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「お試し」社長が断行した意識改革が会社を救った

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ファミリービジネスの創業家に生まれた子でも、後継者候補として認められにくい場合がある。「社長の娘」も、そうした存在といえる。特に「きつい・汚い・危険」の頭文字から「3K」などと言われた業界では、女子は後継ぎになるのはもとより、家業に入ることもあまり期待されていないことが少なくない。そうした家業をあえて「娘」が継ぐことは、非常に大きな変革のきっかけとなり得る。産業廃棄物処理会社の石坂産業もその一例だ。二代目の石坂典子氏に、改革を成し遂げられた理由と経緯についてうかがった。

ダイオキシン騒動の窮地で社内外の逆風のなか改革に着手

埼玉県三芳町、所沢市、川越市、狭山市にまたがる広大なくぬぎ山地区は、首都圏へのアクセスがよく、土地代も手頃なことから、産業廃棄物処理業者が集中する。そのなかでも石坂産業は、有害物質のダイオキシンが発生しない焼却炉を、約15億円もの設備投資を行って97年に建設するなど、地域の環境に対する負荷の少ない設備の導入にも意欲的に取り組む、産廃処理業界の先端をゆく企業だった。しかし99年、「所沢産の野菜からダイオキシンが検出された」というテレビ報道をきっかけに(※後に誤報と判明)、地区の産廃処理会社に対する大バッシングが始まった。石坂産業を含む産廃処理会社の操業停止や立ち退きを求めるデモや訴訟が起こり、社屋の前に監視小屋が設置され、「石坂産業は環境を破壊している」という拡声器の叫びが毎日響いた。石坂産業の焼却施設でダイオキシンは出ないことはわかっていたが、「地域の理解が得られない」と、社長である父、石坂好男氏と専務の石坂氏はすでに、わずか2年前に15億円をかけて完成させた最新の焼却炉と、売り上げの7割を占める焼却事業をやめることを決めていた。


地域に留まり事業を存続するためとはいえ、ダメージはあまりに大きかった。「世間に必要とされない仕事をしても意味がないな……」と、父が珍しくぼやくのを聞いた石坂氏は、いてもたってもいられなくなったのだ。「ネイルサロン開業のための資金稼ぎ」のつもりで、20歳で入社して10年。父の背中を追って仕事に奮闘するうち、いつしか「産廃処理業はゴミを資源として再生する有意義な仕事。うちは社会になくてはならない会社なんだ」と確信するようになった。その父がいつになく弱気になっているのを見かね「自分がなんとかしなくては!」と使命感に駆られての志願だった。石坂氏は営業本部長を経て専務を務めるようになっていたとはいえ、当時30歳。荒っぽい男社会で、女性が「社長として会社を守る」のは困難と思われただろう。父は石坂氏の申し出を「女にできるような仕事じゃない!」と一蹴したが、1週間後、「何ができるか、1年だけやってみろ。ダメなら解任する」と言い渡す。代表権のない、期間限定社長の誕生だった。


「環境汚染の元凶」と悪者扱いされていた会社を救うために、石坂氏が掲げたミッションは「地域に愛される企業になる」こと。しかしそれは売り上げや利益率などの向上とは異なり、数値的目標をクリアできればいいというものではないだけに、難しい課題だった。何より先に、会社と産廃処理業の3K的な「イメージの悪さ」を何とかしなくてはいけない。石坂氏自身も子どもの頃、「石坂組の組長の娘」「ゴミ屋の娘」とからかわれた。「この仕事は女には無理」と言われるのもそれが一因だ。地域に受け入れられる永続企業になるためにも、イメージ改革をしなくてはいけない。石坂氏は「脱・産廃屋」のスローガンを掲げて、社内外での取り組みに次々と着手した。まず、焼却を辞めた後の事業内容を、一般的な産廃処理より技術的に高度な「建設系産業廃棄物のリサイクル事業」へ業態転換した。そして「整理、整頓、清掃」の3Sを徹底して社内を美化し、06年にはプレハブだった社屋を本社ビルに改築。08年からは外部の見学者を受け入れ、行っている処理の全てを公開することにした。並行して、周辺環境の整備も行った。01年から行っていた清掃活動に加え、03年には花木園を造成。その後も周辺のくぬぎ山一帯で森林の保全再生を進め、ホタルやニホンミツバチが飛ぶ里山に再生した。12年にはJHEP(ハビタット認証制度)で最高のAAA評価を、日本で2番目に取得した。


もちろん、これらはどれも社長の号令ひとつで達成できるものではなく、社員たちが納得の上で努力し続けることが不可欠だが、時間をかけて理解を得られるようになるまでは、困難の連続だった。信頼の厚いカリスマ社長代わって突然社長に就任した、30歳になったばかりの娘が、馴染みのやり方を一掃するような改革を断行する。「重機も動かせないくせに」という冷ややかな視線や拒絶反応も、日常茶飯事だった。「ISO取得を目指して一緒に頑張ろう」と朝礼で発表した際は、「そんなことやっていられるか!」と手に持っていたヘルメットを投げ捨ててその場を去り、二度と戻ってこなかった作業員が何人もいた。焼却炉の廃炉後、新プラントの建築許可を得るために市役所を初めて訪れたときは、担当課長に門前払いを受けた。古参の社員が「女性は細かすぎて大局的な判断ができない。社長にするなら息子さんにしてください」と先代に直訴している場面も目撃した。「ただ、女だからバッシングしかなかったというわけではありません。産廃業の女性社長なんて珍しい、とりあえず話を聞いてやろう、手伝おうとしてくれる方たちに救われもしました。」


しかし半年で社員の4割が辞め、55歳だった社員の平均年齢は33歳まで下がり、素人ばかりになった。「私は会社を良い方に変えると宣言したのに、全然できていないと、お風呂で悔し泣きすることもよくありました」と石坂氏は振り返る。試用期限の1年間が経ち、改革はまだ途上ではあったが、新プラントの建設認可と、ISOなど三つの認証取得を達成した石坂氏を、先代は続投させた。「翌年の新年会、会長挨拶のなかで『廃炉で厳しい一年だったが、社長は相当頑張ってくれた』と父が言ったときには、耳を疑いました。日頃はほめることのない人なので(笑)」(石坂氏)。しだいに、石坂産業に対する世間の評価も「意外ときれい」「ゴミを資源に再生するなんて、実は大事な仕事をしているんだね」とポジティブなものとなってくる。13年から14年には掃除大賞、文部科学大臣賞、経産省の「おもてなし経営企業選」などを次々に受賞。社外の人に認められることで社員にも自覚と誇りが生まれ、仕事の質も向上した。サービスの付加価値を高め、年商はリーマンショック時を除き確実に拡大し続けている。就任16年後となる現在の年商は、就任時の倍以上となった(19年8月期で57億8000万円)。この達成について石坂氏にコメントを求めると、「結果を出すまでやり抜くしかなかったんですよ。誰かに頼まれたのではなく、社長をやらせてほしいと自分から言い出したわけですから」と振り返る一方でこう語る。


「すごいのは私ではなく、30 歳の娘を信じて支えることを決めた、先代のほうだと思います」。講演会やセミナーに登壇することの多い石坂氏は、経営者や後継者から相談を受けることもしばしばだ。経営者には「娘でも息子でも、『この子には無理』と決めつけないで。どんな可能性があるかわかりません。そして会社への自分の想いを伝えてほしい」とメッセージを送る。同時に、跡取り息子や娘にはこう助言する。「会社をつくった人、継いできた人の想いは、一旦汲むことが大切です。私も社長就任後、代表権を譲られるまでの10年間は、父の想いや理想を実現するために働きました。『自分の気持ちややりたいことを先代はわかってくれない』という訴えをよく聞きますが、先代はいずれいなくなってしまう人。いてくれるうちにその想いや教えを吸収しつくすほうがいい。葛藤は当然ありますが、その分、成長できるものです。」


『環境教育』という新たな事業に視野を広げる

現在、石坂氏は新たな地平をみつめている。産廃処理業の枠を超え、「環境教育の事業化」に取り組んでいるのだ。現時点では経営上のコストとなりがちな里山の保全や再生を、単独で採算が取れる事業にするための具体的な方法が「教育」だとして、旅行代理店と提携した体験型ツアーなど、環境教育プログラムの開発に着手している。「当社のやっていることはリサイクルに限らず『環境』ビジネスだと捉えると、案外、裾野が広い業界なのです。」本来、仕事をするうえで性別は関係ない。そうことわりながらも「女性には足元よりも先を見るセンスがあり、『まだここに無いもの』を構想することに優れているのではと思うことがあります。目標よりも先の目的志向と言えるかもしれません」と語る石坂氏。その言葉の通り、石坂産業と産廃処理サービスのブランド力向上に向け、誰もが驚くような次の一手を進めていくだろう。


石坂産業株式会社 代表取締役社長
石坂 典子氏



現在、石坂産業の二代目社長を務める石坂典子氏(以下、石坂氏)は、創業者である先代社長を含め、誰からも後継者として見られていなかった。その彼女が社長を継ぐことになったのは、先代の父・好男氏に「私を社長にしてください!」と自ら志願したからだ。2002年3月。石坂産業は、四面楚歌の真っ只中にあった。

Company Profi le
石坂産業株式会社

所在地 埼玉県入間郡三芳町上富1589-2
創立 1967 年/設立1971 年
従業員数 約180 名(19 年1月)
https://ishizaka-group.co.jp/

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