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製造 × 後継者による事業革新 世界初の板金製コサージュを開発
オリジナル商品を開発し 自社ブランドで脱下請けを実現

株式会社ミューテクノ

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まるでジュエリーのような輝きを持つ、精密板金コサージュ「BLOSS0」(ブロッソ)。 東京都の中小企業世界発信プロジェクトで特別賞を受賞し、 現在は有名百貨店を始め、国内外での取り扱いも広がっている。 リーマンショック時に陥った受注の激減と経営危機を乗り越え、 自社ブランドを立ち上げて、念願のメーカーへの転向を達成した秘密を探る。

経理のパートから専務へ 専門知識ゼロからの出発

ミューテクノは1990年、松下誠孝氏が大手メーカーの下請け会社として創業した。当初は電光掲示板の設計・施工を行っていたが順調に経営を拡大し、プレス機が置かれたままの倒産企業の工場を購入。翌年からプレス金型設計製作にも業務を広げ、精密板金加工も始めた。

初代社長の娘である谷口氏は、2007年に専務に就任した。それまでは子育てに追われ、経理のパートとして会社を手伝っていたが、社長に就任した弟とともに家業を継ぐことになった。板金の技術については何もわからないままでの専務就任だった。

「最初は、自分の会社が何をやっているかよくわからないまま営業するのがストレスでしたが、そのうち"知ったかぶりをしてカッコつけなければいい"と開き直るようになりました。"わかる人に替わります" "私はわかりませんが、現場にはすごいスタッフがいるので、持ち帰って確認します"と返事していた。後から取引先に"あの返事には驚いた"と言われました(笑)」(同氏)。

それでも続けられたのは、自分は何も知らなくても「うちの職人の技術はすごい」という自信があったからだと、同氏は振り返る。その後、プレスも板金も順調に受注生産していたが、専務に就任した翌年の2008年、リーマンショックの影響で経営が悪化。発注元からの仕事の量は3分の1に減り、従業員の給料を出すのも精一杯になった。

仕事が減り続け経営危機に 下請けの厳しさを痛感

「28人の社員を路頭に迷わせてはいけないと、東奔西走して営業しましたが"発注したいのは山々ですが、本当に仕事がないんですよ"と申し訳なさそうに言われてしまい、悪いことをしてしまったと反省しました」。

さらに仕事は減り続け、2008年12月、ついに仕事が途絶えた。手持無沙汰な社員に谷口氏は「みんなモノ作りが好きなんだから、工場の材料や機械を使って、好きなものを作ってみたら」と、勧めた。この小さなきっかけが、後に会社の転機になるとは思わなかった。

板金の専門知識は乏しかった谷口氏だが、社員が暇つぶしに作った板金製の「セミ」を見て、「これはすごい」と驚いた。一枚の金属板を切って折り畳むだけで、接着をせずに精巧な立体のセミを表現するには、高度な設計力が必要となる。

このセミを営業先に持参し、「うちの工場には、こんな技術を持った人がたくさんいます」と見せてアピールすると、同社の技術に感心した営業先から「こんなものは作れるか」「あんなものは」と問い合わせや注文が相次ぎ、徐々に仕事が増えていった。

真鍮、銅、チタン、ステンレスなど、どんな材料でも調達して加工でき、また最新の機械により、切り口にバリを作らずシャープに切断できるなど、高品質仕上げに自信があるという。

「わが社はもともと試作屋なので、お客様は200社以上。1600枚の図面が飛び交っています。同じものではなく、一つひとつ違うものを作れるのが、当社の強みです」(谷口氏)。


接着を行わず、一枚の薄い板金を切って
折り畳むだけで成型されたセミとトンボ。
同社の高い技術力を見て取れる製品


ターゲットは自分! 念願の自社ブランドを開発

やがてリーマンショック時の経営危機は脱したものの、「仕事が減ったり無くなったりした場合、頑張りようがない」という下請けのつらさは、谷口氏の心から離れなかった。「みんなで頑張って、何かを変えなければいけないと、強く感じていました」(谷口氏)。

そこで「自社ブランドを立ち上げて、下請けを脱却したい」と決意したとき、あの「セミ」が目に入った。ミューテクノの技術を集約した製品で、自社ブランドを立ち上げることはできないか。だが「セミや昆虫が爆発的に売れて商売になるとは思えない。どんなターゲットに向けて何を作るべきか」と悩む日々が続いた。

その頃、通っていた東京都中小企業振興公社の事業化チャレンジ道場で「自分が好きなものを作って売ればいい」というアドバイスを受け、ハッとする。自分は何が好きかと考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは「花」と「インテリア」だった。

「インテリアとしても飾れる、板金製のコサージュを作ろう」というアイディアがひらめいた。留め具にはピンではなく強力マグネットを使用。衣類に針で穴を開けずに済み、位置を直したいときも、すぐに取り外して直せる。また花芯の部分に綿の玉を忍ばせ、好きなアロマオイルをたらせば香りを楽しめるなど、細かい工夫を凝らした。

こうして2015年、全く新しい板金コサージュの「BLOSSO」が完成した。「セミ」の誕生から7年が経過していた。



コサージュを、女性のシルエッ
ト型の鏡に付け外して飾れる
商品。8名の女性スタッフによ
り、女性ならではの感性を活
かした板金製品が作れるのも、
同社の強み







薄板板金製のバラとトンボ。
繊細ながら力強い、独特の質感は
同社が誇る技術によるもの








下請けからメーカーへ 誰にも負けないものを作る

「以前参加した中小企業家同友会セミナーで、ある企業の経営者から"誰にも負けないもの、いいものを作りなさい"と言われたことが、強く心に残っています。金属製のアクセサリーは、ほとんどが鋳造。BLOSSOのように薄い金属板を折って成型したものは、弊社が世界で初めてです。競合他社には、同じものは絶対に作れません」。

しかし、どんなにいい商品を作っても、消費者に知ってもらわなければ売れない。同社には販路が無かったため、谷口氏は国際フラワーEXPOに出展することにした。「波及営業」を教えてくれた中小企業家同友会のコンサルタントから「販売店が決まっていると言えると強い」とアドバイスを受け、フラワーショップに飛び込み営業。EXPOの前日に取り扱いが決定した。当日は大手百貨店のバイヤーにも注目され、販路拡大につながった。

「百貨店の展示販売は、目の肥えているお客様も多く、勉強になりました」「BLOSSO」は発売開始から2年目。売り上げはまだ会社全体の2%だが、今後は海外販売やテレビ通販番組にも出演予定。「今後はメーカーとしてブランド力を高めていきたい」と語る谷口氏。夢だった「オリジナル商品を作れるメーカー」として、一歩ずつ地歩を固めつつある。

同社内での作業風景





代表取締役社長の松下憲明氏









株式会社ミューテクノ
専務取締役 谷口栄美子氏


「新商品の開発者には利益の1割を支払うインセンティブ制をとっています。
ものを作る人への敬意からですが、結果的に社員のアンテナの張り方も変わってきました」







CompanyProfile
株式会社ミューテクノ
設 立 1990年(平成2年)
資本金 1700万円
従業員数 28名
東京都日野市日野台1-18-6
TEL 042-586-0411
URL http://www.mutechno.co.jp

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