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サービス・IT × 強い組織づくり 年間約20万人が乗船する人気のクルーズ事業
横須賀の観光資源「軍港」で地域を盛り上げる

株式会社トライアングル

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軍事施設を観光コンテンツにするとは、かつては常識的にあり得ないことだった。だが、その“常識”を打ち破った中小企業がある。株式会社トライアングル(神奈川県横須賀市)だ。2008年、同社が始めたクルーズ事業『YOKOSUKA軍港めぐり』は、年間20万人近くを集客する盛況ぶり。横須賀観光の定番コースの一つとなっている。いかにして人気の観光コンテンツへと成長させたのかー。同社躍進の秘訣を探る。

日米の艦船が目の前に!軍港めぐりのパイオニア
 
平日の午後、軍港めぐりを目当てに汐入ターミナルに訪れていた多くの観光客が、乗船開始のアナウンスを機ににわかに長い列をつくり始める。桟橋に着けられているのは、全長26・20m、定員250名の「シーフレンド7」。2016年4月に進水したばかりの新造クルーズ船だ。2階のデッキ席や1階客室の窓際があっという間に乗客で埋められていった。

現在、船による軍港めぐりは、呉(広島県)や佐世保(長崎県)、舞鶴(京都府)などで行われているが、横須賀はそのパイオニア。08年より『YOKOSUKA軍港めぐり』の就航を開始したのは地元の中小企業、株式会社トライアングルだ。自治体の委託事業というわけではなく、まったくの民間のビジネスとして行っている。

「横須賀の軍港めぐりは、海上自衛隊とアメリカ海軍の艦船を同時に見ることができるというのが他にはない特徴。しかも艦船と150mほどの近さまで接近できるのはここだけです」と同社代表取締役社長の鈴木隆裕氏は同サービスの魅力を語る。

開始以来、行政と共同でメディアへの積極的なPRを行った結果、テレビ番組や雑誌などでも度々取り上げられるようになり、徐々に客数を増やしていった。事業開始前は年間5万人程度の乗客を見込んでいたが、初年度の08年に約7万人、直近の一年では19万5000人と増加し続けている。ここ数年はSNSなどによる情報発信・拡散も積極的に行い、集客につなげているという。

クルーズ船は汐入ターミナルから出航し、日米が共有する吾妻島を約45分かけて一周する。1日6便で週末や休日は7便、料金は大人1400円となっている。乗客は旅行会社などが企画する団体客が4割で、残り6割が個人客だ。中でも目立つのは50〜60歳代だが、土日は30〜40歳代の家族連れ、20歳代のカップルなども多く訪れる。

「当初は軍艦マニアが圧倒的に多いだろうと思っていましたが、実際は100人いたら2〜3人。マニア人気というより、一般の方の観光として定着していると言えると思います」(同)。
 
現在、同社が保有する船は5隻。新造船の場合は数億円、中古でも数千万のコストがかかる。発着地点は汐入ターミナルで日米が共有する吾妻島などを約45分かけて一周する。料金は大人1400円。写真はシーフレンド7




人気の秘密は卓越した案内人のトーク
 
YOKOSUKA軍港めぐりでは、クルーズが出航するとすぐに、〝案内人〞の船員が登場し、右に左に次々と現れる艦船を説明してくれる。例えばこんなふうだ。

「右手に見えるのは、海上自衛隊の潜水艦。3隻並んでいますが、1隻だけタイプが違うものがあります。お分かりでしょうか?」「左手に見える海上自衛隊の掃海艇。船体をよく見ていただくと、木目があります。実はこの船、木造船なんです!なぜかというと……」。

観光地の遊覧船などでは、録音された音声で周囲の景観を案内することも多いが、軍港めぐりの場合、決まった景観があるわけではない。日によって、停泊している艦船も違うため、案内人は状況に応じて話す内容を変えている。艦船が全部出払っている場合は、基地の説明や横須賀の歴史などを話しながら、お客様を楽しませるよう工夫しているという。

実は、この案内人の存在こそが、軍港めぐりの人気を支える重要ポイントだと鈴木氏は言う。

「音声を流せばコスト的に抑えられますが、人が案内するからこそのライブ感があり、それによってお客様に満足していただける。何より社員たち自身のやりがいにもなっています」。

案内人に求められるのは各種艦船に関する確かな知識だが、それだけではない。時折、冗談を織り交ぜながらの説明はあたかも〝話芸〞のようで、エンターテインメントとして成立している。約45分間途切れることがなく、乗客を飽きさせない。案内人の説明を楽しみに何度も訪れるリピーターも多いという。

「船について全く興味のない方でも、面白く感じていただいて、下船したときに何らかの知識を身につけてもらうようにしています。私が褒めるのもなんですが、うちの案内人はみんな上手です」と鈴木氏も絶賛する。

案内人は現在8人。通常の船員業務をこなしつつ、兼務という形で「案内人」業務を行っている。トーク内容や喋り方のスタイルは決まったものはなく、特段の研修なども行っていない。日頃から自主的に軍事知識を収集するほか、仲間の案内ぶりなどを参考に、自分の個性を活かしたトークを磨いているという。
 
案内人は現在8名。艦船に関する豊富な知識と、エンターテインメント性の高いトークが人気となっている






前例のない事業への挑戦が社員の結束を生む
 
案内人をはじめ同社の社員の士気が高いのは、軍港めぐりという同社にとっての新たなチャレンジを成功させたいという思いが共有されているからだろう。

もともと同社は海難救助サービス事業として、1986年に創業。プレジャーボートなどを対象に救助活動を行っていた。

その後95年、当時、事業者不在だった猿島(横須賀市)への旅客船就航事業に、横須賀市の要請により参入。猿島の観光開発が進むにつれ、同事業も順調に発展していった。

そんなとき、お客様から、もっと横須賀らしいクルーズはないのかと要望されたという。

「横須賀らしさとは何かと考えたときに、基地の光景が浮かびました。われわれ地元の人間にとっては見慣れた光景ですが、観光資源としてこれほどインパクトのあるものはないと思いました」(同)。

とはいえ軍事施設を遊覧船で観光するというようなサービスは前例がなく、当然、各機関が難色を示すことが予想された。そんな状況を支援してくれたのが横須賀市だった。観光促進を図りたい同市は、鈴木氏のプランに賛同。直接、各所にかけ合ってくれた。3年にも及ぶ交渉の末、合意形成に至り、航路申請が許可されたのだ。

「開始当初は甲板にいる海兵さんも、ぎこちない様子でしたが、いまは手を振ってくれることもあります」(同)。

地元横須賀を盛り上げたいという思いの強さで生まれた軍港めぐり。今後は、増加が予測される海外観光客向けの情報発信にも力を入れていくという。
 
株式会社トライアングル
代表取締役社長 鈴木隆裕氏
「YOKOSUKA軍港めぐりに来てくれるお客さんが増えれば増えるほど、横須賀の商店街や施設は潤います。これからも地元の活性化に貢献していきたいと考えています」







CompanProfile
株式会社トライアングル
設 立 1986年
資本金 1000万円
売上高 非公開
従業員数 30人
神奈川県横須賀市小川町28-1 横須賀ハイム201
046-825-7144
http://www.tryangle-web.co.jp/

月刊ビジネスサミット2016年10月号特集より
 

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