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製造 × イノベーションによる成長 硝子問屋から世界へ発信
現代にマッチしたデザインで 伝統工芸に新たな価値を創出

木本硝子株式会社

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世界で初めての「漆黒の江戸切子」が、第5回東京都伝統工芸品 チャレンジ大賞を受賞。その後数々の賞を受賞し海外へも出展と、 華々しい活躍で注目を集める、老舗硝子問屋の木本硝子。 三代目の現社長は痛みを伴うリストラを経て会社を革新、 今や業界を先導するプロデューサー的存在として活躍する。 同社の転機と、現在の躍進に至る経緯に迫る。

現代日本の生活にマッチする斬新なデザインで、再び脚光を浴びる伝統工芸品。木本硝子が生み出した漆黒の江戸切子である「KUROCO」(クロコ)は、その代名詞的存在だ。

2008年第5回東京都伝統工芸品チャレンジ大賞"最優秀都知事賞"を受賞したのを皮切りに、数々の賞を受賞。現在は、日本国内外の有名デパートやセレクトショップでの扱いも増え、業績不振が続く老舗硝子問屋界では華々しい活躍が注目を集めている。












昨年、「第1回NIPPON QUEST AWARD」(経済産業省主催)のモノ部門のグランプリを受賞した、漆黒の江戸切子。光を通さない黒と無色透明のコントラストが、独自の美意識を感じさせる

しかし同社のこれまでの道は、決して順調なだけではなかった。木本硝子株式会社は、1931年、浅草で創業。硝子食器専門の問屋として、在日米軍や大手百貨店に食器を卸していた。現社長の木本誠一氏は3代目。三菱電機への勤務を経て、35年前に父親から事業を継いだ。

承継当時は、大手スーパーなどに、高級ラインの食器をリーズナブルな価格で卸していた。その後、海外生産を始め、会社は一気に拡大していく。2005年頃からは企画提案型の販売も手掛け始めていたが、「いい品物を安く仕入れて販売するだけのビジネスモデルでは、今後厳しくなる価格競争やサービス競争を勝ち抜けなくなる」と木本氏は予期していた。

大手との取引を辞め業務縮小世界初の黒い江戸切子に挑戦

2010年、取引のあった大手スーパーが、卸に対して値下げ圧力を強めてきたこともあり、取引を自主的に辞め、大々的な業務縮小をすることを決意。10億円あった売上は約2億円に減り、20名以上いた従業員は、社長を含めて4名になった。

果敢すぎるようにも思える決断だが、そのきっかけとなったのが、江戸切子だった。伝統的な赤や青の江戸切子を「凄い技術だとは思うが、欲しいとは思わない」という客の声にショックを受けた木本氏。

「それは江戸切子が駄目なのではなく、従来の江戸切子のデザインが古いから。現代のライフスタイルに合っていないからだ」と同氏は考えた。

「昔ながらの赤や青の江戸切子のグラスは、シニアが畳の部屋で日本酒を飲むのに使うというイメージ。都会の洒落たマンションのフローリングの部屋に住み、シングルモルトなどを飲むような今どきの生活スタイルには、従来とは違う新しい江戸切子が必要だったのです」。

そこで「現代のライフスタイルに合う、シンプルでスタイリッシュな江戸切子とは?」と、旧知のデザイナー・木下真一郎氏と考え抜いて生み出したのが、前代未聞の黒い江戸切子だった。

「江戸切子の技術はそのまま活かし、作っている工場も、職人も一緒です。ただし、現代のライフスタイルに基づいて、お客が欲しがっているものを作り、市場と売り方を変えた。これが挑戦でした」と同氏は振り返る。

木本硝子は卸問屋であり、自社工場もなければ、職人を抱えているわけでもない。しかし問屋という立場で、東京都内の手作り硝子工場や、江戸切子の熟練職人、外部のデザイナーなど、作り手との接点がある。また80年以上、百貨店やスーパーにガラス器を卸してきた歴史があるので、買い手がどんな商品が欲しいか、市場の動向にも敏感だ。

「こんな商品が求められていて、あの工場はこれが作れ、この職人はこれが作れる。ニーズに対して、工場と職人のネットワークを使い、複合的な調達ができるのが、木本硝子の強みです」。





月の満ち欠けを切子で表現した「moon」。
グラスの曲面に切子加工でなめらかなカーブを
描くには、職人の高い技術が必要






ニューヨーク、パリ、ミラノ世界を舞台に評価を得る

「KIKI JAPANESQUEMODERN」として展開してきた漆黒の江戸切子は、東京都伝統工芸品チャレンジ大賞受賞後、海外進出にも力を入れ始めた。

「価格競争が激しいレッドオーシャンではなく、狙ったのはブルーオーシャン。あえて有名百貨店の特選食器売り場などでなく、アパレルやセレクトショップでの販売を狙いました。特選食器売り場に行くのは昔ながらの江戸切子が欲しい人ですが、そこに向けた商品ではないので、売り方を変える必要があると発想を転換したのです」。

その狙いは的中し、「デザイン性の高い、斬新な食器に興味がある」高感度な層の注目が集まった。ニューヨーク、パリ、ミラノなどの展示会でも高い評価を受けたことで、日本ではブーメラン現象でさらに脚光を浴び、新しく「KUROCO」としてリニューアルした。

ライフスタイルに合わせ硝子食器の新しい価値を作る

「フランス料理では、オードブルにはシャンパン、魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワインと、料理に合わせたワインとそれ専用のグラスがあるのに、日本酒用の器はどうしていつもお猪口と杯なんでしょう?」と疑問を投げかける木本氏。

料理も日本酒も、国の垣根を超えて創作やフュージョンを進めているのに、グラスだけ同じなのは、もったいないと嘆く。

「わが社が提案・販売しているのは、グラスではなく、新しいライフスタイルです。料理の皿が出るごとに日本酒を変え、日本酒を変えたらその特徴を引き出すグラスに変える。そのため、現在60種類のグラスを作っていますが、今後はさらに30種の新商品の製作を進めています」。





日本酒と料理のペアリングを楽しむためのグラス「XANA」は、ドイツ
のウォルフワーグナー氏によるデザイン。
「日本酒を飲むことはもっとスタイリッシュになるはず」という
メッセージが込められている

順風満帆のように見える同社だが、「賞を取ったからといって、注文が殺到するわけでもないし、そんなにもうかっていない。手作りの品なので売れすぎても困る」と笑う木本氏。それでも、同社の小さなショールームを目当てに外国人も足しげく訪れる。

「伝統的工芸品の江戸切子は絶滅しかけています。職人も後継者も減ってしまったのは、給料が技術に見合わず安すぎるから」と問題提起する木本氏。

「江戸切子を絶やさないためには、100均や1000円で売っているものとは違う価値のある商品を作らなくては。1万円でも買いたくなる商品を作れば、工場も、職人も、問屋も、商品を買ったお客様も、皆幸せになれるのです」。

「商品の価値をしっかり伝え、硝子業界の後継者を育てることが今後の課題」と語る木本氏。最近では若い職人も少しずつ増えてきた。木本氏の志が、一時は途絶えかけたガラス業界を、力強くよみがえらせつつある。


木本硝子株式会社 代表取締役社長 木本誠一氏
「生き残るため、商品開発・販売促進・新技術開発には
お金を惜しまず、つねに『0.1歩先』を考えてきました。
『半歩先』よりも現実的です(笑)」





Company Profile
木本硝子株式会社
設 立 1931年(昭和6年)
1959年(昭和34年)株式会社に組織変更
資本金 1600万円
年 商 3億円
従業員数 4名(社長含む)
東京都台東区小島2-18-17
TEL 03-3851-9668
URL http://kimotoglass.tokyo/

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