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小売・流通 × 強い組織づくり 外部視点の経営改革により、5年で売り上げが4倍に
経営危機の運輸会社を “コミュニケーション”で建て直す

高栄運輸株式会社

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ドライバー人件費が、経営を圧迫。毎月500万円の赤字を計上していた高栄運 輸株式会社(東京都立川市)の経営再建を託されたのは、税理士の松山晃氏。経 営陣とドライバーが相互不信に陥っていた状況を改善し、さらに売り上げを 4倍に伸ばした松山氏の信条は、「人」を信じ、活かすというものだった

外部からの視点を活かして運輸業経営に参画する

トラック等のドライバーと聞いて、人気の職業だと思う人は少ないだろう。メディア等で過酷な労働条件などが取り沙汰されることも多く、物流業界では慢性的な人手不足が課題だ。そんな状況のなか、ドライバーを大事にすることで、赤字経営から脱却した会社がある。東京都立川市にある高栄運輸株式会社だ。






同社が変わったきっかけは現在の社長・松山晃氏と、副社長の猪股浩行氏が経営に本格参画した2011年12月のことだ。1973年に創業し、食品、精密機械の輸送を中心に事業拡大を図ってきた同社だったが、バブル以降は縮小・清算を余儀なくされていた。というのも当時、同社では毎月500万円の赤字を計上、累積損失は1億円近くに上り、事業再生の見込みが立たない状況だった。創業社長は健康上の問題もあり、自力で立て直すよりM&Aを模索し、売却先を探していた。そんな折、相談を受けていた税理士の松山氏と運送業の経営経験を持つ猪股氏が同社の経営に関わることになった。

「われわれがいきなりM&Aで会社を買収するのはリスクが大きすぎる。まずは再建可能かどうか、中に入って見極めようと思いました」(松山氏)。内部にいると気づきにくいが、同社の強みは、長い業歴で築いてきた大手スーパーや物流会社など有力な顧客を持っていること。税理士としてさまざまな会社の経営の厳しさを見てきた松山氏の目には、高栄運輸はまだまだ立て直せるチャンスのある、「経営のやり方次第では、必ず成長できる」会社に映った。机上の論理ではなく、自らの考えを実践して会社を立て直すチャンス。そう信じて会社再建のための挑戦が始まった。

従業員とのコミュニケーションが会社を変えた

最大の課題はドライバーの人件費をいかに抑制するか、ということだった。同社では収益構造の良い頃に結んだ、ドライバーに有利な契約条件が残っており、これが経営を圧迫、毎月500万円の赤字を生む元凶となっていた。また、それまでに同社では法の定める安全基準に適合するよう、ドライバーの健康管理や、トラックの定期点検、デジタコ(運行記録計)導入など、業務改善を積極的に進めてきたが、結果としてドライバー1人当たりの仕事量が抑制される形となった。仕事量の減少はドライバーの収入減に直結する。

「当然取り組むべきことであり、よかれと思って改善してきたことでしたが、ドライバーの立場からすると、“従来のように稼げなくなった”という不満をもたらし、口を開けば会社の不満ばかりでした」(松山氏)。松山氏たちが直面したのは、こうした相互不信の真っ只中で、ドライバーたちに賃金体系の見直しを納得してもらうというハードルの高い課題だった。だが、この時気づいたのは、経営側とドライバーとのコミュニケーション不足。自身ドライバー経験もあるという猪股氏は「逆に言えばコミュニケーションを取れば、解決可能だと思いました。ドライバーになる人は、そもそもコミュニケーションが得意でない人が多い。会社に対する文句も、本心は自分の会社が誇れるような会社であってほしいということの裏返しなんです」と当時を振り返る。

ドライバー一人ひとりと向き合い、会社の置かれている厳しい経営環境を詳しく説明。ドライバーの雇用を守り、その家族を守るには、まず、この会社を守らなければならない。そのためには現在の賃金体系を変更しなければならないと理解を求め、この改革の先に、「ドライバーのみんなから好きになってもらえ、誇りを持って仕事をしてもらえる会社にする」というビジョンを繰り返し語ったという。当初は、「そんなきれいごとは聞き飽きた。俺は信用しないよ」と冷たく言われることもあったが、松山氏と猪股氏の本気度が伝わっていくにつれ、一人、二人と理解を示してくれるドライバーも現れるようになった。

松山社長とともに同社を改革した猪股浩
行副社長。「コミュニケーション一つで組
織は変わります」と語る






経営参画から3カ月後、ギリギリの交渉の末、ようやく賃金体系の見直しの合意を得た。こうした取り組みは、やがて結果として形になっていく。13年3月には、欠損金1億円を解消。ドライバーを取り巻く環境も改善しつつあることを各ドライバーが実感していった。「従業員によい会社だと感じてもらうのが最初。そこにやりがいが生まれて、人が集まる。人柄を含めお客さまからのドライバーへの評価も高くなる。トラックの仕事をしていると、結局は“人”なんだということに気づかされます」(松山氏)。
もともと、仕事自体は豊富にある。顧客の評価が高まれば仕事も当然増えてくる。売り上げは、この5年で5億6000万円から、一気に20億円へと拡大した。「いったん下がったドライバーの賃金も、今は業界平均より高く設定しています」(同)。

社員、会社だけでなく、運送業界を変えていく

冒頭に述べた通り、運送業界では、若者に不人気な職種のため、ドライバー確保に苦労している企業も多い。だからこそチャンスだと松山氏は言う。











【食品輸送】
高栄運輸株式会社(東京都立川市)
恵実物流株式会社(東京都府中市)
株式会社IVYロジスティックス(神奈川県横浜市)
株式会社アクティブ・デュオロジ(神奈川県相模原市)
【精密機器輸送】
KOEIロジスティクス株式会社(東京都府中市)
【一般輸送】
富士輸送株式会社(東京都中野区)
有限会社真拳運輸(東京都府中市)

「会社に魅力があれば人は集まってくる。今までできなかったこともできる」。事故なく、時間通りにモノを安全に届ける。物流に必要なのはその意識であり、意識はコミュニケーションによって変えていける。そのことを松山氏は自らの手で実践してみせた。こうした事業再建のノウハウをもとに、同社は現在、同様の課題を抱える他の運送会社の経営支援を行っている。さらに支援した企業を協力会社とし、高栄グループを創設。サプライ・チェーン・マネジメントをトータル提供できる体制を構築中だ。

以前の同社は、経営側と
従業員側の対立が深かっ
たが、今ではコミュニケー
ションが活発な職場へと
生まれ変わりつつある

「社会や地域にどう貢献できるのかを考えたい。どこか一つの会社が勝つのではなく、協力会社全体で業界自体の価値を上げていきたい」(松山氏)。積極的にコミュニケーションをとることで、会社を再生させてきた高栄運輸。今、魅力ある業界づくりという新たな挑戦が始まった。


高栄運輸株式会社 代表取締役社長 松山晃氏

「自分の会社がよい会社だと思ってこそ、
仕事にやりがいも生まれ、成果につながります。
運送業とはつくづく“人”で成り立っているものだと
この経験を通して学びました」

CompanyProfile
高栄運輸株式会社

設立1973年8月
資本金9500万円
売上高20億円(2012年分社化したKOEIロジスティクスの売上高を含む)
従業員数81人
住所東京都立川市西砂町3-28-1
TEL042-531-0031(代)
URL http://www.koei-unyu.co.jp/

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