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サービス・IT × イノベーションによる成長 社会的課題解決を目指した新興企業の挑戦
山岳遭難事故から身を守る新アプリサービスを創り出す

株式会社ヤマップ

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スタートアップ環境の充実ぶりで話題の福岡市。 そのなかでも特に注目されてきたのが 株式会社ヤマップだ。同社の登山・アウトドア 愛好家向けアプリ「YAMAP」(ヤマップ)が、今、急激に ユーザーを増やしており、新たな市場を開拓しようと している。起業に至る経緯とともに、 ビジネスモデルの新規性や今後の展望を 同社代表の春山慶彦氏に聞いた。

圏外でも地図が使えるアウトドア愛好家向けアプリ

「山岳遭難者は年間約3000人。地図やコンパスを持っていても、山で一旦、現在地がわからなくなると大変危険です。そうした事故を少しでも減らそうと開発したのが、スマートフォン・タブレット向けの無料アプリサービス『YAMAP』です」。

こう語るのは株式会社ヤマップの代表取締役社長、春山慶彦氏だ。2013年7月のリリース以来、「YAMAP」の利用者数は急激に増え、今年7月までの累計が約61万ダウンロード、月間ページビュー数は8408万件を超えるなど、アウトドア関連では、今、最も人気の高いアプリサービスとなっている。

「中小企業優秀新技術・新製品賞」ソフトウェア部門・優秀賞をはじめ多くの賞を受賞した。「YAMAP」の特徴の1つはスマートフォンの圏外地域でも地図に自分の位置が表示されることだ。普通の地図アプリの場合、ネットワークにつながっていることを前提に作られているため、圏外では地図自体が表示されなくなる。人の住んでいる地域は基地局が設置されているため圏内になるが、山岳地帯など日本の面積の約4分の3、ほとんどが圏外になるのだ。

「YAMAP」では、ユーザーがあらかじめ地図をダウンロードすることで圏外でも地図が表示されるようにした。これにスマートフォンのGPS機能を組み合わせ、圏内での地図アプリと同じような使い方ができる。登山者が自身の安全を確保するためのナビ機能を持つ先行商品には、専用のGPS機器などがあった。しかし価格は3~10万円もし、一部のプロ志向の登山者向けだった。

「しかも地図として表示されるのは緯度経度の数字だけだったり、別途地図データを購入しなくてはならなかったりと使い勝手はよくなかった」(春山氏)という。それに比べ「YAMAP」は、普段使っているスマートフォン一つで誰でも手軽に扱えるため、一般の登山者、アウトドア愛好者などのファンを短期間に獲得していった。





携帯の電波が届かない山の中でもスマートフォンで
現在位置が確認できる地図アプリ「YAMAP」。
近年社会問題になっている山での遭難・道迷い事故を解決することを目的に開発された




ユーザー同士によるコミュニティ形成

「YAMAP」のもう一つの特徴は、SNS機能によって利用者同士の交流を促進している点だ。利用者は文章や写真を簡単に投稿・閲覧でき、アウトドアの楽しみを他の人と共有したり、使い勝手のよい用具やウェア、登山ルートの状況といった、さまざまな情報を相互に発信・入手することができる。

「近年、大学や各地にあった登山部や山岳愛好会などが減少しており、それに伴って、先輩から後輩に伝わっていた登山の知識やノウハウ、仲間同志で語り合えていた情報を伝える場が少なくなりました。そうしたコミュニティの場を提供したいと考えました」。

山の事故が増えている背景の一つは高齢者やソロ登山者が増加したからと春山氏は語る。昔、山を楽しんだ人たちが定年を迎え、再び登山をするようになる。体力は落ちているのに、若い時の感覚で無理をするから事故につながる。また、登山をする人は、昔は山岳部や山岳団体に属しているのが当たり前だったのだが、健康的なレジャーとしてスポットが当たるにつれ、どこにも属してない人が増えてきた。

そのため、ベテランのアドバイスを受けることなく、無謀なソロ登山に挑戦してしまう。こうした事故はコミュニティを作り、メンバー同士が交流し、アドバイスをし合えば、かなり防げる。最近では、「YAMAP」で知り合った人たちによるオフ会もしばしば開かれている。






















GPSで命拾いした経験が事業の原点

春山氏は同志社大学を卒業後、2年ほどアラスカ大学に留学したことがある。その時にイヌイットの集落に滞在し生活を共にしながら、漁を手伝うという経験をした。その際、GPSのお陰で二度命拾いしたという。

「お世話になったイヌイットの方が最新のGPS機器を使っていました。使えるものは何でも使い、家に帰ることが大切と話してくれた。これが事業の原点です。アラスカでのアザラシ猟の経験がなければ、『YAMAP』は思い付かなかったかも知れません」

帰国後は東京で雑誌編集の仕事を経験。2010年に出身地の福岡に戻り、編集関係の仕事を始めた。そんな折、たまたま登った山で「YAMAP」のアイデアが閃いたという。圏外でどうなるのか、ちょっとした興味で地図アプリを開いてみたところ、案の定、画面は白いままで現在地を示す点のみが青く表示されていた。この時のことを「電撃が走った」と春山氏は表現する。新しいアプリサービスを思い付いただけではなく、社会的に大きな価値を提供することになると思ったからだ。

早速、それまでの蓄えと親からの借金で得た約500万円を元手に開発に取り掛かった。開発は知り合いの技術者に依頼してプログラマーを集めて進めたのだが、完成まで2年近くかかったという。その一方、春山氏は「当時は福岡市も今ほどスタートアップ環境が充実していなかったので」、東京のベンチャー起業家の集まりや、ベンチャー起業家を対象にした塾に参加して経営ノウハウを学ぶほか、コンテストやビジネスプラン発表会に応募するなどの活動により、人脈を広げていった。

そこで出会ったあるベンチャー・キャピタルから13年7月、440万円の出資を受け、会社を設立することになったのだ。事業内容を説明すると即決だったという。

「昔のベンチャーはこういうサービスをすれば、このくらいの利益を得られるということで出資を受け、始める例が多かった気がします。今は、このビジネスでどういう社会的課題を解決できるかが問われる。つまり、大事なのは社会的な意義や社会に及ぼすインパクト。『YAMAP』もその点が評価してもらえたのだと思います」。

その後16年3月にも、別のベンチャー・キャピタルから1.7億円の資金調達を行っている。いずれの出資者も経営について助言をしてくれ、良きパートナーとなっているという。

「YAMAP」がダウンロード数、利用者ともに急激に増やしていったのは冒頭触れた通り。しかし、アプリサービス事業は他のビジネスと比べてかなり違うようだ。

「土俵が違えば戦い方も変わる」と春山氏は言う。「アプリ事業はまずは規模拡大が最優先です。この世界では2番手、3番手はゼロに等しい。そのため、アプリ自体は無料にせざるを得ません。1番になったうえで、そこからどう収益を上げるかが次の課題。当面はダウンロード数、利用者数を増やすことが最優先の段階です」。

当面の目標は100万ダウンロードだ。そうすれば、登山・アウトドア分野で十分に他を圧倒できるようになる。同時に、ユーザーと宿泊施設とのマッチング、登山用品のレンタル、ユーザーとガイドとのマッチングといった有料サービスを収益の柱に育てていく計画だ。海外展開も視野に入れている。スマートフォンのアプリは言語を変えれば、他の国でも配信することができる。

「本気でやれば地方でも世界と勝負できるというロールモデルになりたい。次の世代につながる事業を残したいですね」

100万ダウンロード達成の日も遠くないと思われる。ヤマップの今後に注目だ。

代表取締役社長 春山慶彦氏

1980年生まれ、福岡県春日市出身。
同志社大学卒業、アラスカ大学中退。
2013年にITやスマートフォンを活用して、
日本の自然・風土の豊かさを再発見する
“仕組み”をつくりたいと思い、
株式会社ヤマップを設立。
2014年度グッドデザイン賞を受賞し、
同賞ベスト100にも選出。
2015年春、スタートアップ界の登竜門的イベント
「BDASHCAMP」のピッチアリーナで最優秀賞を受賞。



CompanyProfile
株式会社ヤマップ

福岡市博多区綱場町2-2
福岡第1ビル6F
設立 2013年
TEL 092-710-5511
資本金 2億849万円
従業員数 20人
https://yamap.co.jp/

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