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製造 × 後継者による事業革新 他社の経営資源とつながることでより大きな挑戦が可能となる
技術と人材、取引先を引継ぎ、新市場を開拓する部品メーカー

株式会社河西精機製作所

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突然、舞い込んだ「ある会社を買い取ってくれないか」という依頼に、河西精機製作所社長の河西克司氏は即決したという。直接は知らない会社だったが、その会社の価値をよく知っていたからだ。一瞬のタイミングを逃さず、引継いだ結果、同事業は黒字化に成功。同社にとって異分野への進出の足がかりとなった。スピーディーに決断できた背景には、長年におよぶ意識改革、リーマン・ショックを機に行った収益構造の改善があったという。「パートナーシップを結ぶのと同じ」という河西氏に、事業引継ぎのポイントをうかがった。

事業引継ぎを即決超短期間で事業再開

削るのが難しいと言われる金属「難削材」の加工をはじめ、焼き入れしたステンレスを100分の1ミリ単位で加工するなど、精密な切削加工技術を持つ株式会社河西精機製作所(長野県諏訪市)。主力製品は通信機器などに使われる同軸コネクターで、国内外から高い評価を得ている。現社長の河西克司氏は二代目で、1996年に社長に就任。以来、約20年、「挑戦する組織」づくりを続けてきた。

「ピンを作り、小さな穴を開け、ギアを切る。この3つの技術が当社の強みです。この強みをどういうことに使えるか。同じ部品を作り続けるだけでは社員も会社も成長しません。新しいことに挑戦していく組織風土を築いてきました」。

技術のブラッシュアップや販路開拓など新たな挑戦を続けてきた結果、バブル崩壊後、低迷していた同社を立て直すことに成功。売り上げ8割減となったリーマン・ショック直後の厳しい時期も乗り越え、現在の売り上げは社長就任時の約7倍と成長を遂げてきた。そんな、「新しい挑戦」にこだわってきた河西氏だったからこそ、わずかなチャンスも逃さなかった。成長につながる事業引継ぎの機会を得たのは2013年のこと。きっかけはあるクライアント企業からの突然の依頼だったという。

”自己破産を申請している取引先企業が近隣にある。80代の社長は体調も悪く、娘がいるが跡を継ぐ意志はない。実は、その会社に部品を発注していて、その納期が迫っている。納品されなければサプライチェーンが止まってしまう。河西さんのところでこの会社を救済してもらえないか……。” 

その企業とは直接の接点はなかったが、河西氏は、会社名を聞いてすぐに思い当たったという。普段から行っていた情報収集の中でアンテナに引っ掛かっていた企業だったからだ。自動車部品の設計や組み立てを手掛ける会社で、技術も高く、何よりドイツの大手自動車部品メーカーとのサプライチェーン契約を直に結んでいる。売り上げこそ大きくないものの河西氏は関心を寄せた。

「自動車部品は当社が手掛ける電子部品とは異なる加工のノウハウや技術、認証制度への対応が必要となります。一から取引先を開拓するのも時間がかかる。確かな技術を持つ人材と、大手との取引口座を引継げるというのは大きな魅力でした」。

河西氏は引継ぐことを即断した。クライアントから依頼があったのが金曜日の夜。土日をかけて公認会計士やコンサルタントに協力してもらい、関係者と折衝。従業員5名と切削機械、そして取引関係を引継ぐことの合意を取り付けた。翌月曜日には準備を整え、火曜日には5人の社員たちの元、操業を開始するという超短期間での事業引継ぎとなった。納期間近だった仕事も無事に納品、サプライチェーンの継続も保たれた。

その会社は、現在、河西精機製作所の一事業所として稼働している。規模こそ小さいものの、引継ぎ後の5年間、業績は黒字を保っている。日常のマネジメントは、基本的に現場の5人に任せているという。

「引継ぐ時点ではもちろんわかりませんでしたが、残った5人はみんな優秀な人材。事業引継ぎがうまくいくかどうかはやはり人次第です」。

社内の意識を変えた米国企業による難しい注文

同社の創業は1956年。大手メーカーの技術者だった父親の河西善治氏がオルゴールの部品製造を請け負う仕事で独立したのが始まりだ。その後、63年に法人化。その頃にはオルゴールの仕事はすでになく、文具やペン先、ギターの糸巻き、ライター部品などの製造へと転換していたという。さらにその数年後には、現在の主力である同軸コネクターの部品製造を受注。主な顧客は官公庁。いわゆる「予算もの」と呼ばれる仕事を得たことで業績を拡大し、80年代には60人近くの従業員を抱えるまでに成長したという。

父親の会社のそんな発展を横目に見ながら育った河西氏だが、積極的に継ぎたいわけではなかったという。「いずれ自分が継ぐことになるとは思いつつ、なんとなく先延ばししようと」、大学卒業後は東京の会社に就職。4年間勤めた後、米国に留学した。同社に入社したのはそれから2年半後。経営修士号を取得した1988年のことだった。業績拡大の真っ最中に家業に戻ってきた河西氏だったが、会社の様子を見て、すぐに強い危機感を抱いたという。

「つくれば売れる時代。取引先も官庁などなので競争もない。社内には新しいものに挑戦するという意識がなかったのです」。

まずは率先垂範、と河西氏は米国の企業に積極的にアプローチを行い、ある大手通信機器メーカーから1つの依頼を取りつける。防災システムに組み込まれる通信機器のコネクターの製造だった。

だが、ここで問題が生じる。米国の企業から指定された素材は難削材。引受けたはいいものの、社内では職人たちの反発も大きく、途中で退社していく職人も少なくなかった。当時の社員たちは高いスキルを持っていたが、新しいものに挑戦したがらなかったからだ。

それでも、残った職人たちで試行錯誤しながら開発を続け、受注から3年後ようやく取引先の求める品質に到達した。これが大きな成功体験となり、社内の意識も大きく変わったという。20代の若い職人たちにベテラン技能者が気軽にアドバイスを与える、といった光景が工場内でしばしば見掛けるようになった。

「常に新しいものに挑戦し、高い技術でそれに応える。ものづくりの精神が根付き始めたと感じました」。

リーマン・ショックでは売り上げが8割も落ち込み、従業員の半数近くもの大幅な人員削減を余儀なくされた。絶望的な状況の中で、河西氏はこれを機と捉え、収益構造を見直し、利益を生み出す体質へと改善を図ったという。

「過去のしがらみや付き合いで続けて来た仕事の中には、単価が低すぎて利益が上がらないものが多くあったので、そういう仕事を全部、断って行きました。収益構造の改善にここで着手しておかなければ次の成長は望めないと考えたからです。ですので、実は、売り上げ8割減の中には自発的に減らした部分も相当あります」。























パートナーと夢を結ぶ新しい事業引継ぎの形

挑戦する組織づくりと収益構造の改善。経営基盤が強化された同社にとって、今後の課題は、スピーディーに事業の幅を広げていくことだと河西氏は言う。

「そのために、今、いくつかのパートナー企業と業務提携や技術提携を行い、新事業を進める計画を立てています。事業引継ぎもその手法の一つ。"買収する"というよりは、他社とパートナーシップを結ぶという感覚です」。

パートナー企業と提携で生まれる新事業には、業績を伸ばすこと以前に、事業としての継続性や自分たちにとって夢があるかどうかを優先するという。そこで重要なのがお互いの技術。相手がどんな技術を持っているのか。何をやりたいと考えているのか。自社の技術とどう結びつくのか。自社がやりたいものは何なのか……。

「自社の事業だけを考えていてはなかなか先が読めないものです。だから、少し俯瞰して他の会社を見てみる。そうすると、こういう技術があればこういうことができるな、といったアイデアが浮かんでくる。普段からアンテナを張っておき、そんな技術を持っている企業を探しています」。

同社の持つ「ピンを作り、小さな穴を開け、ギアを切る」の三つの技術とパートナー企業の持つ技術を掛け合わせれば、医療や自動車など、さまざまな市場に可能性が広がると河西氏は言う。

「もっとも突き詰めれば、会社の価値は”人”で決まります。高い技術を持っていても、それをより極めようという意志や、新しいチャレンジをしてみようという思いがなければ、提携しても長くは続きません。これは相手にとっても同じことでしょう。提携先に選ばれる会社になるため、"挑戦する組織づくり"は今も継続中です」。


























成長のポイント
●新しいことに挑戦することを是とする組織風土を築いておく
●売上・利益を増やすことよりも、事業領域の拡大と継続性、「夢があること」を重視する
●相手企業の人材と思いを共有できるかどうかを見極める

 株式会社河西精機製作所
 代表取締役社長 河西 克司 氏


 1959年長野県生まれ。
 大学卒業後、メーカー勤務。
 1986年より米国留学し
 1988年に経営修士号を取得。
 同年河西精機製作所に入社。
 1996年より現職。





COMPANY PROFILE







株式会社河西精機製作所
本社 長野県諏訪市中洲4720
電話番号 0266-52-1375
設立 1963年(創業1956年)
資本金 1500万円
従業員数 80名(非正規雇用含む)
URL http://www.kasai-seiki.co.jp/

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