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サービス・IT × 後継者による事業革新 幼児教育のノウハウを活かしてシニア市場に進出
高齢者向け教育事業に挑戦する

株式会社しちだ・教育研究所

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しちだ・教育研究所(島根県江津市)は、創業以来、幼児教育事業で蓄えたノウハウをもとに、 現在は、高齢者向け教育事業という新たな市場開拓に挑戦している。 地方に本社があることは全国展開を図るうえで一見、デメリットと思える。 しかし、地方には地方ならではのメリットがある。それをフル活用することが重要だという 七田厚社長に同社の市場戦略を伺った。

幼児教育のプログラムを高齢者向けにも応用

独自の「七田式教育法」を確立し、全国に展開してきたしちだ・教育研究所は、左脳と右脳の両方を100%活かすことによって、心、しつけ、性格や情緒、健康、身体、社会性など、生活全般にわたる、全人格的な教育を目指している企業だ。

「全国に通用する教育サービスを提供してきた自負と、教材の品質についての自信があります」と代表取締役社長の七田厚氏は語る。その同社が今、新たに挑戦しているのが高齢者向けの事業だ。

2012年に、高級老人ホームを関東・関西で展開する企業から依頼を受け、同社では高齢者向け能力開発プログラムを開発。幼児教育を全国展開する同社の実績を買われてのオファーだった。幼児教育のノウハウを活かし、高齢者向けの教材を作成。老人ホームなど施設向けに開発した「七田式いきいき脳開発プログラム」は、「学習会」という10人程度のグループワーク形式で、週に1回、60分間行う。

瞑想・呼吸、記憶、処理能力アップなど、10種類以上の教材を使い、短時間にテンポよく進めていくというものだ。学習会以外の日は、各自で自主学習できる「デイリープリント」を配付。1日10~20分程度でできる教材に取り組み、日々、脳の活性化を図ることができるという。参加者同士が交流でき、やる気・向上心も生まれ、モチベーションアップになると好評を得ている。

「学習会に参加されるのは70~90歳代の高齢者ですが、皆さん真剣にいきいきと取り組んでいらっしゃいます」(同氏)。

これまでに老人ホームなどの高齢者施設21カ所で導入されている。近年では、同社の高齢者向けプログラムは、自治体向けにも大学の協力のもと、実証実験が行われ、高齢者の認知機能低下を予防する可能性が検証され、島根県認知症予防プログラムにも採用された。














地方のハンデは長所に変えられる

幼児教育事業で既に実績と知名度があり、全国に顧客を持つ同社ではあるが、高齢者向け事業ともなると新たな顧客づくりをしていかなければならない。そこで、施設への販促と同時に進めてきたのが、個人利用者向けの通信教育だ。

プリント学習を中心に、手指の運動など、体を使って脳を刺激する取り組みを加えた教材を作成。プロモーションは主にインターネットを使っているという。「販促は不得手な分野で、課題でもあった」(七田氏)という同社だが、現在は、インターネットによる販促を得意とする専門会社と業務提携することでその弱点を補っている。

ネット経由で個人利用者を獲得するなど、徐々に成果が現れ始めている。ネットによる販促で、地方のデメリットはある程度解消されるものの、課題として残るのは人材の確保だという。七田氏は、「地元以外の優秀な人材を採用しにくい」点を挙げる。移動に時間と経費が掛かるのもネックだ。残業しても21時以降、営業している飲食店が少なく、不便さも否めない。しかし、そうしたハンデも七田氏は前向きにとらえている。

「若い社員にとって、刺激が少ないという問題もありますが、逆に言えば、仕事に集中しやすい環境。研究職に向いている場所だと思います。また、地方ならではのメリットもあります。まず、首都圏に比べて地代がはるかに安い。1993年に建設した自社ビルの総額は3億円でしたが、土地は7000万円。地代が安い分、建物にお金がかけられ、質の高い教材づくりにも投資できます」。

同社では自社ビルのほか、研究棟、教室棟、記念館の計四つの建物を保有するが、特に研究棟は迎賓館風の豪華な造りで、宿泊や食事もできる。

「国内外から研修にやってくる幼児教室のオーナーがステイタスに感じるしつらえにしています」と七田氏。ホテルや飲食店が少ない不便さを自社の建物でカバーしているというわけだ。





しちだ・教育研究所本社







幼児から高齢者までビジネスモデルを革新する

同社の創業者で教育者でもあった父親の七田眞氏から、現社長の七田厚氏が社長のバトンを引き継いだのは1987年のこと。大学卒業直後の24歳の時だった。

「大学時代から東京支社へ出入りして、父親の仕事を手伝っていましたが、地元に戻るつもりはありませんでした。しかし、七田式幼児教室の全国チェーンの発足に伴い、私が社長に就任することになったのです」。

39期を迎えた同社だが、初めから順風満帆だったわけではない。七田氏が社長に就任してからの約10年は、幼児教育事業が追い風に乗り急成長し、また、眞氏が大人向けに書いた「右脳開発法」の著作が20万部以上のヒットとなった。これを機に、同社では子ども向け教材開発のノウハウを活かし、大人向け教育事業の本格化を図っていったという経緯がある。

しかしその後、98年頃から徐々に売り上げがダウンし、苦戦を強いられた。そこで2000年以降は、社内の構造改革を敢行し、収支面の見直しを図るとともに、教育事業の対象を小6まで守備範囲を広げたほか、幼児教室の海外展開もスタートさせたことで、危機を脱出した。

そんな同社がさらなる発展のために選んだのがシニア市場だった。同社の顧客のライフサイクルに着目すると、現在、幼児や小学生向け教材を利用している子育て世代はやがて、親を介護する世代にシフトしていく。既存の顧客と長いスパンでつきあっていくことが、継続的なビジネスへとつながっていくことになる。

グループワーク形式の「学習会」は、
有料老人ホームやデイサービス、
サービス付き高齢者向け住宅などでも導入。
自治体向けのプログラムも始まっている



幼児教室は国内のみならず、海外にも展開




「高齢者向け教育事業を始めてまだ5年。成果はこれからです。サポート体制を含め、今は実績づくりの段階。次のステップに向け、ノウハウを固める時期と捉えています。認知症予防のプログラムに加え、今後は認知症の高齢者向けプログラムも開発していきます」。

こう展望を語る七田氏が、地元島根県江津市江津町にこだわるもう一つの理由は地域愛だ。「地域の若年層の雇用に貢献したい」と語る。七田氏自身も3人の子どものうち2人が海外留学中で、ゆくゆくは彼らが地元で仕事ができるような環境を整えたいとの思いが強い。県外への人の流出を食い止め、地元の活気を取り戻したい。そのためにも、地元の経営者とコミュニケーションをとる機会を増やしている。

「創業者である父の遺志を継ぎ、教育の質を高めていくのが私の使命。海外や全国の教室に対する責任もあります。顧客、社員、取引先との信頼関係を大切に、長期的に良い関係を築いていきます」。

全国に展開する同社だが、だからこそホームタウンを大事にする。この姿勢こそがステークホルダーから長く信頼を得る秘訣と言えるかもしれない。


代表取締役社長
七田厚氏

「地元だけで勝負しようと思わなくて
いい。視野を広げ、地元の良い点、
都市部や県外の良い点を
見極めながら、柔軟に
使い分けていくことが必要」



Company Profile
株式会社しちだ・教育研究所
島根県江津市江津町526-1
設立   1978年
TEL   0855-52-4800
資本金  2000万円
売上高  9億6300万円
従業員数 64人
http://www.shichida.co.jp/

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