経営コラム

一覧へ戻る

その他 × イノベーションによる成長 2017年中小企業の成長ビジョン
農業分野にビジネスチャンス到来!~アグリビジネス~

株式会社日本総合研究所

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本の農産物は世界でも認められた高品質であるのにもかかわらず、国内農業は斜陽産業と 断じられることが少なくない。低い自給率や、高齢化で相次ぐ離農など、厳しい現場の実態 が伝えられるなか、ここ数年においては、そうした現状も下げ止まるばかりか、緩やかな回 復の傾向を示している。今、農業に何が起こっているのか。

かつて失敗した農業参入が再び活況を呈している理由

建設業、製造業、小売業、外食業等、多くの大企業が積極的に参入してきた農業分野だが、失敗の憂き目に遭うことが少なくない。はっきりとした戦略と、しっかりとしたノウハウがなかったことが要因だ。当時と大きく違ってきているのは、大幅に規制緩和が進んだことだ。かつては何のノウハウもなくシニア人材を投入するなど、いわば100人減った就農者を企業側から100人補充するという考えで、農業の素人が参入するというようなケースがほとんどであった。

規制が変わった現在では、営農主体となる法人形態の種類が多種多様となり、自らの特性に見合った形態を選べるようになった。その影響で、企業は経営力を、農家はノウハウを、といった両者のコラボレーションというべき明確な役割分担のもと、プロジェクトとして成功する事例が続々と報告されるようになってきた。この流れは大企業だけではない。これからは中小企業が参入していくフェーズに移行しつつある。中小企業が参入できる土壌が整えられてきたのだ。

農業参入を検討すべき三つの視点

中小企業の立場で捉えると、今、農業分野に参入すべき三つの視点がある。一点目は、先述した規制緩和で参入が容易になったことだ。現在、農業分野に参入する企業は2000社におよぶ勢いだが、その流れは01年頃を契機に今日まで複数回行われている農地法など関連する法律の改正で、借地による農業参入や条件付きでの農地所有が解禁されたことが大きい。

大企業のみならず、中小企業や農地のある地元企業にとっても大きなメリットとなったと言えるだろう。それに伴い、国や地方自治体も、参入する企業への支援メニューをさまざまに用意するようになった。企業と農地とをマッチングさせる農地中間管理機構の存在などは、その最たる一例である。

二点目は、六次産業化促進の流れである。現在、農業生産における売上高は約10兆円と言われているが、小売や加工、外食といった、それら農産物の末端商品となると100兆円の規模となる。これはつまり、農産物の付加価値部分に90兆円が埋もれているということであり、『第二次産業あるいは第三次産業の生み出す利益を、生産者である第一次産業に引き寄せよう』という六次産業化は、今、各地で盛んに進められている。農家単独では生産物を商品に加工し、販売まで担うことは難しい。そのため、これまではたとえば果物の生産者が大手飲料メーカーに農産物を納品し、ジュースとなって販売されるのが基本的な施策であった。

それに対し、農産物の納入先を地元の中小企業にすることで資金や助言といった支援を受けられるのが、自治体による農商工連携ファンドなどの特徴である。そこで生まれた飲料は、地元産の果物を使った、地元発のジュースとしての付加価値が加えられ、生産者と企業の両方にメリットをもたらすことになる。もともと、この支援策は農林水産省と中小企業庁が共同で進めているスキームなので、地元に特化する中小企業は、ここに活路を見出すことができる。

三点目が農業者向けのさまざまな商品やソリューションの提案といった点である。たとえば農機などは大手企業の寡占度が高い。そこへ中小企業の強みを活かした特色ある商品の入る余地が大いにある。画一的な仕様で標準化された大手企業の商品に対し、中小企業であれば、農家の声を直接聞き、それに見合う商品を生み出すことができる。

しかも、現在急速に広がっている最先端のIoT技術の導入も、中小企業参入の後押しとなり得る。大型トラクターは大手企業の専売特許だが、トラクターに装着するアタッチメントはもともと中小企業が手掛けることが多いし、小回りの効く独自の小型農機や農業ロボット、温室内の気温や湿度を探知してデータを蓄積するといったシステムなどは、中小企業で今まさに取り組まれている分野だ。

農業参入した一般法人数の推移


















改正農地法による参入法人の業務形態別・営農作物別内訳
















最新鋭技術が投入される農業分野の現場

こうした現状においても、高齢化によって農家人口が減り続けていることには変わりがない。そうしたなかで、いかに作業を効率化するかといった視点は、生産現場の農家より、激しい価格競争や常に新規商品の開発を試みている中小企業のビジネスモデルが活かされるところだ。

それまで大手企業の供給する農業資材の一部分を担うという形でしか参入できなかった農業分野に、中小企業のものづくりがきめ細かな部分で求められていることは間違いない。それはつまり、工業から遅れること数十年を経て、農業の世界にもようやく効率化や自動化、機械化の波が押し寄せてきたことでもある。そのさまざまな最先端の科学技術が次々に農業分野へ投入されている今こそ、中小企業にとって大きなビジネスチャンスがある。


今後のアグリビジネスは、中小企業
の持つ経営資源やマネジメント力
との融合が鍵となります







創発戦略センターシニアスペシャリスト
三輪泰史氏


Profile
2004年、東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際
専攻修士課程修了。同年に日本総合研究所入社。
研究・専門分野は農業再生による地域活性化、先進農業
技術の導入支援、高付加価値農産物のブランド確立と流
通改革など。
 

記事の絞込

■業種
■カテゴリー

業種

カテゴリー