になります。この未曾有の事態がいつまで続くのか、経済的な影響がどのくらいになるのか……さすがに現場のマーケティング担当者が勝手に判断するということはありません。私と各担当者でディスカッションを重ね、指示を出すようにしています。
様々な場面において適切な判断を下せるよう、私自身は経営者仲間や専門家、海外の人脈などからできるだけ情報を集め、世界情勢やマーケットがどうなっていくかを常に分析・予測するようにしています。


 
 
クリエイティビティを維持するにはオフラインは不可欠
──今回、多くの日本企業でリモートワークが広がりましたが、このことを新居さんはどのように評価していますか。
新居 リモートワークや各種オンラインツールが普及したことは日本企業すべての生産性向上にとって極めてポジティブな影響を与えるだろうと考えています。
実は当社はコロナの前から、一部の営業をオンラインで実施しようとしていました。
外部とのコミュニケーションやミーティングは移動時間もなくなりますし、オンラインでやったほうがいいと考えているからです。しかし当初は相手から理解を得られず、対面での面談を求められるケースも少なからずありました。それがいま変わりつつあります。無駄に挨拶に伺うとか、とりあえず顔を見せに行くとか、そういう慣習が減り、オンラインで完結するようになってきました。
 
──組織のマネジメントのあり方も変わってきますか。
新居 リモートワークでは時間で管理するということができなくなります。ずっとパソコンの前に座ってきちんと仕事をしているかどうかを監視するなんて無意味ですよね。もしかしたら、そういうシステムを作っているところもあるかもしれませんけれど……。リモートワークを前提とするなら、性善説に基づいてアウトプットや貢献度、パフォーマンスをきちんと評価する仕組みを構築する必要があります。
 
──このまま日本企業はリモートワークをもっと進めたほうがよいということでしょうか。
新居 そうですね。ただ気をつけなければならないこともあります。例えば決まった業務や単なる作業であれば、オンラインで行ったほうがノイズも入ってこないので集中しやすく、業務効率も上がります。
一方でリモートワークだけだと、ちょっとしたコミュニケーションが生まれにくくなります。目的を持ったミーティングは設定できますが、雑談やちょっとした会話の中から生まれてくるようなコラボレーションがなくなってしまいます。リモートワークにすべて振り切ると、組織のクリエイティビティの力が長期的には低下することになるので、そこの判断を経営者がきちんとしていかないと、会社が悪しき方向に向かうだろうと思います。
 
──オンラインとオフラインの使いわけが大事だということですね。ちなみに御社は何か工夫していることはありますか。
新居 特段ありません。各自、集中したい時はリモートワークを選択するし、必要とあらばオフラインでコミュニケーションをとる、という働き方をしています。
たとえば決まった機能をつくるという仕事のエンジニアであれば、黙々とつくるだけなのでリモートでもいいと思います。しかし当社が提供しているツールは、日々、機能やユーザビリティの向上を考えながらつくっていくものです。隣にいるエンジニアと﹁これどう思う?「こっちのほうがいいんじゃないか」というようなちょっとしたコミュニケーションを通して、ブラッシュアップされていくということが多々あります。当社の社員たちはこうしたオフラインでのコミュニケーションの重要性を全員理解していますので、各自の判断に任せられるのです。
どんな業界もそうだと思いますが、これからの時代は、ちょっとしたクリエイティビティやちょっとしたイノベーションを積み重ねていかないと勝てません。当社はリモートワークでも影響が出にくい組織体ですが、それでもあえてオフラインを重視しているのは、勝ち残る条件であるクリエイティビティ性を失うわけにはいかないからです。オフィスの縮小も考えていません。
新入社員が増えたこともあり、5月にオフィスを移転、むしろ拡大中です。
(文中敬称略)
 
株式会社アトラエ
代表取締役CEO
新居 佳英氏

 
Profile
1974年生まれ、東京都出身。上智大学理工学部卒業後、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。人材紹介事業部の立ち上げ、関連会社の代表取締役、本社で200人以上を率いる事業責任者を経験したのち、2003年株式会社アトラエを創業。
IT・Web業界に強い成功報酬型の求人メディア『Green』の運営をはじめ、ビジネス版マッチングアプリ『yenta』、組織改善プラットフォーム『wevox』などの新事業を次々と成功させ、2016年6月にマザーズ上場、2018年6月に東証一部への市場変更を果たす。共著書に『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(英治出版)。
 
Company Profile
株式会社アトラエ
◆所在地
東京都港区麻布十番1-10-10
ジュールA 8F
https://atrae.co.jp/

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