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人を大切にし、幸せにする経営が 企業と地域を元気にする

法政大学大学院政策創造研究科教授 坂本光司氏

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経済効率優先の成果主義経営から「人を大切にする経営」へのパラダイムシフトを提唱し、 研究している坂本光司法政大学大学院教授に、人を大切にする経営の真髄を聞いた。

いま、なぜ人を大切にする経営が必要か

昔から三方よしや大家族経営などが言われていたが、ここ何十年かは忘れられてしまっていた。企業経営の目的は会社に関係するすべての人々を幸せにすることです。それなのに、目的が手段になり、業績や勝ち負けを決め、企業のランクを高めるために、人を道具のように扱うような時代になってしまった。それはどう考えても間違っています。業績を求めれば求めるほど、消費者やマスコミから叩かれたり、社員自身も重労働に苦しめられ、自殺や鬱、ギスギス感がはびこってしまいます。業績を追求するのが良いことなのだろうか?人々はそれにようやく気がついたのです。

人は何のために生きているのか。良心的な経営者も、これで良いのだろうかと真摯に考えるようになってきたのです。その中で私が提唱する「人を大切にする経営」ということに目が向いてきた。それは日本にはもともとあった経営学なのです。それが、長らく経済優先、効率・効果優先になってしまって忘れられていた。効率を優先するあまり、国全体が停滞してしまった。そのことに多くの人が気づき始めました。大切なのは人であって、結果として業績アップや利益獲得に繋がる。社員や消費者の幸せを提供するのが正しい経営なのです。

それがなかなか通じない時代が長く続いたが、ようやく認められてきたのはリーマンショックや特に東日本大震災が契機になって、人々の価値観ががらっとかわってきたからです。がんばっても叩かれる今の効率至上主義で良いのか、また、東日本大震災で死を前にして本当の生き方は何か、人としてどうあるべきか、経営者は自分の経営はこれで良いのかと自問自答し、経営の仕方を根本的に変えるようになってきたのです。


企業は人を幸せにするために存在する

戦後、長い間、間違った経営がなされてきました。経営の成果を過度に重んじる経営学です。私はもとからこうした経営学を批判的に見ていますが、欧米でも人を大切にする経営が成功しています。大家族経営で温もりのある経営は世界でもたくさんある。ただ、効果・効率優先型の市場主義に押されて忘れられていた。それが顕在化した理由は、経済や成長を追及する中で、あまりにも働く人が心や体を痛めてきたこと。もともと何かおかしいと思っていた潜在化していた疑問が、ここへきて顕在してきたのです。

日本でもともと人を大切にする経営がなされていたのに、そういった経営が少数派になった理由はといえば、それはリーダーすなわち、経営者が原因です。忘れられた理由はいろいろあるでしょうが、市場がどんどん拡大して作れば売れる、仕入れれば売れる時代は、ゆっくり人の幸せを考えるということはできない。今、売らなければならない、千載一遇のチャンスだから、そんなことを考える余裕がない。先行投資した者が勝ちですから、経営者が目先のことに追われて忘れてしまった。

しかし、原点を忘れていなかった経営者の会社は発展しています。先日、伊那食品工業の副社長と記念講演と対談をする機会がありました。今、従業員500人、既に60年以上にわたりゆっくりですが伸びています。何も追わない姿勢で、規模も追わない、急成長しない。社内数字などは真実や本質ではなく、社員の幸せが一番だと社長さんはおっしゃっていました。伊那食品工業の塚越寛さん(会長)のことは、トヨタ自動車社長の豊田章男さんが尊敬する経営者の一人だと言っている。トヨタの社員は伊那詣でまでされているそうです。本社だけでなく、協力メーカーなども一緒に見学に行って勉強されています。そして、口々にこういう会社になりたいと言う。

世界最大の自動車会社が、地方の小さな会社に経営を学ぶ。まるでピラミッドが逆さになったような逆転現象が今、起きている。潮流が変わっているのです。人を大切にする経営が大切だと言うことを忘れなかった人もいっぱいいる。伊那食品の塚越さんだけでなく、未来工業の山田さん、中村ブレイスの中村さんなど、たくさんいる。大切なことを忘れなかった人たちは、流行を追ったり、政府に期待したりせず、ゆっくり着実に、どうしたら関係者を路頭に迷わせないようにするか、探ってきた。それを多くの経営者が忘れていたのです。


社員を幸せにするために経営者は何をすべきか

企業は人を幸せにするために存在する。幸せにするためには、継続が大事です。目的は人を幸せにすること、それを踏まえていれば、長期で物事が見られる。そして、人は感動して尊敬できれば、その人のために何かしてあげたいと思うものです。売り上げ―費用=利益の方程式では、利益をあげるためには費用を下げるか、売り上げをあげるしかない。成熟期の今、売り上げをあげるのはたいへん難しい。だから、経営者は簡単な方、つまりコストを下げる方を選ぶ。日本でコストが高いから海外に行く。正社員は高いから非正規社員にやらせる。3人だったラインを2人にする。ラインのスピードをあげてフルで機械を回転させる。そういうことをやってきて、もうタオルはしぼりきっているので、うまくいくわけがない。

私は世の経営者になぜ成果主義をするの?と問いたい。正しいのは年功序列です。これはもうはっきりしている。早く入社した人の順ですから。人は人を完全には評価できません。トータルで見ないと実力なんてわからないものなんです。親切で丁寧で売り上げがあがったかもしれないが、ゴミ拾いやってくれた人は駄目なんですか?人よりも早く会社に来て面倒をみていてくれた人は劣った人ですか?神様は人が人を評価する力を与えてくれなかった。だから、年功序列が一番良い。会社は家族。寄り添いながら、助け合いながらやっていくべきなのです。


モチベーションの高い会社は業績がよい

なぜ、私の提唱している経営を実行したほうが良いかというと、結果が出ているからです。業績の高い会社はやる気が高いか低いか、ばらつきがある。しかし、モチベーションが高い会社は全部が業績がよかった。つまり、経営者の最大の仕事は社員のモチベーションを高めることだと言い切ることができるんです。リーダーが短期かつ合理性しか見なかったり、人間理解に問題があるのはなぜかというと、教育にも問題がある。私も大学で経営学を学びましたが、これまでの経営学はすべてではありませんが重要な部分で大変更が必要です。私はそういう現状を見て、古い経営学の創造的破壊のために「人を大切にする経営学会」を同志と共につくりました。

経営学は企業を成長発展させるための学問と定義すると、組織や効率といったことが重要になってしまう。この定義から変える必要があったのです。私は「経営とは企業に関係するすべての人を永遠に幸せにするための活動である」と定義しています。つまり。経営の最大目的・使命は人を幸せにすることなのです。経営資源やヒト・モノ・カネではなく、ひと・ひと・ひとです。他の経営資源は人の幸せのための道具にすぎないのです。こうした経営学を学生や社会人に教える大学教授が残念ながら未だ少数派なのです。ですから、こうした経営学を広めようと大賞や学会をつくり、本を書き続けているのです。


世界に広がる学会活動

まだ、山は動くところまで行っていませんが、全国各地で動きはあります。私は人を大切にすると言うことをずっと言い続けてきました。先日、中国から経営者が話を聞きにやってきた。日本の大企業からもはや学ぶことはないが、どうしたら関係する人々を幸せにすることができるのかを教えて欲しいという。台湾の経済団体からもお呼びがかかっている。ベトナムの貿易大学からも教授や経営者を対象にした学会の場で、ぜひ話を聞かせて欲しいと招聘されました。きっと、私の本が中国語などで翻訳されているからでしょう。

中国浙江省にある会社は見事です。社員の誕生日にケーキを贈ったり、社員食堂が立派で野菜をつくったりしています。寮も親が住めるようにしていて立派な造りです。そういう会社は今の中国でも業績が抜群です。日本でも中国でも、どこでも同じですねといってくれた。中国で社員数2500人の自動車部品会社の元社長を次の学会に呼びます。社長に就任してからストライキがほとんど起きない、30%以上の離職率が常識の中国企業にあって、この会社は離職率が数%だそうです。学会活動は海外も含めて増えています。支部は東京本部、四国、関西は大阪、北海道まで拡大しています。今、動きがあるのが中国地方と中部地方です。海外では、中国も動いています。将来が楽しみです。













法政大学大学院
政策創造研究科教授

坂本光司

Profile
1947年 誕生
1966年 静岡県立榛原高等学校卒業
1970年 法政大学経営学部卒業
1992年 浜松大学経営情報学部教授
1992年 浜松大学大学院経営学研究科教授
2002年 福井県立大学地域経済研究所教授
2004年 静岡文化芸術大学文化政策学部教授
2004年 静岡文化芸術大学大学院文化政策研究科教授
2008年 法政大学大学院政策創造研究科教授(現職)
2014年 人を大切にする経営学会会長(現職)

Introduce Books
『日本でいちばん大切にしたい会社シリーズ』1・2・3・4・5
『なぜこの会社はモチベーションが高いのか』
『経営者の手帳』
『日本でいちばん大切にしたい会社がわかる100の指標』

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