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大田区の町工場の技術力を世界に発信

公益財団法人大田区産業振興協会 

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3500もの町工場がひしめく大田区。国内を代表する ものづくり拠点として世界に誇る技術力が 結集する町だが、それでも失われた20年の間に 多くの町工場が現場を立ち去って行った。 そんななか、「大田区の産業を盛り上げよう」と 始まった「下町ボブスレー」が脚光を浴びている。 町工場による“つながり”で世界に挑戦する、 このプロジェクトについて 主要メンバーにうかがった。 (株式会社マテリアル 代表取締役 細貝淳一氏 株式会社フルハートジャパン 代表取締役 國廣愛彦氏 (取材協力) 公益財団法人大田区産業振興協会 地域型産業推進課長 奥田耕士氏)

町工場が本気を見せる国産初のボブスレー

用の氷上レーンでソリを押し出して滑走させ、スピードを競う団体競技ボブスレー。最高速度は時速130キロメートルにまで達する競技で、「氷上のF1」と呼ばれている。この競技で使われるソリの名称が「ボブスレー」で、そのまま競技名にも使われている。いわば鋼鉄製のソリであるボブスレーは、前方にハンドル、後方にブレーキを備えたシンプルな構造ながら、空気力学の観点から研究開発が進んでいる。

事実、2010年に開催されたバンクーバーオリンピックでは、イタリアチームがフェラーリ製を、ドイツチームがBMWの協力によって開発されたボブスレーを、使用して活躍している。まさにF1のレーシングカーさながらの厳しい開発競争下にあるのが現状だ。ボブスレーの研究開発が進んでいるのはヨーロッパの企業が中心。そこで、国産ボブスレーの開発という事業に乗り出したのが大田区の「下町ボブスレー」プロジェクトだ。








細貝
「夢があるじゃないですか。町工場がものを作って、オリンピックを目指すって。長年ものづくりに携わってきた我々にとって、それは賭けるに足る夢でした」。

こう語るのは、「下町ボブスレー」の発足メンバーのひとりで、初代委員長を務めた細貝淳一氏。細貝氏はプロジェクトのスタート当初から、開発の方針を決定したり、スポンサーと交渉したりするなど、同プロジェクトの牽引役としてリーダーシップを発揮しており、現在もゼネラルマネジャーとして「下町ボブスレー」を統括している。

町工場の開発力を世界に示す

そもそも「下町ボブスレー」のはじまりは、行政の働きかけだったという。大田区産業振興協会の奥田耕士氏が語る。

奥田「『大田区を盛り上げたい』という狙いのもとに行われた職員提案制度に、若手職員が応募したのがきっかけでした。アイデア賞を受賞したのが、『日本製のボブスレーを作り上げ、オリンピックを目指す』という内容のものだったのです」。

このアイデアのポイントは大田区の町工場が得意とする金属加工技術を活かせること。ボブスレーにはエンジンが搭載されていない。そのため、レーシングカーと違って、金属加工の技術に特化した小資本の町工場の開発力で十分に勝負ができる。大田区の町工場の力を結集し、その力を世界に示そうというのが狙いである。

当時、手掛ける企業が大田区になかったという炭素繊維の技術に注目していた細貝氏は、大田区のまちおこしといった観点に加えて、このプロジェクトを通じて将来性のある技術の探求ができることを魅力に感じ、発足メンバーに加わった。立ち上げ当時の参画企業は15社ほどだったという。

國廣「現在は100社ほどが参加するプロジェクトになりました。そもそも大田区内の企業は、『仲間回し』といって、ひとつの加工品に対して、いくつかの企業がそれぞれ得意とする工程を受け持ち、連携するという習慣があります。でも、参画する企業数が100社超というのは、それとは比べ物にならないほど巨大なネットワークです」。

株式会社フルハートジャパンの代表取締役社長で、現在、「下町ボブスレー」の委員長を務める國廣愛彦氏が語るように、もともと大田区の町工場同士はつながりが強い。「仲間回し」に代表される連携をはじめ、異業種交流会や経営者の会合などが頻繁に行われているという。

國廣「しかし、それらは交流会の要素が強く、セミナーや相談に終始することもしばしば。時には、ものづくりで何かプロジェクトを立ち上げようという話が出ることもありますが、成功した例は多くはありません。『下町ボブスレー』が違うのは、『ボブスレーを作る』という明確なコンセプトがあること。ものづくりをする町工場にとって、これほど参加しやすいコンセプトはありません」。

「撤退」の2文字はない

プロジェクトの発足は2011年12月。それからわずか1年足らずの2012年10月に初号機を完成させている。

國廣「作るものが明確になっていますから、後はそれぞれの技術を活かすだけです。私が初めてプロジェクトに参加したのは2012年に入ってからですが、その時は200枚以上の設計図が用意されていて、そのなかから自分の会社が得意とするものをそれぞれが持ち帰る、といった感じでした」。

完成した初号機は「日本国際工作機械見本市」に出展し、多くの話題を呼んだ。同年12月には初試走、全日本選手権で初優勝を飾るなど、大田区の町工場が生み出したボブスレーは着実に成果をあげ始めた。13年にはソチ五輪用となる2号機・3号機を製作した。ところが、全てが順風満帆なわけではなかった。当初の大きな目標だった、2014年のソチ五輪日本代表から、「下町ボブスレー」製作のボブスレーが不採用になったとの知らせを受けたのだ。

奥田「機体を検証する時間的余裕がないから、というのが理由です。それでも『ソチには間に合う』ことを証明するために、メンバーが奮闘し、検証を繰り返しました。不採用を通知されたわずか一カ月後に、全日本選手権で準優勝という好成績をおさめることができたのは、ものづくりに賭ける町工場の底力であることは間違いありません」。

最終的に日本代表から2度も不採用通告を受けたが、撤退の2文字がメンバーから出てくることはなかった。

細貝「私から『それでも続けよう』と強制したことはありません。必ずメンバーに『どうする?』と聞いています。みんな、本業があるなかで協力してくれているから当然のことです。でも、みんなは『やるべきです』と答えてくれる。技術に自信のある人たちの集団ですから、何か壁にぶち当たっても、『では、どうやったら超えられるのか』を常に考えてくれているのです」。

いよいよ"世界"に乗り出す

プロジェクトメンバーは、ほぼ全員が経営者だ。海千山千の現場を乗り越えた彼らを統率するのは容易ではない。感情が先行して対立し、空中分解するプロジェクトも珍しくはない。しかし、「下町ボブスレー」は、いずれのメンバーも諦めない腹のくくり方をしているという。

國廣「『下町ボブスレー』が他と違うのは、お金が発生しないことです。みんなでモノを作って、儲けを分担しようというプロジェクトではない。基本的に無償でボブスレーを作る、いわば持ち出しの集団なのです。だから、お金でもめることが少ない。むしろ、自分たちが作った最高のボブスレーで自社の名前を売る方が主眼なのです」。

その熱意が通じたのが昨年のこと。国内がダメなら海外で、と交渉を重ねた結果、ジャマイカの代表チームに「下町ボブスレー」が製作したボブスレーの採用が決定したのだ。ジャマイカ代表は、カルガリーオリンピックでの実話をもとにした映画『クール・ランニング』でも脚光を浴びたチームだ。「仲間回し」を通じて近隣の町工場がどんな技術を持っているかは、ある程度把握していた彼らだったが、このプロジェクトを通じて、さらにお互いの理解が深まったという。




下町ボブスレーの開発会議














ジャマイカ代表チームによるテスト走行







細貝「いい技術を持っていたとしても、開発には熱心だけど、PRはそっちのけという町工場は多い。『下町ボブスレー』では大田区の技術力を世界に発信するという目的があるから、みんな出し惜しみなく技術を披露してくれる。『こういうやり方があったのか』という発見がいくつもあった。だから、参加している町工場のみんなにとって、技術の底上げにもつながっているのです」。

ジャマイカ代表の平昌五輪出場が決まるのは、来年1月。現在、彼らの目下の目標は、ジャマイカ代表とともにオリンピック出場と、さらにはメダル獲得を成し遂げることだ。


Organization Profile
公益財団法人
大田区産業振興協会

東京都大田区南蒲田
1丁目20番20号
大田区産業プラザ(PiO)
TEL03-3733-6466(代)
http://www.pio-ota.jp/


Company Profile
株式会社 マテリアル
東京都大田区南六郷3-22-11
設 立 1992年
T E L 03-3733-3915
資本金 2001万円
売上高 10億円
従業員数 30人
http://www.material-web.net/


Company Profile
株式会社 フルハートジャパン
東京都大田区中央3-20-8
設 立 1968年
T E L 03-3776-2126
資本金 1000万円
売上高 8億6000万円
従業員数 64人
http://www.fullheart.co.jp/

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