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サービス・IT × 後継者による事業革新 四代目社長がビジネスモデルを再構築する
窮地に陥った 老舗旅館の逆転劇

有限会社吉花(山中温泉「お花見久兵衛」)

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経営破綻寸前の状態で、老舗旅館「お花見久兵衛」の 経営者のバトンを受け取った吉本龍平氏。 どん底とも呼べる窮地のなかで吉本氏が断行したのは 抜本的なビジネスモデルの改革だった。

絶体絶命の危機に肚が据わる

山中温泉(石川県加賀市)の山あいに、若いカップルや夫婦に人気の宿「お花見久兵衛」がある。この旅館を経営する吉花は1958年の設立。昭和初期の火災で資料の多くが焼失したため詳細は定かではないが、旅館自体は明治時代から続いているという。現在、同社を率いるのは、設立から数えて四代目となる吉本龍平氏。破綻寸前だった同社を再生させた立役者だ。2004年、23歳の時に女将である母親から「事業存続は無理かもしれない」という話を聞き、当時勤務していた大手人材派遣会社を辞め、吉花に後継者として入社。経営状態の悪い会社を継ぐことに迷いはなかった。

「両親から継いでほしいと言われたことはないですが、もともと自分が継ぐものだと思っていました。自分が戻って潰れるなら仕方がない。でも何もせずに旅館が潰れるのは納得できないと思い、実家に戻りました」とはいえ、会社の状況は想像以上に悪かった。バブル崩壊後、メインの客層である団体客が激減。設備は老朽化し、宿泊料を下げざるをえないという状況に陥っていた。売り上げはバブル期の半分以下の約8億円。それに対し負債は倍以上だったという。加えて、当時メインバンクだった金融機関が破綻したことにより、極端に資金繰りが悪化していた。

「家族3人で夜逃げしようかと議論したこともありました」(吉本氏)というほど追い込まれ、債権者たちを前に、長時間土下座をして詫びたこともあったという。そんなとき再建支援に協力してくれたのが、それまであまり付き合いのなかった金沢信用金庫山中支店長だった道畑泰生氏(現・同金庫理事)だった。道畑氏は「地域の資産である老舗旅館を潰したくない。なんとか次世代に残したい」との思いで、融資できるよう、吉本氏とともに再建計画を策定。債権者をはじめ、関係各所との調整を行った。同金庫をはじめとした周囲の支援もあり、「当面の危機を乗り越えることができた」と吉本氏は振り返る。

その後、吉本氏による旅館再生への取り組みが本格的に始まることになるが、それは妥協を許さないドラスティックな改革となった。「経営状況としては最悪のスタートでした。だからこそ、肚が据わったのだと思います」。






ターゲットを個人客にシフトし利益率を改善

吉本氏が最初に取り組んだのは、ビジネスモデルを再構築することだった。これまでの団体客中心のやり方は通用しない。視点を変え、まずはターゲットを個人客、特に若いカップルや夫婦にシフトした。ターゲットを変えれば、当然、提供する内容も変わってくる。「愉しい時間」をテーマに、6室を特別室としてリニューアル。イメージしたのは、1泊3万円から4万円の露天風呂付きのスイートルームだ。提供する料理も団体客向けの定番であった懐石料理をやめ、地元の食材を使った創作料理へと変更した。集客の方法も旅行代理店経由中心だったものをインターネットマーケティングにシフトした。

旅行サイトへ登録したほか、自社サイトを見直し、個人客の獲得を目指した。「誰」に「何」を「どのように」提供するのかを根本から見直すことで、ビジネスモデルを一から再構築していったのだ。その結果、04年当時10%に満たなかったネット経由での個人客の利用率は現在では50%超に。それに対し、旅行代理店経由(主に団体客)の比率は30・5%と半分以下に減少した。ネット経由の販売手数料は通常、料金の8~10%で、一般的な旅行代理店の半分程度。利益率の改善につながった。それと同時並行で導入したのが旅館用のITシステムだ。手書き中心で非効率な旅館業務をすべてシステム化することで、無駄な業務を次々と削減していったという。一般的に、旅館業でのIT導入は成功率が低いと言われるが、同社でもスタッフからの反発もあったという。

そこで吉本氏はシステム導入の翌日、一切の手書きをやめさせるため、過去の台帳や紙の資料類をすべて捨ててしまったという。「当時は〝恐怖政治?的なトップダウンで進めていました。会社が潰れそうな時にボトムアップでは時間がかかりすぎるので。僕がやるべきことは旅館を潰さず従業員のみんなを守ること。好かれるのは後回しでいいと考えていました」。

こうした一連の改革の結果、同社の経営状況は大きく改善された。04年当時と比較すると、売り上げこそ8億円から5・2億円と下がっているが、償却後営業利益は約マイナス500万円から約4000万円へと向上。利益が出せる事業構造へと転換することに成功した。

同社が最もこだわっているのが料理。地元加賀の素材を活かした創作料理を
提供している



トップダウンから成長を促すボトムアップへ

もともと経営の知識も経験もまったくなかった吉本氏は、再建計画を実行に移す一方、体系的な学習を自らに課していたという。集客やマーケティング、経営や財務といった関連書籍を読み漁るほか、ビジネスセミナーや講座などにも可能な限り参加、自らの知見を高めてきた。その姿勢は現在も変わっていない。16年には、金沢信用金庫が主催する若手経営者・後継者向けの「経営塾」に参加。「自分がやってきたことを冷静に振り返ることができたほか、価値観を共有するスタッフのなかから、自分の右腕になる人材やマネジャーを育てていく必要性に気づかされました」(吉本氏)。

お花見久兵衛で
人気の露天風呂
付客室「六庄庵」



かつて経営危機の際に見せたトップダウンのやり方も、現在は各人の自主性に任せるボトムアップの方向にシフト。若手をリーダーに登用するなど、試行錯誤を続けてきたが、「少し放任し過ぎたせいか、なかなか人材が育ってきていない。単に任せるだけではやはりだめで、スタッフがステップアップしやすい環境や道筋を、トップとしてこれからつくっていこうと考えています」(吉本氏)。成長を続ける若きリーダーは、同社をさらなるステージへと導こうとしている。

有限会社吉花 代表取締役社長 吉本龍平氏
「旅館のスタッフにどう思われようと、結果として彼らの成長や幸せにつながればいい。そのための環境づくりを進めているところです」










CompanyProfile
有限会社吉花(山中温泉「お花見久兵衛」)
設 立 1958年
資本金 300万円
従業員数 55人
石川県加賀市山中温泉下谷町ニ138-1
0761-78-1301
http://www.ohanami-kyubei.jp/

 

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