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製造 × 後継者による事業革新 特集 強みを活かして新分野に挑む
精密板金加工の新領域を切り拓く

株式会社キンポーメルテック

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板金加工の常識を覆す超薄物の加工技術―。株式会社キンポーメルテック(長野県飯田市)は、 同業他社が思いも寄らない着眼点で得意技術に磨きをかけ、高付加価値ものづくり企業への事業 転換に成功した。同社は今、何を考え、どこを目指しているのか。そこには、本来の中小企業の あり方や中小製造業の企業進化を考えるヒントが満ちている。

度重なる環境変化を乗り越え成長する中小ものづくり企業

航空宇宙産業にわく長野県飯田市に居を構える株式会社キンポーメルテックは、精密板金、溶接、塗装などを手掛ける金属加工のものづくり企業だ。その創業は1931(昭和6)年。会社組織としては1951(昭和26)年に産声をあげている。創業当初に取り扱っていたのは、ブリキで作られたチリトリやバケツなど。昭和30年代に入ると量産型の機械製作に乗り出している。

同社の代表取締役社長・野沢稔弘氏が語る。「当時、作っていたのは桑の葉を刻む機械です。蚕に桑の葉を与えるために必要なものでした」。

江戸時代に幕府が奨励した養蚕は昭和初期には日本の輸出量の7割を占めたものの、化学繊維の登場により生産量は減少。戦後に再び見直され、復興期の日本経済を支える存在となった。養蚕業がピークを迎えるなか、同社はこの機械を全国の養蚕農家に製造販売した。再び養蚕業が斜陽となった時に同社が地元にある大手企業の下請けとなって生産したのが、フロッピーディスクなどに使われるステッピングモータの部品加工だった。ところが、こちらも間もなくして生産が海外に次々と奪われる結果となってしまう。

「そこで次に活路を見い出したのが板金でした。それまでも細々と手掛けていた板金でしたが、約30年前に先代の社長が名古屋の大手企業と手を結んだことで状況が一変した」。

大手企業から委託される工作機械のカバー(筐体)を板金加工することで、同社の業績はみるみるうちに回復。現社長の野沢氏が就任時から続けた新規開拓により、現在でも続く名古屋の大手企業からの仕事のみならず、幅広い企業からの依頼を請け、板金加工の最前線で活躍する機械部品加工メーカーへと進化を遂げた。

「現在は工作機械だけでなく、電車の車両や理化学系の測定器、半導体や液晶のパーツなど、業務内容の幅が広がっています」。




飯田市郊外にある本社社屋と従業員



厚手から薄物まで扱う板金加工のオールラウンダー

同社の強みは、さまざまな種類の精密板金加工に長けていること。通常、板金加工を取り扱う企業は試作専門であったり、量産タイプのものであったり、それぞれの専門分野がある。ところが同社はそれらすべてに通じて正確な仕事をこなすことができる。その上、特に5ミクロン(マイクロ・メーター)という超薄物の加工を手掛けられる企業は、同社を除いて他に見つけることが難しいほどだ。

同社がブレイクスルーを迎えることになったのは、顧客から10ミクロンや13ミクロンの薄物加工の依頼が続いたことで、野沢氏の脳裏にひとつの疑念が生じたことがきっかけだった。

「当時、これらを実現するためには、プレスやワイヤーカット、エッチングといった手法が主流でした。しかし、こうした従来型の技術を続けていては早晩、コスト競争に陥ることは目に見えている。どうすればいいかと考えた末にたどり着いたのが、レーザー加工でした」。

決して真新しい技術ではないが、レーザー加工の応用範囲はまだまだある。そう確信して進めてはみたものの、加工機を作ってくれる企業が見つからない。2年もの間、製作を依頼しては断られる日々が続いた。諦めかけていたそんなある日、富山にある超高圧水切断装置などの工作機械を手掛ける企業と出会う。彼らが快く引き受けてくれたことで、野沢氏の願いが実現する。こうして同社は厚み22ミリから5ミクロンといった幅広い加工を可能とする板金加工会社となった。

超薄物の加工は、例えば間座と呼ばれる機械と機械の接合部において強みを発揮する。この分野の需要は、原子力産業から自動車業界までと幅広い。精密板金加工のオールラウンダーとして、同社が独自性を発揮する武器といえる。



板金加工を施した工作機械の筐体







超薄物加工技術で製造したトンボの模型




自立する企業を目指す脱下請けの3つの手法

下請け企業だった同社が多数の企業から頼られる存在となったのには、野沢氏の信念に基づくところが大きい。

「単なる下請けから抜け出すのには3つの手法があると思います。それは、市場開発、商品開発、そしてサービス開発です」。

同社が真っ先に取り組んだのが市場開発だった。このために他社では手が出せない薄物のレーザー加工を武器に難加工技術の研究開発を行なう「株式会社シムノン」を子会社として立ち上げた。商品開発については、長野県の農業試験場、国立の信州大学と手を結び、地元の名産であるわさびの水耕栽培に挑戦中だ。

実は、水耕栽培によるわさびの成功事例はあるものの、商品化にはまだ至っていない。そういう意味では、前人未到のプラントに乗り出しているということになる。サービス開発については、現在のところは従業員へ重い負担を強いることになると考え、行なっていない。これは、同社にとって将来的な課題と位置づけている人材育成と大いに関係している。

「団塊の世代が現場の最前線から次々に抜けていくなか、我々のような特殊加工の現場でも職人の数が減っています。そのために若い人材を何年かかってでも育成していくことが、目下の課題です」。


ベテランと若手が一緒に働き、職人の技を伝承する板金加工の現場





技術承継のための人材育成と事業領域の絞り込みに注力

野沢氏の実感として、日本の製造業、特に同社の手掛ける特殊加工の分野では人材不足が顕著だという。これまで新規開拓によって顧客を増やしていた同社も昨今では先方から飛び込みで依頼されることも増えてきた。それらを柔軟に受注し続けていくためには、職人の技術承継は一刻も早く進めなければならない。

ところが、今の若者たちの特性にフィットした妙案がなかなか見い出せない。真面目さはあっても粘り強さに欠ける若者たちに長年培ってきた職人の技を身につけさせるのは容易ではない。「職人の背中を見て盗め」では通用しないからだ。かといって、マニュアルに落とし込めるほど、職人技は単純なものではない。野沢氏は「成長産業」と聞けばその分野にこぞって乗り出す中小企業の現状も懸念している。

「成長産業などと注目されているところは、中小企業がフォーカスすべき分野ではない。そこにみんなが駆け込むように参入すれば、小さな企業がお互いを食い合い、せっかくの技術力も生かされないまま潰れていく結果になりかねません。自分の足元の技術や経営資源を活用してできるスモールビジネスを堅実に積み上げていくことこそが、中小企業の真のあり方ではないでしょうか」。

経営環境の変化を乗り越え、進化してきた中小ものづくり企業を背負う経営者だからこその提言である。



株式会社 キンポーメルテック
代表取締役社長 野沢 稔弘 氏



Company Profile
株式会社キンポーメルテック
長野県飯田市三日市場2111
TEL 0265-25-4500
資本金 1000万円
売上高 7億3000万円(2017年2月期)
従業員数 53名
http://www.kimpou.jp/

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