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製造 × 強い組織づくり
価格競争に負けない経営体質を構築する

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マストミ電子は、電機・電子メーカーなどを取引先として、ワイヤーハーネス圧着や圧接加工、コネクターハーネス加工、電源コード加工などの事業を営んでいる。競合他社が多く価格競争も激しかったため、事業承継に伴い「5S」と「女性活躍」に取り組み、高品質メーカーへの脱皮に成功した。この取り組みの先頭に立った、同社代表取締役社長・又吉達也氏にお話しをうかがった。

販管費が利益を圧迫スリム化に取り組む

マストミ電子は1979年、現会長である又吉康男氏がワイヤーハーネスのメーカーとして創業。多種多様なアプリケータを所有し、同社が生産するワイヤーハーネスは、家電・電子製品や自動車、パソコンなどに幅広く使用され、取引先の大手電機・電子メーカーから高い評価と信頼を得ている。

息子である現社長の又吉達也氏は、大学卒業後、金融機関や商社などに従事していたが、兄に勧められ、11年1月にマストミ電子に入社。又吉氏は、父親から事業承継の話を聞かされたことはなく、又吉氏は「第三者に譲渡するのではないのか」と推測していたという。ところがそうした推測に反して、17年6月、又吉氏は同社の代表取締役社長に就任。その背景には、兄が健康上の理由で事業を引き継ぐのが難しかったことと、入社した又吉氏が経営改善に成果を挙げ、父親の康男氏に認められたことがあった。

又吉氏が入社後最初に行ったのは、00年以降の同社の決算書を検証することだった。すると、「異常に利益率が低いことがわかった」と又吉氏。同時に、金融機関からは、借入金返済を含めた経営改善計画の提出を求められていた。決算書によると、00年から07年まで、多い年で5億円余りの売り上げを上げていたにも関わらず利益は100万円ほどにとどまっていた。さらに、リーマンショック後の09年には、売り上げが半減、4300万円の赤字を出していた。

利益率の低い原因は、当時、中国・深圳市で行っていた海外協力会社とのビジネスにあった。同地に進出していた日本の大手メーカーの工場に納品する部品を海外協力会社が製造していたが、そのために、出張や接待などに要する販売管理費などの間接コストが、利益を圧迫していた。又吉氏は、従業員に財務状況を説明し、中国から完全撤退する経営改善計画を策定し、金融機関にも理解を求めた。

入社後わずか3カ月で下した英断だった。「入社して間もなく、技術や製品のこともほとんど知らなかった私が、いきなり中国ビジネスの撤退を提案したことで、従業員からは驚きと反対意見があがりました」と同氏は振り返る。しかし、結果的に従業員が納得したのは、又吉氏が金融機関や商社で得た経験があったからだ。「もし、中国からの撤退という施策が失敗していたら、私は会社から追い出されていたでしょう」。売り上げの半分以上を占めていた中国ビジネスの売り上げはゼロになってしまったが、販管費も大幅に削減することができたことで、大幅な経営改善につながった。

「5Sプロジェクト」により労働・職場環境改善に着手

家業に入社するまで、金融機関や商社のように整備された労働・職場環境しか知らなかった又吉氏は、入社以降、同社の状況を憂慮していた。天井や床の建材は剥げ落ち、パソコンは古く、製造用小道具は雑然と置かれ、商品棚も乱雑な状態だった。「全体的にグレー色に包まれ、いかにも昔ながらの中小企業の工場というイメージでした」。そこで働く従業員の多くは主婦を中心とする女性たち。又吉氏は、「たとえ従業員に技術力があっても、雑然とした工場からは高品質の製品は生まれにくい。取引先からの信頼も得にくい」と考え、14年、当時社長であった父親と話し合い、専門家のアドバイスを受けようと地元の川口商工会議所に相談に訪れた。その結果、解決策の一つにあがったのが「5Sプロジェクト」(注)だった。しかし、最初はほとんどの従業員が本気に取り組んでいるように見えず、浸透には苦労したと言う。「長年のうちに、創業社長のやり方に従う文化ができ上がっていて、指示待ち社員が多くなっていました」。ところがその後、5Sに取り組むことで徐々に業績が上がってゆく。16年の売り上げは2億1900万円で、前年の2億円余に対して伸び幅はわずかだったが、利益は1700万円と大幅な業績改善を果たした。

それにつれて、従業員の意識も変わり、パート従業員も含めてすべての従業員が意識して整理整頓をしながら業務を行うようになっていった。同時に、職場環境の整備も行った。創業当時から変わらない和式のトイレを洗浄便座付きの洋式トイレに、更衣室のロッカーなどはグレー色から白のスチール製に代え、明るい雰囲気にした。さらに、道具類や製品もケースごとに整理し、整理棚に置くようにした。

又吉氏が代表取締役社長に就任した17年には、「事業承継補助金」を受け、工場の外壁工事を実施した。同商工会議所へ相談にたびたび出向くことで、社屋補修に補助金制度があることを知り、申請書等の提出書類の作成方法などのアドバイスを受けられた。同社の本社工場は住宅街で戸建住宅に囲まれており、違和感のない景観が必須だ。さらに、そこに働く従業員にとっても、清潔感ある明るいイメージの工場で働くという勤労意欲の向上にもつながる。外壁色を高級住宅風の色合いに塗り替えた。ちなみに、外壁した150万円の3分の2の、約100万円を事業承継補助金として受けることができた。

「女性活躍」が品質を向上させ差別化を推進する力に

又吉氏が中心となって「5Sプロジェクト」や労働・職場環境の整備を進めるなかで、さまざまな経営課題が浮かび上がり、同社が目指すべきテーマが「女性活躍推進」「品質向上」「営業力強化」として明確になった。これらのテーマに沿った「経営革新計画」が、16年3月、創業社長の名前で埼玉県知事より承認を受けた。その後の19年3月、現社長の又吉氏の名前でも承認を受けている。又吉氏は、これで立ち止まることなく、経営者としての腕を磨こうと、川口経営塾をはじめ経営改善・革新などのセミナーを次々と受講している。

「これらの経営支援サービスのおかげで、経費をかけずに、大幅な経費削減効果を得られ、利益を出せる経営体質に生まれ変することにした。その結果、品質の高い製品の供給が可能となった。「女性は細かいところにも気がつき、ものに対するこだわりがあります。小さな製品を作り、正確な検査による高い品質を生み出す業務に適性があるのです」(又吉氏)。まさに、男性とは異なる女性ならではの適性を活かしている。こうした「女性活躍」の取り組みの結果、取引先からは「製品の品質が高く、納期の管理体制において安心できる」と信頼が高まっている。現在同社には、工場周辺の川口市内に住む主婦が、パート社員として多数勤務している。

その平均勤続年数は10年以上にもなるが、彼女たちが長期にわたって働き続けられているのには理由がある。同社では製造スタッフの一人が突然休んでも、製造ラインに支障が出ないような対策として、「多能工」制度を採用している。全員が製造工程全ての技術を身につけているため、あるスタッフが休みを取っても他のスタッフが代わりに入ることができ、休む方も気を遣わなくて済む。地域の主婦層の雇用創出に貢献し、県の「多様な働き方実践企業」の認定も受けている。

今後は、女性スタッフの多能工化による生産性向上と、商社と製造部門とのきめ細かい連携強化を目指す。そのため、持続的な経営に向けた経営計画に基
づく販路開拓と業務効率化の取り組みを支援する「小規模事業者持続化補助金」を受けた。「こうした取り組みは、単に売り上げアップのための方策ではありません。利益向上の品質重視でナンバーワンを目指していきます」(又吉氏)。


マストミ電子 株式会社
代表取締役社長
又吉 達也氏



Profile
1971 年千葉県松戸市生まれ。武蔵大学経済学部卒業後、金融機関、商社などに勤務後、2011 年1月、家業のマストミ電子に入社。2017 年6月、事業承継により代表取締役社長に就任、現在に至る。


Company Profile
マストミ電子 株式会社

所在地埼玉県川口市東川口6-19-31
設立1979 年11月
従業員数20 名
http://www.masutomi-d.co.jp/

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