3分で読める「現場を変えた社長の一工夫」

ビジネスサミットOnline » 現場を変えた社長のひと工夫 » 品質を武器に航空・宇宙分野に進出成長を続ける部品メーカー

製造 × 後継者による事業革新 顧客からの評価をキッカケにV字回復
品質を武器に航空・宇宙分野に進出成長を続ける部品メーカー

株式会社由紀精密

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

由紀精密は従業員35人の町工場。航空機や人工衛星に用いられるものなど、高い精度と品質が求められる部品を製造し、着実に業績を伸ばしている。しかし、ほんの10年前には、受注の減少から倒産してもおかしくないほど苦しい状態だった。そんな同社をV字回復に導いたのが三代目社長の大坪正人氏。事業再生のカギは取引先へのアンケートにあった。

会社存続の危機から強みを伸ばして立ち直る

由紀精密は1950年創業(61年設立)の部品メーカーだ。長年培ってきた切削加工技術を活かし、高い品質・精度が求められる航空・宇宙分野や医療分野で業績を拡大、今、注目を集めている企業だ。

しかし、約10年前は、減る一方の仕事に厳しい経営を強いられていた。状況が好転したのは、後に同社三代目社長となる大坪正人氏が入社した2006年以降のことだ。

同社は大坪氏の祖父が創業した会社で、当初はネジの製造からスタートした。事業が大きく拡大したのは80年代。公衆電話の部品を手掛けるようになり、業績は伸長した。しかし、その後、携帯電話の普及もあり、徐々に受注が減少。

その少し前から手掛けていた光コネクタの部品に主軸を移そうとしたものの、大きな受注には結び付かず、仕事は減少の一途をたどった。売り上げは1991年の2億5000万円をピークに徐々に下降線を描き、大坪氏が入社した頃には、1億円を切るようになっていた。

大坪氏は大学を卒業後、当時、ITの技術を駆使した製造ベンチャー企業に就職。3次元CADにいち早く注目し、大手メーカーへの導入・立ち上げ、3次元プリントサービスなどで業績を伸ばし、携帯電話機の試作金型では世界シェア1位となった企業だ。

大坪氏は入社1年目から開発部に配属され、工場の立ち上げや関連会社の経営再建に携わるなど、忙しい日々を送っていた。そんななか聞こえてきたのが家業の苦境だった。

「もともと継ぐ気はありませんでしたが、このままでは倒産してしまう。そこで大きなプロジェクトが一段落したのを機に勤めていた会社を辞め、由紀精密へ入社することに決めました」。
























自社の強みを知るため取引先にアンケートを実施

事業を立て直すために、大坪氏はまず、会社のことを知らなければならないと考えたという。

「事業を続けるには何かを売らなければならない。何かを売るには、お客様にアプローチしなければならない。その時、お客様に自社の何をアピールすればよいのかがわからないとアピールもできない。つまり自社の強み・弱み、特徴を把握することから始めなければならなかったのです」。

ところが、その当時、自社の強みは何かを社員に訊いても分からなかったという。それまでは取引先から図面を渡され、その通りに作っていた。クレームが来ることもなければ、褒められることもない。そのため、自社の何が優れているのかを意識する機会もなかったのだ。

当時は大口の取引先2社からの受注が7割を占めており、営業部門や営業専従の人材もおいていなかった。営業に出て自社の評価を聞く機会もなかったのだ。そこで大坪氏は取引先へのアンケートを行い、由紀精密の仕事について評価をもらうことにした。

「品質」「納期」「コスト」に関する約20項目を書き出し、それぞれ5段階評価をしてもらうというものだ。相手の負担にならないようにA4用紙1枚に収め、これを大口2社をはじめ、その関連会社や過去に取引のあったところなど10数社にファクスで送り、回答してもらった。返ってきたアンケートの結果を見てみると、寸法精度、表面品質、部品洗浄など「品質」に関する項目で高い評価を得ていることが分かった。

「アンケート結果は全社会議の場で社員に伝えました。今まで、こういったフィードバックは行われていなかったので、気付きにはなったと思います」。

ちなみに、このアンケートは現在でも2年に1回のペースで続けている。質問項目を変えずに、前回と比べて良くなった点、悪くなった点を確認するための、いわば成績表のようなものだという。悪くなった点はすぐに改善する。それを繰り返してきたため、今では前回に比べて評価が悪くなる項目はほとんどないという。

もっとも、アンケートだけで自社の強みを確信したわけではない。大坪氏は由紀精密に入社してから約2年間、製造現場で技術を学んでいる。実際に加工して、モノづくりの難しさを経験したのだ。同時に機械や材料、どんなメーカーがどんな機械をつくっていて、どこに売っているかといった知識も身に付けた。それらの経験や知識も加えて、自社の強みは「品質」にあると判断したのだ。



















「品質」を強みに新分野に進出

自社の強みを「品質」と見極めたのち、これをどう活かせばよいか。大坪氏はすぐに航空・宇宙分野や医療分野へ進出することを決断する。同社の規模は決して大きくはない。そのため大量生産は難しい。少量生産で高い品質が求められる分野となると「必然的にこれらの分野になる」(大坪氏)からだ。

航空・宇宙分野や医療分野というと微細な加工や、高度な寸法精差といった製品の品質を求められるように思うが、そうした意味での品質ではないと大坪氏は言う。

「オンリーワンとか、ナンバーワンとか、他社にはない技術を持っているということではありません。たとえば製品の表面上にできたちょっとしたキズを見逃さずチェックする、きれいに仕上げるといった、要するに丁寧につくることができるということです」。

そうした生産プロセスを同社は「強み」と気づかず、実践していたのだ。自社の強みをどう発見するかというときに、必ずしも他社と比較して「一番でなければ強みではない」と考える必要はないと大坪氏は言う。

「たとえば市場規模が1兆円だとすると、当社のような規模の企業なら、そのうち数億円も取ることができれば十分。何割ものシェアは必要ありません。極端な話、1社の良い企業と巡り合えれば、十分な利益が得られます。何万社もある他の企業と比較して、強いか弱いかを考えるよりも、あくまで自社にとっての強みは何かを考えることが重要です」。

もっとも丁寧な生産プロセスを実践していたとしても、それだけでは航空・宇宙分野や医療分野には進出できない。これまでのやり方をマニュアル化し、品質管理に関する国際規格であるISO9001の認証を取得、さらに航空・宇宙関連の機器を製造するために必要な品質管理規格であるJISQ9100の認証を取得した。こうして航空・宇宙分野に進出への準備を進めていった。

一方で大坪氏はさまざまな展示会に出展し、品質をアピールしていった。その結果、興味を持つ企業が次第に増えていき、同社の業績は回復してくことになった。リーマンショックの際には一旦、業績を落としたが、その後は売り上げを年々約10%のペースで伸ばしており、現在は低迷期の4倍になっている。現在は大きな伸びが期待できる医療分野により力を入れている。今後は「100年企業」と、いずれは上場も目指したいと大坪氏は抱負を語る。












強み発見のポイント
●自分でわからなければ顧客に聞く
●現場を経験し、自社の技術や生産の仕方を洞察する
●他社と比較して一番でなくてもよい。自社にとっての強みは何かを追求する

 株式会社由紀精密
 代表取締役社長
 大坪正人氏


 Profile

 東京大学大学院、産業機械工学修了、ナノテクノロジーを学ぶ。
 卒業後(株)インクス入社、金型技術、工作機械設計、2つの
 工場立ち 上げ、企業再生コンサルティング等を行う。
 2006年10月より由紀精  密入社。2013年11月に社長就任。
 100年企業を目指し、日々新しい 事にチャレンジしている。














Company Profile

株式会社由紀精密
住所 神奈川県茅ヶ崎市円蔵370
TEL 0467-82-4106
資本金 3500万円
売上高 4億2000万円
従業員数 35名
http://www.yukiseimitsu.co.jp/

記事の絞込

■業種
■カテゴリー

業種

カテゴリー