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製造 × 後継者による事業革新 蛮勇とも思われる24時間対応への転換
縮小する畳市場のなかで手つかずの分野を開拓する

株式会社TTNコーポレーション

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畳の歴史は古く、平安時代には既に現在のような、藁を主材料とする畳床と、その表面を覆う畳表、両者を綴じ 合わせる畳縁という構造が完成している。板間に置き、寝床などに用いられていたものが、鎌倉時代の書院造 りにおいて居室に敷き詰める用法となり、江戸時代には一般庶民にまで普及した。しかし近年、ライフスタイルの 変化から和室を備えた住宅は減少し、畳表の生産枚数も直近で年間261万枚(国産)と大きく落ち込んでいる。 中国製の輸入枚数955万枚をあわせても、一貫して減少傾向にあり、回復の見込みはまずない。 そのなかで売り上げを大きく伸ばした畳店があるとマスコミを賑わしたのが、TTNコーポレーション(兵庫県伊 丹市)だ。同社は24時間体制の畳店として、とくに畳替えのために休業できない飲食店のニーズを捉え、急成 長した。とはいえ、中小企業が体制を大きく変えるのは並大抵のことではなかった。

「何とかして差別化を」試行錯誤の5年

株式会社TTNコーポレーションの創業は1934年。辻野佳秀氏の曽祖父、辻野福三郎氏が、大阪心斎橋は畳屋町での修業を終え、郷里に「畳福」の看板を掲げたのが始まりだ。

「いわゆる町の畳屋さんです。僕が生まれたときも、周囲には傘屋さんがあり、あっちには自転車屋さん、そこを過ぎれば散髪屋さんに提灯屋さん、ちょっと行けばガラス屋さんに駄菓子屋さん、そういう商店街の端っこで、両親と祖母の3人が細々とやっていました」。

「福」の字を用いた屋号のもと、青畳の清々しい香りを感じながら家業を手伝ってきた辻野氏は、正月や結納、新築といった晴れの場に欠かせない快適な空間を作り出すものとして、畳への愛着を育てていった。父・秀人氏の努力により社員20名ほどの企業となっていた株式会社ツジノ畳内装(当時)に20歳で入社した際も、「いつかは継ぐ」と内心、覚悟を決めていた。1998年のことだ。

入社後はまず、畳職人として技術を習得し、一人前になると徐々に営業にも関わっていく。ツジノ畳内装は子どもの頃手伝っていた「町の畳屋さん」では既になく、直接の顧客は不動産会社や工務店、マンションオーナーなどだった。

彼らは畳を使用する立場ではないため、どんな材料を使い、どんな工法でつくった畳がいかに快適か?という点にはさほど関心がない。耐久性や価格といったスペックでのみ、商品が選ばれていく。

「直接ユーザーの方に、畳の良さをお伝えしないのは畳屋の怠慢だ、このままでは我々はただの下請けになる、と感じました」。

一般ユーザーの心を捉えるために、まず取り組んだのが差別化だ。い草の産地、三条の地名を冠した新ブランド、「三条たたみ」をリリースし、良いものを安く提供するとともに、ネット受注を実現。これによって国産畳の良さを若い層にアピールする一方、形や色に凝った変わり畳も多数開発し、国際的な展示会にも積極的に出展した。

これらの努力は一定の成果に結びつき、今なお海外(海外向けにはわかりやすく、ブランド名を「THE TATAMI FACTORY SINCE1934」とする)や、国内でも若い層からの人気を集めている。ただ、当時はまだ、佳秀氏が「ジリ貧」と感じる状況を打開するまではいかなかった。
















無理でもやると決めた24時間対応

同じ頃、同社では父・秀人氏によって製造工程の機械化・効率化が進められていた。

「私たちは〝畳の産業革命〟と呼んでいました」。

畳の製造・張替えには細かな工程が多く、最短でも職人として一通りの仕事ができるまでに3年を要する。しかし機械を用いれば、まったく未経験の人材でも、1年も経てばだいたいの作業がこなせるようになるのだ。その結果、1日に1人1枚だった元々の生産ペースが、当時、1人25枚まで引き上げられていた。スピードは安さにも通じるため、これを差別化の武器にできないかと考えたが、当時はまだ、顧客の心に響くようなアピールができずにいた。

転機となったのは、営業先で耳にした、ある和食レストランオーナーの一言だった。「お金がないんやない。張り替えたいけど、それで1日休むんがかなわんのや」。2003年のことだ。慢性的な不況のなかで、日銭を稼ぐべく年中無休で営業する飲食店が少なくなかった。オーナーは冗談交じりの口調で、「夜中にやってくれたらええのになあ」と付け加えた。

畳の張替えは職人仕事。24時間対応など考えられなかった頃だ。言ったオーナーも本気ではなかったのだろう。が、辻野氏は、「あ、そうか、差別化はサービス面でもできるんだ!」と。さっそく社内に持ち帰って相談したが、他の社員たちからは当然、相手にしてもらえなかった。

とはいえ、需要があるかどうか、まだわからない段階で夜間対応の人材を採用することもできない。「なので僕だけ、1人24時間でやる! と決めたんです」。入社して5年。25歳の若さがあったから、できたことなのだろう。

最初の週、飲食店からの注文は1件だけだった。昼間普通に仕事を終えた後、深夜に客先に出向き、畳を工場へ持ち帰る。張替えたものを再度車で運び、元通り敷き終えた時にはもう朝だ。次の週は3件。「いける!」との手応えを感じた。そして3週めには、なんと150件の注文が舞い込んできた。夜間の張替えなど可能なのか、と様子見をしていた人々が、どうやら本当らしいと見て、一斉に申し込んできたのだ。

日程を調整してもらったが、それでも週に3~4回はコンスタントに徹夜を重ねていると、「僕が痩せてきたんです(笑)。それを見て、これは助けたらなあかん、って思われたのかな」。

1~2カ月経つ頃から1人、また1人と、夜間の張替えに加わる仲間が増えていった。同社が人材募集に踏み切り、交代制のシフトを整えたのは、さらに半年後のことだった。それでも殺到する注文には追いつかない。大阪・京都という大消費地に近い立地がよかったのか、売り上げは夜間対応を始める以前(約4億5000万円)と比べ、初年度から10億と、倍以上に跳ね上がった。

工場併設の支店を、都市部を中心に11カ所出店したが、出せば出すほど注文は殺到した。直接のきっかけとなった飲食店ばかりでなく、不動産業者や工務店、リフォーム業者からの発注も一層拡大していった。24時間対応が有名になったことで、急な入居者にも対応できる、頼りになるパートナーと見込まれたのだ。

「夜に張り替えてほしい」との要望を聞かされた畳店は、辻野氏以前にも存在したかもしれない。だが、それを「1人24時間」という蛮勇ともいうべきやり方で、実現にこぎつけたのは辻野氏だけだった。顧客の利便性を追求したそこに、手つかずの市場があった。















心を育て、畳の良さを伝えたい

社長就任はリーマンショック直後の2009年。父・秀人氏が「会長職に退きたい」との意向を明らかにした時、辻野氏はまだ部長職にあった。

「だから他の人が指名される可能性もあったんですが、志だけは僕が一番だと、自信を持っていました」。

それでも事業承継直後は社員の不安を払拭するため、「3年間は何も変えない」と約束し、ひたすら人材育成に力を注いだ。会社の急成長に教育体制が追いついていないという反省もあり、また一方で、知名度を得ていよいよ本格的にやるべきこと”畳がつくりだす空間の心地よさを、一般消費者に伝えること”に取り組むためだ。

同社は現在、かつての屋号を高級建具のブランド「疊福」として復活させている。有名旅館や歌舞伎座・出雲大社など特に格を重視する顧客を対象に、1枚6万円は下らない最高品質の畳を提供するだけでなく、技術からマナー・人格まで含め選びぬかれた、最高の人材を充てるよう配慮している。

「畳屋はお客様の家に上がる仕事であり、そこで粗相や失礼があっては大変です。ミスは起こるものだと捉え、それに備えた防止策や自己管理策を、無意識のうちに実行できるようでなければ。また、疊福を導入される中には政治家や芸能人など著名なお客様もいらっしゃるので、セキュリティ上も信頼のおけるベテランが適任なのです」。

畳替えの晴れがましさを演出するため、配送車のデザインにも心を配り、また、大型ショッピングセンターにライフスタイル提案型の店舗を出して、ランチョンマットやコースター、椅子といったインテリアで和の雰囲気をアピールする。これらはすべて、一般の消費者に畳を身近に感じてもらうための努力である。

直近の売り上げは約70億円、従業員数は350名と、15年で凄まじい成長を遂げた同社は、畳を心から愛する人材を育て、いよいよ失われた市場の奪還という、次のステージに向かおうとしている。












株式会社TTNコーポレーション
代表取締役社長  辻野 佳秀  氏


17歳でカナダ留学し、20歳で帰国と同時に株式会社TTNコーポレーションに入社。
24時間稼働、『三条たたみ』ブランドの構築など業界初となる改革を次々と立ち上げ、
2009年、31歳で四代目社長に就任













Company Profile

住所 兵庫県伊丹市北伊丹9-80-3
TEL 072-785-1058
設立 1989年(創業1934年)
資本金 3500万円
売上高 70億円(グループ合計)
従業員 350名
http://www.ttn-corporation.net/

 

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