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ビジネススクールで学び「自立型人材」育成を目指す

有限会社 農園星ノ環

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「一農家ではなく経営者として農業がしたい」とい う一心から、家業である農家を法人化した有限会 社農園星ノ環。代表取締役の星野高章氏が目 指していたものは、農業の世界に経営を持ち込む ことだった。経営を学ぶことで農家はいかに変わっ たのか。経営を通して星野氏がたどり着いたのは 「自立型人材の育成」という考えだった。

家族経営主体の農業界に経営の概念を持ち込む

外国人などを積極的に採用、ダイバーシティマネジメントを行う農業として注目を集めている有限会社農園星ノ環(群馬県利根郡)。同社が位置するのは標高約750mの高原。広大な畑が広がる農園で、レタスや小松菜、ほうれん草などの高原野菜を生産、販売している。

創業は1946年。戦後すぐに先々代が入植し開墾した土地で農業をはじめ、2005年5月、星野高章代表取締役は32歳という若さで三代目を継いだ。星野氏には幼少時より農家を継ぐものだという意識が強くあり、大学も日本大学農獣医学部を選んだ。しかし、現況の農家のあり方に関しては常に疑問があったという。

「農家の多くは家族経営で、一般的な企業の経営とは事情が違います。会計面でも見えない部分が多い。いくら稼ぎ、どこにどう投資するのか。会計を見えるようにしたいと思いました」。

星野氏は事業を引き継ぐタイミングで法人化。とはいえ、すぐに状況が変化したわけではない。60歳手前の先代にはアドバイザーの立場で生産に従事してもらったが、家族経営である状況は変わらなかった。会社設立から2年後、スタッフが一人入社してくるまで、この状況は続いた。

この間、星野氏はひたすら経営についての勉強を続けていた。それまで経営に関することは何も学んできてこなかったため、地元の中小企業経営者の会合などに参加し、企業経営を一から学んだという。

理念や方針などを記した一年間の指針も作成してみた。日本農業法人協会にも行き、企業として農業を営んでいる経営者たちの話も聞いた。小所帯のうちはそれでもよかった。しかし、その後、社員やパートが増えはじめると、そこで学んだ経営知識では限界を感じるようになる。

「人が増えれば生産量は上がりますが、苦労も多くなります。自分の考えや指導がうまく相手に伝わらないということが増えるようになりました」。

改めて、より高度な学習の必要性を痛感したという星野氏。経営者としてマネジメントに精通し、より効率的に事業展開するため、星野氏は学びの場を求めはじめた。

ビジネススクールから得た「自立型人材」の育成

そんな折、ある農業イベントで知ったのがビジネススクール(KIT虎ノ門大学院、以下KIT)の存在だ。マーケティングやオペレーションマネジメントなど、経営の根本に関わる内容をKITでは、現場で使える形で指導してくれる。

星野氏は夕方まで業務に就いた後、毎週一度のペースでKITに通う生活を一年半ほど続けた。KITで学ぶことは星野氏の意識に変化を与えた。KITで出会う優秀なビジネスパーソンや経営者たちから刺激を受けることも多かったという。そんな環境の中で星野氏は「自立型人材の育成」という考えにたどり着く。

単に指示通りに農作業を行う人材ではなく、自立的な個人が自分で考え活躍する組織を目指そうと考えたのだ。それぞれが、どうすればよりよくなるかを意識し、改善する姿勢を持つ。様々な課題に対しスタッフ全員で話し合い、共有していく。そんな組織を模索し始める。

はじめに取り組んだのは、一般企業の経営計画にあたる経営指針書をスタッフ全員で作成することだった。もちろん、最初からはうまくはいかない。面倒くさがるスタッフも多く、当初できた経営指針書はA4用紙2枚程度の薄いものだったという。それでも毎年続けていくうちに次第にスタッフの意識は変わっていった。

現在、経営指針書は70ページにも及ぶものになっている。当然、作成には全スタッフが参加している。また「ほしのわ学校」と称した勉強会兼懇親会も月に一度開催している。ここでは全スタッフが経営指針書をもとに、計画の進捗や課題の確認などを行っている。正社員には個人的な月次目標を立てさせ、月次決算開示の場で目標管理もしている。星野氏の考えは着実にスタッフの間に浸透し、比例するように売り上げも順調に伸びている。



















コミュニケーションが生み出す確かな信頼関係

「野菜をつくって終わりで満足しないで、自分の好きな形の農業をやろう、といつもスタッフには伝えています。自分の好きなことをやるのは面白い。それを体験してほしいのです」と星野氏は語る。

農業は天候や環境によって売り上げが大きく変わる。実際、現場ではスタッフが自分で判断しなければならないことも多い。そこに楽しみを見出していける人材育成が星野氏の目標だ。同社のスタッフは、入社すると3年間は収穫に関する基本を一から教えられる。初めから判断を任せられると、逆に戸惑い不安になってしまうことがほとんどだからだ。

基礎を身につけたうえで、自分で考えて判断してもらうようにする。最初は誰かの指示を受ける必要がある。しかし、ある程度経験を積み、自分の仕事がわかるようになったら、今度は自分で工夫をし、時には逆に指示をする側にも回る。さらに意欲のあるスタッフにはチームリーダーを任せ、リーダーを軸にスタッフ全体を成長させていく。

「肝心なのはコミュニケーションをきちんと取ること。それまで指示されてきたのに、いきなり自分で判断しろと言われてすぐに納得できる人間はいません」と星野氏は言う。スタッフ各個人の希望や不満と向き合い、自分の考えを伝え、現場からの意見もしっかりと聞くことも大事だ。

現場で誰がどう思っているかは聞いてみなければわからない。こうしたコミュニケーションを日常的に行う上で、KITで学んで、得た自信が大きかったと星野氏は言う。

「経営に関して自信がなかったときは、言葉にも自信のなさが表れて相手にうまく伝えられない、ということがあったと思います。自信があれば、自然と相手に納得してもらえる言葉になります」。濃密なコミュニケーションは確かな信頼関係を築き上げる。

スタッフたちが星野氏の意見に賛同するのも、その関係性があってこそだ。同社が築き上げてきたのは肩書きや立場に依存しすぎない、人間同士の対等な関係性だ。実際に自立型人材は育ってきている。新規事業として始めた施設園芸でのイチゴ栽培は、若いスタッフがチームリーダーとなって、今、必死に取り組んでいるという。

今年で3年目。新しい品目のため、まだ事業としては軌道に乗っていないが、5年目を目途に成果を出そうと励ましているという。

















自らの成長こそが企業の成長につながっていく

同社の現在の販売先はJAが約20%を占め主体となっているが、それ以外にもレストランやスーパーなど独自の販路を模索中だ。営業に関しても積極的な姿勢であり、JALとの共同企画で、人気パンメーカー、メゾンカイザーとのコラボも実現した。

インドネシアから訪れ、国に戻った技能実習生と海外での事業化も検討している。「若い子もお年寄りも外国人もいて、そういうメンバーと一緒にお互い工夫しながら農業ができたら面白い」。そう星野氏は言う。

同社がビジョンとして掲げている「│みんな幸せな社会│人と人のつながりを大切にしていきます」のひと言はまさにそれを言い表している。企業を成長させ続けたいという星野氏の思いは強い。そのためにも学びは必須だと星野氏は言う。

「企業を成長させるためには、経営者である自分が停滞していてはだめ。自分こそ成長していかないといけません。と言っても経営に正解はありません。だから学んで答えを探していくことが成長につながるのだと思います」。

だが、一方で個人の成長にはジレンマもある。自ら工夫する楽しみを見出したスタッフたちは、独立したいという思いを抱きはじめるからだ。

「せっかく育った人材に出て行かれるのは困りますが、本人の意思を尊重せざるを得ません。だから、ここに残りたい、ずっと働きたい、と思わせるほどの会社の魅力をつくる。それは経営者の実力が問われるところであり、私自身がスタッフよりも先んじて学び続けるしかありません。スタッフたちとは常に真剣勝負です」。

自らが学ぶことで、はじめて人材育成を促すことができる。自立型人材育成を推し進める星野氏の学びは止まることがない。


 有限会社 農園星ノ環
 代表取締役 星野高章氏


 1974年、群馬県生まれ。日本大学農獣医学部農学科卒業後、
 家業の農業に従事。地元で「昭和村に花火を上げる会」に参加
(2009-2014年会長)するなどの活動を経て、2005年同社を設立、
 代表取締役に就任。
 主にレタス・小松菜・ほうれん草などの高原野菜を、社員と外国
 からの実習生と共に生産。
 「世界農業ドリームプラン・プレゼンテーション」実行委員長など
 農業に関わる活動を続ける。群馬県農業法人協会副会長。






学びのポイント
●学ぶことで自信が得られれば、相手を納得させる言葉を使えるようになる
●経営には正解がない。だからこそ、自ら考え、答えを見つけ出す力を養うために学ぶ
●スタッフよりも先んじて学び続ける

COMPANY PROFILE
有限会社 農園星ノ環
住所 群馬県利根郡昭和村糸井6747
創立 1946年
資本金 2000万円
従業員 13名
TEL 0278-25-3323
http://hoshinowa.com/

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