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製造 × 後継者による事業革新 「会計思考」で倒産寸前の金型メーカーを再建
財務を学ぶことで収益改善 信用力アップで新事業を育てる

龍江精工株式会社

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大手化粧品メーカーが採用している「エコインパック」。詰め替え式のシャンプーなどで使うプラスチックボトルだ。この「エコインパック」を開発したのが、プラスチック成型用金型を製造した龍江精工株式会社。しかし、現社長の田中直樹氏が入社した2000年当時は、「いつ倒産してもおかしくない」という窮地に陥っていたという。同社の「再建とその後の成長に不可欠だった」という財務会計の知識と活用法、その効果についてうかがった。

極真空手の選手から家業再建の道に

龍江精工株式会社は、現社長・田中直樹氏の父、良一氏が1965年に創業した田中製作所が事業の始まりだ。長野県飯田市出身の良一氏は、上京して金型設計製造の職人となった。後に腕を見込まれて独立を勧められ、射出成型用金型設計製造業として同社を創業。69年に龍江精工有限会社として法人化し、高度で洗練された金型づくりの技術を強みとし、事業を成長させていった。

現社長の田中氏は、男ばかりの三人兄弟の末っ子として育った。大学卒業後、東証一部上場の精密機器メーカーに就職。しかし3年半で退職すると、以前からの夢だった極真空手の世界に挑戦。全国大会に出場し、軽重量級でベスト16と好成績を収めたという。空手選手として約6年間活躍していたが、

その頃、「実家の経営状況が思わしくない」と人づてに聞いていたという田中氏。財務会計を依頼していた当時の税理士に尋ねると、「債務超過で追加融資も受けられない状態」とお手上げの状態だった。2000年に選手を引退。家業の金型技術も財務会計も全くわからないながら、家業再建のために龍江精工に入社した。

田中氏がまず取り組んだのは、財務会計に関する知識習得だった。何冊も本を買い込み、朝早くから遅くまで勉強に励んだことで、自社の厳しい資金繰りの状況が見えてきた。しかし、どのように家業を再建するのか、また再建後の経営はどのようにしていくのか、その時点では具体的な構想は全く描けなかったという。そこで、田中氏は再建をサポートしてくれる専門家を探すことにした。

「まさに暗中模索状態で、心に火を灯してくれるような希望を求めていました」と田中氏は振り返る。財務会計関連の講習会やセミナーにも出席し、経営再建をサポートしてくれそうな専門家を探し回った。

そこで、出会ったのが、ある講習会で講師を務めていた古田土会計事務所所長の古田土満税理士だった。講習会が終わるなり、税理士のもとに駆け寄った田中氏。同社の窮状を訴え、解決策を考えてくれないかと依頼した。

後日、財務諸表を渡して判断を求めたが、返ってきた言葉にがく然とした。それは「このままだと、御社は1年以内につぶれてしまいます」という容赦ないものだった。

財務体質の健全化のため職人気質の父と衝突

田中氏は税理士のコンサルティングの指導を受けてさらに財務会計の勉強に励んだ。

「そこでわかったのは、具体的な数値目標です。事業を再建するにはどれだけの利益が必要なのか。そのためにはどれだけの売り上げが必要で、何件の受注を取らなければならないのか。あるいは、どのコストを抑えるべきか。……そうしたことを突き詰めることで、今、何に取り組むべきかが見えてきました」。

業務改善策の実行に際し、最大の障害となったのは、創業社長である父親だった。生粋の職人気質の父は「とにかく仕事をとって来い」の一点張りで、田中氏が経営計画や資金計画の重要性を説いても、耳を貸そうともしなかった。田中氏は、そんな父と議論を重ねながら、業務改善策をひとつずつ断行していった。

まずは財務状況を従業員に全て公開し、会社の窮状を訴え、再建のための協力を求めた。経営者の報酬を返上したうえで、従業員の給与を削減した。金型製造の現場では、高い技術を持つベテラン職人に仕事量が偏る状態を変えるため、技術力の向上と平準化に取り組んだ。

さらに、コストと時間のかかる内製業務の一部を外注することで、コストと時間削減を実施した。また、営業面では従来の「とにかく仕事をとって来い」という売上重視の方針を転換し、利益の出せる仕事に集中することとした。

その結果、3年後の03年には、それまで2~3億円で推移していた売り上げは1億6300万円まで減少したが、大幅なコストダウンを達成し、単年度決算では黒字に転じることができた。

下請け専門を脱却し提案型の「新商品開発」に

さらに田中氏は、「受注待ちの下請けを続けるだけでは将来がない」という税理士の助言を受け、新規に提案型開発事業を打ち出す。

コストダウンと同時に品質向上や納期短縮を求めるような、元請け企業の厳しい要望に対応するには限界がある。中国をはじめ海外のライバル企業の進出も、大きな脅威となっていたからだ。これにも、古参のベテラン従業員からは反対の声があがった。

しかし、田中氏は、金型受注市場の厳しい現状を訴え、譲らなかった。これまでに蓄積してきた金型設計製造の技術を活かした新製品開発に着手した。新規事業の開発には、資金調達と市場開発が必要だ。その際に、田中氏のそれまでの学びの成果が表れた。「新商品開発ができたのも、財務基盤を強化し、わが社の信用力が向上したからです」。

金融機関の融資担当者に対し、金型開発製造などの専門技術の高さを説明しても、伝わりにくい。それよりも自社の財務状況を正確に説明し、実行性の高い新商品開発計画を提示することで、金融機関に理解を得られやすくなった。

「新製品開発に必要な技術はもちろん、それだけでなく、開発の基盤となる財務状況がしっかりしていることが、取引先に信頼感を与えるのです」。











衝突してきた先代の遺言で思わぬ指名を受け社長に就任

父、良一氏の死に伴い、04年9月、末っ子である田中氏が社長に就任した。創業社長の父とは経営方針について「言い争いが絶えなかった」(田中氏)というが、遺言で次期社長に田中氏を指名していたのだ。当初は固辞していた田中氏だが、兄二人の勧めもあって二代目を継ぐことにした。

「子どもの頃から何でも前向きに挑戦し、あきらめずに解決していこうとする自分に対して、父は生前何も言わなかった。でも実は評価してくれていたのかもしれません」と、同氏は父への思いを馳せる。自社開発製品は大手化粧品メーカーの資生堂の目に留まり、エコロジーに配慮した詰め替え容器「エコインパック」として商品化に成功した。現在、同社の売り上げの7割が、「エコインパック」関連の新製品開発事業となっている。

取引先は現在約70社に上り、この技術を採用したオリジナルの製品が現在も多数企画されているという。財務会計を学ぶことで、自社の改善点を明確化。財務基盤を強化し、その信用力で次の事業を育てていく。今後の成長戦略を立てていく方針だ。

会計思考の実践ポイント
●改善すべきポイントを財務会計から割り出す
●社内で目標数値を共有する
●財務基盤を強化することで信用力向上につなげる


 龍江精工株式会社
 代表取締役社長 田中 直樹氏


 Profile
 1968年埼玉県生まれ。
 大学卒業後、東証一部上場の精密機器電子部品メーカーに勤務。
 95年に極真空手の選手に転身し軽重量級で全国ベスト16に。
 2000年、龍江精工に入社。2004年、同社の代表取締役社長に就任。

















Company Profile
龍江精工株式会社
所在地 埼玉県蕨市錦町2-6-1(蕨工業団地内)
設立 1969年(創業1965年)
TEL 048-441-8018
資本金 1000万円
売上高 4億8700万円(2018年1月期)
従業員数 22名
https://www.tatsue.com/

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