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建築・建設・工事 × 後継者による事業革新 後継者の組織づくり
新卒採用と教育の徹底で人心を刷新「人が居つく」会社に再生した電設会社

牧野電設株式会社

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地上30階建て以上の超高層タワーや、500戸を超える大規模マンションなどの電気設備工事を一手に引き受ける牧野電設株式会社。父親から社業を継いだ代表取締役社長の牧野長氏は、就任以降、コンスタントな新卒社員採用を実施。教育体制を整え、「社員が居つかない会社」からの脱却を図った。人材を育てることこそが、社長としての自分の使命であると語る牧野氏に、やる気を引き出す組織づくりについて聞いた。

二代目が引き継いだのは "人が居つかない" 会社

電気設備工事を行う牧野電設株式会社(東京都練馬区)。官庁や大手ゼネコンから直接受注し、1都3県を中心に、屋内配線工事を中心とした電気設備工事を手がける。創業来の施工実績は4万戸超におよび、500戸を超える大型マンションの工事を任されることも多い。

創業は1978年。初期は、職人仕事の延長で三次・四次下請けだったが、90年代に新築マンションの工事現場を全体的にマネジメントするビジネスモデルに転換。現在のビジネスの礎を構築したという。

現在、社長を務めるのは二代目の牧野長氏。入社は2002年、22歳の時だ。父である先代から「一緒に働いてみないか」と誘われたのがきっかけだった。

「入社当時からいずれは事業を承継する意識はありました。ただ、専務を務める叔父もいましたし、それはだいぶ先のことだろうと。まずは、現場の仕事を覚え、会社の一員としての責任を果たすことに務めました」

牧野氏はヘルメットを被って現場に出て、現場代理人(工事現場の監督者)としてひたすら働いた。8年が過ぎ社内では中堅になった頃、忘れられない出来事があった。地元の工業高校を卒業し、入社したばかりの社員が退職するというのだ。在社期間は1カ月足らず。あまりにも早すぎる決断に驚いた牧野氏は、本人に理由を尋ねた。

「思っていたのと違っていた。自分がどんな仕事をするかわからないまま入社したんです」

そう唇を噛む彼にかける言葉はなかった。牧野氏は先代が一手に担う採用について尋ねてみた。

「履歴書が送られてきたら、ともかく順番に会う。そこで聞くのは一つ、この会社で働きたいのかどうかだ。来る気があれば出社しろ、と言うだけだ」

強烈な危機感を抱いた。思うに、問題は採用時のミスマッチだけではない。自分自身、丁寧に仕事を教えられた経験はなかった。十分な教育も受けず、入社1年目から自分の担当物件をもち、現場で工事にあたる社外の作業員の間で右往左往した。ミスをしては怒られる毎日を苦痛に感じることもあった。人の出入りも激しかった。当時10人前後の社員のうち3人を除き、入れ替りが続いていた。

「父親の世代は、仕事は見て覚えろと考える世代。その下で仕事をしてきた先輩は、自分たちの技術を言葉にすることが不得手で教え方もわからない。一方、入ってくる若者世代は手をかけて育てられ、丁寧に教えてもらうことに慣れている。仕事の場でも答えを教えて欲しい。超えがたいギャップがありました」

2011年、人事責任者となった牧野氏は決意した。
「人材に対する考え方を一新する。新卒を採用し、その人材を会社として育て定着させよう」。

この年は、東日本大震災が起きた年。建物の倒壊や電力不足などを経験した学生が、建築や電気関連の仕事に注目するようになっていた。牧野氏は社として初めて大手採用サイトに新卒の求人広告を出すことを決めた。先代は「身近に信頼のおける人間を育てたほうが良い。採用はお前に任せる」と言ってくれた。
























価値創出のための組織を変える決断

先代を盛り立てて会社を発展させていこうと考える牧野氏が、踏み出した第一歩がこの採用の取り組みだった。ところが、「まだ先」のはずだった承継のバトンは突然、牧野氏の手に渡った。先代が急逝したのだ。「事業承継について会計士と相談しよう」と言われ、予定していた打合せを翌日に控えた日のことだった。

父を亡くした悲しみに浸る間もなく、牧野氏は社長の椅子に座った。幸い引き継ぎに問題はなく、当面の受注も確保し、社業は順調そのものだった。社長として自分が今すべきことは組織を変えること──。牧野氏は思い当たる限りのあらゆる資料を読み、人材戦略を講じ、組織改革に集中した。

取り組みに時間がかかることはわかっていたが、「今、やらなければ未来がない」と自らを鼓舞した。将来のために組織変革を図る方針にコアとなる人材は賛同し、協力を約した。ただ先代社長の弟で、稼ぎ頭である専務は別だった。

「会社は社員を働かせてやっている。仕事は自分で覚えるのが当然で教わるものじゃない。そんな事に力を注ぐのは非効率で社員に舐められるだけ」──ギャップは先代とのそれよりも大きかった。

先代亡き後、ともに社業を支えるべき人を失うのは痛手だった。しかし、牧野氏もここで譲る気はなかった。やがて専務は会社を去った。

仕事は一から教えよう。方針を貫くために牧野氏は具体策を講じていく。牧野氏自身、教えてもらった経験がないから文字通り試行錯誤の連続だった。自身の体験に照らしつつ、書籍や講演などで勉強しながら独自のマニュアルを作っていった。

「どうしたら全くの素人にわかるように伝えられるか」に腐心した。研修資料は予備知識をもたない、誰もが理解できるよう専門用語を排除し、イメージしやすい例え話やイラストを使って作成した。このマニュアルは現在までに300ページを超える大作となった。

入社時の研修では牧野氏や先輩社員が講師役として登壇し、ビジネスマナーはもちろん業界基礎知識、現場での仕事内容、電気の基礎知識、図面の良い解き方などまでを教え込む。さらに社内には配線作業などの電気工事を練習できる研修施設を備え、工事現場に出るまでにトレーニングを行えるようにした。

研修施設には、テキストやカタログだけでは理解できないものを学べるよう、建設現場の一部を再現し、実際に工事現場で使う資料も展示した。こうした教育体制は教わる側だけでなく、先輩社員の意識を変え、成長を促したと牧野氏は確信している。

「人は誰かに何かを教えるときに成長できるもの。新人に仕事を一から教えることで、教える側が学ぶことは多い。マニュアルは、教え方を理解する助けになっている」という。























現場で孤立しないつながりを実感させる

もう一つ牧野氏が重視したのが、社員の会社への帰属意識を高めることだ。現場代理人たちは、それぞれの現場で働く。直行が大半という業務の性質上、一堂に会して朝礼などを行うスタイルは馴染まない。そこで取り入れた施策の一つが、社内SNSだ。これによって情報共有と、コミュニケーションの活性化を図っている。

社員たちは互いの書き込みを読むことで、自分の担当外でどういった物件があって進捗はどんな状況か、他の人はどんな仕事をしているのか、知ることができる。SNSを介してちょっとした相談をしたり、何か良いアイデアがないか募ることも可能になったという。

教えたり伝えたり、積極的なコミュニケーションに苦手意識をもつ人材でもSNSであればそのハードルが下がり、発信することができる。牧野氏も積極的に書き込みを行い、活性化を促した。結果、現在では1日の投稿数は約50に及び、社内の風通しは、格段に良くなったという。

また、このSNSは、社員が自身の失敗を報告する場としても利用されている。ここで周知された失敗は「叱責ではなく評価の対象」。ミスを隠さないオープンな企業文化を作るための取り決めで、就業規則にも明記されている。これが、若手を委縮させない、前向きな企業文化の醸成に大きく貢献しているという。

こうした社内での取り組みと合わせ、現場作業の内製化も徐々に進めることにした。施工管理主体の陣容をしいてきた同社では、牧野氏の就任以前は現場作業を100%外注していたという。

「内製化は、それ自体が目的ではありません。外部の力はもちろん重要で、案件規模が大きいほど、信頼できる協力先との関係は不可欠になる。ただ、それに依存する体質では、企業として脆弱すぎます。価格交渉力を欠き、主導権を譲らざるを得ない。それでは社員が誇りをもって働くことができません」

自力を上げなければ優秀な協力会社と対等な関係を築くことはできない。それゆえに自社で優秀な社員を育てる必要があり、まず採用から変え、人心を一新することを選んだのだ。

「こうすれば社員のやる気が増すとか、会社への帰属意識が高まるというような秘策は、ありません。一つひとつの施策が積み重なり、絡み合うことによって、少しずつ変わっていくものなのでしょう」

現在、同社の社員は36名に増え、さらに4月には新入社員7名を迎える。11年以降、新卒社員の離職率は圧倒的に低下した。就労人口が年々減り続けている昨今、人を集める力は企業の力に直結すると牧野氏は考えている。毎年安定的に新卒が入社することは発注者に対して健全性と成長性を示すことにもなる。

「電気工事は、いわば夜景を変える仕事です。世の中になくてはならない、有意義な仕事。社員にはその自覚をもって、胸を張って仕事をしてほしい。そのための環境を作り、人材を育てることが社長としての自分の使命であると考えています」

組織づくり・人づくりのポイント
●人材重視の方針を明確にする
●仕事は見て学ぶものという価値観を押し付けない
●社員が仲間意識を実感できる具体策を講じる


 牧野電設株式会社

 代表取締役社長
 牧野 長 氏

 1980年生まれ。2002年に父が経営する牧野電設
 株式会社に入社。現場代理人として、電気設備の施工現場の
 管理業務に従事する。
 2011年、父の急逝にともない代表取締役社長就任。




COMPANY PROFILE
牧野電設株式会社
所在地 東京都練馬区南大泉5-38-10
TEL 03-3923-5430
設立 1978年
資本金 4000万円
従業員数 36名(2019年3月現在)
URL https://www.makino-d.co.jp/

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