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製造 × 後継者による事業革新
素麺を通じて地域を活性化し心豊かな暮らしを次世代につなぐ

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当社の創業は1984年。私の母が起業し、手延べ素麺の製造を主な事業とする会社です。当社の母体は林業で、父も材木屋を営んでいます。東吉野に暮らす人々は、ほとんどが山仕事に従事していました。しかし冬は雪が積もり、何カ月も山仕事ができなくなります。そのため、山を離れ外に仕事を探す人が多くいました。高度成長期に入り、都会でサラリーマンをしたほうが一年中安定した収入が得られると村を離れる人も増えました。

山仕事ができない冬場に素麺づくりを

そして、村の過疎がどんどん進んでいきました。そこで母は「冬でも安定した収入を得られるようにすることが、過疎対策や村の活性化につながる」と考えたのです。母は大学の食物科出身で、食べ物全般に興味がある人でした。以前「素麺は、なぜあんなに細くなるのか」と不思議に思っていたことを思い出し、製麺所に素麺づくりを習いに行ったことが、後の起業につながりました。

食の安心・安全を考えこだわりの商品づくり

創業当時は、大量生産、大量消費の時代でした。しかし母は「せっかく作るなら、子どもに安心して食べさせられるもの、おいしいものをつくりたい」と、原材料もこだわるようになりました。まず、素麺の製造工程に使う油を、昔ながらの圧搾で絞った、余計なものを加えていない油に切り替えました。次に原材料の小麦も、国産小麦にしました。当時、国産小麦の流通は少なく、しかも国産小麦はグルテンが低く、素麺には適していないと言われていました。そんな中、国産小麦を供給してもらえるメーカーと出会うことができ、理想とする素麺を作れるようになりました。それ以降も食の安全・安心を追求し、葛を使ったオリジナル麺の葛素麺や葛菓子を開発。この吉野の葛餅は、天皇陛下が神武天皇陵にお参りをされた際、お食事のデザートに召し上がられたこともあります。

他にも、夏場に限らず一年中素麺を食べてもらいたいという思いから、フリーズドライの温かい「にゅう麺」を考案。この商品は、航空会社のファーストクラスでも採用されました。また、中川政七商店のプロデュースで「マグカップにゅう麺」を発売するなど、ユニークなオリジナル商品を開発してきました。

社員と思いを共有し一つひとつの仕事を丁寧に

私が大和信用金庫さんの若手経営塾に参加したのは、2014年です。弊社では従来、商品開発やパッケージデザインなどを母の主導で行い、天才肌の母の感覚で商品づくりをしていました。しかし自分には、母のような直感が備わっていないことがわかっていました。母と違う、自分なりの経営とはどんなものなのかを模索し、さまざまな勉強会に足を運ぶなかで、若手経営塾に参加させていただきました。経営や従業員に対する姿勢や、商品づくりなどを改めて考えることができ、地域の方や、生産者の方との結びつきができました。現在もOB会で、定期的に交流・意見交換をしています。社内では、社員とのコミュニケーションを、より強く意識するようになりました。毎日の朝礼で必ず、なぜ当社が素麺づくりをするのか、なぜ国産小麦100%にこだわるか、事業で社会にどう貢献していきたいのかについて話しています。

大阪城が作られた際の有名なエピソードがあります。豊臣秀吉が各大名に持ち場を分担させて石垣を作らせました。ある持ち場では、何を作っているか尋ねられると「石垣を作っている」と答えたそうです。しかし、別の持ち場では「日本一の城を作っているんだ」と答えたといいます。同じ作業をしていても、最終的に目指すゴールがわかっているほうが、いい仕事ができるはずです。この話に学び、会社として目指すことを日々の朝礼で伝えるようにしています。食品製造業は、異物混入などクレームが少なくない業界です。しかし、弊社がクレームをお受けすることは滅多にありません。それは商品の詰め方や包装の仕方などの単純な作業でも、当社が届けようとしている思いを社員一人ひとりがくみ取って、目の前の作業にあたってくれているからだと考えています。

素麺づくりを通し、村での心豊かな暮らしを実現したい

現在、どこの業界も人材確保や人材育成が課題となっています。弊社も、以前から女性が働きやすい会社を目指していますが、時短勤務だけでなく在宅ワークなど、その人のライフステージに合わせて仕事ができるよう、環境を整えています。今後、力を入れていきたいのは、東吉野村の自然体験をセットにした料理教室と、村への移住トライアルステイです。登山や薪割り、渓流釣りなどのアクティビティーで、吉野の自然を肌で感じてもらいつつ、素麺やにゅう麺を用いる料理教室を開催することで当社と東吉野を肌で感じていただきます。

また、田舎暮らしに憧れる人向けのトライアルステイ(移住体験)は、実際に村に数週間から数カ月間滞在し、安定収入になるそうめん作りが自分に合うのかどうか、観光ではなく、暮らしとして東吉野が自分に合うのかどうかを体験してもらえます。最初に母が素麺づくりで創業したのは、地域のためでした。現在、私が素麺づくりを続けているのも同じ思いからです。今後も、吉野の山と水、人々の暮らしを守って地域を活性化していくため、当社の事業を次世代に引き継いでいきたいと考えています。

株式会社坂利製麺所
常務取締役 坂口利勝氏


奈良県生まれ。関西大学商学部卒業後一部上場企業に就職し、専業主婦であった
母が創業した株式会社坂利製麺所に1999 年に入社。「自分の子供に自信を持っ
て食べさせられる素麺を作る」を目標に現在に至る。

Company Profile
株式会社坂利製麺所

https://sakariseimensho.wixsite.com/sakari
所在地 奈良県吉野郡東吉野村瀧野507
T E L 0743-67-0129

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