3分で読める「現場を変えた社長の一工夫」

ビジネスサミットOnline » 現場を変えた社長のひと工夫 » アフターコロナを見据えた「人材確保力」強化のあり方

その他 × 強い組織づくり
アフターコロナを見据えた「人材確保力」強化のあり方

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新型コロナウイルスの影響による景気の悪化は深刻さを増している。内閣府・財務 省の調査では、今年1~3月期から4~6月期にかけて、企業の景況感を示す指数が急激に悪化し、特に中堅・中小企業の景況感はリーマンショック後の2009年1~3月期を下回る深刻な水準となった。

人材需要のいま
新型コロナウイルスの影響による景気の悪化は深刻さを増している。内閣府・財務 省の調査では、今年1~3月期から4~6月期にかけて、企業の景況感を示す指数が急激に悪化し、特に中堅・中小企業の景況感はリーマンショック後の2009年1~3月期を下回る深刻な水準となった(表1)。


人材需要もこれに伴い大幅に縮小している。企業の従業員数の過不足判断を表す指数を見ると、今年1~3月期には顕著な人手不足が生じていたが、緊急事態宣言後の4~6月期には人材需給が大きく緩和したことが読み取れる。ただし、人材過剰が鮮明だったリーマンショック時とは異なり、未だ人手不足を抱える企業も多い。
急速な景気後退局面にもかかわらず、人手不足の問題がくすぶり続ける背景には、人口減少、生産年齢人口の縮小という構造的な問題がある。経済活動が全面再開に 向かうにつれ、再び企業が人材確保の課題 に直面する可能性は高い。足下で採用活動 を抑制せざるを得ない企業も、アフターコロナの社会で自社を再び成長軌道に乗せるため、「人材確保力」を高めておくことが重要だ。とりわけ、元々採用力で大企業に後れを取る中小企業は、働きたい・働き続けたいと思える環境づくりに意識的に取り組むことが求められる。
では「人材確保力」強化のためには、何に取り組めばよいだろうか。表2に示すとおり「雇用」「、働く環境」「、コミュニケーション」、「人材育成」の4つの観点から、考えられる対応について論じたい。



「雇用」のあり方の見直し
(1) 多様な働き方・働き手の受け入れ
従前の中小企業の雇用は、勤務地・勤務時間を固定した条件で行われることが多かった。
しかし、新型コロナウイルスの感 染拡大以降、急速にテレワークが浸透し、場所と時間を一人ひとりの事情に応じ、柔軟に選ぶ働き方が広がってきている。
アフターコロナの人材確保に向けては、 この流れを踏まえ、多様な働き方・働き手 を受け入れる工夫が重要だ。例えば、出社義務を持たない完全在宅勤務を認めれば、
ゆとりある日常生活や子育てに適した遠隔地に住居を構え、テレワークで働く従業員を新たに受け入れることも可能だ。通勤に困難を抱える障がいを持つ人も、働き手として迎えやすくなるだろう。
また、在宅勤務に加え、勤務時間や日数を限定した働き 方を取り入れれば、子育てや介護と両立しながら働きたいと考えている人を、従業員 として受け入れる余地が生まれる。 
多様な働き方・働き手の受け入れは、従来アプローチできていなかった幅広い層を 採用対象に組み込み、同時に、既存の従業員がライフステージの変化に直面しても、 安心して働ける環境を築くことにつながる。
コロナ禍をきっかけに、働き方が大き く変化している今を好機と捉え、就業規則・ 人事制度等の見直しに取り組むといいだろう。

(2)副業・複業人材の活用
コロナ禍で在宅勤務が広がり、副業・複業希望者が増加している。
企業側でも、先行き不透明な経営環境の中での柔軟な人材確保の手段として、副業・複業人材への関心が高まっている。
人材供給・需要の双方の拡大により、副業・複業人材の活用が今まで以上に広がっていくと見込まれる。 副業・複業人材と企業のマッチングサービスはすでに存在し、営業代行・営業先紹介から、IT、デザイン、執筆、広報、総 務・経理、コンサルティングまで多岐にわたる業務がカバーされている。
特定の業務を担う人材を求めているものではあるが、専門性を持った人材の確保に苦慮している場合、こうしたサービスの活用が有力な選択肢となる。
しかし、18 年7月に関東圏の中小企業を対象として実施された調査では、兼務・副業人材を受け入れていると回答した企業は未だ5.3%に留まっている。
今後、副業・ 複業人材を取り込み、人材確保につなげる試みが、多くの中小企業に広がることが望まれる。

(3) 企業間ワークシェア
新型コロナウイルスの影響は、業種・企業間で大きく異なり、人材の過不足の状況にもばらつきが生じている。
こうした状況 への対応策として、人手不足の企業へ、過剰人員が生じている企業から人材を派遣する、いわば「企業間ワークシェア」が考えられる。
こうした仕組みは、アフターコロナのフェーズでも、業種ごとの繁閑期の人材補完等にも活用できる。
参考とし得る実践例として、例えば休業・ 営業縮小を余儀なくされた外食産業では、ワタミが自社の従業員を他業種の企業へ派遣する取り組みを行っている。
また広島県安芸高田市では、地域内の企業・団体が連携して運営するコンソーシアム(あきたか たコンソ)の活動として、人手不足の企業へ他の企業から一定期間人材を派遣する取り組みを、以前から行っている。
こうした仕組みを築くには企業間の調整 が必要だが、非常時の今は取り組みを前に進めるチャンスともいえる。信頼の置ける地域内の企業同士でワークシェアに取り組むなど、できることから始めるのだ。

「働く環境」の整備
従来対応が遅れていた中小企業でも、 ウィズコロナの環境に適応するため、テレワーク導入が急速に進んでいる。
東京商工リサーチが5月に実施した新型コロナウイルスに関するアンケート調査では、中小企業でもテレワーク導入率は51%に上った。
ただし、大企業の導入率(83%)に比べると 3割以上低い。
業種によりテレワークの導入・定着が難しい場合もあるが、アフターコロナの人材確保を見据えると、中小企業にも一層のテレワーク環境整備が望まれる。
テレワーク実践者のうち 69.4%が今後もテレワーク 継続を望んでいるというデータもあり、特に若い働き手を確保するうえで、「臨時」ではなく「標準形」としてのテレワークを実現することが重要だからだ。
上述した多様な 働き方・働き手の受け入れに向けても、テレワークの標準化は不可欠となる。
一方で、通勤機会の減ったオフィスの意義を見直す機運も高まっている。
感染予防対策を徹底しつつ、リモート環境では難しい従業員同士の深い対話や、新しいアイデアを創発するオフィス環境づくりを進めることが求められる。
スペースの制約から理 想的な環境づくりが難しいケースも想定されるが、できる範囲で「集まる意義のある」空間としていくことが重要といえる。

新しい「コミュニケーション」 スタイルの確立
コロナ以前はオフィスで日常的に会話し、報告・連絡・相談し合うことができていたが、テレワーク導入後にこうした気軽なコミュニケーションが取りにくくなったと感じている人は多いのではないだろうか。
同じ部署・チームの近しい同僚とはリモー トで気軽にやり取りできても、上司とのやりとりや、他部署との調整の場面ではコミュニケーションの難しさを感じている人もいるだろう。
また、コロナ後に新たに加わる従業員の場合、こうした不安はより大きいものとなり、孤独感も生じやすい。
アフターコロナを見据えると、テレワーク環境での不安や孤独感を和らげる、新しいコミュニケーションスタイルの確立が求められる。
一つの方法として、意識的にコミュニケーションの機会をつくることが考えられる。特に、リモート環境では少なくなりがちな「雑談」や、業務で接する機会の少ない従業員同士が対話する場を定期的に設けるとよいだろう。
チーム内での朝会やオンラインランチ会、部署をまたいだ交流会、リモートでも参加できる社内イベントなど、気軽に実施できるもので構わない。
リモート環境では、オフィスにいれば自然にできるストレス発散のための会話や、偶発的な従業員同士のつながりが、意識的にきっかけをつくらない限り生まれない。
一見、無駄にも思えるコミュニケーションの機会を意識的に設けることが、テレワークの不安と孤独を和らげ、気軽に相談しあえる関係づくりには大切だ。

「人材育成」のあり方の見直し
テレワークが標準化すると、部下が上司の背中を見て学ぶスタイルの人材育成は機能しない。
常に同じ場で仕事に向かうこと ができない以上、見て学ぶことには限界があるからだ。
むしろ、一人ひとりが目的を 意識して業務に取り組み、その結果とプロセスを振り返る中で気づきを得て、自律的に成長するサイクル(経験学習サイクル) が重要になる。
では、部下の経験学習を促すにはどう すればよいだろうか。
近年、多くの企業で 取り入れられるようになっている「1 on 1」ミーティングの導入は、有効な手段となり得る。
12年から先駆的に1 on 1を取り入れているヤフーの場合、週に1度、30分時間をとり、上司と部下が対話する。
この時、 上司は部下による日々の仕事の振り返りを傾聴し、部下自身がそこから気づきや教訓を得るための壁打ち相手となる。
安易に指示や助言を出すのではなく、部下自身の内省と自律的な成長を促すことが、経験学習サイクルを促すためのポイントとなる。
「背中を見せる」人材育成に慣れてきた上司にとって、1 on 1の実践は難しく感じられるかもしれない。
ただ、定期的に部下の 想いに耳を傾ける時間を設けることは、リモート環境での部下の不安や孤独感を共有し、信頼関係を強める上でも意義がある。
試行的にでも1 on 1を実践し、人材育成や部下との関係づくりのあり方を見つめ直すきっかけとすることをお勧めしたい。
以上、4つの観点から人材確保力強化に 向けた対応のあり方を論じた。
取り得る対応は多くあるが、大切なことは、時代の変化に適応した雇用・ワークスタイルの実現に向けて、自社に必要な対応を見極め、一つひとつ実践していくことなのだ。

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
マネジャー 佐藤 善太 氏



PROFILE
東京大学大学院人文社会系研究科修了(社会学修士)、中小企業診断士。コンサルティングファームにて官公庁・ 自治体・教育機関等の計画策定、業務・ システム改革等に従事した後、日本総研入社。日本総研では中小企業の事業 開発・販路開拓・人材育成、NPOの事業推進の支援等に取り組む。その他、官公庁の調査研究事業、大手民間企業に対するコンサルティング業務等に幅広く従事。

COMPANY PROFILE
株式会社日本総合研究所

◆所在地
東京都品川区東五反田2-18-1 大崎フォレストビルディング 
https://www.jri.co.jp/ 

記事の絞込

■業種
■カテゴリー

業種

カテゴリー