3分で読める「現場を変えた社長の一工夫」

ビジネスサミットOnline » 現場を変えた社長のひと工夫 » 演劇に特化した動画配信サービスで躍進する

サービス・IT × イノベーションによる成長 年間300本もの観劇から生まれた新事業構想と信頼
演劇に特化した動画配信サービスで躍進する

株式会社ネクステージ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

大手の会社が続々と進出している動画配信業界。そのなかで?演劇に特化する?という、大手とはまったく違う切り込み方で、着実に成果をあげてきた株式会社ネクステージ。なぜ同社は演劇を選んだのか。そしてなぜ成功したのか。理由を探るうちに見えてきたのは、福井学社長の強い思いだった。

営業成績トップの社員から念願の個人事業主へ

スマートフォンやパソコンでいつでも自由に演劇を観られる。そんなサービスを展開しているのが、株式会社ネクステージ(大阪府)だ。利用料金は月額980円。これだけで210劇団の648作品が視聴できる。無料会員を含む会員数は現在10万5000人。コアな演劇ファンを中心に、多くの人の支持を受けて人気はさらに高まっている。今後、目指す目標は会員数180万人だ。

しかし、事業が軌道に乗るまでの道のりは簡単ではなかった。代表取締役の福井学氏は、幼少時代、「借金の取り立て屋が毎日押しかけてくるような生活を送っていた」(福井氏)ことから、やがて「お金を稼いで環境を変えたい。社長になればお金持ちになれる」と思うようになったという。

高校卒業後、大学へは進学せず地元の大手家電量販店に就職し、店舗販売員として働き始めた。「お金をもらいながら商売を勉強できるほうがいい」と思ったからだ。入社3年目には年間個人売り上げ2億円を達成、同家電量販店の全国の店舗スタッフの5位に入り表彰もされた。その後、幼少時の〝社長になる〟という夢を実現すべく、仕事の合間を見つけてはプログラミングの勉強をするなど、独学でITスキルを高めていった。

2005年、入社5年半後、意を決して会社を退社。個人事業主として、パソコンの販売と修理を行う事業をスタートさせた。福井氏24歳の時だった。主な顧客は地元の中小企業経営者だった。当時は、パソコンの扱いに不慣れなユーザーも多く、ていねいで迅速なサポート対応をしてくれる福井氏のサービスはすぐに評判となった。紹介に次ぐ紹介で、顧客は増加。事業は順調に進んでいった。

ところが、2008年のリーマンショック以降、状況は一変する。顧客の中小企業の経営不振や廃業が重なり、売掛金が回収できなくなったのだ。そのため修理用部品の代金170万円の支払いが期日に間に合わなくなってしまったという。

「支払日は2日後。しかし資金はない。そのこと自体もショックでしたが、自分がこれまで築いてきた事業がこんなにも脆いものだったということに絶望しました。生きている意味がないとさえ思いました」(福井氏)。

そんなどん底で出会ったのが演劇だった。きっかけは、友人から誘われて、気晴らしに観に行った小劇場での公演。80人も入れば満杯になってしまうような狭い劇場で、友人は役者として舞台に立っていた。

「どちらかというとだらだらと生きているように見えた友人が、舞台上ではまったく違い、生き生きとしていました。人間というのは変われるんだな!すごいな!と勇気をもらいました」。

この観劇体験によって、福井氏は踏みとどまることができたという。支払いの期日延長を交渉し、その後、事業を継続することに努めていった。同時に、この頃から「いつか演劇に関する仕事がしたい」という気持ちが芽生えていた。

演劇との出会いがその後の人生を変えた

演劇と出会ってからは驚くほどの情熱を傾けるようになった福井氏。09年以降の4年間は、一年に約300本もの芝居を観続ける、文字通り「演劇漬け」の生活を送った。そんな常連の福井氏に、ある劇場から「電子版のチラシをリリースするアプリをつくってほしい」という相談が持ち掛けられた。

13年5月、福井氏はアプリ「関西チラシ手帖」を正式にリリース。大好きな演劇で仕事をもらえたことは、福井氏にとって大きな手応えとなった。「面白い芝居はいくらでもあるのに、多くの人はその存在自体すら知らないでいる。演劇をもっと身近なものにしたい」という思いは高まり、「関西チラシ手帖」からわずか3カ月後、友人と二人だけで、「観劇三昧」という動画配信アプリをリリース。完成まで徹夜が続いたが苦にならなかった。


フォンスマートフォンやパソコンでいつでも自由に
演劇を視聴できる動画配信アプリ「観劇三昧」



最初に参加してくれたのは関西の劇団が20弱、作品は40本ほど。再生回数によって利益の7割を劇団に還元するシステムを採った。とはいえ、このビジネスは順調には進まなかった。初年度の会員はわずか53名。扱う劇団も福井氏の個人的な知り合いばかりで、新規が増えていかない状況だった。「劇団にとって作品は子どもと同じ。信頼できないところには預けない」(福井氏)からだ。

そこで福井氏は、大阪日本橋に演劇グッズを販売する店舗「観劇三昧日本橋店」を開設。日本橋は福井氏が初めて小劇場の芝居を観た思い入れのある街。そこに「演劇をやる人と観る人が近づける場所」をつくったのだ。

同時期に、株式会社ネクステージとして会社を設立。小劇団などへのアプローチを本格化させていった。その結果、徐々に劇団から信頼を獲得し、15年、人気劇団「演劇集団キャラメルボックス」と契約。「観劇三昧」とネクステージの知名度は一気に高まり、ユーザー数も増加していった。その後、舞台の撮影編集業務、スマートフォンでチケットを購入できる「演劇パス」のシステム開発も手掛けるなど、現在も事業拡大を進めているところだ。


演劇/現在210劇団の648作品がコンテンツとして
収録されており、会員は自由に視聴できる



演劇の未来を考えることが事業の新展開につながる

17年1月、ネクステージは東京進出を果たす。場所は小劇場の聖地とも言われる下北沢。ここに店舗と支社を開設した。同社がここまで成長したのは、根底に演劇に対する熱い思いがあるからだ。「劇団は中小企業」と語る福井氏は、劇団との信頼関係の構築を特に重視する。交渉ごとなどすべて、福井氏自らが直接赴く。

「これまで、演劇の動画配信のサービスに大手が参入しようとしてきたことが何度もありました。それが実現しなかったのは、演劇作品を商品コンテンツとしてしか見ていなかったからだと思います。収入さえ入ればいいというものではないんです。信頼があって初めて成り立つんです」という福井氏。

コンテンツを決して商品としては扱わず、大切な子どものように劇団から預かり、視聴者に届けるという意識を持ち続けてきた。ネクステージの将来も、やはり演劇の未来と重なる。大手レンタルビデオ店と提携したのも、演劇ファンの裾野を広げたいという思いからだ。同社は海外に向けた事業展開も視野に入れている。近い将来、映像に翻訳テロップを付け、海外の作品を日本で、日本の作品を海外で観劇できるようにと考えている。













ほかにも、どこの劇場でどんな芝居がやっているのかわかるような情報提供、演劇人口を増やすために高校の演劇部の学生が将来、演劇と関わっていけるような環境づくりなど、一ビジネスを超え、演劇の未来のためになるビジョンがいくつもある。「演劇を保存する役割を担っていきたいのです」(同氏)。

利益の7割を劇団に還元するという姿勢は今も変わらない。そんな演劇を愛する情熱こそが、劇団や演劇ファンの気持ちをつかんでいるのだろう。福井氏は多忙の合間を縫って、今でも週に一度は芝居を観るという。演劇に対する同氏の熱い思いが根底にあるかぎり、ネクステージはこれからも成長し続けるに違いない。


演劇グッズ専門店「観劇三昧」
日本橋店(上)と下北沢店(下)。




約120劇団の関連グッズが販売
されている。劇団とファンの交流
の場になっている





株式会社ネクステージ
代表取締役社長福井学氏

大阪府立松原高等学校総合学科卒業後、
大手家電量販店に就職。入社3年目で
トップレベルとなる年間個人売上2億円を達成。
24歳で独立するため退職。パソコン販売、
修理業務を大阪府堺市にて運営。
2014年5月に株式会社ネクステージを設立、
代表取締役に就任。ITを活用した舞台芸術の
支援を主目的に、オンライン観劇サービスを
中心とした事業展開を行っている。



CompanyProfile
株式会社ネクステージ
大阪府大阪市浪速区日本橋4-6-13
NTビル3F
設 立 2007年(創業2003年)
T E L06-6599-8191
資本金3175万469円
売上高9200万円(2016年)
従業員数 31人
http://i-nextage.co.jp/

記事の絞込

■業種
■カテゴリー

業種

カテゴリー