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製造 × イノベーションによる成長 「できないこと・しないこと」を明確化する ワイヤーカット加工専門会社
〈うまい・はやい・やすい〉の実現にすべてを集中する

株式会社吉原精工

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「残業ゼロ、社員年収全員600万円以上、ボーナスは100万円を年2回」として話題の町工場、吉原精工。ワイヤーカット加工を専業とする同社が採ったのは、極端とも言えるほど徹底した一点集中戦略だ。「集中すべき一点以外は全て無駄」として、それらを排除していった手法と、根底にある経営哲学について、同社取締役会長の吉原博氏にうかがった。

「安さ」で差別化するため、加工素材は手配しない
 
「働き方改革」が叫ばれるなか、残業ゼロ、年収600万円以上、ボーナス100万円を年2回、という好条件が話題となり注目を集めている会社がある。従業員数7人の小さな町工場、吉原精工(神奈川県綾瀬市)だ。

好条件での雇用を可能とする収益力の根源は、同社が本業であるワイヤーカット加工に特化していることにある。ワイヤーカット加工とは、ワイヤーに電流を流し、放電させた熱で金属素材を溶かして切るという手法。精密さを要する加工に適していると言われている。

現在、同社は日本全国、約500社と取り引きしており、自動化専用装置部品をはじめ原子力関連用部品、医療関連用部品など様々な案件を抱えている。

「当社のような下請けの製造業にとって、〈うまい・はやい・やすい〉、は基本。しかし、『うまい』『はやい』はできて当たり前。うちで工夫ができるのは『やすい』部分。ここで他社との差別化をしているのです」。

こう語るのは同社会長の吉原博氏。高品質と納期スピードはもちろん、どれだけ安く顧客に提供できるか──。この一点にすべての経営資源を集中させるため、様々な工夫を行っていることが同社の特徴である。

例えば、その一つが、加工素材を手配しないと決めていることだ。業界慣習的には、顧客から金属素材の調達から依頼され事業者はそれに応じるというのが一般的だ。しかし、同社の場合は顧客に用意してもらい、同社工場に送ってもらうことを条件としているのだ。

「金属の手配や在庫管理をする手間やコストを省くためで、こうした工夫の積み重ねの結果、概ね他社より3割安い価格で加工しています。当然、材料費や送料は顧客が負担することになりますが、その費用を加えても、この業界の一般的な価格よりも安い」(吉原氏)。

実際、九州や北海道など遠方の顧客が近場の事業者ではなく、送料を負担してまで素材を送ってくる。同社の〈うまい・はやい・やすい〉仕事が支持されている証左と言えるだろう。

















できないこと・しないことをあらかじめサイトで告知する
 
素材の手配をしないということ以外にも、同社は「できないこと・しないこと」を「ごめんなさい」として、“その1”から“その9”まで定めており(囲み参照)、あらかじめ自社サイトで、次のように告知している。

当社はワイヤーカット加工のみに特化した「異状」な会社です。下記のごめんなさいは、さらなるコストダウンを追求した結果です。ご理解の程お取り引きお願いいたします。





















一風変わったサイトをつくった理由について吉原氏は次のように語る。

「他社のホームページを参考にしようと調べたところ、どこも仕事をもらいたいために、『これができます』『あれもできます』と自分の会社を大きく見せようとしている。そこで逆に、ワイヤーカット加工に関係ないことはしないと開き直ることにしました。安くていいものをつくる。これだけしっかりやっていれば、わがままを言っても注文は来るという自信がありました」。

同社が「ごめんなさい」として断っている9項目は、すべて〈うまい・はやい・やすい〉を実現する上でマイナスになる仕事だ。

例えば、前加工・後加工(その1)や微細加工(その6)、大物加工(その7)などを引き受けないのは、「そうした注文は頻度が少なく、設備投資に見合った売り上げは立たないから。他社と協力して共同受注したり、仕事を回し合ったりする方法もあるが、納期管理など他社とのコミュニケーション業務に時間がとられてしまう」(吉原氏)。

金型関係(その5)の仕事を受けないのは、納期が短い仕事が多く、効率的に機械を回したり人手を割いたりするのに支障が生じるからだ。また、金型関係の仕事は一回きりということが多く、リピートの注文もほとんど見込めないという。

集配や集金を行わないのは、なるべく本業に専念するため。「距離が近いと『集配や集金に来てほしい』と要請されやすいので、あえて神奈川県内の企業は営業しない」(吉原氏)という徹底ぶりだ。もっとも集配・集金を行わないことを了解した上で注文してくれる場合はその限りではない。

このような「ごめんなさい」の告知を始めた当初は、「おまえのところは殿様商売か」と文句を言われたこともあったが、「安くするためには、無駄な部分は徹底して省かなければいけない」と、吉原氏は全くに気に留めなかったという。

むしろ「ごめんなさい」をサイトで告知したことで、ワイヤーカット加工を必要とする全国の顧客にアプローチできるようになり、サイト立ち上げからすぐに新規顧客からの注文が増え、その多くはリピーターとなっているという。そのため、現在、同社には営業職は必要ないという。

サイトでの受注が成功しているのは、「ごめんなさい」を告知しているからだと吉原氏は分析する。「単に、『うちは安い』と言ってもお客様は『品質が悪いのではないか』と疑います。『ごめんなさい』の数々は、無駄を省いて本業に特化しているから安いのだ、と納得してくれる。だから安心して発注してくれるのでしょう」。

現在の年商は1億4000万円。バブル時代のピークからすると半減しているが、リーマンショック以降は、増収増益を継続中。ここ数年はボーナス100万円を年2回支給することができるようになった。
 
「楽して儲ける」視点こそ効率化の極致
 
吉原精工は1980年の設立。ワイヤーカット加工の技術者だった吉原氏が30歳の時に独立して起こした会社だ。その後、順調に業績を伸ばしたがバブル崩壊以降、仕事が激減。経営状況が悪化していった。今でこそ独自の一点集中戦略を行っている同社だが、当時は「何か儲かることをしないといけない」と様々な事業を行っていたという。

ある時は、事業の幅を広げようとレーザーカット加工機を導入したが、「当時は機械の性能がものすごいスピードで進化しており、せっかく導入した機械も、1年も経てば競争力を失ってしまう」(吉原氏)と数年で断念。また、マグネット看板制作販売事業や自動販売機ビジネスにも手を出したが、いずれも大きな成果を得られず撤退した。

そんな中、本業であるワイヤーカット加工にこそ可能性があると気づいたキッカケはテレビのCMだったという。

「古本屋がブックオフに、水道工事屋がクラシアンに……といったように、昔からある町の○○屋さんが全国展開のビジネスに発展している。であれば、うちも可能なのではないか。もう一度、本業を突き詰めてみようと考えたのです」。

それからは機械の稼働率や社員の生産性を意識するようになり、何に支出しているか、社員はどんな動きをしているのか、現場の一つひとつを観察し点検。無駄を省いていくうちに、現在の経営スタイルにたどり着いたという。

吉原氏の経営の根底には「楽して儲ける」という考え方がある。苦労して儲けるのは当たり前。楽して儲けることこそ、経営者の役割だというのだ。

「『楽をしたい』と言うと嫌な顔をされます。でも、これが効率化の極致です。この発想があるからこそ、徹底して無駄なものを排除していくことができたと思います」。

現在、同社にはほとんど残業がない。それでも高い業績を上げ、仕事が回っているのは効率的な運営ができているからに他ならない。効率化して生み出した時間は、より〈うまい・はやい・やすい〉を向上させるために活かしている。例えば、同業他社が通常行わない研磨作業を一手間加え、きれいに仕上げることで品質向上に努めている。

また、納期や所要時間も異なる様々な案件を効率よくこなすために、現場の社員たちは日々、知恵を絞り、最適な段取りをして機械の稼働率を高めている。

「以前のように一日中、単純作業で働きづめだと、社員たちも知恵を出そうという気になりません。質の高い仕事をしてもらうには、定時には帰る環境をつくることと、業界水準より高い報酬を支払うことは不可欠です」(吉原氏)。

同社の一点集中戦略は、単に生産性向上だけでなく、営業戦略、人材活用と多岐にわたって効果を生んでいる。ワイヤーカット加工に絞り、その中でも“儲かる仕事”に特化するために、〈うまい・はやい・やすい〉という本質以外は極端なほど削ぎ落とす。それが、現在の同社の躍進につながっていると言えるだろう。

 
 

 日本全国約500社と取引をしている。
 自動化専用装置部品をはじめ
 原子力関連用部品、医療関連用部品など
 様々な案件を抱えている
 


一点集中戦略のポイント
●集中すべき一点を定める
●集中すべきこと以外は全て無駄。徹底的に削ぎ落とす
●「楽して儲ける」には、という視点で効率化を進める

 

 株式会社吉原精工
 会長 吉原博 氏
 
 1950年鹿児島県生まれ。
 高校卒業後、電機会社に勤務。
 その後、商社や金型製作会社を経て、
 1980年に同社を創業。
 2015年より現職。





Company Profile
株式会社吉原精工
 
住所 神奈川県綾瀬市上土棚北4-11-5
TEL 0467-78-1181
資本金 1000万円
売上高 1億円4000万円
従業員数 7名

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