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製造 × 後継者による事業革新 創業150年の蔵元で、新酒造りに挑戦
新しいチャレンジにより 伝統を守り続ける

滝澤酒造株式会社

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江戸時代末期に創業した蔵元の6代目が、杜氏として今までにない新酒造りに挑戦、2016年6月、見事商品化に成功。そして、17年10月、代表取締役に就任。伝統産業において、職人気質の強い杜氏と収益性を求める社長業という二足のわらじで事業を展開する滝澤氏に、その思いを語ってもらった。

低迷する日本酒市場で新酒で復活する酒造メーカー

2016年6月、スパークリング日本酒「菊泉ひとすじ」が発売され、ここ1年間で約2000本を販売し、手応えを感じていると話すのは、滝澤酒造代表の滝澤英之氏だ。

新酒開発のきっかけは、酒造りの修業中、発酵途中のもろみを口にした時、プチプチした炭酸感が残りながら甘酸っぱい味わいがあり、その発酵途中のものを商品化したいという杜氏の思いがあった。また、日本酒需要の減退で売り上げが低迷、スパークリングというインパクトのあるものを造ることで日本酒の間口を広げ、本格的な日本酒を飲んでほしいという経営的な課題解決の狙いもあった。

最盛期の昭和50年代の同社の売り上げは約1億5000万円。スパークリング日本酒の開発に取り組みはじめた11年ごろには同8500万円(営業赤字)まで減少していた。その後、売上高は一進一退を繰り返し、「菊泉ひとすじ」を発売した16年には、売り上げ9200万円、17年は同1億円と近年は売上げ増加に転じている。18年も2000万円増の同1億2000万円を見込んでいる。

低迷する日本酒市場において同社が復活に転じた大きな要因は、滝澤氏が蔵元の経営者であると同時に、杜氏として新たな商品開発に積極的に取り組んできたことにある。















日本酒の『仕込み』と科学的なメカニズムを学ぶ

滝澤氏が最初に酒造りに携わったのは1995年。東京の石川酒造で酒造りの基礎を教わる。その後、広島の、当時国税庁の「醸造研究所」(現、「酒類総合研究所」)に、研修生として入所。酒造りの仕込みや、科学的な酒造りのメカニズムを学ぶ。「石川酒造での現場仕事の修業、そして醸造研究所での科学的な研究が、今の酒造りの基礎になっています」(滝澤氏)。

最近では、経営者と杜氏を兼ねる蔵元が多くなっているという。これまでは、経営者と杜氏は雇用関係にあり、経営者は経営管理全般、酒造りは杜氏と役割分担されていた。経営者と杜氏を兼ねるようになった背景には、杜氏の報酬が高額で、売上げ低迷期には経費を圧迫、ベテランの杜氏になるほど新酒造りへの取り組みが消極的などといったことが原因だという。

同社もそれにもれず、早くから杜氏修業の経験を積んだ。98年、滝澤酒造に入社し、ベテランの杜氏の指導のもと製造技術を磨いた滝澤氏は、07年、同社の杜氏を引き継ぐ。

「その当時は、大変苦労しました。ひどい酒を造ったり、大失敗というか失敗の連続でした。今となればいい経験になっています」と滝澤氏は話す。というのも、前任の杜氏は、全国新酒鑑評会で4年連続金賞を受賞していた。滝澤氏が杜氏を引き継いだ後、3年ほどは金賞を取れず、「杜氏が変わって味が変わったと言われました」(滝澤氏)。

ようやく味が安定してくると4年目に入賞、それ以降4年連続で金賞受賞、さらに、ロンドンで行われたインターナショナルワインチャレンジという鑑評会で、2年連続金メダルに輝き、杜氏としての地位を築いた。




























仕込みと成分分析を経験し新酒造りの道に歩み出す

11年、同社はこれまでの日本酒のイメージとはまったく異なるタイプの発泡性日本酒「彩のあわ雪」を発売。この商品は、酵母の発酵による自然の炭酸ガスを閉じ込めた微発泡の純米酒だ。この新酒は、これまで日本酒になじみの少なかった女性から人気が広がり好評を得た。しかし、濁っていて泡が見えにくい、見た目がよくない、発泡感が弱いという課題もあった。濁った酒は、海外のコンテストに出品しても評価されず「二流品、三流品としてみなされてしまう」(滝澤氏)ということから、改良に取り組む。

「彩のあわ雪」で培った瓶内二次発酵の技術をもとにフランスで行われている伝統的なスパークリングワインの製造技術に着目。その技法を応用して、透明でかつ発泡性の高い日本酒の開発に着手した。16年6月、甘味と酸味の調和を残しつつ、発泡性を高めた商品の開発に成功。「菊泉ひとすじ」が誕生した。

透明感があり、日本酒の旨味と、きめ細やかな泡による繊細な口あたり、洋食とも合い、新感覚の日本酒だという。商品名は、主要銘柄「菊泉」から、「ひとすじ」は、グラスに注いだ時に生じるひとすじの泡が立つことからと、日本酒醸造ひとすじということから命名した。








杜氏の酒造りへの強い思いを消費者に直接伝える活動に

経営者としては、17年10月、代表取締役に就任したが、それに先立ち数年前から、経営者としての活動も行ってきている。「(5代目の)父親は営業畑の人で、お客様あっての蔵元という考えが強く、私はお客様無視ではないですが、杜氏、造り手の思いをダイレクトに消費者に伝えていきたいという考えがありました」と滝澤氏は語る。事業承継を受け、さらに自身の経営理念を貫いていく考えだ。

消費者への日本酒普及活動では、各地で行われている若い人が集まる日本酒のイベントに積極的に参加している。「それまでは若い人が日本酒を飲むイメージがなかったのですが、需要があることを直接感じています」と話す滝澤氏。

さらに16年11月、スパークリング日本酒を製造・販売している全国の蔵元9社が参集、一般社団法人awa酒協会を発足させ、滝澤氏は副理事長に就いた。同協会では、「スパークリング日本酒」の認定基準を定め、品質向上、そして普及促進活動を行っている。

「日本酒が見直されてきたといえ、まだまだ復活とはいえません。蔵元も小さなところばかりで、一社だけでは活動に限界があります」と協会の意義を話す滝澤氏。また、酒卸、酒屋が減少していることも憂慮している。「新しいことや新しい市場を開拓していく必要があります。伝統を守ることも必要だけれども、新しいことにも挑戦していかないと伝統さえ続かなくなります」と話す滝澤氏だ。

滝澤酒造株式会社
代表取締役社長 滝澤英之氏

「菊泉ひとすじ」を手にする滝澤英之氏(46歳)。
地元の青年会議所理事長も務め、2018年からは深谷商工会議所青年部会長を務めることになっており、業界はもとより、地域の活性
化に力を注いでいる


CompanyProfile
滝澤酒造株式会社
設立1954年(昭和29年)
創業1863年(文久3年)
資本金1000万円
売上高1億円(2017年9月期)
従業員数8名
埼玉県深谷市田所町9-20
TEL048-571-0267
URL http://kikuizumi.jp/
   https://www.kikuizumi.com/
   一般社団法人awa酒協会
   http://www.awasake.or.jp/

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