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製造 × 強い組織づくり おもてなしの心でくつろぎを提供するパン製造販売店
売り上げの3分の2を捨て、焼きたてパンに特化する

株式会社ピーターパン

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地域でダントツの売り上げを誇り、多数のメディアでも紹介されるなど、注目を集める株式会社 ピーターパン(パン製造販売企業)。同社が成功に至るまでには、どのような経営判断があった のか。「集中とは捨てること」と説く、創業者の横手和彦会長に話をうかがった。

焼きたてパンを通して「庶民的な贅沢」を提供

ヨーロッパのログハウスを思わせるような雰囲気の店舗で、焼きたてパンを製造販売し、人気を博しているのが株式会社ピーターパン(千葉県船橋市)。現在同社は、千葉県内にロードサイド型を5店舗、駅内型を3店舗営業している。2016年度の売り上げは20億円に迫る勢いで、営業利益も2億円を超えた。どの店舗も、平日の昼間から行列ができるほどの繁盛ぶりだ。

「毎日のくらしに、ちょっと贅沢、ちょっとおしゃれな食文化を提供する」をモットーにした同社は、地元での人気の高さはもちろんのこと、埼玉や神奈川といった他県などから訪れるリピーター客も多い。メインのターゲット層は専業主婦で、子供連れで来店することを想定している。店名のピーターパンも、子供を大切にするという意味合いから付けられた。

店舗のコンセプトは「庶民的な贅沢」。ふだん着で同店を訪れても、ちょっとお洒落な気分になれるような店をイメージしている。店舗の外観がログハウス風なのもそのためだ。提供するのは、超高級でもなく、廉価で販売されるものとも違う「美味しい焼きたてパン」。「焼きたて」を「焼き上がり後30分以内」と定義し、その実践にこだわっている。

オープンテラス併設の店舗では、無料でセルフサービスのコーヒーを提供している。これも、焼きたてパンをすぐに食べてもらいたいというこだわりゆえだ。焼きたての商品を提供するには、在庫の管理が必須となる。商品が品切れにならないように常に気を配る一方で、売れないまま時間が経った商品を出さないようにしなくてはならない。同社では製造員と販売員が密接にコミュニケーションをとることで、この問題を解決している。

販売員は客一人ひとりの動向に目を配り、「カレーパンの残りが何個になりました」「もうすぐ何個上がります」と、状況を逐一製造スタッフに伝える。製造スタッフは知らされた状況に臨機応変に対応する。このような「マニュアル頼みではないスタッフの対応が、おもてなしの心に満ちた店の雰囲気を生み出しています」と、創業者である取締役会長の横手和彦氏は語る。

「パンが美味しいとよく言われますが、わが社レベルのパン屋さんは珍しくありません。品質がトップレベルというだけでは差別化はできません。それよりも、店のムードが重要です。製造員さん、販売員さんら社員が醸し出す『お迎えの気持ち』に満ちた店の雰囲気が、お客様に受け入れられているのだと思います」。

実際に、横手氏が言う「おもてなしの心」が多くの客を惹きつけている。毎日通う常連の客を生み出し、店舗が地域のコミュニティハブの役割を果たすまでに発展していることは、その証拠と言えるだろう。
















売り上げのメインを占めた宅配ピザ事業からの撤退

同社はいまでこそ順調に売り上げを伸ばしているが、パン屋として成功に至る道のりは簡単なものではなかった。創業は1977年。翌年、焼きたてパンの店「ピーターパン」本店をオープンした。その後、事業の中心は、新規に始めた宅配ピザ事業へと徐々に移っていく。

1998年には宅配ピザ店は7店舗に増え、売り上げの3分の2を占めるほどになっていた。ちょうど大手フランチャイズから脱退し、自ら5店舗でチェーンをつくり上げた時期だった。

「当時、成長拡大を目指すためにも宅配ピザ事業は欠かせませんでした」と横手氏は振り返る。「パン屋の方は職人さんに任せっ放しで、私はピザの方に全関心を向けていました」。

さらなる規模拡大を睨んだ横手氏は、一年間ビジネススクールに通い、宅配ピザを中心とした経営計画を立てた。しかし、社員の多くはその計画に関心を示さなかった。自社店舗の近所に大手チェーンが出店してくるなど状況も悪化し、売り上げも落ちていた。

そんな矢先、ある事業計画の発表会に出席すると、他の参加者から「こんな美味しいパンを作っているなら、宅配ピザの方は止めたほうがいい」と忠告を受けた。宅配ピザ事業から撤退すれば、売り上げは3分の1と大幅に減る。規模拡大の夢も諦めなければならない。

「そんなことできるか! と頭に血がのぼりました」(横手氏)。

一方で「ブームが去りつつある宅配ピザ事業を、今後も重点的に推進するのが正解なのか」という疑念も浮かんだ。宅配ピザとパン屋のどちらも中途半端になるのではと不安もあった。当時54歳だった横手氏は、今後10年のビジネス人生をどう送りたいか初めて振り返ってみたという。

頭に浮かんだのは、創業当初「美味しいパンだね」と毎日買いに来てくれた常連客の顔だった。これを機に、横手氏は成長拡大路線から「顧客とのふれあいを大切にしよう」という方向へと舵を切り直した。お客様の顔が見えない宅配ピザ事業よりも、お客様と触れ合えるパン屋のほうが企業理念に合っていた。

理想のパン屋を模索し始めた横手氏は、ある料理研究家の言葉と出会う。それが「ちょっと贅沢で、ちょっとお洒落な食文化を提供するパン屋」だった。社内で提案すると、みな賛同してくれた。横手氏は理想のパン屋の経営へと集中する決意を固め、翌年の1999年、宅配ピザ事業から撤退。現在のピーターパンの原型とも言える「小麦工房」をオープン。売り上げの3分の2を放棄する大きな決断だった。

「集中するということは、イコール何かを捨てるということです。集中するもの以外は切り捨てるという決断は、私は早かったです」(横手氏)。


 天然酵母使用などこだわりのパン











 無料で飲めるセルフサービスコーヒー










「集中」がもたらしたスタッフの意識の変化

「お客様がにこにこしながら買い物に来てくれるお店、従業員が楽しく働きながらお迎えできるお店にしたい」(横手氏)という経営姿勢は、さまざまな面で同社の変化を生んだ。

まず、横手氏自身の価値観が大きく変わった。規模拡大から、いま目の前にいるお客様を大切にするという顧客第一主義の意識へ。求める人材も、ビジネススキルの高い「優秀な人」から「親切な人」へシフトした。

手間暇をかけた美味しいパンを作りたい。笑顔でお客様をお迎え・お見送りするパン屋にしたい。そうした顧客重視の姿勢は、現場のスタッフの希望でもあった。その実現のため、トップダウンだった経営を、社員全員参画型に変えた。社員の意識にも変化が起こり、各自が自発的に行動するようになった。

スタッフが自分たちの仕事に対して誇りを持つようになったことで、店の雰囲気も明るく活気づいた。毎週木曜日に「何のために働くのか」をテーマに、有志を集めて講習会を開催するようになった。講師を呼んだり、社員が講師を務めたりするこの会には、多い時には50名ほどが集まり、スタッフそれぞれが目指す将来についてなどを話し合う。講習会を通して、社員の意識は確実に向上していった。

「価値観を教育し、オペレーションは現場に任せるように心がけた」と横手氏は語る。講習会は現在も続けられており、企業理念を社員に浸透させるのに一役買っている。経営は順調に進み、2000年の時点と比較して、売り上げは10倍以上に伸びた。

同社は規模拡大を目標としないことで、逆に大きく規模を拡大させることに成功したともいえるが、現在も横手氏は「規模拡大は考えていない」と言う。各地から出店の要望があっても、千葉県外には手を広げない。生産性に関しても、声高に求めることはない。あくまでも理想のパン屋経営に集中していく方針だ。経営の中心となるのは、変わらず顧客第一主義である。

「自分の都合はお客様にとっては不都合。自分には都合が悪くてもお客様の都合に合わせれば、お客様は来てくれます。それは自覚しておかないとできません」(横手氏)。

集中のために、ときには利益を生む事業でさえ捨てる。創業理念を貫く集中の姿勢が、同社をさらに成長させている。

 株式会社ピーターパン
 取締役会長 横手和彦氏


 Profile
 1943年広島県生まれ。地元信用金庫を2年余りで退職。27歳で東京・
 青山に飲食店を開業。その後33歳でパン業界に転身し、1978年に
 「ピーターパン」を創業。現在は船橋、市川(千葉県)などで8店舗を
 展開。2016年4月、同社取締役会長に就任。




一点集中戦略のポイント
●目先の利益にとらわれず企業理念に沿う事業に集中する
●顧客第一主義に徹して「おもてなしの心」で経営する
●スタッフの意識改革をもたらす人材教育を実施する

 Company Profile
 株式会社ピーターパン
 住所 千葉県船橋市海神3-24-14
 TEL 047-410-1023
 資本金 1400万円
 売上高 19億6000万円
 従業員数 正社員124名、
 パート・アルバイト260名

 http://peaterpan.com/

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