3分で読める「現場を変えた社長の一工夫」

ビジネスサミットOnline » 現場を変えた社長のひと工夫 » 負けじ魂と楽観主義が変革とリベンジをもたらした

サービス・IT × 強い組織づくり
負けじ魂と楽観主義が変革とリベンジをもたらした

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2015年に東証ジャスダック上場、2018年には東証一部への上場を果たした株式会社スマートバリューは、電子自治体を推進するデジタルガバメント領域や、コネクティッドカー、すなわち自動車のIoT化に特化し、クラウドに集めた動態データを管理・分析するプラットフォームなどを運営する――。そう紹介すると、よくあるサクセスストーリーが想起されるのではないか。しかし、「実は祖父(作太郎氏)の代から、同じことをずっとやってきているんです」と、渋谷順代表取締役社長は笑う。前身となる堺バッテリー工業所(堺電機製作所)の創業は1928年。見事に勝機をつかみ、時代に適応した同社の、雌伏の時について伺った。

社員に出ていかれた時、「そりゃそうだ」と思った

渋谷社長が二代目社長である父・孝氏の指示で同社に入社したのは1985年。高卒で入った勤務先での仕事が、ちょうど面白くなってきた頃だった。「うちは早くから継ぐのは兄貴と決まっていたので、僕は家業にはそんなに関心がなかった。大学入試に失敗した僕を人材不足の中、一従業員として利用したかっただけだと思いますね」。担当したのは営業だ。町の自動車ディーラーや小さな工場を、1件1件新規開拓に歩きつつ、既存顧客から電装部品の交換要請が入れば製品を配達する。簡単な修理等、技術全般も習得する必要もあった。仕事そのものは嫌ではなかったが、各メーカーを頂点とする巨大な自動車産業の、垂直統合型サプライチェーンの中で、小さな町工場の立場は極めて脆弱だった。


本社の決定だからと掛け率の不利な変更や、権利自体の剥奪など、さらに抱き合わせ販売なども頻々に起こる。「僕らは虫けらかと。毎日のように腹を立てていました。それに、社会全体を取り巻く流れも変わってきていた。今までと同じやり方ではだめだ、何とか変えていけないかと」。94年2月。孝氏が急逝。二年前、それまで大手自動車メーカーに勤めていた兄・一正氏が戻ってきており、新社長に就任した。この時初めて決算書を見ることになり、多額の借金と債務超過が判明し、到底返せないと感じた。途方に暮れた兄弟が最初に手がけたのが、携帯電話の販売である。同社は85年頃より車載電話の販売(取付け・修理)を請け負っていた。その縁で現NTTドコモより、正式にドコモショップ事業を行ってはと声がかかったのだ。94年、携帯電話機の売り切り制開始に合わせ、同社も初のドコモショップをオープン。

その後、渋谷社長が兄に提案したのが、ネット事業への取り組みだった。インターネット創成期からのユーザーであった渋谷社長は、オープンでフラット、そしてインタラクティブかつスピーディーな新しいコミュニケーションの姿に感銘を受けていた。それまでは重要な情報は必ず何らかの権威に属しており、簡単にアクセスすることができなかったが、ネット普及以降、大学が、大手企業が、政府が、様々な情報を開示するようになったのだ。ネットならあちこちのコミュニティで、研究者や専門家と直接意見交換することもできた。これから社会はドラスティックに変革する――この確信のもと、同社はインターネットサービスプロバイダー事業に的を絞る。96年、堺電機製作所は子会社として株式会社スマートバリューを設立、プロバイダー事業を開始した。

当初は非常に順調に会員数を伸ばし、これに伴って業績も右肩上がり。ウィンドウズ95の全世界同時発売を機に、ネット人口が一気に膨れ上がった時期だった。ITベンチャーの相次ぐIPOの中、同社を訪れる証券会社も増えた。「今言うと驚かれるんですが、僕は当時社員に優しくて(笑)。休暇を多く設けたり、『明日奥さんの誕生日? これでプレゼントでも買ってあげて』って、ポケットマネーを出したりとか」。が、業界はほどなく淘汰の時期に入る。OCN(NTT)など大手が一斉に参入した影響で、たちまち売り上げの伸びはストップ。「これはだめだ」とプロバイダー事業は売却し、固定収入を得るべくホスティングやレンタルサーバーサービスに力を入れたが、起死回生とまではいかなかった。

悪戦苦闘のなか、やがて給与支払いまで遅れるのではないかという状況に陥った。危機を感じた経理担当者を中心に、社員の大半が一斉辞職するという事態に至った。去り際に、面と向かって社長を「嘘つき」と詰めよる社員もいた。「でも僕は悔しいとか腹が立つとかではなく、『そらそうやな』と。社員思いの社長のはずが、嫌われたくなかっただけ。社長は社員と役割が違う。夢を語るだけでなく、実現するのが社長なのに、できてなかったんですから。ほんま俺はアホやな、明日からはやる! と思っていました」。ただ、数名の技術者だけは全員残ってくれた。渋谷社長はその理由を訊ねていないが、ありがたかったと言う。「よし、ここで諦めたら、会社も僕の人生も負けで終わる。


まだ虫けら扱いされたリベンジもできていない、これからが面白いのにと。それに僕は楽天的なのか、受託開発で頑張っていればそのうち何とかなると」。当時スマートバリューでは自治体をターゲットに、ホスティングやウェブサイトの構築を提案していたが、情報収集だけで数年をかけることもめずらしくない相手であり、なかなか売り上げにならなかった。妻の個人資産を担保に運転資金を借り、昼は営業に駆けずり回る。夜はマニュアル片手に経理業務。その姿を見かねてか、「僕ら常駐派遣に出ますよ」と提案してくれたのも技術者たちだった。1人あたり月60万円の売り上げが安定して入ってくるようになった。


自動車産業への執着と一日の長

潮目が変わったのは04年、堺市と協同で、地域データセンターを構築してからだ。同社の信頼度は一気に向上し、他の自治体の仕事も入り始めたことで状況は徐々に上向いていく。他方、その間も自動車電装事業を営む堺電機製作所は、昔のままの業態で厳しい経営を余儀なくされていた。町工場の社員は平均年齢も高く、これまで本業を支えてきた自負もあってか、変革を促す渋谷社長に猛反発。社内掲示物に渋谷社長の名前があればピンが突き刺され、席に着こうと椅子を引けば、座面に画鋲がばらまかれていることもあった。そんな厳しい中でも一歩ずつ普通の会社になるべく改善を続けてきた。

08年、かねてより自社のルーツである自動車関連事業と、蓄積したIT技術を組み合わせたいと考えていた渋谷社長は、若手社員のアイデアを受けて、「テレティクス」と呼ばれる、自動車をインターネットに接続して、データを解析するサービスに乗り出した。2012年、関連事業を一社に統合し、IT子会社であったスマートバリューに商号変更。全社あげて新規事業に取り組み、翌13年には08年より手掛けていたテレマティクスをさらに高度化させた安全運転管理システム「CiEMS(シームス)」を発表した。カーナビやスマホを通じて業の営業車をIoT化し、運転データを収集して分析、・連続運転時間や運転ミスの頻度から、運転者の疲労度や運転技術レベルを判定・個々の車両ごとの消耗度や故障発生リスクの検出・運行日報の自動作成などのサービスを提供する(15年にローンチの「CiEMS3G」ではカーナビは用いていない)。

安全運転管理だけでなく、17年に他社との協同で実施したシェアリングエコノミーの実証実験では、アニメファンに“聖地巡礼”用の痛車(※)を提供。その運転データからどのスポットが観光客にとって魅力的かを分析、提供した。「同様のサービスは他社にもありますが、我々にはいち早くクラウドに取り組んできた実績と、100年近く自動車産業の流れの中で奮闘してきた歴史、知見があります」。例えば、走行中何回ブレーキを踏んだか、というデータでも、それが運転者の技術不足による急ブレーキか、他の要因による減速か、解釈の仕方で評価は異なる。同社は他社より厳しい基準でリスク評価するぶん、より事故件数削減に効果ありとして、営業車を多数抱える大手商社等に好評だ。今後もカーシェアリングやデジタルガバメントなど、モバイルとクラウドを結びつける同社の事業範囲は広がることが期待できる。15年ジャスダック上場。18年には東証一部へと市場変更。

かつて工業社会のヒエラルキーの末端にあった小さな町工場が、時代の変革に乗り、ここまで戦い抜いてきたことに、渋谷社長はいまだに「くそったれ!」だと言う。過去の教訓からか、上場後は社員へは、当たり前のことを当たり前にやるという教育に力を入れているそうだ。「僕が社員に要求するのは親が小学生に言うようなこと。嘘はつかない、隠しごとをしない、責任から逃げない。とにかく信頼を毀損するなと。その人を信用できないと良質なコミュニケーションは図れないし、そんな環境ではバリューなんて生まれない。特に高い役職につく者ほど、誰からも注意してもらえないぶん、自ら人に信頼され、尊敬される人格を作ろうとすべきだと思います」。

株式会社スマートバリュー
代表取締役社長 渋谷 順氏



1963 年大阪府生まれ。高校卒業後、会社員、フリーターなどを経て、85 年、父親が経営する町工場、株式会社堺電機製作所へ入社。三代目経営者として、モバイル関連事業、インターネット関連事業などの立ち上げなど第二創業を推進。町工場から情報通信サービス事業へと事業領域の転換を図る。大阪経済大学大学院経営学研究科修了。著書に『経営を引き受ける覚悟』(同友館)がある。

Company Profile
株式会社スマートバリュー

設立 1928年10 月
従業員 388名(19 年6月現在・グループ会社含む)
https://www.smartvalue.ad.jp

記事の絞込

■業種
■カテゴリー

業種

カテゴリー