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繰り返される”想定外”に強い組織をつくる

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「現状を表すとすれば『疾風に勁草を知る』ではないか」。富士フイルム古森会長の言葉ですが、まさに「我が意を得たり」。これは「激しい風が吹いてはじめて丈夫な草が見分けられる」との意味で、新型コロナウイルス感染症の流行のような苦難があってはじめて社会の中で何が強いのか、どの組織が強いのかがわかるということです。

はじめに
「現状を表すとすれば『疾風に勁草を知る』ではないか」。富士フイルム古森会長の言葉ですが、まさに「我が意を得たり」。これは「激しい風が吹いてはじめて丈夫な草が見分けられる」との意味で、新型コロナウイルス感染症の流行のような苦難があってはじめて社会の中で何が強いのか、どの組織が強いのかがわかるということです。
同時に、社会や組織・個人のどの部分が弱いのか、ということもわかります。
たとえば、レナウンは、もともと経営が厳しい状態でした。タイ国際航空もそうです。これらの企業は新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、いよいよ資金難に陥り破綻しました。
一方で、直撃を受けた業界の中でも、顧客ニーズが減らず、力強く経営を続けている企業もたくさんあります。私の知人は飲食店を経営していますが、営業時間の短縮が求められている中でも、この店の味を求める顧客がひっきりなしにテイクアウトしています。
個人レベルでも同様のことが起きているように見えます。在宅勤務でも、自己規律を保てる人とそうでない人、成果を出せる人とそうでない人の差が目立ちます。
B C P( 事業継続計画/ Business Continuity Plan)でも同様のことが言えるのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて迅速に意思決定・行動ができた企業とそうでない企業。これだけ苦難の時期が続くと、その差が余計に目立ちます。技術の高度化・複雑化に伴い、組織が抱えるリスクが複雑化・多様化する中、BCPの重みも一層増しています。あなたの企業のBCPが「丈夫な草かどうか」が、今後、ますます問われていくに違いありません。
そこで、本稿では今回のコロナ禍を反省材料に、以下に示す「問い」の答えを探しながら、
・BCPは中小企業の役に立つのか?
・なぜ役に立つのか?
・どう役に立つのか?
・何をしておけばいいのか?
・経営者の責任とは何か?
これからのBCPについて考えていきたいと思います。

過去の災害からの学び
日本では、ここ数年の間にも多くの災害が発生しています。2016年には熊本地震が発生。同年に博多駅前の道路陥没事故が起こりました。
17年には九州北部豪雨。翌年に大阪府北部地震・北海道胆振東部地震に加え大型台風の襲来。19年には45年ぶりに多摩川が氾濫するという災害が発生しました。そして、2020年は新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの発生です。もっと遡れば、新型インフルエンザもありましたし、リーマンショックもありました。今回のコロナ禍を含め、こうした過去の経緯からの学びを挙げるとすれば、3つあります。
1つ目は、次にやってくる災害は何であるか、誰にもわからないということです。
世の中では「新型コロナウイルスの第二波が来る」ということに意識が向いていますが、次に来るのは地震かもしれません。風水害かもしれません。いや、富士山の噴火ということだってありえます。もっと言えば、コロナ禍の最中に大災害が起きるということだってありえます。実際、1707年、インフルエンザが蔓延していた最中に、南海トラフ級の大地震(宝永地震)が起こり、立て続けに宝永富士山噴火が起きたというのは歴史上有名な話です。
2つ目は、仮に災害を想定できたとしても、常に想定外が起こるということです。東日本大震災では、津波で福島原発事故が起きました。熊本地震では、想定外の連続大地震が起こり、そのために多数の死傷者が出ました。北海道胆振東部地震では道内全域が停電する国内初のブラックアウトが起こりました。「もっときちんと考えてい
れば想定できたはずだ」という反論はあるでしょう。しかし、これまでの再三の経験から、「(どんなに用意周到に準備しても)想定外は起きるもの」と考えるほうが自然ではないでしょうか。
そして3つ目。それは、有事に対応力を発揮できた企業の成功要因が、「BCPそのものが立派だったから」というよりも、「BCPを触媒として、平時から有事のことを真剣に考えていたから」という点にありそうだということです。例えば、溶液型アクリル、ウレタン樹脂や環境・景観商品等の企画・製造・販売を行っている大成ファインケミカルでは、新型コロナウイルス感染症への対策として、移動時の感染リスクを低減するため、2日出勤2日休みというユニークなシフトを導入。有効な対策を矢継ぎ早に講じ、事業再開を果たされました。同社は何年も前からBCPに取り組んでこられましたが、こうした対策全てが事前に決められ行動計画書に記載されていたわけではありません。
BCPについて普段から社長が強い関心を示し、現場を巻き込んで議論するなど、普段から思考訓練を行っていたからこそ、いち早い検討・意思決定ができたのではないでしょうか。もう1つ、東日本大震災時の例を挙げましょう。宮城県で廃油精製事業を営む中小企業であるオイルプラントナトリは、2つある工場のうち片方が地震等で被災しても、もう片方での事業継続を実現できるBCPを整備していました。しかし、東日本大震災の大津波で両工場が大破。大混乱に直面する中で社長宅に災害対策本部を設置。競合他社に一部業務を委託し、事業を再開させたことでメディアにも取り上げられました。このような「BCP外」の中でも、事業を速やかに再開できたのは、日頃から「人命確保」の検討や訓練、「事業や業務の優先順位付け」を検討・意思決定していたからだといいます。
これら3つの学びは、これからのBCPを考える上で大きなヒントになりそうです。


これからのBCP
「次に何が来るかわからない」という問題に対する答えの1つ、それが「オールハザードBCP」です。「オールハザードBCP」とは、「オールハザード」、つまり、あらゆる危機事象をカバーできるBCPのことです。このように申し上げると、複雑なBCPであるように聞こえるかもしれませんが、考え方はいたってシンプルかつ合理的です。
まず、BCPを3種類の行動計画に分けて考えます。命を守る行動を示す「緊急時対応計画」、対策本部のあり方を示す「対策本部計画」、経営資源が一部失われた中での重要業務の継続・再開手段を示す「事業継続計画」の3つです。合わせて、各行動計画に必要不可欠な経営資源を並べてみます(図参照)。

このように整理すると、実は災害の種類によって行動が大きく変わるのは初動のごく限られた部分だけであることがわかります。例えば、津波であれば高台へ逃げますが、火災であれば屋外への避難行動が望まれます。
一方、その後の行動は、災害の種類に関わらず、いずれの経営資源をどれだけ喪失したかによって行動が決まってきます。たとえば、スマートフォンなど平時によく使う通信手段を喪失した場合の代替通信手段をどう確保しておくかを考えておけば、起こる災害に関係なく対応することができます。また、「施設を長期間にわたり使えなくなった場合」を考えておけば、その事態が感染症によって引き起こされたものであろうが、地震によって引き起こされたものであろうが、とるべき行動に大きく変わりはないはずです。
これがオールハザードBCPの考え方です。このように考えることで、想定外の危機事象に遭遇しても柔軟に対応できることになります。


「想定外」を活かすためには
このように見てくると、オールハザードBCPがアフターコロナの正解であるかのようにも思えます。次に来る事象が何であれカバーできそうですし、想定外にも強そうに見えます。
しかし、残念ながらそうではありません。なぜなら、オールハザードBCPにおいても、「想定」が必要だからです。例えば、緊急時対応計画や対策本部計画では皆様の組織がおかれている環境に基づき、その地域で起こりそうな脅威を「想定」する必要があります。また、事業継続計画においては重要事業やそれを支える重要業務の継続に必要不可欠な経営資源(リソース)をどれだけ喪失するかを「想定」する必要があります。「想定」をするということは、「想定外」が存在しうるということでもあります。
ではどうすればいいのか? 「想定外」には事欠かなかった西堀栄三郎氏(第一次南極越冬隊隊長)は、自身の経験から、「想定外」への最大の備えは、それが起こる覚悟をしておくことだと述べられています。「結局初めから、そういうリスクと言うか、思いも寄らない出来事というものが、必ずある、起こるに決まっているということを、あらかじめ覚悟していることが大切です。それを覚悟していないと、思いもよらないことが起きたときに、びっくり仰天、あわてふためくことになるのです。しかし、それを覚悟しておりますと『ウン、予定のごとく出てきたなぁ』という気持ちがありますから心は非常に安定しているわけです」(『石橋を叩けば渡れない』より)。
つまり、「有事でも落ち着いて対応できるかどうか。そのためにどのような準備をしておけばよいか」が重要ということがわかります。このように考えると、冒頭に述べた学びの3つ目、「有事に対応力を発揮できた企業の成功要因は、『BCPそのものが立派だったから』というよりも、『BCPを触媒として平時から有事のことを真剣に考えていたから』ではないか」という点も腑に落ちるのではないでしょうか。日頃から、有事のことまで考えておくことで、落ち着いてこ
とに当たれるわけです。もっと言えば、オールハザードBCPは完成度がどれだけ高くても、所詮はツールでしかありません。組織の対応力は、BCP文書の完璧さに比例するのではなく、それを実行する人たちが平時から経営・現場一体となってどれだけ有事のことを想像し、悩み、考え抜いたかの量・質に比例するものです。ゆえに、オールハザードBCPを道具として、経営と現場が有事対応について定期的にディスカッションする場を設けることをゴールとして考えるべきです。


終わりに
さて、ここまで述べてきて、実は大事な部分にまだ言及しておりません。このようなBCPを持てる組織になるための「経営者の責任とは何か」という「問い」の答です。結論から申し上げると、経営者の責任は、自らがBCPに対して強くコミットし、平時の準備段階からリーダーシップを発揮することにあります。具体的には、「何を守るべきか」「どんなBCPにすべきか」「どこまで時間とお金をかけるべきか」などについて社長自らが意志を示し、かつ、BCPの必要性について、ことあるごとに自身の言葉で語りかけることです。BCPの訓練があれば、自身が率先して参加することです。なぜなら、有事対応は目先の利益の話ではなく、長い時間軸の話だからです。5年先、10年先、30年先の未来を考え、そこに投資ができるのは経営者しかいません。経営者が現場や事務局に「やっておけ」と指示するだけでは話が進まないのは、火を見るよりも明らかです。そして、「普段から有事のことをどれだけ考えておけるかが大事」とは先の学びでも話したとおりです。現場も経営者も、例外はありません。全社員が一丸となって日頃から有事のことを考えておく…これが学びであったはずです。
トップのリーダーシップ、オールハザードBCPを活用した経営と現場の巻き込み、想定外はいつでも起こるという心構え―これこそが、アフターコロナ時代に向けたBCPなのです。

ニュートン・コンサルティング株式会社
取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント
勝俣 良介氏


早稲田大学卒業。オックスフォード大学経営学修士(MBA)。日本にてITセキュリティスペシャリストとして活躍後、2001年に渡英しNEWTONITへ入社。欧州向けセキュリティソリューション部門を立ち上げ、部門長としてISMSの構築をはじめとしたセキュリティビジネスを軌道に乗せた。2006年、副島一也氏と共にニュートン・コンサルティングを立ち上げ、取締役副社長に就任。自社サービスの品質管理、新規ソリューション開発を率いる。コンサルタントとしても、その柔軟かつ的確なコンサルティング手法には定評があり、幅広い業界/規模の顧客に支持されている。全社的リスクマネジメント(ERM)、BCP・危機管理、ISO、コーポレートガバナンス、ITガバナンス、JS0X対応、セキュリティ対応など幅広いコンサルティングスキルを有する。 著書『世界一わかりやすいリスクマネジメント』『ISO22301徹底解説-BCP・BCMSの構築・運用から認証取得まで』。

Company Profile
東京都千代田区麹町1-7
相互半蔵門ビルディング5F
https://www.newton-consulting.co.jp/

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